カテゴリ: 軽量級のメガファイト

ボクシングシーン・ドットコムが、ジュニアフェザー級を完全統一した井上尚弥が来年にもWBOフェザー級王者WBOロベイシ・ラミレスとのビッグファイトに進む可能性を報じています。


 The odds in place make it easy to envision a Ramirez-Inoue fight in 2024. 


この二人が共にトップランクと契約していることは、試合成立の障壁が一枚少ないことを意味します。

また、今年7月25日のイベントで揃い踏みしていること(井上vsスティーブン・フルトン/ラミレスvs清水聡)を、近い将来に向けた伏線(現実的な交渉云々ではなく両者の意識的なものも含めて)と考えるのは穿った見方ではないでしょう。


さて、このビッグファイトが実現したら…?

井上サイドから見て、キャリアのターニングポイントになる要素は7つ。

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①キャリア初の金メダリスト。

ラミレスはロンドン2012、リオデジャネイロ2016の五輪2大会連続の金メダリスト。

日本人選手が元金メダリストと対決したのは尾崎富士雄vsマーク・ブリーランド(ロスアンゼルス1984)、木村翔vs鄒市明(北京2008/ロンドン2012)、中谷正義vsワシル・ロマチェンコ(北京2008/ロンドン2012)の例があります…他にもあるか?。

しかし、勝利したのは木村だけ。その木村の鄒は、プロでは煮え切らない戦いぶりに終始しており、強豪と呼ぶのは憚られる存在でした。

いずれにしても、井上にとってラミレスはキャリア初の五輪金メダリストです。




②ラミレスは過去最強の相手。

オマール・ナルバエス、エマヌエル・ロドリゲス、スティーブン・フルトン、階級を上げるたびに「過去最強の相手」が現れてきた井上。

今回もその流れでラミレス…というわけでは、もちろんありません。

39歳のナルバエス、評価暴落のロドリゲス、そもそも決定的な強さが欠落していたフルトンと、29歳のラミレスではワケが違います。




③会場は東海岸?MSG?バークレイズセンター?

井上もラミレスもこのクラスではビッグネームとはいえ、軽量級人気が高い日本での開催が有力です。

それでも、キューバ人の多い東海岸での開催もあり得るかもしれません。

実際に、ラミレスはマディソン・スクエア・ガーデン(MSG)で2試合を戦っています。

いずれもシアターで、アンダーカードでしたが、「井上vsラミレス」なら人気階級のセミファイナルでMSGのアリーナや、バークレイズセンターも十分ありでしょう。




④フェザー級以下で史上初の18ポンド超え。

ジュニアフライ級(108ポンド)からジュニアフェザー級(122ポンド)の14ポンド超えの階級制覇を成し遂げたのは、ホルヘ・アルセと井上尚弥(フライ級をスキップ)だけ。

ノニト・ドネアがフライ級(112ポンド)からフェザー級(126ポンド)のタイトルをピックアップしていますが、このスパンも14ポンド。

井上がフェザー級でもベルトをコレクションすると、史上初の18ポンド超えとなります。


※フライ(112)〜ジュニアミドル(154)を制したマニー・パッキャオは除く。




⑤この試合に勝てばFighter Of The Yearと、PFP1位を掴む。

井上が印象的な勝ち方を収めたら、PFP1位返り咲き、日本人初のFighter Of The Yearも確実。

すでに決定的なモダン部門での殿堂入りにも「First ballot(一発)」の枕詞が付けられるはずです。

モダン部門での殿堂入りはファイティング原田だけ、その原田も一発殿堂でした。

原田は1団体8〜10階級時代にフライ級とバンタム級でUndisuputed Chamoion、フェザー級でも十分通用する素養を見せました。

井上は4団体17階級時代でジュニアフライ級からフェザー級を制覇、原田の階級を完全に飲み込むことになります。

「日本人最高ボクサー」は、もはや議論されなくなるかもしれません。




⑥国民栄誉賞もあり?

ボクサーではプロアマ問わず、国民栄誉賞は誰も獲得していません。

ボクシングファンなら、ジュニアフライ級からフェザー級までの5階級で階級最強王者として君臨することがどれほどの偉業かよくわかるとはいえ、悲しいかなマイナースポーツ。

しかも、公共性の高い(人気のある)スポーツでユニバーサル・アクセス権が取り沙汰されている中で、ネット配信の方向に一気にのめり込んでいるボクシングは、自らマイナーの沼に沈み込んでいると言えます。

国民栄誉賞は難しいか?





⑦井上が引退するときにキャリアを振り返って、これが最大の試合になる。

井上の上限階級がフェザーかジュニアライトだとすると、カネロ・アルバレスや、ウェルター級時代のフロイド・メイウェザーやマニー・パッキャオはもちろん、その一つ下のビッグネームとの遭遇も非常に難しいと言わざるを得ません。

井上引退のリミットまでの時間にフェザー級〜ジュニアライト級で、人気と実力を兼ね備えたメキシカンが突然現れないとも限りませんが、やはり難しいでしょう。

そう考えると、この試合が井上尚弥というファイターのクライマックスになる可能性が濃厚です。
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Sunday 31, December 2023
  
Ota-City General Gymnasium, Tokyo, Japan
commission:Japan Boxing Commission
matchmaker:Takuya Kiya
media:ABEMA

WBA World Junior Bantam



フランシスコ・エストラーダとの交渉はギリギリまで続いていたようですが、タイムアウト。

井岡一翔、大晦日ファイトの相手はホスベル・ペレスに落ち着きました。

〝Avalancha〟(雪崩)の渾名を持つ28歳のベネズエラ人が母国を離れてリングに上がったのは、7年23戦のキャリアで2試合だけ。

WBA地域タイトルのフライ級王者決定戦(2019年7月6日:ロベール・バレラ=コロンビア)と、WBAフライ級戦(2020年2月8日:©️アルテム・ダラキアン=ウクライナ)で、いずれも判定で敗れています。

3度の防衛戦を全てKOで終わらせていた当時32歳のダラキアンが、ホームタウンの利を活かした誤魔化しのボクシングでペレスを36分間不完全燃焼させた一戦からは、パンチがあるんだろうなというのは読み取れます。

とはいえ、敵地で決定的な場面が作れないままラウンドを浪費していく姿からは、井岡の壁は分厚いように思えます。



さて、エストラーダ。交渉が一旦とはいえ頓挫、今回はリングサイドにエストラーダを呼ばないでしょう。

中谷潤人、呼びましょう。

34歳のファイターは天邪鬼なところも魅力の一つですが、エストラーダだけが団体統一戦じゃありません。

もちろん、看板という視点ではエストラーダ>>>>>中谷です。

しかし、井岡がエストラーダと中谷、どちらに勝利するのが衝撃的でしょうか?


井岡のキャリアを振り返ると、オーレイドン・シスサマーチャイ、ファン・カルロス・レベコ、マクウィリアムス・アローヨ、ドニー・ニエテス、田中恒成と強豪に勝利を収めてきただけでなく、フェリックス・アルバラードやキービン・ララ、ハビエル・シントロンとホープの壁にもなってきました。

そして「キャリア最高の勝利」は恒成との一戦です。井岡本人が「メリットがない」とほざこうが、あの試合に勝ってPFPファイターに数えられたのです(アムナット・ルエンロン、ニエテスは井岡に勝ってPFP入り、つまりは井岡がPFPの〝合格ライン〟でした)。

もし、エストラーダをKOしたら日本でも海外でも賞賛だけでなく「ガジョの劣化は目も当てられなかった」というやっかみも聞こえてくるでしょう。

しかし、中谷をKOしたら?

誰も文句は言いません。そして、中谷が井岡に敗れたそのあとの試合で「井岡がいかに強かったか」をリングの上で語り続けてくれるでしょう。

まあ、中谷をリングサイドに呼ばないだろうな。

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話変わって、今回はTBSではなくABEMAが無料で配信。

テレビのように番組枠がないネットストリーム、イベント全体を見せてくれるのはありがたい。ただ…米国などのPPVとは真逆の無料サービス、こんなことがいつまで続くのか?

どこかの時点で、無料サービスの形が変わるのは100%間違いありません。

そのとき、無料に慣らされたボクシングファンはどれだけ有料に付いていくでしょうか。

あるいはネット配信企業がボクシング事業に見切りをつけたとき、テレビが再びプラットフォームになってくれるでしょうか?



「タダより怖いものはない」。そう実感してしまう未来がすぐそこに待っている…そんなことはない、と祈っています。
 
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12月31日(日)大田区総合体育館

WBAジュニアバンタム級

バンタム級 10回戦

フェザー級 10回戦
堤 駿斗(志成)vsルイスモンシオン ベンチャーラ(ドミニカ)


34歳の井岡は、相思相愛と思われたファン・フランシスコ・エストラーダ戦がファイトマネーを巡って交渉が行き詰まっていると伝えられていますが、まだ「決裂」とは報じられていません。

交渉決裂なら別の対戦相手が決まっているはずです。




アンダーカードは〝仕切り直し〟の二人。



一人は元WBCフライ級王者の比嘉大吾。

体重超過でリングではなく秤の上でタイトルを失うという最悪の王座陥落、試合もクリストファー・ロサレスに9ラウンドでストップされた、あの悪夢の2018年4月15日から、5年半もの歳月が流れました。悪夢はまだ続いています。

ロサレスに敗れるまで、フライ級で15戦全勝オールKOという剛腕は、バンタム級で再起してからの7戦は4勝2敗1分と完全に影を潜めてしまいます。

32歳のカイカンハは、デビュー戦でシーサケット・ソールンビサイと引き分けてからファン・エルナンデスと空位のWBCフライ級王座を争うまで36連勝を飾っていたタイ人。

このエルナンデスが初防衛戦に迎えたのが比嘉で、この時はエルナンデスが体重超過、比嘉が6ラウンドで仕留めて戴冠したのでした。

それにしても、比嘉はまだ28歳。

歌を忘れたカナリアが、自ら招いた悪夢から覚める日がいつか訪れるのでしょうか?



もう一人は堤 駿斗。

プロ3戦全勝の24歳に〝仕切り直し〟のタグを付けるのは厳しい見方かもしれませんが、ここまでKOはゼロ、さらに10月13日に予定されていたベンチャーラとの一戦はインフルエンザによる発熱でキャンセル。大晦日に仕切り直しとなります。

高校2年時に、日本人として世界ユースで史上初の金メダルを勝ち獲った俊才は、期待された東京五輪出場を逃しプロ転向。

ここまでの対戦相手は、レールの上に置かれた生贄との3試合。

今回のベンチャーラも11戦全勝9KO無敗と数字は立派ですが、11戦のうち6試合の相手はデビュー戦。勝ち越している選手はたった一人(ディクソン・フローレス=17勝10敗3分)というお粗末さ。

25歳のドミニカンはこれがキャリア初の10回戦、これまで6ラウンド以上を戦ったこともありません。

無理に倒しに行く必要はありませんが、綺麗に勝たなければなりません。



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そして着丼。

笠岡ラーメン。九条ネギトッピング、味玉乗せ。

いただきます。
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井上尚弥とマーロン・タパレスの122ポンドUndisputed championshipまで、あと50日。

井上の勝利で1/20(1.05倍)のオッズを叩くブックメーカーもあり、専門家予想も一方的。

これまで衝撃的なKO勝利を積み重ねてきた無敗の日本人は、PFP上位に指定席を持つ時代を代表する強打者。

一方、幸運な判定を拾って2団体王者になったフィリピン人は、4団体17階級時代だからタイトルにありつけた有象無象の王者の1人。

勝敗という点で意味を見出すのが難しい試合ですが、万一、またタパレスが微妙な判定を引き寄せることも含めて勝利すると、アジア史上最大の大番狂せと呼べるのでしょうか?
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WBAジュニアフライ級王者・井岡一翔が熱望する、Lineal/WBC同級王者ファン・フランシスコ・エストラーダとの決戦は「大晦日に東京」のラインで交渉が進んでいました。

しかし、今日になってBoxingscene .comなど複数のメディアが「契約はほぼ決裂」と伝えています。

相思相愛と見られていた両者ですが、34歳の日本人が望んでいるのは「キャリアの集大成」。一方で、33歳のメキシカンの目当ては「カネ」。

昨年12月に行われたローマン・ゴンサレスとのビッグファイトで7figure(100万ドル超え)の報酬を手に入れたエストラーダが、井岡戦に期待していたのは「軽量級ではあり得ない注目と熱狂を集める日本開催」と「それに釣り合うファイトマネー」でしたが、井岡は日本開催にこだわらず、陣営も十分な報酬を提示できなかった模様。

井岡の代名詞、12度目となる大晦日の世界戦、長らくPFPシーンを賑わせてきた115ポンドの最終決戦はこのまま霧消してしまうのでしょうか?

Boxingscene .comは一部で噂されている「大晦日・東京で井岡vsロマゴン」は、具体的な交渉はないとも否定しています。

36歳のチョコラティトもエストラーダとのラバーマッチで100万ドルを手にしたと言われ、以前のような条件で日本のリングに戻ることは考えられません。

カネではなく栄光を求める井岡にとって、自身と同じキャリアの幕引きを迎えているビッグネームとの対戦は一筋縄では行きそうもありません。

まあ、ジュニアバンタム級の対立王者に「カネよりも栄光を求め、勝てば評価が上がる相手」は、しっかり相模原あたりにお住まいですが、4階級制覇王者はそっちに舵を切る気はないのでしょうか?
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井上尚弥とマーロン・タパレスのジュニアフェザー級完全統一戦、その第1ラウンド開始のゴングが打ち鳴らされるまで、あと2ヶ月を切りました。

勝者は、このクラスで史上初のUndisputed championになります。

…というよりも、ジュニアフェザー級はWBAからWBCが分裂したあとに出来たストロー級やジュニアフライ級、ジュニアバンタム級と同じ新設階級なので、まだ誰も「Undisputed champion=議論する余地のない王者」になっていないということです。

オリジナル8の他でも、分裂前から設定されていたジュニアライト級、ジュニアウエルター級、ジュニアミドル級は当然ながらUndisputed championが存在しました。

ちなみに、クルーザー級とスーパーミドル級もジュニアフェザー級などと同じように分裂後に新設されたクラスですが、クルーザー級はイベンダー・ホリフィールドとオレクサンデル・ウシク、スーパーミドル級はカネロ・アルバレスが完全統一して、Undisputed championの座に就いています。

今回のジュニアフェザー級Undisputed championshipの勝者は、4つのアルファベットタイトルを束ねるだけでなく、ギレルモ・リゴンドーが昨年手放したLineal championと、リング誌タイトルも手に入れることになります。



さて、井上のキャリアで今回のタパレスはドネアの2戦もカウントすると、のべ7人目のフィリピン人。

対戦相手の4人に1人以上がフィリピンからの刺客ということになります。

というわけで(どういうわけだかこの時間でしっかり酔っ払ってるワシにもようわからんが)現在の東アジアのボクシングをリードする日本とフィリピンのプロボクサー、その競技人口を今日のBoxRecから階級別に拾ってみましょう。
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両国ともスーパーミドル級からヘビー級の重量級は一気に層が薄くなり、フィリピンでは綺麗にゼロが並んでいます。

日本とフィリピン、よく似た競技人口の構成です。

日本がライトヘビー級とクルーザー級の選手を1人も抱えていないにもかかわらず、ヘビー級に5人もの選手を送り込んでいるのは、この競技に募らせ続けている大きなロマン、夢の発露です。

そして、フィリピンがスーパーミドル級からの4階級でたった1人のファイターもリストアップしていない潔さを見せているのは、ボクシングに甘い夢など必要ないという姿勢の証左なのかもしれません。

日比両国は総人口でも似通っています。

そこに両国のボクシング人気というフィルターを通すと、東シナ海の貧しい島嶼国家のボクシング人口があまりにも少なすぎるように映ってきます。

あくまで推測ですが、フィリピンではプロテストを受けたり、ジムに通うお金がなく、草拳闘・賭け拳闘で戦う、BoxRecがカウント出来ないプロ予備軍が少なからず存在するのではないでしょうか?

いずれにしてもタパレスは、ボクシングファンの度肝を抜く大番狂せを何度も歴史に刻んできたハングリーなフィリピン人の血脈を継ぐ職業拳闘士です。

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パンチョ・ビラがニューヨーク・ポログラウンズで伝説のチャンピオン、ジミー・ワイルドを破壊するなんて、スタジアムに詰めかけた2万人の誰1人として予想していなかったでしょう。

世界ミドル級王者セフェリノ・ガルシアが、ヘンリー・アームストロングの4階級制覇の野望を摘み取り、引き分け防衛に持ち込むなんて、誰が考えたでしょうか?

パワーしか取り柄のないローランド・パスクワがウンベルト・ゴンザレスを撃沈したとき、何が起きたのかを、すぐに理解できた人はいませんでした。

絶望的に不利と見られたノニト・ドネアが、ビック・ダルチニアンの意識を吹っ飛ばした〝後の先〟の左フックに、軽量級マニアは至福の鳥肌を立てました。

そして、私たちはマニー・パッキャオの実力を何度疑い、自分たちが間違っていたことを何度思い知らされたことでしょうか。

もちろん、マーロン・タパレスはパンチョ・ビラやパッキャオ、ガルシア、ドネアであるわけもなく、パワーも世界レベルでは物足りない、パスクワ以下の穴王者です。

しかし、彼もまた、敵地で恐るべき番狂せを演じてきた外弁慶のフィリピン人の系譜を引くファイターです。

これまで井上の拳に倒されてきたのべ7人のフィリピン人と同じ運命を辿るのか?

それとも、ボクシングがメジャースポーツのフィリピンにとって歓喜の〝七度目の正直〟を演出するのか?

多くのブックメーカー、専門家、ファンは31歳のフィリピン人サウスポーが12ラウンド終了のゴングを聞くことは出来ないと決めつけていますが…。
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Tuesday 26, December 2023
  
Ariake Arena, Koto-Ku, Tokyo, Japan
commission:Japan Boxing Commission

promoter:Hideyuki Ohashi (Ohashi Promotions)

The Ring magazine
WBA/WBC/IBF/WBO Junior Feather weight




試合はLeminoが無料配信。米国ではESPN+が早朝5時頃からオンエア予定。

大方の予想通りに井上が勝つと、4団体時代でテレンス・クロフォードに次ぐ2人目となる2階級での〝他の誰にも王者を名乗らせない〟Undisputed championに就きます。

ウィリアム・ヒルが叩いたオッズは井上勝利が1/20(1.05倍)、タパレス7/1(8倍)。掛け率だけなら、ミスマッチの領域に深く突入しています。

1.05倍では誰も井上に賭けず、このあとオッズは接近するのは間違いありませんが、井上のキャリアの中でも「最も楽勝」という数字に落ち着くはずです。

どう見ても、31歳のサウスポーは、充実したプライムタイムを迎えている30歳のモンスターが破壊するために注文されたような実力とスタイルしか持ち合わせていません。

“We are witnessing an all-time great fighter in the prime of his career. He has a very difficult task at hand on December 26 against a tough, powerful Filipino champion in Marlon Tapales, but I am confident ‘The Monster’ will pass this test with flying colors.”

ボブ・アラムも「私たちは偉大なファイターの全盛期を目撃する証人だ。タフでパワフルなマーロン・タパレスは非常に難しい相手。それでも私はモンスターがこの大仕事を簡単にやってのけると確信している」とコメントを寄せています。

日程・会場・放送媒体ともに当初の予想通りに落ち着きましたが、12月26日は火曜日、また平日というのは残念。会場のスケジュールや会場費を考えると、平日のコスパが良いのは理解できますが…。

日本人初、アジア3人目のFighter Of The Yearについては、井上がタパレスに圧勝しても難しいでしょうか?

現状、ライバルとなるのは一足先に2階級でUndisputed championになったクロフォードだけですが、世界評価が低すぎるタパレスが相手ではどんな勝ち方をしても〝逆転〟は厳しそうです。
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マーロン・タパレス、逞しいフィリピン・スピリッツが血液に流れる実に面白いファイターです。

ただし、世界基準で強いのか?となると…。王者になれたのは、4団体17階級時代だからの一点に尽きる、有象無象王者のひとりにすぎません。

安定王者、強豪王者になることはまずあり得ません。

自慢のパンチもスティーブン・フルトンよりはマシというだけで、世界基準で見ると特別なものではないのはこれまでの試合が物語っています。

そのキャリアに輝く大金星、ムロジョン・アフマダリエフを大番狂せで下した試合も〝勝ちに不思議の勝ちがあり〟という内容。

もちろん、アフマダリエフ視点では〝負けに不思議の負けは無し〟。

それでも、再戦となったら、やはりタパレスが圧倒的不利のアンダードッグでしょう。

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では、タパレスの、井上尚弥への〝挑戦〟はノーチャンスなのか?

二つのKO負けを含む三つの敗北に、いくつものクロスゲームを潜り抜けてきた31歳のフィリピン人に対して、30歳のPFPファイターは25戦全勝22KO無敗、全ての勝利を文句無しの明白な形で収めてきました。

戦力マトリクスを作成したとして、タパレスが井上に優るどころか、互角に近い項目すら一つとしてありません。

好戦的で防御に欠陥を抱えるタパレスは、井上にとってオーダーメイドのファイターです。

予期せぬアクシデントでもない限り、試合が3人のジャッジペーパーに委ねられることはないでしょう。


では、対タパレスにおいて、モンスターに死角はないのか?


明白な勝利しか知らない井上ですが、25戦の中には気になる試合もありました。

その3試合を振り返ります。
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「次WBOにやりたいやつがいて、王者がアマチュア上がりで戦績も俺と同じくらいで、同じ年のイケイケのやつがいるらしいんで。そいつと喧嘩ボクシング出来たら」(重岡優大)。


ストロー級屈指の強豪パンヤ・プラダブスリからWBCタイトルを奪った優大が、次に戦いたい相手として即答したWBO王者オスカー・コラーゾボクシング・ビートなど一部では「オスカル・コラソ」ですが、ここでは耳障り優先でオスカー・コラーゾと表記します)とは何者なのか?



最軽量のストロー級(105ポンド=47.61kg)は、プロボクサーの競技人口で世界265人(10月9日現在:BoxRecから)。この数字は17階級最少ですが、日本人はそのうち61人、23%を占めて世界最多。

そして、コラーゾの米国はなんと4人…。多くの超軽量級と同じように、米国内ではまともなランキングも存在しないストロー級。当たり前ですが、ボクシングファンのレーダーにもほとんど捕捉されることがありません。

ただし、コラーゾのルーツはプエルトリコ。軽量級にも理解のあるエリアです。しかし、そのプエルトリコの競技人口ですら、たったの2人。

米国とプエルトリコ合わせて6人しかいないストロー級ファイターですが、米国の1位は現王者コラーゾでプエルトリコは元王者のウィルフレド・メンデス。6人中2人、3分の1が世界のトップファイターという倒錯の構図。

米国で見ると競技人口4人でも、世界王者1人。日韓のフィギュアスケートも真っ青の少数精鋭ワールドです。

プエルトリコの歴代で振り返っても、なんと6人しか挙ってきません。

それでも1位:イバン・カルデロン、2位:アレックス・サンチェス、3位:メンデス。コラーゾの名前が抜けていますが、もはやご愛嬌。コラーゾを入れると7人で、そのうち4人が世界王者。

カルデロンはアマチュア時代にミゲール・コットから勝利を収め、プロでもPFPに数えられるなどその技術は超一級品として高い評価を集めています。

ここまで来ると、逆にディープです。

コラーゾの身長157㎝/リーチ155㎝というフレームと、105ポンドがスタート階級ということを考えると、ライト級以上の人気階級に進出する未来は想像できません。

それでも、この小さなプエルトリカンは、ウィルフレド・ゴメス、ウィルフレド・ベニテス、ティト・トリニダード、カルデロン、コットというカリブのボクシング大国が輩出してきた血脈を受け継ぐ “EL PUPILO”、有力な候補と考えられています。

谷口将隆を一撃で沈めてWBOタイトルを奪ったメルビン・ジェルサレムを7ラウンドで戦意喪失させてプエルトリコ史上最短の7戦目で戴冠。

https://fushiananome.blog.jp/archives/32426921.html



初防衛戦はガレン・ディアガンを6ラウンド終了でやはり棄権に追い込みました。

かつてのボクシング大国プエルトリコは、期待はずれのホープが続き、世界王者になったスター候補もあっさり敗れるドミノに悩んでいました。

それでも今年になって、コラーゾとIBFジュニアウェルター級のKOセンセーション、スブリエル・マティアスというプエルトリコならではな魅力満点のスター候補が相次いで世界王者になりました。

プロボクシングの面白さは数え切れませんが、お国柄の多様性もその一つ。

大きな市場を抱える米国や英国、日本はもとより、どんな国でも突発的な才能が出現したり、そして旧東側のエリートアマやら、ムエタイベースのタイ、出稼ぎ根性が番狂せに直結するフィリピン、そしてメキシコとプエルトリコという大国の存在。

ボクシングの才能とスタイルにおいて、最も色気のあふれる才能を生み出し続けているプエルトリコが元気を取り戻すことは、日本にとっては脅威でしかありませんが、そんな狭量なこと言ってる場合じゃありません。

層が薄い階級ですが、銀次朗のボクシングが典型で、小さいということはアクションが激しく、見映えがするということ。

コラーゾと重岡兄弟、さらに新しいタレントも加わって、この階級がどんな盛り上がりを見せてゆくのか楽しみに応援しています。
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亀田一家は日本スポーツ史上最悪の悪役、ヒールでした。

ヒールの法則、それはまず憎たらしいほど強いことが前提条件のはずでした。弱いヒールなんて、ヒールではない、そのはずでした。

亀田はCheater、ずるい奴、という意味合いが強烈な点で特殊なヒールです。

江川卓や桑田真澄なども〝ずるい奴〟という色彩を帯びたヒールでしたが、彼らには圧倒的な実力、つまりヒールの大前提がまずありきでした。

「亀田」の場合は多くの人の神経を逆撫でする下劣な言動を繰り返す一方で、強豪を回避しながら「弱い相手を選んで王者になる」「世界王者になったらええんやろ」という、日本ボクシング界では常套手段でもあったアプローチを、露骨にやってしまい〝弱くてずるい奴〟というなんとも滑稽なヒールになったのでした。

度重なる反則行為はヒールであろうが言語道断。毎度毎度のKO宣言も、喜劇的なウソで嘲られる対象になってしまいました。

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井上尚弥はプロボクシングへの印象について「弱い相手を選んで試合をする。それがテレビに流れちゃうっていう時代だったんで」と、明らかに亀田一家に向けた嫌悪感を露わにしていました。

多くのボクシングファンが「亀田」に抱いた思いも同じだったでしょう。

激しいバッシングに、興毅が「5階級制覇したら文句ないやろ!」と啖呵を切ったとき、やはり彼らは何もわかっていないと呆れ果てました。

今の時代、簡単に世界王者になれるのです。もし、サッカーやラグビーのW杯を統括・主催する団体が4つあれば、日本代表はすでに何度か優勝しているかもしれません。あるいは17階級あれば、何階級も制覇しているでしょう。

PFPがあれば日本は、ブラジルもニュージーランドも凌駕する最強と評価されているかもしれません。

4団体17階級時代だからこそ「誰に勝ったのか?」は、このスポーツにおいて最も重要な評価基準になっているのです。

もちろん、井上も強豪ばかりと戦ってきたわけではありません。

ただし、強くはないけどベルトを持っているジェイミー・マクドネルやポール・バトラー、マーロン・タパレスのような階級最弱王者の烙印を捺された相手や、そいつしか手を挙げなかったという挑戦者というケースで、能動的に弱い相手は選んでいません。

「亀田」は明らかに「世界王者になればいい」と能動的に穴王者を選ぶスタンスでした。

「弱いくせに」「ズルい」。その二つが掛け合わされて、世間の反感を増幅させてしまったのです。

数多くのペナルティや事件を〝懲役〟のように耐えた「亀田」でしたが、時間が経っても彼らのリング内でのイメージは改善されることはありませんでした。

その世間からの激しい非難は亀田史郎と〝a champion〟の座に就いた三兄弟にとって、心の奥底にこびりついて消して消えることのない腫瘍であり続けたでしょうが、彼らは謝罪とその態度を見せること、頭を下げることしかできませんでした。

そんな時期に日本のリングを駆け上がったのが井上でした。

自分たちとは真逆の善玉、井上を倒せば全てがひっくり返る。そう考えるのは当然で、信じられないほど頭の悪い愚行を繰り返してきた彼らにでもわかる、忌々しい腫瘍を除去する唯一無二の方法でした。



和毅はこの1〜2年、「今の自分の最大のモチベーションは井上チャンピオンを倒すことです」と繰り返してきました。

「ここで躓いたら、一族が贖罪できるチャンスは消えてしまう」。その思いもあったはずですが…。その意識が感じられない試合だったのは残念です。まあ、そういうスタイルなんです、そもそもが。

ただ、ボクシング界はいつだって魑魅魍魎。

WBOジュニアバンタム級王者の井上に、直近の試合で敗退していた銀行員アントニオ・ニエベスが挑戦したように、和毅にも訳のわからないオファーが舞い込む可能性はゼロではありません。

那須川天心が孵化するかどうかわからない現状で、井上のキャリアで亀田和毅が最大のビジネスパートナーであることは間違いありません。

ジュニアフェザーに落とす覚悟があるなら、ジョンリール・カシメロやルイス・ネリとの〝挑戦者決定戦〟だってありでしょう。
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