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ESPNが9月に行われるビッグファイトと注目選手の動向をチェック。

Naoya Inoue's biggest fight?(井上尚弥にとって最大の試合とは?)のパートを拙訳。

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*****世界最高のPFPファイターの一人、ジュニアフェザー級の完全統一王者・井上尚弥が火曜日の早朝(東部時間で午前5時45分)にTJ・ドヘニーと防衛戦を行う。

井上は5月に東京ドームで4万4000人以上を集めてルイス・ネリを破壊したが、もし中谷潤人との日本人決戦が実現るとそれを上回る大興行になるだろう。

井上が米国のリングに上がらない理由はカネの問題。軽量級に大きな需要のある日本で、WBCバンタム級王者の中谷との試合は、井上のキャリアで最大のものになるだけでなく、最強の相手を迎えることになる。

この試合は来年にも実現する可能性があり、東京ドームは簡単にフルハウスになるはずだ。

Inoue is also now at the point he could probably sell out arenas around the world, including Madison Square Garden in New York. 

しかし、現時点の井上にはニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンを含む世界中のアリーナでチケットを売り切る可能性もある。

もし、ガーボンタ・デービスと戦うならラスベガスの大会場が舞台になり、PPVビジネスが成立するはずだ。(日本からのスポンサー収入を考えると)日本で中谷と戦った場合の収益を上回るかもしれない。


 It's likely nothing more than a fantasy fight. A matchup with Nakatani, though, appears on the horizon.

だが、タンクvsモンスターの最大の障壁は体重。

3階級上のタンクとの試合は空想の域を出ないが、中谷との試合は非常に現実的だ。*****

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マニー・パッキャオのように〝空想の域〟に足を踏み入れて欲しい気もしますが、そこは富裕国に生まれた宿命。井上はずっとAサイドで戦ってキャリアを終えるのでしょう。

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ESPN恒例の2024年上半期の非公式アワード。






Men's fighter of the half year: Oleksandr Usyk

上半期のFighter Of The Yearはオレクサンデル・ウシク。

タイソン・フューリーとの大勝負にダウンを奪った末の勝利を収めて、クルーザー級に続いてヘビー級でもUndisputed championに。

軽量級では歯牙にもかけられませんが、この2階級制覇はエグい。

マニー・パッキャオはフライ級の体重のままで、ジュニアミドル級のタイトルを獲得したわけではありません。

しかし、ウクライナのグレートは前日軽量で約40ポンドも重いテクニシャンの巨人を技術で押さえ込んだのですから、もう何も文句はありません。

PFPの文字通りの概念「体重同一時なら」という妄想すらも許さない、リアルPFPウシクの高潔さよ。

12月21日の予定されている世紀の再戦でも勝利するようなら、Fighter Of The Yearは確実。

しかし…。もし負けるようなことがあると、PFP1位は井上尚弥かテレンス・クロフォードが繰り上げ。

あるいは、バム・ロドリゲスが年内にフェルナンド・マルチネスに圧勝するようならPFP1位はもちろん、Fighter Of The Yearも小さな115パウンダーがかっさらっていくかもしれません。





Women's fighter of the half year: Seniesa 'Super Bad' Estrada

女子の上半期最高選手賞はセニエサ〝Super Bad(ヤバすぎる)〟エストラーダ。

The lighter weight classes get less attention in boxing, but Estrada deserves recognition for becoming the first undisputed champion in the lightest weight class in the history of women's boxing.

軽量級は女子でも関心が払われないが、女子で史上初の完全統一王者になったエストラーダは注目するに値する。


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選手層が薄いだけでなく、専業ボクサー(プライドの高い)選手も少ない軽量級。

それでも稀に出現する才能は、ライバルに恵まれることもあります。

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21世紀以降で見ても、ナジーム・ハメド、マルコ・アントニオ・バレラ、エリック・モラレス、ファン・マヌエル・マルケス、マニー・パッキャオの殿堂入り&PFP上位の入れ喰い状態だった2000年代中盤は歴史的にも例外だったので比較してはいけませんが、2000年代後半には小粒で人気はなくてもビック・ダルチニアン、ノニト・ドネア、ギレルモ・リゴンドーのPFPファイターが覇を競いました。

2010年代になると、軽量級としては破格の人気者でPFPファイターでもあるレオ・サンタクルス、アブネル・マレス、カール・フランプトンが、ラスベガスとニューヨークの大会場でビッグファイトを繰り広げました。

2010年代末から現在では、PFPキングに井上の約50倍の期間に当たる2年間も君臨したローマン・ゴンサレス、ファン・フランシスコ・エストラーダ、シーサケット・ソールンビサイ、カルロス・クアドラス、ドニー・ニエテス、井岡一翔、中谷潤人、ジェシー・ロドリゲスらが雪崩をうってPFPランキングに突入しています。


しかし。

それなのに。

悲しい哉!

それが全く当てはまらないのが、悲運極まるジュニアフェザー級のUndisputed champion 井上尚弥なのです。

絶望的に人気がなく、実力(PFPファイター)までない選手たちがアルファベット団体の王者に就き、ジュニアフェザー級の3試合でもスティーブン・フルトン、マーロン・タパレス、ルイス・ネリという、軽量級だから仕方がないにしても、あまりにもお粗末な相手。

井上が戦った殿堂クラスのファイターは完全劣化版ドネアだけ。旬のPFPファイターは1人もいません。〝元〟でも8年前にPFPに数えられたドネア1人だけ…。

最高の旬の強豪、PFPにも接近したのはキャリア4戦目で戦った日本王者バージョンの田口良一ですが、そこから10年以上も更新されていないのです。

この運の無さは、まさに逆パッキャオです。

もちろん、運の無さが第一ですが、パッキャオの目の前に次から次へと歴史的な強豪や、超人気者が現れてくれたのは、あの冒険好きのフィリピン人が本物の栄光を求めて「絶対無理」と周囲が呆れ果てるほど性急に階級を駆け上がっていったからです。

パッキャオは運を掴み取りにいったのです。つまり、パッキャオの拳には運も逃げることができませんでした。

井上の場合は自分のペースで階級を上げて「実力と人気を兼ね備えたメキシカンがいたらいいな」という意識レベルですから、運任せになってしまっているのです。

井上は、運が悪い。まさにその通りです。

そして、パッキャオは運がいい、というのは間違いです。


もちろん、井上の母国は富裕国、パッキャオは世界有数の貧困国という〝出自〟の違いが、冒険と保守に現れるのは仕方がありません。

井上がフィリピン人なら、パッキャオと同じ道を目指したでしょう。そして、パッキャオが日本人なら井上と同じように冒険などに手を出さず、世界的には人気のないフェザー級か、それ以下でキャリアを閉じていたはずです。

さて、そんな日本人のモンスターにもようやく、幸運の風が吹くかもしれません。




Friday 21, June 2024
  
Fontainebleau Las Vegas, Las Vegas, Nevada
commission:Nevada Athletic Commission
promoter:Bob Arum (Top Rank)
matchmaker:Brad Goodman


昨年12月に、井上の最強の相手と期待されたWBOフェザー級王者ロベイシ・ラミレスを破って、日本のファンをガッカリさせた張本人・ラファエル・エスピノサの初防衛戦です。

30歳のEl Divino(聖なる)エスピノサは24戦全勝20KOと素晴らしい戦績を誇っています。

しかし、ラミレス戦は痛烈なダウンを奪われるなどシーソーゲーム。再選したらオッズも予想も互角かラミレス有利という激戦をものにした内容でした。



会場は昨年末に紆余曲折の末にオープンしたラスベガスで最も高い客室ホテルでカジノ&リゾート、フォンテインブロー。

身長185㎝、異形のフェザー級王者が迎えるのは、1つ年下で同じメキシカンのセルヒオ・サンチェス。

メキシカンらしい叩き上げの2人ですが、掛け率は王者が1/8(1.13倍)、挑戦者5/1(6倍)。

サンチェスの勝利よりも「6ラウンドまでにエスピノサがKO勝ち」のオッズ(5倍)が低いという、王者にとって勝ち方が問われる相手です。

El Divino、豪快に倒せ!そして、東の空に向かって大声でコールするのだ、井上尚弥を!!!

ちょうど中間の124ポンドのキャッチウエイトでメガファイトなんていいです、最高です!!!!!


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Saturday 15, June 2024
  
MGM Grand, Grand Garden Arena, Las Vegas, Nevada, USA
commission:Nevada Athletic Commission
promoter:Tom Brown (TGB Promotions),
           Sampson Lewkowicz (Sampson Boxing)

matchmaker:Tom Brown

media:Amazon Prime Video PPV
WBC暫定ジュニアウエルター級12回戦




140ポンドの無敗対決ですが、17戦全勝オールKOのラッセルが1/6(1.67倍)で優勢、22戦全勝10KOのコロンビア人プエジョが4/1(5倍)でアンダードッグ。

サウスポー対決、A -ラッセルのオールKO記録が止まるか?連勝までも止まるのか?

前日計量はプエジョ139.8ポンド、ラッセル138.2ポンド。

しかし、リングの内外にもインタバルでも(水原一平がギャンブル依存症になったきっかけと言われている)ドラフトキングスの広告が目立ちます。

距離を潰しにかかるラッセルに、引いて応戦するプエジョ。予想通りの展開。

ロープぎわに追い込まれると、うまくクリンチして体勢を入れ替えるドミニカ人。

フラストレーションをたまらせるラッセルでしたが、第9ラウンドにプエジョがホールディングで減点1。ここからアクションが多い展開に。

オールノックアウトとはいえ、アルツール・ベテルビエフのような一発のないラッセルは、クリンチをしにくくなったプエジョが攻撃になると持て余し気味に。

SDで軍配はプエジョ。115-112 /114-113/109~118。

この試合は大きく割れたのも仕方がない。難しいスコアリングでした。

ベテルビエフに次ぐ、現役二人目の全戦全勝オールKOの王者誕生はなりませんでした。

とはいえ、元々決定力に欠けるラッセル、これから世界基準の相手と戦う中で判定も増えていくでしょう。


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Saturday 15, June 2024
  
MGM Grand, Grand Garden Arena, Las Vegas, Nevada, USA
commission:Nevada Athletic Commission
promoter:Tom Brown (TGB Promotions),
           Sampson Lewkowicz (Sampson Boxing)

matchmaker:Tom Brown
media:Amazon Prime Video PPV

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プレミアボクシングチャンピオンズとアマゾンプライム・ビデオのPP Vイベント第2弾。

WBCミドル級・WBC暫定ジュニアウエルター級・WBC暫定ライトヘビー級・WBAライト級と4つのアルファベット団体の世界タイトルマッチが組み込まれたメガイベントは、なんと全15試合の〝長丁場〟。

WOWOWの放送は世界戦4試合を全部カバーできるでしょうか?

そもそも、MGMグランドガーデンアリーナのチケットを持っている観客で、第1試合からメインイベントまで見る人は100人もいないでしょう。セミファイナルを見る人で8割くらいでしょうか。




WBC暫定ジュニアウエルター級12回戦


140ポンドの無敗対決ですが、17戦全勝オールKOのラッセルが1/6(1.67倍)で優勢、22戦全勝10KOのコロンビア人プエジョが4/1(5倍)でアンダードッグ。

サウスポー対決、A -ラッセルのオールKO記録が止まるか?連勝までも泊まるのか?

プエジョ139.8ポンド、ラッセル138.2ポンド。





WBC暫定ライトヘビー級12回戦



〝モンスター〟ベナビデス1/8(1.13倍)、グヴォズディク4/1(5倍)。オッズはどんどん広がっています。

この試合も、両者サウスポー。

グヴォズディクがアルツール・ベテルビエフに痛恨の逆転ノックアウト負けを喫したのは、2019年10月18日。

この敗戦で、グヴォズディクは引退、故郷のウクライナ・キーウでこれまで稼いだファイトマネーを元手にカジノをオープンします。

商売は順調でしたが、まさかのロシア侵略でカジノの閉鎖を余儀なくされてしまいます。妻と3人の子供を養うためにグヴォズディクがリングに戻るしかありませんでした。

3年4ヶ月のブランクを経て、昨年2月11日にリング復帰したグヴォズディクは3連勝(2KO)で、カムバックロードを走り始めた、このタイミングで世界戦、しかも相手はベナビデス。

Bサイドのブルースが悲しく響き渡っています。

ライトヘビー級で名前が通っていてイージーな相手を探していたカネロ・アルバレスとのメガファイトを見据えたベナビデス陣営が、カネロ・アルバレスとのメガファイトを見据えたベナビデス陣営が、元WBC王者のグヴォズディクに白羽の矢を立てたのは全く理にかなったことでした。

二人とも174.2ポンドでクリア。




WBAライト級12回戦



タンク1/6(1.67倍)、マーティン4/1(5倍)。こちらもまたまたサウスポー対決。

ホセ・ペドラサを痛烈にKOしてIBFジュニアライト級のストラップを手にしたとき22歳だったタンク・デービスですが、もう29歳。若い若いと思ってましたが、今年11月で30歳です。

そして、今回も「せいぜいテスト」という相手との対戦ですが、公正な135ポンド契約。

まさにエイドリアン・ブローナー2世、弱い相手ばかりに圧勝してては、評価しようにもできません。PFPに入れることが逡巡されるのも「その階級を支配してるか?」という問いにすら答えられない、変な相手、変な契約を盛り込んだ試合ばかりだからです。

タンク133.4ポンド、マーティン134.4 ポンドでクリア。

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MGMグランドガーデン・アリーナが〝聖地〟ラスベガスの〝本殿〟になったのは1990年代終盤。

西岡利晃や井上尚弥らが恋焦がれた本殿の座も、いまやTモバイル・アリーナに明け渡した格好ですか、この四半世紀にこの場所で世界のボクシングシーンに鮮烈な印象を残す数多の名勝負、スペクタクルが展開されました。

そして、今週末のイベントでもそんな光景を目にすることができるかもしれません。

というわけで、ここからはボクシング・シーンが選んだ「MGMグランドガーデンアリーナの20試合」をご紹介。

まずは20位から18位。

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↑これはアリーナではなく、MGMグランドに隣接した会議棟の一室を改造した「コロナ対応・防疫空間」に設営されたリング。井上尚弥もここで戦いました。


【No.20】2009年5月2日

©︎リッキー・ハットンvsマニー・パッキャオ。

リング誌/Lineal/IBOジュニアウエルター級タイトルマッチ。

前年12月に圧倒的不利予想を覆してオスカー・デラホーヤをめった打ちの末にストップしたPFPキングのパッキャオが世界のボクシングファンに披露した衝撃のKO劇。

WOWOWの生中継で、ジョー小泉が「あのタフなハットンがこんな倒され方するわけですから」とあきれ返り、香川照之は「これはもう神が介在してますよ!」と叫んだ声を覚えている人も多いでしょう。



【No.19】1994年11月18日

©︎ジェームス・トニーvsロイ・ジョーンズ

IBFスーパーミドル級タイトルマッチ。

88年五輪の実質的な金メダリスト、ロイはミドル級王者時代にバーナード・ホプキンスに勝利、2階級制覇をかけてスーパーミドル級のトニーに挑戦。

減量に失敗して干からびた王者は、ダウンを奪われた末に判定負け。

トニーはこのときリング誌PFP2位。「最も才能のあるボクサーは?」と聞かれたらフレディ・ローチが即答でその名前を出したのがトニー。

そのあと間をおいて「2番目はマイク・タイソン。(一番と答えると期待された)パッキャオは才能だけならこの二人には全く及ばない」。

ロイのキャリアでホプキンスとロイ、二つの勝利は、後世から見ると〝大金星〟。ただ、強い相手には圧倒的なKO劇は見せることが出来ませんでした。

絶頂期のホプキンスやトニーと戦えなかったのは不幸だったのか、それとも幸運だったのか?



【No.18】2001年6月23日

©︎リーロ・レドワバvsマニー・パッキャオ

IBFジュニアフェザーきタイトルマッチ。

「マルコ・アントニオ・バレラに勝てるボクサーがいるとしたらレドワバ」と、ジョー小泉ら専門家が高評価していた南アフリカの〝石の拳〟。

世界中のボクシングファンの〝パッキャオ初体験〟。

「俺はレドワバ戦からパッキャオを知っているんだ!」という欧米ファンの自慢に、日本のボクシングファンは余裕の笑みで「良かったね」と受け止めてあげるのでした。

このイベントのメインで、オスカー・デラホーヤがWBCジュニアミドル級王者ハビエル・カスティリェホに挑戦、5階級制覇を達成するもの試合は大凡戦。

全く無名のフィリピン人がやってのけたスペクタクルな大番狂せに、ファンやメディアが酔いしれました。

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リング誌が廃刊してしまい、米国のボクシングメディアはネットニュースだけになってしまいました。

その中で、最も情報豊富なサイトの一つが、BOXINGSCENE .comです。

どのメディアも「これからのヘビー級」と「今週末のガーボンタ・デービスとデビッド・ベナビデスの2大世界戦」の話題で持ちきりですが、井上尚弥の記事「Weighty Matters::Should Naoya Inoue, Tank Davis Make a Move?」(問題はウエイト:井上尚弥vsタンク・デービスは実現するか?)を発見。

トトト、トン!と内容をまとめてみます。

**********

今週月曜日、ProBox TVの “Deep Waters” コーナーで〝パッキャオにしか負けなかった男〟ティモシー・ブラッドリーは「WBCバンタム級王者・中谷潤人との対戦が現実味を帯びてきて、井上は急いで階級を上げる必要が以前よりもさらに小さくなっている」。

〝ハットンに破壊された男〟ポール・マリナッジも「メキシコ人のネリとの試合で5万5000人(本文ママ)も集めたのなら、中谷との日本人対決はどれほどの規模になるんだ?」。

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トップランクの幹部は「井上の米国での試合は全く未定」としており、マリナッジは「In these smaller weight classes, it’s tough. (井上のような小さな階級が米国で大きな興行を打てるかとなると、非常に厳しいとしか言いようがない)」と、需要の低さを指摘。

No one knows who he is. Nobody cared to be next to him. No pictures.

さらに、ブラッドリーは「土曜日のマディソン・スクエア・ガーデンのシアターで行われた興行に、井上が姿を見せたが、ベルトも持たないエドガー・ベルランガの方がはるかに注目を集めていた。メディアが気を使うだけで、誰も彼を知らないんだ。彼の隣に来て写真を撮ろうとする観客は誰一人いなかった」と、井上信者が聞いたら発狂しそうな発言。



ブラッドリーは「彼が階級を上げるなら、米国で大金を稼ぐチャンスもある。人気のある階級で活躍したら、米国で井上も知られるようになる」。

その発言にマリナッジは「井上には(ライト級=軽量級から一つ上の)140ポンド(ジュニアウエルター級)で戦う必要がない。日本ではバンタム級やジュニアフェザー級でもカネが稼げるんだから。そんな冒険は必要ないんだ」。



このときの話題の中心はもちろん、井上ではなく週末の「タンクvsフランク・マーティン」。

ブラッドリーは「まともな相手と一度も戦っていないタンクにとってテストになる試合。彼はこのテストを満点でクリアするだろう」。

アルジェリも「マーティンは一定の水準にある。タンクがどう戦うのか見物だ」。

ブラッドリーは「もしタンクが快勝したら、ワシル・ロマチェンコとの決戦が今年にも見れるかもしれない。これはものすごい試合になる」。

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井上の場合は軽量級というのが最大のネック、そして軽量級だから仕方がないにしても対戦相手の名前があまりにも小さい、しょぼい。

例えば、日本の後楽園ホールにオレクサンデル・ウシクが現れたら、ボクシングファンの観客が大騒ぎするのは間違いなしです。

しかし、井上がMSGに現れても、関係者以外は誰も知らない。

井上信者ら、日本のメディアに騙されている人は「PFPファイターなのにそんなわけがない」「米国のニュースでも取り上げられてると、日本語のニュースで読んだ」と反論するかもしれません。

逆に考えてみれば良いのです。

もし、あなたがウエルター級やヘビー級が活況の国でボクシングファンなら、バンタム級やジュニアフェザー級を注目しますか?あるいは、米国を主戦場として2年もPFP1位に君臨したローマン・ゴンサレスを注目しますか?

日本のボクシングファンがウシクを知っているのは、世界の人気階級、それもヘビー級のスター選手だから。

米国のボクシングファンが井上やロマゴンを全く知らないのは、米国では光の当たらない階級で、誰も興味がないから、です。

大きなイベントでの軽量級は世界戦でもPFPファイターでも、人気階級の試合までの繋ぎでしかありません。オリジナル8の時代なら、軽量級でもまだ権威があったでしょうが、ビッグファイトしか見ないカジュアルなボクシングファンからすると、軽量級はいつも前座で安っぽいイメージが蓄積・増幅されるのは仕方がありません。

そんなファンは「軽量級の世界戦は要らないから、アンダーカードも人気階級のホープを出してほしい」とプロモーターに不平をぶつけますが、興行側から見ると人気階級の選手は安売りしたくありませんし、そもそも軽量級の世界王者よりも報酬が高いケースが珍しくありません。

「世界タイトルマッチ」というイクスキューズでイベントに盛り込み、「アンダーカードがひどいと文句を言ってもカネロやメイウェザー、パッキャオのPPVは買ってもらえる」のです。



ただ、このブログでは一貫して書いていますが、軽量級の面白さに触れる機会のない欧米のボクシングファンは不幸です。

弱い相手にスペクタクルなKOを量産、ちょっとだけ相手が強くなると退屈なファイターに成り下がったベルランガと比べても、井上の注目度はずっと下…ベルランガは人気階級の米国人で、普通に考えると当たり前です。




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ヘビー級は様々なジンクスに彩られてきました。

「ヘビー級の王者に返り咲くことは出来ない」というジンクスは、フロイド・パターソンが最初に破り、モハメド・アリが三度王者に返り咲いた頃こそ、重みがありましたが、今では当たり前にベルトがやり取りされるようになりました。

それでも「下の階級の王者は、ヘビー級の王者になれない」は、マイケル・スピンクスが破ったものの、今なお非常に難易度の高い2階級制覇であり続けています。

「難易度が高い2階級制覇」など、軽量級に目を移せばそんなものは失笑レベルで一切存在しませんが、ヘビー級を絡めただけで全く違う種類のハードルとなってファイターの前に立ち塞がるのです。

さらに「サウスポーはヘビー級の王者になれない」は最後に残されたジンクスでしたが、これを破ったのがマイケル〝Double M〟モーラーでした。

そして「下の階級の王者からヘビー級王者に」という離れ業もやってのけましたが、それもクルーザー級ではなくライトヘビー級からのロングショット。その一点では、イベンダー・ホリフィールドとオレクサンデル・ウシクに優っています。

WBOの初代ライトヘビー級王者に就いたモーラーは9連続防衛。タイトルを獲った試合も含めた10試合は全てKOで片付けました。

それでも「4団体時代の王座や防衛、弱い相手に勝っただけで意味はない」と、その評価は停滞。

文句のあるやつを黙らせる方法はたった一つしかありません。

1992年5月15日、アトランティックシティのトランプ・タージマハルでバート・クーパーとのWBOヘビー級王者決定戦に挑んだモーラーは2度のダウンを跳ね返して〝スモーキン〟クーパーをストップ。

史上初、サウスポーの世界ヘビー級王者となりました。

それでも「後発でマイナーのWBO」「クーパーとの決定戦」という〝文句〟が残されてしまいます。



モーラーはWBOタイトルを返上、1994年4月22日、ラスベガスはシーザースパレスで、WBA /IBF王者のイベンダー・ホリフィールドとの団体統一戦のリングに上がります。

超ビッグネームの強豪です。ホリフィールドに勝てば、もう文句なし。しかし、予想もオッズもダブルMが圧倒的不利と見られてしまいます。

ところがどっこい、この試合でもダウンを挽回して〝Real Deal〟に2−0のマジョリティデジションで判定勝ち。これで、文句なしのヘビー級史上初のサウスポー世界王者誕生です。

第2ラウンドにダウンを奪ったものの10−10とスコアしたジェリー・ロスに抗議したホリフィールドでしたが、4日後に心臓疾患が判明、引退を表明しました。

余談1ですがこの1990年代初めは東海岸のアトランティックシティがまだまだ活況、西のラスベガスはシーザースパレスがボクシング興行への興味を失い、MGMグループが台頭してくる時期でした。

余談2ですがこの試合のモーラーの報酬は500万ドル(5億2000万円)、ホリフィールドは1200万ドル(12億5000万円)。今なら500万ドルは7億7000万円、1200万ドルは18億4800万円。円安、今昔物語です。


さて、ヘビー級の歴史に爪痕を残したサウスポーは、7ヶ月後にジョージ・フォアマンを迎えて初防衛戦。

ホリフィールドを上回る途轍もない伝説との一戦は美味しいボーナス・マッチと見られ、第9ラウンドまでの採点も88−83*2/86−85と大きくリードしていましたが…。



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リッキー・ハットン

アマチュアで73勝7敗。1996年にキューバ・ハバナで行われたジュニア世界選手権で銅メダル。アマチュア実績もなかなかのものでした。

それでも、マンチェスターのヒットマンを語るとき「叩き上げのプロ」のイメージが先行してしまうのは、イングランドのブルーカラーから圧倒的な支持を集めたworking class heroだったからかもしれません。

フリオ・セサール・チャベス、コンスタンチン・チューとリレーされた、とにかく強いジュニアウエルター級王者のトーチを守り続けたタフガイ。

2009年5月9日、そのLineal/The Ring magazine/IBOのジュニアウエルター級タイトルを、鬼神の勢いで人気階級を侵略してきたマニー・パッキャオに歴史に残る壮絶なKO負けで奪われてしまい、引退を宣言します。

パッキャオとは同い年の30歳。まだまだ老け込む年齢ではありませんでしたが、パブでビールを痛飲するのが大好きなマンチェスターの英雄は凄まじい激闘をかい潜ってきました。

あのとき引退していたら、殿堂入りがもっと早まっていたのは間違いありません。

そして、何よりも、その鮮烈なブルーカラーに彩られたキャリアで敗れたのは、全盛期のフロイド・メイウエザーJr.とパッキャオに真っ向から勝負を挑んでの玉砕だけ。これは、もはや胸を張っても良い二つの黒星でした。

しかし…本人にとってはパッキャオに喫した失神KO負けは深いトラウマとなり、ドラッグとアルコールに溺れた3年のブランクを経て、リングに舞い戻ってしまうのです。




One Ricky Hatton
Walkin along
Singing this song
Walkin in a Hatton Wonderland

There's only one Ricky Hatton,one Ricky Hatton
Walkin Along
Singing this song
Hatton's gonna whip Floyd's punk ass

There's only one Ricky Hatton,one Ricky Hatton
Walkin along
Singing this song
Hatton's gonna KO Floyd with a bodyshot on Dec.8



「リングの上ではハットンだが、リングを降りるとビールをたらふく飲んでファットンになるのさ」。

ワーキング・ヒーローはいつも豪快で子供達にも人気がありました。

メイウエザーとパッキャオと戦ったメガファイト、この2試合ともMGMグランドガーデンアリーナに英国から約5000人のファンが詰めかけた光景に、私は「わかってたけど、ここまで人気があるのか」と驚きました。

Saying there were so many that the MGM Grand once ran out of beer -- just the way they supported him at home.

(メイウエザー戦で)ハットンの応援団があまりにもビールを飲むもんだから、アリーナに用意されたビールが全部売り切れてしまったーーハットンの応援団は英国でやるのと同じやり方で自分たちのヒーローに大声援を送ったのでした。

メイウエザー戦の反省を生かして、パッキャオ戦ではアリーナのパントリーだけでなく他のキッチンや冷蔵庫も使って十分なビールを用意したと言いますが、それでも想定を上回る飲みっぷりで試合開始時には「また売り切れる」と担当者は覚悟しましたが「試合が2ラウンドで終わってくれたから、なんとかサービス出来た」。

そして、ハットンといえばなんといってもサッカースタジアムにいるかのような、あの応援歌。

マンチェスターからパッキャオ戦に駆けつけたという中年男性は「俺たちのヒーローが圧倒的不利の予想を立てられて世界最高のボクサーに挑むんだぞ。(英国で)テレビでなんか見てられるか!」と、ハットンの応援歌を歌うのでした。

パッキャオやメイウェザーがロンドンやマンチェスターで試合をしても、観客席をあそこまで熱くさせることは出来ません。

壇上に上がってハットンが語ったスピーチもまた、これぞハットンでした。

「俺は激闘ばかりを繰り広げてきた、そうだろう?」

「チューとの試合は大番狂せと言われたが、俺としたら予定通り。予定が狂ったのは3試合だけ。メイウエザーとパッキャオ、そして一番辛かったのは離婚だったな」。

そして、ファンへの感謝も忘れていません。

「ファンはみんな俺から勇気をもらったと、感謝してくれる。でも、俺が勇気を振り絞って戦い続けることが出来たのは、ファンがいたからだ。あれだけ大声援を送られたら、勇敢に戦い抜くしかない。俺は世界一、幸せなファイターだ」。

そして、ハットンの記念プレートが彼の生涯のアイドル、ロベルト・デュランの二つ隣に飾られることになると知らされると…おしゃべりな酔っ払いは言葉を失ってしまうのでした。


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the International Boxing Hall of Fame 

さて、どう訳しますかね。

「今まで散々『国際ボクシング名誉の殿堂』と訳してきたくせに何を今更」と呆れられるかもしれませんが、日本語にしてしまうともう一つピンとこないというか、うまく伝わっていないんじゃないかという居心地の悪さがいつもありました。

もちろん、専門誌(今や定期発行の専門誌は「ボクシング・ビート」しかないので「ボクシングビート」と書き切っていい気もしますが…)では「国際ボクシング名誉の殿堂」が定番の訳です。

妙訳が思い浮かばないので、これが、いつの日かの宿題です。

ボクシングの殿堂は、いろいろツッコミどころ満載ではありますが、それを言い出すとボクシング自体がもう滅茶苦茶なスポーツ(スポーツと呼べるかどうかはここでは論じませんが…)。

さらに、野球の殿堂入りと比較するともうズルズルですが、それでも多くの場合は日本のボクシングファンでも納得できるファイターが〝神〟と認められてきました。

そう。「殿堂入り」とは「神になる」ことなんです。ああ、それでもうまく伝わってないですね、きっと。自分の英語力、日本語力、翻訳力の低レベルさが恨めしい。



引退5年から3年に短縮された殿堂。人数も開放されましたが、この5人は文句なしでしょう。

今回の式典で入神するモダーン部門のグレートはマイケル・モーラー、リッキー・ハットン、イバン・カルデロン、ディエゴ・コラレスの5人。これ、5人とも一発殿堂ではない?タクシーの中で調べてると酔いそうなので…。

日本人では未だ、ファイティング原田しか許されていないモダーン部門の殿堂入り。しかし、井上尚弥はBWAAのジョセフ・サントリキート会長が「(シュガー・レイ・ロビンソン賞の)受賞者の多くが殿堂に入っている。ほぼ間違いない」と、評価した井上尚弥が二人目の快挙を成し遂げそうです。

あとは、原田に並ぶ一発殿堂かどうか。

これも、現役選手ではシュガー・レイ・ロビンソン賞の受賞回数やPFP1位の滞在期間、欧米に与えたインパクト等で井上を大きく上回るローマン・ゴンサレスやテレンス・クロフォード、カネロ・アルバレス、ドミトリー・ビボルらが同時にライバルにならない限り一発殿堂も十分期待できます。

ニューヨーク州カナストータは、私にとってクーパーズタウンよりも聖地です。聖地の中の聖地!いつか、殿堂週間に一人旅で絶対行くぞ!




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