フシ穴の眼 〜スポーツ疾風怒濤編〜

      Hope Lights Our Way / 希望の道を、つなごう。

カテゴリ: ザ・ベスト10

このパンデミックで、富裕層が使うお金の流れが実体経済からアート市場に流入しています。

「週刊東洋経済」の特集で、クリスティーズ・ジャパンの山口桂社長は「世界の富裕層が家で楽しむためにアートを買っている。活況なのは現代アート」と説明しています。 

パンデミック前でも前澤友作ZOZO元社長がジャン・ミシェル・バスキアの絵画を約115億円で落札してニュースになりましたが、驚くべきはその金額だけではありません。

この絵画が33年前に取引されたときの価格が〝わずか〟220万円だったという事実です。 
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私の中で「人生七不思議」の一つ、村上隆。どこがいいのか全くわからないばかりか、むしろ不快に感じてしまいます。

常識的に考えれば、評価が固まっていない現代アートは、気まぐれな富裕層の購買力が落ちると、その相場が暴落する危険を孕んでいます。

それでも、根強い買い漁りに拍車がかかっているのは「コロナ禍で急な資金需要ができた企業などがコレクションを売却し、市場に名品が出回っているから」(東洋経済)。

富裕層に現代アートを理解する審美眼があるとは到底思えませんが、彼らが期待しているのは「前澤のバスキア」に見る高利回りの資産性です。 

これまで、史上最高額で落札された美術品は、ニューヨークのクリスティーズで出品された「サルバトール・ムンディ」(レオナルド・ダ・ビンチ)で、その金額は約4億5000万ドル、510億円。
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こんなのが510億円…。

史上最大のメガファイト(パッキャオvsメイウエザーの興行規模に匹敵するメガ油絵です。カンバスのサイズは縦70㎝弱ですから、小さいメガ油絵です。

この絵も2005年に米国のマイナーなオークションで出品されたときの落札価格は1175ドル、たったの12万円でした。12年後に4億5000万ドル、38万3000倍になった訳ですから、どんなマルチ商法もびっくりのありえない超をいくつ付けても表現できない高金利です。

年3万倍なんて金利、どんな馬鹿でも騙されませんが、これが実際に起きているのが現代アートの世界です。

「サルバートール・ムンディ」にはもちろんカラクリがあって、2005年当時はダビンチではなく弟子の作品とされていたから12万円だったのです。

世界に十数点しかないというダビンチの油絵と認定された、男性版「モナ・リザ」が〝パックメイ〟に化けるのは、ある意味当然の帰結でした。

極論ですが、誰が描こうがその作品の芸術性は変わらないはずです。

作者不詳の「サルバトール・ムンディ」に、聡明な美術界が510億円の値を付け、後から「あれよくよく調べたらダビンチが描いたみたい」というなら、全面的に美術界を尊敬します。

しかし、実態はおぞましいばかりの権威主義です。

「勝ったヤツが強い」のではなく「名前のあるヤツが必ず勝つ」という反吐が出る世界です。

本当に暗愚な世界です。

とはいえ、YouTuberや50過ぎのグレートのexhibitionが持て囃される今のボクシングも「現代アート」の亜種かもしれません。


考えてみると、カネロ・アルバレスも一種の現代アートでしょうなあ。

あ〜あ、なんだかなあ。。。 

なんて書き連ねながらも、画商の知人と話をしてると非常に面白い世界だとは感じています。


それにしても、名前と物語と誇大広告…ボクシング界と美術界は酷似しています。 

でも、美術界にはパッキャオみたいな大番狂わせは起きないのです。 
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昨日、ライトヘビー級のIBF/WBC王者アルトゥール・ベテルビエフが10ラウンドTKOで王座防衛、戦績を16戦全勝16KOに伸ばしました。

そして今日、バージル・オルティスJr.がモーリス・フッカーを7ラウンドでストップ、17戦全勝17KOでWBOウェルター級暫定王座を争い、セカンドタイトルを獲得。
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持ち前の強打でIBFを4度、統一王座を初防衛した階級最強候補のロシア人と、量産型タイトルの断片を拾い上げたばかりのオルティスを同列に語ることは憚られますが、今日のテーマは〝パーフェクトレコード〟です。

プロボクシングでは、ある程度の年齢と技術体系を完成させてから選手になり、他のスポーツとは比較ならない少ない試合数でキャリアを終えます。

さらに、勝ち続けるとよりタフなステージが用意されるとは限らないのも特徴的です。プロボクシングは咬ませ犬や穴王者、雑魚挑戦者が選り取り見取りの世界なのです。

「指名挑戦者」という言葉も今では本来の意味を完全に失い、世界中のボクシングファンを笑わせ続けてくれています。

日本のメディアやファンの間では「世界王者に弱い奴はいない」「王者にとって指名挑戦者を迎える試合は最難関の試合」「世界1位は最強挑戦者」という言葉がいまだに散見されますが、プロボクシングはそんなまともなスポーツではありません。

この独善独断偏見ブログが最も唾棄するのが、オマール・ナルバエスのようなヘタレや、全く意味のない数字だけのボクサーです。

ナルバエスは「ヘタレ」と「数字」を両立させた、トンデモ選手です。顔はハンサムなんですが、母国の評価も人気もセルヒオ・マルチネスとは天地の差なのもよく理解出来ます。

それでも日本に来たら「伝説の名王者」です。ある意味「伝説」なので、間違いではないのですが…。


そんな歪んだ世界で整形美容外科的に量産されるのが無敗レコードです。

「無敗」には「全勝無敗」「全戦全勝」などがあり、最上級は全戦全勝全KO、100% knockout record です。

そして誇大広告の末路では、ほぼ全ての記録が途絶え、記録が抹消されるだけでなく、人々の記憶からも薄れてゆきます。

極めて稀ですが「無敗のまま引退した世界王者」も存在します。
 
代名詞的な名前だけでも、ロッキー・マルシアやリカルド・ロペス、ジョー・カルザゲ、スベン・オットケ、エドウィン・バレロ、サムソン・ダッチボーイジム、テリー・マーシュ…そして真打、フロイド・メイウェザー。

マルシアノの「48」は伝説的な数字として語られていますが、それでも史上最強の評価を受けることはありません。

ロペス、カルザゲ、メイウェザーもそれなりの評価は受けているとはいえ「無敗であること」が評価の要因ではないのです。

 テニスのマルチナ・ナブラチロワのシングルス74連勝、陸上400mハードルのエドウィン・モーゼスの122連勝には、相手の質が低いなんて非難は浴びせられません。

ボクシングの世界で無敗が持つ意味は大きくありません。「世界王者のまま無敗のまま引退」はこのスポーツでは、むしろ後ろ指を差されかねないのです。

その意味では〝ゼロ〟の価値はゼロ、と言えるでしょう。

さて、この「ゼロ・ワールド」でも最上級バージョンの全戦全勝全KOを突き進んでいるベテルビエフやオルティスは、いつ記録をストップされるでしょうか?

また「全戦全勝全KO」をさらに蒸留した「全戦全勝全1ラウンドKO」記録を16にまで伸ばしているエドガー・ベルランガもいつ記録が途絶えても不思議じゃない怪しさ満点です。

23歳のThe Chosen One(選ばれし者)は来月24日、強打のデモンド・ニコルソンとの試合がセットされていますが、コロコロ倒れるニコルソンはどっからどう見てもオーダーメイド。記録は17に伸びる公算大ですが、さて1ラウンドKO記録はいつまで続くんでしょうか?

…というか、いつまで続ける気でしょうか?
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アリ・レイミをトップに頂く、このバッタモン・ランキングの中では、バレロでも評価してあげなければなりません。

このブログでも紹介済みですがアリ・レイミには〝美容整形〟記録のエッセンスが詰まっています。

レイミはまさにパーフェクト・レコードのパーフェクト・サンプル、完成形です。
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PFPの説明で最も使われる言葉が「体重同一時」です。
「階級が離れているが故に戦うわけがないボクサーの優劣を決める」のがPFPだとすると、この大前提を破壊したボクサー、すなわち最も驚異的な複数階級制覇を果たしたボクサーこそがPFPキングということになります。

PFPとは畢竟、実際に戦えば重いクラスの方が強いという真実・事実関係を無視した仮想空間の戦いです。

そこで行われる脳内作業の本質は〝弱者救済〟の一点に尽きます。

この仮想空間ではタイソン・フューリーは自分と同じ体格で軽量級の動きをする井上尚弥と比較されるわけです。

17階級中、ヘビー級のボクサーにだけ〝弱者救済〟の特典は一切ないのです。

現実の象はネズミを軽々と踏み潰すことが出来ますが、ネズミのスピードと機動力を持つ空想の象には勝てる道理がありません。

つまり、PFPの本質概念は弱者救済なのです。

そうであるなら階級弱者だけでなく、年齢弱者も救済すべきです。その意味ではPFPこそ男女混合で考えるべきです。

階級弱者なのに階級強者を倒しまくり、年齢弱者なのに年齢強者に痛烈な敗北を突き付ける…。

もし、そんな化け物がいたら、そいつがPFPキングのはずです。
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そう考えるとフライ級上がりの42歳で、今なおウェルター級の最前線で拳を振るうマニー・パッキャオこそが歴代PFPキングのはずです。

なんて屁理屈、いやPFPがそもそも屁理屈なので、説得力もクソも本来はありません。

「説得力のある妄想ランキング」なんていう矛盾に満ち満ちたもの、そいつの説得力のあるバージョンを作ろうとしてるのですから「人道的な大量破壊兵器」「地球に優しい火力発電」みたいなもんです。

さあ、それでも、そいつを作りに出かけましょう。
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材料は全米ボクシング記者会(BWAA)とESPN、リング誌の PFPと、人気階級についてはpotential  fightのオッズ。

透明な専門家の投票制で選出されるBWAAとESPNに対して、リング誌は密室合議制。脳内ランキングに透明性など求めてどうする?というのはもっともですが、説得力が出るのはESPNのような記名投票制です。

また、人気階級限定とはいえ、potential fightのオッズが立っている場合はそれを最優先して考えます。

まず、3月2日現在の三メディアのPFPを並べてみます。
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赤字はそのメディアにだけランキングされた選手で、いずれも9位か10位。つまり、8位までは〝共通認識〟ということです。

トップ3は完全一致。井上尚弥はアッパレです。

リング誌とESPNの階級別ランキングもほとんど一致しています。アルファベット団体のインチキランキングとは全く違います。当たり前といえば当たり前です。

先日の「カネロ・アルバレスvsアブニ・イルディリム」を見て、まともなボクシングファンなら「指名挑戦者を軽く粉砕するなんてカネロはすごい!」なんて発想はチリほども思い浮かびません。

次に、ポテンシャルオッズの一部を切り取ってみました。
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PFPではいずれもクロフォード>>スペンスという序列ですが、potential fightのオッズは、10/11(1.91倍)と5/4(2.25倍)。肉薄しています。

この対戦が実現すると、専門家予想は逆転するかもしれません。ウェルター級バージョンのクロフォードの対戦相手は、あまりにも水準が低すぎます。クロフォードの剣は鈍りきってるでしょう。

現時点なら、私もスペンスの中盤から終盤のストップを予想します。

さらに、テオフィモ・ロペスとワシル・ロマチェンコの再戦に至っては6/5(2.2倍)、11/10(2.1倍)とこちらもカミソリ一枚のオッズながら、PFP順位を逆転しています。

もちろん、現実に動いていないオッズで「ウィリアムヒルが適当に叩いただけ」の数字ですが、それでも大手ブッカーの見立ては、ボクシングファンの目にも「まずまず」と映るんじゃないでしょうか。

少なくともアルファベット団体の錯乱ランキングよりは1億倍マシです。


…ちゃちゃっと書けるなと思いましたが、ここで続きます…こんなんばっかりですが、思いついたこと、書きたいことだけしか書かないので、そりゃ書きかけの山が積もってゆくのでした。
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番狂わせ。

絶対有利と思われたファイターがアンダードッグの拳に跪き、ひれ伏す。

そこには予想を超えて確信にまで固まっていた私たちの信仰が破壊された混乱と戸惑い、それを補おうと泥縄の後出し情報と分析が氾濫する渦中で感じるのは、背徳の恍惚です。




このシリーズでは番狂わせのパターンを類型化、ご紹介するはずでしたが、今回は予定変更。

Bayonne Bleeder(バイヨンヌの流血鬼)にハッピーバースデイを捧げます。大番狂わせの話をするのに、彼ほどふさわしい人物はいないかもしれません。

チャック・ウェプナーは1939年2月26日生まれ。日本時間では今日が82歳の誕生日です。
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1964年プロデビュー、1978年にグローブを吊るしたウェプナーの試合をリアルタイムで観た人はほとんどいないはずです。

当時の熱狂的なボクシングファンでも、キャリア52戦のどの試合も日本で中継されることはなかったのですから、当たり前です。

東海岸をベースに戦った白人ヘビー級とはいえ、ニュージャージー州のタイトルを獲ったりとられたりのローカルファイター。

バイヨンヌの流血鬼という異名も、すぐにカットして血だるまになるからでした。

ニュージャージー州のバイヨンヌ警察のジムで練習しながら、酒のセールスマンとしても働く兼業ボクサー。まだ、ボクシングにメジャーの熾火が残っていた時期とはいえ、州王者がやっとこさでは、ボクシング一本で食っていけるわけもありません。

それなのに、彼の名前を知らないボクシングファンは少数派でしょう。ボクシングファンでなくても「ロッキー・バルボアのモデル」として多くの人に知られています。

今朝のリング誌電子版で「HAPPY BIRTHDAY TO CHUCK WEPNER」のヘッドラインよりも先に、老けたウェプナーがファイティングポーズを取るモノクロ写真が目に入って不謹慎な思いが胸をよぎりましたが、そんなわけがありません。

あのタフガイを天国に連れて行くのは、天使や神様が何人がかりでも大仕事でしょう。しかも、まだ82歳です。


それにしても、ウェプナーの名前をいつ知ったか正確には思い出せません。

「ロッキー(1976年)」の公開時期を考えると、どう考えても小学生。

「アントニオ猪木vsモハメド・アリ」(1976年6月26日)の地球的イベントで、同じ日にニューヨーク・シェイスタジアムで行われたアンドレ・ザ・ジャイアント戦を見たのは、ずっとあとのことだったか…。

「猪木vsアリ」の拍子抜けとは違い、ウェプナーをロープの外に投げ飛ばしたアンドレには興奮しました。



今も、リアル・ロッキーはニュージャージーで妻リンダと幸せに暮らしています。

そして今も、酒類流通業大手のAllied Beverage Groupでセールスマンとして働き、リンダも同じ仕事に就いています。

突然、ありえないような脚光と名声のシャワーを浴びても、全くぶれずに堅実な人生を歩み続ける。

これこそが、普通の人間には最も出来ないことです。本当の強さとは何かを、ウェプナーの生き様が静かに教えてくれています。

82歳の元ニュージャージー州王者は、数年前から癌を患っていますが「体重は35〜40ポンド減った。カムバックするならクルーザー級になるな」と全く悲壮感はありません。生まれながらのファイター、ガッツの塊のような男です。

それでも、今の米国ボクシングを語るときは少し感傷的になります。

「アメリカからヘビー級チャンピオンがいなくなるなんて、信じられないな。もうあの頃には戻れないんだろうな。アリ、フレージャー、ジョアマン、ジェリー・クォーリー…偉大な選手が戦う黄金時代を共有できて本当に幸せだった。でも、彼らもあと2、3人しか残っていないのか」。



それにしても。実在のロッキーはモハメド・アリとの大勝負に予想外の抵抗を見せたとはいえ、15ラウンドTKOで敗れたのです。

番狂わせは起こしていません。

それでも、ウェプナーを〝届かなかった男〟とは誰も考えないでしょう。

番狂わせを起こすことができなかったにもかかわらず、彼はリングの中でも、リングを降りても「The Undefeated〜敗れざる者」の代表であり続けているのです。

未来永劫、語り継がれるであろうニュージャージー州王者なんて、それこそ映画の世界です。



やはり、チャック・ウェプナーは大番狂わせを起こしたのです。

ハッピーバースデイ、偉大なチャック・ウェプナー。
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【サドンデス型】

アンダードッグがバンチャーズ・チャンスをモノにする【サドンデス型】が最も起こりうる番狂わせ…そう思われがちですが、現実に頻発するのは、後付けとはいえ、起こるべくして起きた【ファンマ型】です。

しかし、衝撃度においてサドンデス型が強烈であることは間違いありません。

ファンマ型が両者の実力を読み違えた「そういうことか!」という予想やオッズの〝ミス〟であったのに対して、評価は間違っていなかったにもかかわらず、その通りの結果が出なかったサドンデスの方が衝撃が大きいのは当たり前です。

レノックス・ルイスがオリバー・マッコールとハシム・ラクマンに食らった不覚の一撃、ウラジミール・クリチコが踏み外したコーリー・サンダースとラモン・ブリュースター。

誰もがパンチャーズ・チャンスの権利を持つヘビー級ならではの番狂わせでした。

一方で、たった一発のパンチでそれまでの負債を一気に精算するデオンティ・ワイルダーのケースは番狂わせとは別の構図です。ワイルダーはアンダードッグではありませんでした。

ワイルダー とルイス・オルティスのストーリーラインは多くのファンの想定内・期待通りだったのです。

予想していたのとは全く違う結末を突き付けられるのが番狂わせです。

その意味ではサドンデス型こそが、本当の番狂わせと言えるでしょう。

日本時間の明後日、フロリダのハードロック・スタジアムで21世紀最大の番狂わせが起きるとしたら…サドンデス型しか考えられません。
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ーーーーそして、予想とは全く違う結末にもかかわらず、それが番狂わせの衝撃だけでなく、より大きな感情の盛り上がりを巻き起こしてくれるケースもあります。
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【英雄誕生型】です。

最強にして最凶と恐れられたソニー・リストンを2度にわたって圧倒したばかりか、ジョージ・フォアマンをキンシャサに沈める呪術的な大番狂わせまで演じたモハメド・アリ。

アジアの軽量級という欧米の死角から、メキシコ時代の旗頭マルコ・アントニオ・バレラを突き刺し、ホンマもんの頂点、オスカー・デラホーヤを一方的に殴りまくったマニー・パッキャオ。

あのリングの熱狂は大番狂わせの興奮から噴出しただけではありません。新時代の幕開けを告げる勝鬨の歌だったのです。

この類型に当てはまるかどうかの判断が保留されているのが、テオフィモ・ロペスvsワシル・ロマチェンコでしょう。

リング誌がアップセット・オブ・ザ・イヤーに選んだとはいえ、あの試合に大番狂わせの衝撃、背徳の興奮を感じた人がどれほどいたでしょうか。

せめて、テオフィモが後半追い上げる展開ならまだしも、前半の貯金を後半取り崩す尻すぼみでは英雄誕生の絵面は見えませんでした。

英雄誕生には残酷な演出が必要なのです。

〝豪奢な王が生贄に供される儀式〟なのですから。



英雄誕生。その厳かな儀式が、超弩級の大番狂わせまで盛られる、そんな贅沢な瞬間を共有できるファンは幸運です。



ボクシングがまだメジャーだった時代、世界ヘビー級チャンピオンがスポーツの王様だった時代、カシアス・クレイがモハメド・アリに孵化した時間を共有できた先輩諸氏には、嫉妬しかありません。 

それでも、諸先輩方はモハメド・アリを〝地続き〟に見ることが出来なかったでしょう。

その意味だけでは、ざまあみろ、です。



〝地続き〟では無いかもしれませんが、私たちは日本人と体格の変わらないマニー・パッキャオを目撃する幸運に巡り会えました。

アンダードッグのアジア人が米国のスター選手を次々に撃ち落とす光景は「見たか!アジアの灼熱の拳を!!」(ボクシングマガジン)という言葉に集約される、戦慄と興奮と恍惚でした。

…ぜーんぶ、パッキャオが素晴らしいんであって、アジア人やましてや日本人や、ましてやましてや私がバレラやデラホーヤを叩きのめしたわけでもないのに「見たかーーッ!」と我が事のように嬉しかったです…。

しかも、私はどっちも「パッキャオが惨敗する」と予想してたくせに…。


そして、しかし。

フィリピンは地続きではありませんが、日本人がカネロ・アルバレスを倒すかもしれません。あるいは、欧米で無視され続けた軽量級で、日本人がナジーム・ハメドばりの花火を打ち上げるかもしれません。

そんな〝地続き〟が、もうすぐ先の未来で待っているかもしれません。いやいや、待ってます!必ず待ってます!!予約済みの未来です!!!絶対の約束、アポイントメントです!!!!!



と、ここまで書いて、当たり前なことに気づきました。

モハメド・アリを知りながらーーーーーーマニー・パッキャオも、そしてカネロを倒すあの人も、テオフィモを2回泣かすあの人も、アジアでパッキャオ以来二人目のPFPキングに輝くあの人も、オンタイムで見ることになる人もたくさんいますよね。

大変失礼致しました!先輩諸氏、ずーーっと長生きして下さい!  
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今日のお昼は唐揚げ定食。本文とは関係ありません。


【ファンマ型〜それは踏み台ではない!落とし穴だ!】

私たちの記憶に新しいところでも「ファンマ型」が最も一般的な番狂わせです。

ジョシュ・ウォリントンの〝噛ませ犬〟のはずだったマウリシオ・ララや、フェリックス・ベルデホの戦線復帰にうってつけと思われた中谷正義、さらにはゾウ・シミンをアジア史上最大の番狂わせに粉砕した木村翔、ジェームス・カークランドの物語を暗転させた石田順裕らの堅い拳によってファンマ型がもたらされました。

彼らはエリートの〝予定表〟を見事に引き裂いたのです。

ウォリントンもベルデホもシミンもカークランドも実力者であることは間違いありませんが、その評価は実態以上のバブルでした。

卓越した技術や一発強打、派手な人気はないものの、燃え盛る野心と不屈の根性持つ戦士を選んでしまった時点で、彼らは自らが転落することになる番狂わせの陥穽をすでに掘り終えていたのかもしれません。
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この人は〝逆ファンマ〟。

ファン・マヌエル・ロペス
、ファンマ。

10年前、トップランクはファンマとユリオルキス・ガンボアが〝決勝〟で激突する。「フェザー級ウォーズ」を企画していました。

ボクシング大国プエルトリコのオリンピアンにして、ハードヒッター。

無敗街道を驀進、21戦全勝19KOで、迎えた世界挑戦はジュニアフェザー級でした。相手はプエルトリコにとっての宿敵メキシコのダニエル・ポンセ・デレオン。

ダニポンは評価の高いWBO王者でした。

この大一番、番狂わせでダニポンを1ラウンドで粉砕、ジュニアフェザー級で刃を研ぎながら、ファンマはフェザー級も制覇。

しかし、盤石の強さを見せつけるガンボアに対して、打たれ脆く不安定なファンマは人気はあっても〝決勝〟を勝ちきれないと見られていました。

トップランクがスターになって欲しいのは、共産主義国からの亡命者ではありません。人気者のファンマです。

自ら落ちる落とし穴を、意識して掘る馬鹿はいません。しかし、番狂わせの陥穽は無意識のうちに掘られるものです。

それどころか、掘ってる彼らは踏み台を作ってるつもりのケースがほとんどです。

30戦全勝27KO、27歳のファンマが選んだその男も、誰の目にも踏み台にしか見えませんでした。

35勝23KO 11敗2分、直近5戦は3勝2敗。どう見ても冴えない当時32歳のオルランド・サリドでした。

しかし、陥穽が踏み台に見えたのはファンマ陣営だけではありません。メディアもファンの目にも〝それ〟が見えませんでした。

そして、驚くほどフシ穴なことに再戦でも多くの人がファンマが勝つと決めつけていたのです。

アリvsリストン、ホリフィールドvsタイソン…私たちは二度叩きのめされてようやく気付くのです。

あれは番狂わせなんかじゃなかった…、と。

115ボンドでもPFPキングのままスライドしたローマン・ゴンザレスもまた、評価バブルでした。

ロマゴンはシーサケット、ソールンビサイに二度敗れますが、再戦でもオッズや欧米メディアはチョコラティトを支持していましたが、日本のボクシングファンは難しい戦いになると半ば確信していたはずです。

柔らかい泡沫にとって、燃え盛る野心と不屈の根性を併せ持つ鋼鉄のファイターほど厄介なもの他にないのです。
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ボクシング160年の歴史の中で、大番狂わせは何度も起きてきました。

大試合で何度も番狂わせを演じたマニー・パッキャオは、そのものズバリのパックマン(大物喰い)を名乗りますが〝番狂わせを何度も起こす〟って「そんなもん、それそもそもが番狂わせとちゃうやろがぁああああッ!!!」(おいでやす小田)って話でもあります。
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先日の「オスカル・バルデスvsミゲール・ベルチェルト」のオッズはアバウト4-1。

圧倒的に王者を支持していた専門家予想も含めて大番狂わせと呼んでも差し支えない状況が整っていましたが、試合後のメディアやファンの空気は大番狂わせへの興奮はそこまで感じられませんでした。

これは、過大評価と過小評価、という見謝りを同時に起こしてしまった〝心当たり〟があるからかもしれません。

古今東西、ファンの度肝を抜いてきた番狂わせを独断と偏見で振り返ってゆきます。

今週末にカネロ・アルバレスに挑戦するアブニ・イルディリムのオッズが40-1とめったにみれない数字が出たことに、ESPNは「マイク・タイソンはバスター・ダグラスに42−1で圧倒的有利と見られ、アンソニー・ジョシュアとアンディ・ルイスJr.は24-1だった」と報じています。

boxingscene.comでは「50-1」というオッズを紹介しています。

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オッズが目まぐるしく変わるのはご存知の通り。

同じくESPNが2019年に「過去45年でのヘビー級大番狂わせ」ではジョシュアvsルイスは「11-1」でしたから、いつの間にか2倍以上に膨らませた数字を使ってることになります。

「42−1」のタイトルでドキュメンタリーも制作された「タイソンvsダグラス」ですが、当時は「200−1」なんてフェイクニュースもまことしやかに流されていました。 

いずれにしても、週末のメガファイトが近年稀に見るオッズのまま試合開始ゴングが鳴ることは間違いありません。

「軽量級上がりのアジア人」という表層だけから過小評価され続けた結果、いくつもの番狂わせを起こしてきた「パッキャオ型」や、 過大評価バブルが弾けた「ファンマ型」…などなどの類型から大番狂わせを振り返ってゆきます。

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1990年2月11日、マイク・タイソンがジェームス・ダグラスに滅多打ちされて東京ドームのリングに沈んだ衝撃的な虐殺試合。

あれから31年が過ぎました。

昨日、リング誌電子版は「日本に降り立った〝ダグラス〟と名の付く衝撃的な勝者はマッカーサー元帥以来だった」と、日本人的には「そういえばそうか」という史実をほじくり返していましたが、どうでもいい話です。

どうでもいい話ついでに「ジェームス・ダグラスとダグラス・マッカーサー」「ピンクロン・トーマスとトーマス・ハーンズ」「フランク・ブルーノとブルーノ・セルドン」…。

海外では、姓と名の倒置が珍しくありません。

フリオ・セサール・チャベスらファーストネームで使われることが多い「フリオ」が姓になっているように思えるエリセール・フリオの本名は「ホルヘ・エリセール・フリオ・ロチャ」。

カネロ・アルバレスも「サントス・サウル・アルバレス・バラガン」。

スポーツに限らず海外の人が短いニックネームをほぼオフィシャルに使うことには、正式名があまりにも長すぎるという背景もあるかもしれません。

だいたいどっちでもいい気がしますが、ラグビーのリーチ・マイケルは、心地よい倒置法の風が吹いてます。マイケル・リーチでは居心地が悪い。

マイク・タイソンの姓からタイソン・フューリーと付けられたように、姓と名に対する拘りがそもそも希薄というのもあります。

日本でも、村田諒太の恩師「武元前川」のような名もありますが、中国の故事が由来だと聞いた覚えが。

話が横道に逸れまくる前に、引き戻します。
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「スポーツ史上最大の番狂わせ」といわれたトウキョー・ショッカー(これも海外では見たことがない〝和製英語〟)ですが、オッズ上ではさすがにそれはありません。

42-1、43倍というオッズはボクシングではまず見られない数字ですが、今シーズンのMLB東地区でボルチモア・オリオールズ優勝オッズは81倍です。

トウキョー・ショッカーと同じくオッズがひっくり返る現実が起きたのは、岡崎慎司の英国プレミアリーグ・レスターが2015-16シーズンに優勝したとき。オッズはなんと5000倍、「ネッシー発見=2000倍」や「2017年以前に宇宙人が確認される=1500倍」などの掛け率を遥かに凌駕する超常現象でした。

実は、ボクシングは大番狂わせが少ないスポーツなのです。

ただし、これはあくまでブックメーカーの数字上の話。

番狂わせの本質をブックメーカーが叩く数字ではなく「見る人が受ける衝撃」 と考えると、2〜3倍でしかなかったとはいえマニー・パッキャオのアントニオ・マルコ・バレラ戦やオスカー・デラホーヤ戦は明らかに大番狂わせでした。

ダグラスvsタイソンの42-1も、打率2分9厘(42打数1安打)の打者がヒットを放つのと理屈は同じですが衝撃度は全く違います。

野球で絶対的エースが「5回もたずにノックアウト」 というのと、井上尚弥が「5回KO負け」というのでは衝撃レベルは全く違ってきます。

野球のノックアウトは軽薄な比喩ですが、ボクシングでは生々しい現実。その差でしょう。


今年も衝撃的なリングを目撃できそうですが、クライマックスはやはり「村田諒太vsゲンナディ・ゴロフキン」。

交渉はテーブルに乗ったという話ですから、なんとか実現してもらいたいです。 
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◉傑物(けつぶつ)…常軌を逸した能力を発揮した、あるいは発揮している実在の有機物や無機物。好まれて冠される言葉は空前絶後や前代未聞、前人未到など。

※このバカブログの有機物と無機物の定義は「炭素を含む」かどうかではなく、「生きてるか」「生きてないか」です。

 

【1816年〜現在進行中】ラガヴーリン=無機物=

モルトウイスキーの初体験はビル・ラムズデン博士の講義を聴く機会に恵まれた「グレンモーレンジ」でしたが「これがモルトか!」と衝撃を受けたのは「ラガヴーリン16年」でした。

「アードベッグ」や「ラフロイグ」よりも強烈です。

ボクサーに例えるとヘビー級への挑戦も辞さない、不撓不屈のライトヘビー級。フィニッシュブローは重い左フック。

まだ、午前中というのにアイラモルトが飲みたくなります。

1816年からスコットランドはアイラ島で極上のウイスキーを蒸留し続ける「ラガヴーリン」は傑物である。



ボブ・フィッツモンズ=有機物=【1896年】

三階級制覇が芥川賞や直木賞のような年中行事になった現代では想像もできませんが、 フィッツモンズの偉大さは史上初の三階級制覇に集約されます。

1891年に〝ノンパラレル〟(天下無双)ジャック・デンプシーを13度倒して13ラウンドにノックアウト、世界ミドル級王者を獲得。

「ヘビー級には勝てないからミドル級で戦ってるんだろ」という声に激昂して、1896年にヘビー級王者のピーター・マッハーを1ラウンドで粉砕して二階級制覇。


この王座は、ダウンしたトム・シャーキーに過激したと反則負けで失います。

 マッハーを王者と認めるかどうかは意見が分かれるところですが翌1897年にはリネラル王者ジェームス・J・コーベットを14ラウンドでKOし〝王者返り咲き〟を果たします。

1903年にライトヘビー級も掌中に収めて史上初の三階級制覇を達成します。

「弱い相手と戦うために自分も弱体化する」という暗部を持つ階級性に、真正面から格闘して勝利して見せたフィッツモンズは傑物である。


 

英国ボクシングニューズ誌=無機物=【1909年〜現在進行中】

1909年は明治42年です。伊藤博文が安重根に暗殺された年です。

「Bonnie and Clyde(俺たちに明日はない)」のクライド・バロウ(役者はフェイ・ダナウェイ)が生まれた年です。

Butch Cassidy and the Sundance Kid(明日に向かって撃て)」のサンダンス・キッド(ロバート・レッドフォード)が亡くなったのが前年の1908年。
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1909年創刊、いまなお週刊誌としてボクシング情報を届けてくれる英国ボクシングニューズ誌は傑物である。
 



・・・・・・・小さな襲撃者の侵略を受けたので、、続きはまたあとで。偶然ですがここまではラガヴーリン、ルビー・ボブ、BN誌と〝英国がため〟でした。
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