フシ穴の眼 〜スポーツ疾風怒濤編〜

      Hope Lights Our Way / 希望の道を、つなごう。

カテゴリ: フィリピン大統領選挙2022

マニー・パッキャオが絶望的な戦いを強いられています。

フィリピン中でお祭り騒ぎの選挙戦。コンビニでも支持する候補者が印刷されたカップに、飲み物を入れて買う人気投票が展開。パッキャオのカップもあります↓。
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大統領レースはフェルディナンド・マルコスJr.が50%以上の支持率を集めて独走。

ボクシングの生きる伝説パッキャオは、10人の候補者の中でも上位4人に数えられていましたが、支持率は5%に届かず低迷。
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 5月は世界に衝撃を与えたリッキー・ハットン戦(2009年5月2日)、史上最大の興行フロイド・メイウェザー戦(2015年5月2日)が行われた月ですが、大統領選では大きな波を起こすことができていません。
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「私たちはダークホース。私たちの勝利を誰も予想していないかもしれないが、大番狂わせを起こすのはいつだってダークホースだ」。(バディ・サモラ)

ラスベガスで何度も起こした大番狂わせ、母国の大統領選でも起こせるか?
 
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80年代に世界のボクシングに惹き込まれ、その「世界」が日本やアジアとは無縁であることに幻滅したときに、マニー・パッキャオが現れました。

私にとって「世界のボクシング」とは、80年代の「誰がマービン・ハグラーに勝てるのか?」というミドル級ウォーズであり、00年代の「マニー・パッキャオはどこまで登り詰めるのか?」に凝縮することができます。

私は、ハグラーのような「絶対的な強さ」も、パッキャオの「無限の勇気」とも対極の、小賢しい生き方しかできませんでした。

だから、私は、そんな彼らに恋い焦がれたのです。

ボクシングファンはパッキャオのことなんてもう忘れているでしょうが、私はもう、強烈病的発作的なパッキャオ・ロスに苛まれています。
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先日、サンディエゴでマニー・パッキャオJr.がアマチュアの試合でデビューしました。パッキャオ関連のニュースは今でもボクシング専門ニュースでは、たびたび目にすることができます。

ジュニアに父親以上の才能があったとしても、そして父親以上の業績を残したとしても、私にはもう熱狂することはできません。

ジュニアは最初からAサイド。それも超Aサイド。私を耽溺させた父親とは真逆のコーナーのリングに上がるのですから。
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あけましておめでとうございます。

さて、10年前の2012年、世界のボクシングシーンを振り返りながら、今年も面白い試合が私たちを楽しませてくれることを祈願して、朝から乾杯!

慢性的な経営危機で誌面でも大きなリストラを強いられたリング紙から消えた名物特集は、いくつもあります。 

毎年1月号に企画されていた「OUR PEERLESS Ring100(リング誌限定独自のPFP100傑大発表)」も惜しまれつつ姿を消した名物特集の一つでした。

2012年1月号のカバーはフロイドとマネー。このメガファイトが実現するのかどうか、熱望が冷めて「WILL IT HAPPEN?」(実現するのか?)疑心暗鬼に陥っていた時期です。
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PFPの記事ではおなじみの「これはくだらない妄想」という〝おことわり〟は、この記事の冒頭でもしっかり書き込まれています。 

「新聞は一面から重大な記事を報道、最終面の端っこに今日の星占いがある。PFPはまさに〝星占い〟のようなもの。意味のないお遊びだ。意味のないお遊びを真剣にとらえたり、考えたりする人とは付き合いたくないが、意味のないお遊びを楽しめない人は不幸だ」。

では、 2012年のOUR PEERLESS Ring100、栄えある第1位は…。「PFPなんて誰も覚えちゃいない」と普段吐き捨てている私ですが、2012年1月なら覚えてなくても、PFPを知らないファンでも、誰にでもわかるでしょう。

第1位はマニー・パッキャオで、2連覇。リング誌はメイウェザー戦実現には悲観的で、ジュニアミドル級でのミゲール・コットとの再戦の可能性について触れていました。 

2位はフロイド・メイウェザー。

3位以下10位まではセルヒオ・マルチネス、ノニト・ドネア、ファン・マヌエル・マルケス、ウラジミール・クリチコ、ティモシー・ブラッドリー、ポンサクレック・ウォンジョンカム、ジョバンニ・セグラ、アンドレ・ウォード。

日本人のランキングと、リング誌のコメントを簡単にピックアップします。

最高位は長谷川穂積の29位。「あまりにも脆い顎」「冷静なマッチメイク」を指摘された〝ジャパニーズ・パッキャオ〟は、前々年の12位から前年15位、そして29位とキャリアの下り坂を降りていました。

続いて36位が西岡利晃。前年55位。スランプに陥っていたジョニー・ゴンザレスを逆転KOで下すなど、15連勝中。リング誌はこの記事では「ジャパニーズ・スリル・マシン」と表現。 

38位は亀田興毅。「お騒がせ男」 と書かれながらも「バンタム級はトーナメントが進められており、亀田の参戦=SHowTimeでの米国デビューが期待される」。

59位は亀田大毅。前年64位。興毅との兄弟王者だが、 彼らはヘビー級ではなく、米国では誰も見ないフライ級やバンタム級。それでも、日本では何千万人(何百万人ではない)もの人が視聴するスーパースターだ。

93位は内山高志。前年は圏外。2010年のアジア最高選手賞ボクサーは、第3ラウンドにダウンを喫するも、三浦隆司をストップしてジュニアライト級王座を防衛。ガードが甘く、来年はこのリストに載っていないだろう。



▶︎▶︎▶︎前年100位で初登場、このとき47位だったカネロ・アルバレスのご紹介。

We're still not sure if he's the real-deal or not.

「この赤毛の青年が本物なのかどうか、私たちにはまだわからない。確実なことは二つ。一つ目は危険なパワーパンチャーとの対戦を避ける絶妙なマッチメイクの恩恵を受け続ける、現代屈指のスーパースター候補であること。もう一つは、1戦ごとに目を瞠る成長を見せていること。彼ほど学習能力の高いボクサーは非常に珍しい」。

カネロの評価は鋭い。スーパースター〝候補〟の候補を外せば、今でもそのまま当てはまりそうです。

その一方で、内山の評価は節穴でした。

すでに、ミドル級のストラップを掴んでいたゲンナディ・ゴロフキンを100傑に数えていないところも、相当な節穴ぶりです。
 

▶︎▶︎▶︎10年ひと昔、といいますが、まさにそうです。

井上尚弥も村田諒太もプロボクサーとしては影も形もなかった2012年。

このリング誌1月号では「プロスペクト10」も紹介しています。デメトリアス・アンドラーデ、シャリフ・ボゲーレ、トマス・デロルメ、エドウィン・ロドリゲス、メルシト・ゲシタ、ラティーフ・カヨデ、ダーレイ・ペレス、デビッド・プライス、ゲイリー・ラッセルJr.、ジェシー・バルガス。

プロスペクト10から漏れた中から、レオ・サンタクルスらに並んで亀田和毅の名前もリストアップされていました。

さあ、2022年はどんな1年になるのでしょうか?

パッキャオは大統領になれるのか?

村田諒太の日本ボクシング史上最高の勝利はもたらされるのか?

井上尚弥の2試合で2階級完全統一の離れ業を目の当たりにできるのか?


今年もよろしくお願いいたします。
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来年5月に行われるフィリピン大統領選。

有力候補4人の末席に、マニー・パッキャオ上院議員が滑り込みました。
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有力候補とはいえ、フィリピンの民間調査機関ソーシャル・ウェザー・ステーションズ10月に実施した世論調査ではトップのフェルディナンド・マルコスの支持率が47%、4位のパッキャオはわずか9%にとどまっています。

ボクシングでは1-5のアンダードッグですが、大衆扇動的なフィリピンの選挙において、7ヶ月前の世論をひっくり返すのは並大抵のことではありません。

フェルディナンドは悪名高き独裁者マルコス大統領の長男。マルコスやイメルダ夫人を美化するフェイクニュースも織り交ぜたSNSが、かつての圧政を知らない若者たちの人気を集めているというのです。

フェルディナンドのYouTubeチャンネル登録者数は169万人で他の候補者の2倍以上。

大本命といわれていた現職大統領ドュテルテの長女サラがスキャンダルで立候補を取りやめるなど、独裁者の息子フェルディナンドにも今後強烈な逆風が巻き起からかもしれません。

そうなると支持率18%で2位のロブレド副大統領、13%のモレノ・マニラ市長、そしてパッキャオの三つ巴の争いになります。

リングの上で数々の番狂わせを起こし、異邦人でありながら中北米のボクシングヒーローに登り詰めたパックマン。

四角いリングから離れて、妖怪が跋扈する政治の世界でも大番狂わせを起こせるのか?

政治家パッキャオのメガファイトまで、もう半年を切りました。
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運がいいとか 悪いとか

人はときどき 口にするけど

そういうことって

確かにあると 

貴方を見てて そう思う

〜さだまさし


▶︎▶︎▶︎来年5月に行われるフィリピン大統領選挙。

大本命は現職のロドリゴ大統領の長女でダバオ市長のサラでしたが、ここ数ヶ月で情勢が一気に変わって来ました。

麻薬犯罪に対する強権的な姿勢で容疑者の殺害まで認めて来たロドリゴに国民の反発は少なくありません。

ロドリゴは「武装した犯罪者集団と向き合った警察に『撃て』と命じることは間違っていない」と抗弁してきました。

この言葉が犯罪であることは明らかです。

犯罪者集団か?武装しているのか?は「撃つ」側が決めて良いというのですから。

ロドリゴの麻薬犯罪対策による犠牲者は6000人以上に上り、フィリピン司法省の、メナルド・ゲバラ大臣は捜査拡大の姿勢を見せ、対決姿勢を鮮明にしています。

現職大統領を起訴・逮捕するには制限が多く、ロドリゴが任期の満了を待って司法省が行動に移すと見られています。

それに対抗するため、ロドリゴは大統領職を失ったあとも政治的影響力を保ち訴訟や逮捕から逃れるために副大統領への立候補を表明していました。

しかし、先月には国際刑事裁判所(ICC)がロドリゴに人道的犯罪の可能性があるとして、捜査することを決定。

「政治家には免責特権がある」と見苦しい保身の言葉に多くの国民が不満を爆発、ロドリゴは、世論に押される形で今月2日に出馬を断念します。

当然、サラの支持率も下落してしまいました。

さらに、今月8日、政府の行き過ぎた麻薬対策を批判、ロドリゴと対決していたジャーナリストのマリア・レッサにノーベル平和賞が贈られることが決定、ロドリゴはフィリピンだけではなく世界から糾弾される立場に追い込まれました。

そして、21日になってロドリゴは「ICCの捜査を受け入れる。私の責任を明らかにする」と観念した様子ですが「(サラの大統領選出馬とは)関係がない」と語るなど、その口から言葉が発せられるたびに非難を集め、怒りを煽る泥沼状態。

サラ圧勝とも見られた大統領の行方は混沌、政治評論家のリチャード・ヘイダリアンは「反ロドリゴの世論は大きくなる一方。対立候補への支持が広がっている。サラは出馬表明を控えている状態で、もはや本命ではない」と見ています。

出馬表明をしていないサラは今回の大統領選を見送る可能性まで取り沙汰されています。

この状況で、正式に出馬宣言したのがボンボン・マルコス。夫人のイメルダと共にスキャンダルにまみれたマルコス元大統領の長男です。

ボンボンをはじめ、ロドリゴ政治との一定の宥和策を掲げて来た候補者たちは、急先鋒のロドリゴ批判に手の平返し。

ヘイダリアンは、候補者たちのあからさまな手の平返しは「選挙や政治とは切っても切り離せないもの」と呆れながらも「立候補から一貫して反ロドリゴの姿勢を崩さない人物もいる」と名前は出しませんでしたが、フィリピンで国民的人気スポーツ、ボクシングで世界を席捲したマニー・パッキャオを指しているのは明らかです。
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軽量級への関心が著しく低い米国で、軽量級のアジア人がスターになるのは不可能です。

ありえないことですが、メキシコの人気スター選手が2人も3人もいて、彼らを正面突破のスタイルで敵地でことごとく撃破する、というなら話は別です。

しかし、軽量級にメキシカンの人気スターなど滅多に現れません。ましてや2人、3人なんて、あり得ません。

さらに、万一そんな人気者のメキシカンが同じ階級に存在するような奇跡的な状況があったとしても、人気者には理由があります。彼らを次々に倒すなんて芸当が出来るわけありません。

そして、そんな実力の持ち主は、まずまともな形では彼らと戦わせてもらえません。
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もちろん、その実力が考えられないほど過小評価されていたのなら、また話は別です。

考えられないほど過小評価されてたアジア人が、実は途轍もなく強い…というのであれば。

しかし、それはそれで、もう一つのあり得ない奇跡です。

そして、人気のない軽量級である限り、彼らを倒してしまうと、再び不毛で無視される階級に逆戻りです。

もちろん、軽量級が不人気階級であるということは、上に人気階級が存在するということです。

ストロー級からウェルター級を頂点に、階級の人口とレベルは基本的に正比例しながら上昇してゆきます。

ジュニアミドルとミドル、スーパーミドル、ライトヘビー、クルーザーと欧米で注目されるクラスは高止まりしながら、ヘビー級で人気と感心が一気に上がります。

軽量級から人気クラスを制するのは、体格面の問題はもちろん、レベルの問題も大きく高いハードルとなって立ち塞がっているのです。

常識的に考えて報酬も人気も低いジュニアフェザー級以下の超軽量級ボクサーが、人気階級の入り口、ライト級でアルファベット王者になるのすら至難の技です。

ましてやそれがウェルター級となると、至難の技どころか夢物語も超えて寝言や狂言です。

奇跡を何度も重ねたとして、米国で人気の高いウェルター級にも栄華を誇るスーパースターが存在するかしないかで、その風景は異なります。

現在のウェルター級はテレンス・クロフォードとエロール・スペンスJr.が無敗で並走していますが、栄華を極めているとは言い切れません。

大きく盛り上がるヘビー級と比べると、現状のウェルター級は二番手クラスと言い切っても差し支えない状況です。

一番美味しいのは、晩年を迎えたスーパースターが死に場所を求めて彷徨している状況です。

そこでグダグダの内容で勝ってもファンを白けさせるだけですが、圧倒的な内容で〝介錯〟するなら、スーパースターから栄光のトーチをリレーする資格発生です。

とはいえ、ほとんどのファンが思い入れのあるスーパースターが相手です。勝って当たり前の予想やオッズでは、敵役にしかなりません。

最も美味しいパターンは大番狂わせで、スーパースターを鮮やかに介錯することです。

しかし、そんな奇跡も滅多やたらに起きるわけがありません。

そのはず、でした。

来年5月の大統領選挙でも、圧倒的不利が伝えられていたパッキャオでしたが、ここに来て潮目が変わりつつあるようです。

現状ではサラが出馬するとして、ボンボンとサラの一騎打ち、と見られています。

パックマンは三番手以下のグループですが、票が分散するのは悪い傾向ではありません。

大番狂わせの風が吹き始めました。


▶︎▶︎▶︎


運がいいとか 悪いとか

人はときどき 口にするけど

そういうことって

確かにあると 

貴方を見てて そう思う
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WIth THE EFFECTS OF AGE NOW CLEARLY VISIBLE AND POLITICAL ASPIRATIONS CALLING, MANNY PACQUIAO’S LOSS TO YORDENIS UGAS MIGHT FINALLY BE THE LAST PERFORMANCE IN ONE OF BOXING HISTORY’S MOST REMARKABLE CAREERS.

計に勝てる人間など、どこにもいない。 それは、たとえマニー・パッキャオでも変わらない。

ファイターとしての炎が弱く小さくなる一方で、政治的な野望は大きく膨張していた。ヨルデニス・ウガスに敗れた一戦は、史上最高のボクサーの1人にとって最後の試合になったのかもしれない。
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20年前の夏。

マニー・パッキャオがフィリピンから米国にやってきた。

もちろん、そのとき、伝説の序曲など誰の耳にも聴こえていない。

元フライ級王者だったが「元」で「フライ級王者」なんて、米国では誰も知らないと言い切って差し支えないだろう。

全く無名の小さな若者には、二つの探し物があった。

一つはトレーナー。

そして、もう一つは、とにかく大きな成功のチャンス。

 
2001年6月初旬、パッキャオは、ジムを探すためにバスでサンフランシスコからロサンゼルスに向かった。

いくつかのジムを訪れた。

そして、最後にカリフォルニア州ハリウッドにあるフレディ・ローチが運営するワイルド・カード・ボクシング・クラブに辿り着いた。

神の配剤。

そんなことが、現実の世の中に、本当に起こりうるのか? 

マニーは「自分の拳を正しく受けて、正しくコーチが出来るトレーナー」を探していた。

フレディがジムを開いたのは「もしかしたら21世紀のモハメド・アリがこの扉をノックするかもしれない」と夢見たからだ。

二人はよく似ていた。

パッキャオの友人たちは「お前の速くて、強くて変な軌道で打つパンチを正しく受け止めるトレーナーなんて、いるわけがない」と笑った。

フレディの助手や知人も「21世紀のアリ?そんなのいるわけがない。リストン、フォアマン、スピンクス…アリは信じられない番狂わせを何度も起こした。そんな規格外のグレートがこのつまらない21世紀に現れるわけがない」と呆れ果てた。

すでに売れっ子トレーナーだったフレディはジムにいないことも多かった。ジムにいるときは有名選手へのコーチで手が離せなかった。

それなのに、その日に限ってなぜか手持ち無沙汰だった。

そして、英語を満足に話せない小さなフィリピン人がやって来て、たどたどしい言葉で「私のパンチを受けて欲しい」と頭を下げてきたのだ。

パッキャオが満足出来るミットを受けてくれるトレーナーは、まずいなかった。

何ラウンドもミットを受けているうちに、完璧なタイミングを見つけてくれるかもしれないと期待するのだが、誰も真っ直ぐに受け止めてくれなかった。

「そんなに体重をかけるな」「踏み込みが大き過ぎる」「バランスが悪い」「そんな打ち方はカウンターの餌食だ」。

誰も彼を理解してくれなかった。 

しかし、フレディとの最初の1ラウンドが終わってコーナーに戻ったパッキャオは「ついに見つけた」とひとりごちたことを今でもハッキリ覚えている。

「フレディのミットは素晴らしかった。そして私へのアドバイスも最高だった」。

当時、英語はほとんど理解できなかったはずなのに、フレディが何を言っているのか、最初から正確にわかったとパッキャオは断言する。

あの小声で早口で滑舌最悪のフレディの英語を、当時のパッキャオが聞き取れたとは到底考えられないが、伝説の始まりとはえてしてそういうものだ。

フレディは笑っていた。

「もっと体重を乗せてみろ!」「もっと踏み込め!」「バランスやフォームを気にするな!」「頭の中で考えすぎるな!」。

マニーも笑っていた。 

こんな出会いが本当にあるのか?

信じられないが、本当にあったのだから仕方がない。


その日のフレディの記憶も、パッキャオと同じだった。

「探してたものが、向こうからやって来た」。

 This guy is sensational. We have a new fighter.


「私のアリが本当にやって来た。アリよりも身長が約1フィート低く、体重122ポンドで、英語はほとんど話せなかったが、アリと同じ、普通じゃないことはすぐにわかった」。

「1ラウンド3分間で十分だった。コーナーに戻って、今日はとんでもない伝説の初日になる」とローチは笑ったが、誰もが「あの小さな子供が伝説?」といわんばかりの表情で戸惑っていた。



そして、伝説はいつだってせっかちだ。

神が配剤した出会いからまだ2週間しか経っていないというのに、神がまた運命を配剤したのだ。

幸運の大盤振る舞いだ。

本当のところ、身もふたもないが、神様などいない。

チャンスは誰にでも、どこにでもいつでも、すぐそばに転がっている。

ただ、それに気づくかどうかだ。

そして、多くのチャンスは刺々しいリスクの姿をして目の前に現れる。

火中の栗が最も美味しい。

そのことはアリとパッキャオが紡ぐ伝説のページを少し開くだけでよく分かる。

当時の世界最大のメガファイト、オスカー・デラホーヤvsハビエル・カスティージョのセミファイナル、PPVにも組み込まれた世界ジュニアフェザー級タイトルマッチで王者リーロ・レジャバの挑戦者が故障を理由にキャンセルした。

階級最強の呼び声高いレジャバに準備期間もなく、急遽挑戦するーーそんな無謀な試合を受けるボクサーは世界中探したって一人もいない、はずだった。

ところが、パッキャオは二つ返事で快諾した。

「パッキャオ?誰だ?」「挑戦資格はあるのか?」「本当にラスベガスに来るのか?」。

HBOとプロモーターは心配を募らせた。

マッチメーカーのブルース・トランプラーだけが2週間前に結成された奇妙なコンビを知っていた。

「コーナーに付くのはフレディ・ローチだ。奴らは必ず来る」。

リングアナウンサーもHBOのコメンテーターも、いきなり現れた「Pacquiao」をどう発音していいのかわからないまま、試合が始まった。

軽量級事情に詳しくない米国のボクシングファンは「レジャバは想像以上にすごいファイターだ!」と驚いたスペクタクルな試合は6ラウンドで終わる。
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彼らがレジャバと勘違いしていたのが、マニー・パッキャオだった。

嵐のような戦い方だった。勝ち名乗りを受けたパッキャオの笑顔は、台風一過の突き抜けた青空のようだった。


「映画のような話だけど、これは実話だ。私たちは一目惚れで恋に落ち、その2週間後にマニーは世界チャンピオンになっていたんだ」(フレディ・ローチ)。

伝説にふさわしい、最初の大番狂わせだった。※フシ穴注釈:あくまで米国では初めての大番狂わせです。

That fight changed my life,” Pacquiao said.

「あの試合から全てが始まった」(パッキャオ)。

それは、世界中のボクシングファンにとっても同じことだった。

当時は、フレディ・ローチ以外、まだ誰も伝説の幕が開けたことに気づいていなかった。

そのフレディですら、まさかこの伝説が20年も続くなどとは夢想だにしていなかった。

フレディが確信していた「伝説」も、所詮は軽量級のスター選手という規格の中だった。


そして、神はパッキャオに対して幸運の大盤振る舞いをやめようとしなかった。

火中の栗を、それも鮮やかに燃え盛ったどでかい栗を、小さなフィリピン人の足元にいくつも転がし続けることになるのだ。
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契約書に再戦条項が盛り込まれていたのは、当たり前です。

しかし、この試合にそれが必要だったでしょうか?

再戦条項は「Aサイドのスター選手が万一負けたときのための〝保険〟」です。 

ただ、今回の試合に限って、来年に大統領選挙を控えた42歳のAサイドに、再戦条項など必要なかったでしょう。

保険をかけるまでもなく、この試合は勝っても負けても引退。

再戦条項など、はなから必要なかったはずです。

もちろん、時間とチャンスが限定されている35歳のキューバ人が「再戦を優先する。タイトルを剥奪されても構わない」と前向きなのは当然です。

しかし、42歳のフィリピン人が「来年1月なら試合ができる」と乗り気なのは、パックマニアとしては意外でもなんでもありませんが、それでも「もう見たくない」というが本音です。
 
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来年1月?正気ですか?

5月に大統領選挙の投開票が行われるというのに。

よしんば、再戦で勝っても、あなたのレガシーに何か上積みされることはありません。

全く、やる意味のない、リスクしかない馬鹿げた試合です。 

リスクしかない馬鹿げた試合…。

それを熱烈に愛する性格なのは、わかってたつもりですが…。
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マニー・パッキャオは、縫合したばかりの裂傷を隠すサングラス姿で報道陣の前に座った。

今夜の試合では鋭い踏み込みも、対戦相手を幻惑する左右の動きも、神がかり的な当て勘も影を潜めていた。

「足が疲れきって思うように動けなかった。期待してくれたファンにお詫びしたい」。

不利が予想されたエロール・スペンスJr.から、ノックアウト勝利も期待されたヨルデニス・ウガスへの変更で、生きる伝説は気が緩んでしまったのか?

それとも、42歳の伝説にとって、この試合が潮時だったのか?
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「心ではまたボクシングを続けたいと思っているが、それは体と相談しなければならない。42歳とはそういう年齢だ」。

フィリピン上院着委員は、これでリングと決別するのか、そして来年5月の大統領選に出馬するのか、二つの大きな決断に迫られている。

もし、これで引退となれば、彼のレガシーはここで固まることになる。

歴史上初めて90年代、00年代、2010年代、2020年代と4つのディケイドで世界王者に君臨、史上唯一無二の8階級制覇と、Lineal Champion 5階級制覇も成し遂げた。

そして、2015年のフロイド・メイウェザー戦は試合内容以はともかく、商業的には史上最大のメガファイトになった。

あの試合の勝敗を、二人のレガシーの優劣に反映すべきだろうか?

フライ級で世界王者になったファイターが、ジュニアミドル級までの10階級のウェイトレンジで世界のトップ戦線で戦い続けたこと、メイウェザーが引退した後も5年以上もレガシーを築いてきたこと。

「私も相手も健康なままリングを降りれますように」。試合前に見せる慈悲と、試合が始まると発散する凶暴と獰猛のギャップ。

自らが斬り刻んで打ち崩したデビッド・ディアスを助け起こし、間断ない波状攻撃で眼窩底骨折したアントニオ・マルガリートの状態を主審に訴えた優しさ。

Even Muhammad Ali and Mike Tyson had plenty of detractors during their heyday. But not Manny Pacquiao, a man with a golden smile one moment and a blistering punch the next.

モハメド・アリやマイク・タイソンは、全盛期ですら毛嫌いするファンも少なくなかった。しかし、やさしい笑顔と凶悪なパンチを代わるがわる見せたマニー・パッキャオは誰からも愛された。

Time To Say Goodbye

これが最後なら、悲しいけどサヨナラだ。

パックマンが最後の試合で番狂わせを起こされる、なんてのも、あらためて考えて見ると一興だ。

とにかく、パッキャオのおかげで米国ボクシングは救われた。
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Ring.tv.の試合前、両陣営へのインタビューから。
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▶︎▶︎▶︎マニー・パッキャオは国家議員になるずっと以前から、窮乏する母国の人々に救いの手を差し伸べてきました。

貧困にあえぐ人々に百万ドル単位の寄付を繰り返し、ホームレスには数千もの住宅を提供、漁業関係者には船外機を提供するなど、本来なら国家政府が担うべき慈善活動を行ってきたのです。

その彼に「政治家とボクシング、どちらが重要か?」と聞くのは、間違った質問かもしれません。

パッキャオにとって、物質的なものは最優先に重要ではありません。

「私が何をしてきたか、つまり名声や記録、政府での地位など、私が持っているものは私にとって重要ではありません。 最も大切なのは、神との関係です。人々にインスピレーションを与える存在になることです。50年、40年後に私がいなくなっても優れたボクサーの一人であるだけでなく、人々を思いやり、人々を助けたということを記憶してもらいたいのです」。

フレディ・ローチは「ウガスを過小評価していない。ショーン・ポーター戦は彼が勝っていた。この試合で引退するかどうかは、わからない。ただ、伝説が続くのなら眼疾の癒えたエロール・スペンスや、テレンス・クロフォードと戦いたいと思っているだろう」と、現役継続もありうると示唆しました。

現役続行の場合、パッキャオの偉大な業績にリストアップされていないUndisputed Champion(完全統一王者)について記者から「140ポンドのジョシュ・テイラー」の名前を聞かれたローチは「それは最高の考えだ」と即答。

テイラーはパッキャオに憧れてボクサーになり、今も愛犬にマニーと名付けているほどです。

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ヨルデニス・ウガスの作戦参謀イスマエル・サラスは「パッキャオは様々な角度をつけて攻め込んでくる非常に難しい相手だが、アマチュアで500戦以上の経験を持ち、私とのコンビでプロ仕様のスタイルを確立したウガスは順応できるはずだ」と自信を見せています。▶︎▶︎▶︎



*****オッズも予想もパッキャオに大きく傾き、スペンス戦と比べると緊張感のない空気が充満してしまっています。

明日の試合後、本人の口から大統領選出馬について何か語られるでしょう。

それが、勝利者インタビューになるのか、そうでないのかは、まだ誰にもわかりません。
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ボクシングビート誌の見出し。「ウェルター級のマニー・パッキャオ 18戦14勝3KO4敗」。

その全てがメガファイト、名も実もある対戦相手ばかりとはいえ、実に平凡です。

しかし、この数字はライバルを見渡しても、けして見劣りするものではありません。
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「ウェルター級のエロール・スペンスJr.」を世界戦限定で見ると6戦全勝3KO。

ストップできたのはゲンアンディ・ゴロフキンに破壊された試合からダイレクトで挑戦してきたケル・ブルック、ジュニアウェルター級を主戦場にしてきた33歳の劣化版ラモント・ピーターソン、ウェルター級のコンテンダーとは認められないカルロス・オカンポの3人。

マイキー・ガルシア、ショーン・ポーター、ダニー・ガルシアには、36分間たっぷり粘られています。

キース・サーマンは最初の世界戦までを20戦全勝18KOで疾走しましたが、その後の10試合は9勝1敗、4KO。暫定やセカンドを除いた世界戦は3勝1敗でKOはゼロ、もはや〝One Time〟(一撃)は過大広告を通り越して虚偽です。

「ウェルター級のテレンス・クロフォード」は5戦全勝5KOですが、まともな相手は一人もいません。変な相手とばかり戦うから、人気が出ないのも頷けます。
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https://www.youtube.com/watch?v=lbJT4H7yzPA
 
先ほど行われた前日計量は、ヨルデニス・ウガスがリミットいっぱい147ポンド、マニー・パッキャオは1ポンドアンダーの146ポンド。

両者並ぶと、42歳のフィリピン人の小ささが目立ちます。
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「ウガスのスタイルはパッキャオにとってやりやすい」(キース・サーマン)らの見立てから、オッズは開いてパッキャオ1.33倍、ウガス4倍に。

「生涯最大のチャンスだということはよく理解している」(ウガス)。

「対戦相手がウガスに変わって油断するなんてことはない。強敵だ」(パッキャオ)。

35歳のキューバ人を、フィリピン大統領に立候補する上院議員が翻弄する…そんな下馬評通りの展開になるでしょうか?

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