カテゴリ: ヘビー級が動くが如くボクシングは動く

カムイの「変移抜刀霞斬り」。

星飛雄馬の「消える魔球」。

水戸黄門の「印籠」。

矢吹丈の「トリプルクロスカウンター」。

退屈な現実に飽きた私たちに、必殺技はいつだって破滅的なまでの恍惚をもたらしてくれます。

沢村忠の「真空飛び膝蹴り」には虚構と現実の間を明滅するエロチズムまで溢れていました。

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そして、現実の世界にだって魅惑的な必殺技が披露されてきました。そんな必殺技を操るボクサーは簡単にヒーローに変身することが出来たのです。

ボブ・フィッツモンズの「ソーラー・プレキサス・ブロー」。

ジャック・デンプシーの「デンプシーロール」。

モハメド・アリの「ファントム・パンチ」「ロープ・ア・ドープ」。

ーーーそして昨日、またまた〝番狂せ〟を起こしたマニー・パッキャオの「マニラ・アイス(バニラアイスにひっかけた右フック)」(定着しませんでしたが)。


「ロープ・ア・ドープ」については、民主党のジェームス・カービルがトランプ大統領の自国民にも大きなブーメランとなって帰ってくるであろう関税政策に対して「ジタバタせずに打たせるだけ打たせて相手が消耗するのを待つ」という意味で「rope-a-dope戦略で良い」とニューヨークタイムズに記事を寄せました。

さすがに、ほとんどの読者はrope-a-dopeを知らないはずですから、記事を読んで少し混乱したんじゃないかと思いましたが、反骨の塊のようなアリはカービルだけでなくトランプにもオバマにも米国の政治家・大統領を常にインスパイアし続けている偉大な存在であり続けているということです。



そして、蠱惑的にもほどがある必殺技名簿に新しい銘柄が加わります。


オレクサンデル・ウシクがダニエル・デュボアを仕留めた左フックを、ウシク本人が名前も教えてくれて、解説しました。

その名も「THE IVAN(イワンの拳)」。


 Usyk dropped his head, closed his eyes and sent a huge Ivan left hook directly into Dubois’ chin.ウシクは頭を下げて目を閉じ、イワンの拳をデュボアの顎に直撃させた。

ジ・エンド。

チーム・ウシクのメンバーたちも「When you put your head down and swing for the hills with a shot like that it's known as 'The Ivan' .(サウスポーが頭を下げて丘の上に向かって弧を描くように吹き上げて振る左フック、それがイワンの拳だ)」と、口を揃えて語りました。

デュボアにとってはパンチの出所は完全に死角、大きな弧を描くことで破壊力を増幅させるだけでなく、悪魔の間を生み出す、まさに最悪のショットです。


Usyk always has it in his locker for whenever he needs it.

'The Ivan' はクルーザー級時代のウシクが2018年に米国でキャンプを張っていたときに完成させたパンチで、そのとき命名したそうです。

そして、それ以来ずっと、いつか使う瞬間が訪れるはずだとロッカーの中にしまっていました。

サウスポーが頭を下げて丘の上に向かって弧を描くように吹き上げて振る左フック、The Ivan(イワンの拳)。

〝イワンの拳〟は、セルヒオ・マルチネス(2010年11月20日:vsポール・ウィリアムス)や中谷潤人(2023年5月20日:vsアンドリュー・マロニー)も見事なマスター(使い手)で、この教科書に載せてはいけないパンチをウシクよりもわかりやすく(教科書的に)披露していました。

体重同一時(人気階級も不人気階級も平等に扱う)として広く知られるPFPですが、実は明確な評価基準はありません。

それでも…。


ヘビー級と単純比較されると「シュガー・レイ・ロビンソンは弱い」で話は終わってしまいますが、ロビンソンが弱いと思うのは体重差があるから、それだけのことで体重同一時なら人気絶頂のロッキー・マルシアノよりもはるかに優れているーーーロビンソンの優秀さをわかりやすく伝えるために広まったPFPの考え方は「トップレベルでは体重が重い方が強い」という絶対真理の上に成り立っていました。

ウシクが階級支配度が低いにも関わらず、PFPキングに推される理由は「トップレベルで体重が軽いけど重いやつよりも強い」ということ、つまりPFPの根幹を破壊することを、多くの人の目の前で証明してしまったからです。


もはや〝逆ハンデキャップ〟〝逆体重同一時〟をウシクに課す段階かもしれません。

つまり、ウシクがもっと大きくて重い状態を妄想、そうなると動きも俊敏さも確実に鈍化します。

つまり、ウシクは軽量ですばしっこくて、サウスポーだから強く見えるだけなのです。重くなったら遅くなる、弱くなるはず。

もし、ウシクをフューリーのように体重280ポンドまで膨張させ、オーソドックスに逆コンバートさせたら、絶対に弱くなっているはずです。

逆に(もうなんの逆やらわかりませんが)、フューリーはあんなに大きくて重い肉体をひきずりながら軽快でスピードと機動力抜群でサウスポーのウシクと互角に戦ったのですから、もっと高く評価しなければならないのではありませんか?


ーーーウシクがコンバーテッド・オーソドックスになって、280ポンドに増量しても、スピードと機動力はそのまま、パワーだけが以上に増強された、なんてことになっても、もう私は知りませんが…。







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犀賀

2025/07/20 15:37

別にウシクがPFPキングでなんの異論もないんですがヘビー級で体重差・体格差あるのにすごいからPFP!は違和感ありますね

勝った相手が違いすぎるとはいえワイルダーなんかウシクとナチュラル体重変わらないのにPFPの俎上にも上がりませんでした

下の階級の実績というならデビッド・ヘイやカウィをキングにとは言いませんがもう少し評価しても良かったでしょう

元記事: オレクサンデル・ウシクがPFPキングで良いのか?【1】 (編集)

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「PFPとは妄想であり正解はない」ということです。

ただ、慣れてくると本来の妄想から離れがちになり「より多くの人が納得するもの」を「正解」として求めてしまいます。

こうなると「正解はない」というPFPの大前提から逸脱してしまいます。

犀賀のご指摘したデオンティ・ワイルダーとドワイト・ムハマド・カウイは何故か見過ごされてしまう、本来ならPFPの「正解」に近いはずのファイターです。

ワイルダーはクルーザー級転向も口にするほどの痩身で、キャリアを通してみるとウシクよりも明らかに軽量のヘビー級でした。

ワイルダーがPFPで無視された原因は「ヘビー級を冷遇する」というPFPの性格だけでなく、計量でも身長198㎝/リーチ211㎝という堂々たるヘビー級の体躯が評価のハードルを引き上げました。

そして、もっと大きな要因はデビュー戦の207ポンド1/4から一貫してヘビー級で戦い続けているということが、ワイルダーのPFP入りを阻んできました。

もし、ワイルダーが自分よりも遥かに重いヘビー級の相手をバタバタ倒しまくったのが、ライトヘビー級やクルーザー級でタイトルを獲ってからの出来事なら、ウシク以上の評価を受けていたでしょう。

逆に、ウシクが最初からヘビー級なら、凡庸な王者の1人として見向きもされなかったはずです。



ライトヘビー級からヘビー級にかけて活躍したカウイは、身長169㎝ながら自分よりも遥かに大きな相手と激闘を繰り広げました。

ライトヘビー級とクルーザー級の2階級でアルファベット団体のストラップをつかんだカウイが53戦(41勝25KO11敗1分)のキャリアでKOされたのは、イベンダー・ホリフィールドとジョージ・フォアマンの2人だけ。

しかし、信者がわきやすいマイク・タイソンやナジーム・ハメドが「小さいのに頑張ってる」と同情を集めたのに対して、カウイが共感されることは多くありませんでした。

プロ入り後からの軽量の雑魚狩り路線で注目を集めたタイソン、イエメン王朝など湾岸諸国の手厚い支援を受けたハメドと比較すると、カウイはプロモーションに恵まれませんでした。

また、ライトヘビー級でマイケル・スピンクス、クルーザー級でホリフィールドと大物相手に敗れたことも、印象点で大きく損をしています。


さて、ウシク。

「Fighter Of The Year」を2度、「PFP1位」を1年以上キープと、最近のボクサーの中ではカネロ・アルバレスと並んで、テレンス・クロフォードらを凌駕する評価を受けています。

「2020年代という区切り(Fighter Of The Decade)」では、カネロも振り切って独走状態。

少なからずの人が「PFP1位」だけに違和感を覚えるのは、評価の一つと言われながらもPFPに明確な基準がないからでしょう。





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多くのメディアでPFP1位評価を集めているオレクサンデル・ウシク。

リング誌のベスト10を「当該階級の支配度」という尺度で見ると、ウシクはど誰がどう見ても、どうしようもない最下位です。


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Pound For Pound(体重同一時=全ての階級を差別なく平等に見る)では、階級支配度が評価の基準であるはずですが、ウシクの場合は1人だけ「体重同一ではない試合」を現実に繰り広げて勝ち抜けているのです。

3〜4ポンド上げるのにも慎重な井上尚弥ら減量階級のファイターを横目に笑いながら、ウシクは50ポンド以上も重いタイソン・フューリーらをコントロールしてきました。

PFPは妄想だから自由。階級支配度を完全無視して「本当に強のはヘビー級だから10人全員ヘビー級」でも差し支えありませんし「ウエルター級はレベルが高いから10人全員ウエルター級」でも間違いではありません。


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********* 現生人類の新種が発見された。

それが、Homosapien athleticus(運動能力に極めて優れた人類)だ。

まだ、その個体は一体しか存在を確認されていないが、彼は He says he wants to train a world champion one day.(いつかウクライナから世界チャンピオンを育てたい)と、夢見ている。

ウクライナで生まれたHomosapien athleticus。

そう、彼とは、Undisputed heavyweight champion of the world(議論する余地のない世界ヘビー級チャンピオン)オレクサンデル・ウシクのことだ。

彼の所属チームはReady to Fight(RTF)。チームのスローガンは「Never enough(十分なんてありえない)」。常に貪欲に最高を希求して、ゴールは無い。

だからこそ、オレクサンダー・ウシクは「ゼロ」の異名で語られているのだ。

オリンピックの金メダル、世界選手権の金メダル、プロでも視界に入る全てのベルトをコレクションした。ウクライナの国民的英雄で、数えきれない名声と富も手に入れた。

しかし、彼は全く満足していない。

Never enough

まるで何一つとして手に入れていないかのように、飢えたままだ。



スペインの東海岸にガンディアという小さな港町がある。母国が戦火に焼かれている状況で、ホームで試合も練習もできない彼はダニエル・デュボアとの再戦に備えた練習拠点としてこの静かな町を選んだ。

黒海に突き出たクリミア半島のシンフェロポリで生まれたウシクは、やはり海の近くが一番落ち着くのかもしれない…いや、ここではシンフェロポリを「Homosapien athleticusが発見された土地」と書くべきだったか。

世界最強の男のベースキャンプは、古いレンタカー店を改装したもので豪奢な建物ではない。

しかし、ここにはウシクが必要とするものが全て用意されている。

2階にはリングにサンドバッグ、パンチングボールにバイク、ウエイトトレーニングの設備も一通り揃っている。

1階に降りると、空の青と麦の黄色をあしらったウクライナ国旗に試合のポスター、白いコンクリートの壁にはチームのメンバーが落書きを寄せている。

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「猫」はウシクのニックネーム。ヘビー級なのに猫のようにすばしっこいのだから、そりゃあ誰も勝てないのも頷ける。

「2018MOSCOW」は、2018年7月21日にモスクワでムラト・ガシエフに完勝、クルーザー級のUndisputed championになったこと。

「2024年SAUDI」は2024年5月18日にサウジアラビア・リヤドでタイソン・フューリーを翻弄、ヘビー級のUndisputed championになったこと。

そして「2025LONDON」は、もちろん7月20日にどういう経緯かダニエル・デュボアに渡ったIBFのストラップを取り戻し、再びヘビー級のUndisputed championになることを先取りして書いたもの。

壁一面には「UNDISPUTED」のネオンサインが輝いている。

大きなテレビモニターにはデュボアの試合映像がループで再生されている。もちろん、ウシクがKOした初戦の動画も。

ストレングス&トレーニングコーチのヤクブ・チッキの指導は科学的なデータが全てだ。そこには感情が入り込む余地はない。心拍数や酸素摂取量、血中ヘモグロビン濃度…トレーニングではお馴染みだが、チッキはスパーリング中の脳波もモニタリング、ウシクの心理面までデータとして蓄積している。

そこには感情や根性は存在しないはずだが、ハイペースのサーキットトレーニング、巨大なメディシンボールを壁に投げながらの腹筋運動、見ているだけで顔をしかめたくなるようなメニューに励むウシクは「この練習が好きか嫌いか?嫌いに決まってるだろ!」と感情を露わにし、「それでもこれをこなせば強くなれるのがわかってるんだ」と、根性をむき出しにする。

「ヘビー級に転向してからパワーへの対応、適応は完成しつつある。デュボアも私を研究して再戦のロープをくぐるだろうが、彼が直面するのは初戦とは全く違うオレクサンデル・ウシクだ」。

「ジョシュア、フューリー、デュボア、英国のスーパースターを倒すのは仕事だから、それだけさ。英国にはなんの恨みもない。恨みのある国はどこかって?それは今は関係ないから話すつもしはないし、あんたの想像に任せるさ」。

またしても敵地で戦うウクライナのファイターは「全く気にしていない。私は元サッカー選手だからね。あのウィンブリー・スタジアムで戦えるなんて最高の気分さ。みんなデュボアを応援するんだろうから、先に謝っておく。ガッカリさせて申し訳ない」。


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********** 階級支配度だけに焦点を当てると、ウシクは井上尚弥や中谷潤人はもちろん、寺地拳四朗も大きく下回ります。

ヘビー級以外の現実の体重差を乗り越えた例として、マニー・パッキャオ(144ポンド1/2)とアントニオ・マルガリート(150ポンド)の「5ポンド1/2(2.49kg)」などがありますが、〝たかだか〟2.5kgです。

そもそも、PFPは弱者の言い訳です。ヘビー級を冷遇することが基本中の基本でした。

Pound For Pound(体重差を無視して)というから、現実に巨大な体重差を跳ね返しているウシクが無視できないだけで、今後はPFPという用語を廃止してMeasure of Divisional Dominance(MDD:階級支配度)など別の表現でウシク的な侵略者を排除すべきかもしれません。





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前日計量はオレクサンデル・ウシクが227ポンド1/4(103.07kg)。ダニエル・デュボアが243ポンド1/2(110.45kg)。

38歳のウシクは初戦の221ポンド(100.24kg)から6ポンド1/4増量して秤に乗りました。今回はキャリア最重量で、「(初戦よりも)パンチがずっと重かった」(デュボア)と意図した通りの展開に持ち込みました。

対する27歳の英国人も、初戦の233ポンド1/4(105.80kg)から10ポンド1/4上乗せ。

両者とも初戦の課題の一つがパワーにあったと考えて再戦に臨んだようですが、結果はご存知の通り。

ウシクにとって16ポンド1/4(7.37kg)差は、ヘビー級転向以来で最も接近した対戦相手との体重差。体重差のストレスが最も少ない試合となりました。

多くのメディアですでにPFP1位にコンクリートされているウクライナ人、この圧勝劇を受けてもランキング上昇はありません。

とはいえ、2位グループの井上尚弥とテレンス・クロフォードとの差はさらに広がったのは間違いありません。

それでも、ウシクはヘビー級のタイトル戦は全勝ながらわずか6試合で、3人(アンソニー・ジョシュア/タイソン・フューリー/デュボア)とそれぞれ2試合戦っただけ。KOをマークしたのもデュボアだけ、ジョシュアとの再戦とフューリーとの初戦はスプリットデジション。

6試合を解剖すると6勝2KO、4つの判定のうち2つがSD。一つのラウンドのスコアが逆なら、星勘定は4勝2KO2敗。

こんな不安定なウシクが圧倒的支持を受けてPFP1位という事実には、違和感しかありません…。







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オレクサンデル・ウシクがボクシング史上最高報酬のメガファイトでダニエル・デュボアを返り討ち。

され、ここで引退でも2020年代最高ファイターはウシクで決定?

オールタイムのヘビー級マップは更新されるか?

ウシクを歴代PFPでどう語るか?




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2009年、イタリア・ミラノで開催されたボクシング世界選手権ヘビー級準決勝。

ロシアのイゴール・メコンチェフは14−10で勝利、決勝でもキューバのオスメイ・アコスタを下して金メダルを獲得しました。

メコンチェフは「最後の勝者」として記憶されています。。

勘の良いボクシングファンなら、もうおわかりでしょう。

この世界選手権でメコンチェフが準決勝で勝利したのは、オレクサンデル・ウシク

そう、イゴール・メコンチェフはオレクサンデル・ウシクに勝利した最後のボクサーなのです。

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K2プロモーションズのアレックス・クラシュクが、2013年のプロ転向から継続していたウシクとの契約を終了させたと発表しました。

PFPキングのウクライナ人は、来月19日に敵地英国のウィンブリー・スタジアムでダニエル・デュボアとの再戦がセットされています。

試合まで1ヶ月を切った段階での発表です。

現時点では、2018年からK2と共同プロモートとしているマッチルームが単独でプロモートする形です。

ウクライナを拠点とするK2との訣別が何を意味しているのか、さまざまな推測が飛んでいますが現時点では全く分かりません。

しかし、この訣別がウシクにプラスに働くとは思えません。試合に集中することを妨げるマイナスでしょう。

さて、そのウシクは同じウクライナ人のヤロスラフ・アモソフ(元ベラトール・ウエルター級=170ポンド王者)もスパーリングパートナーに加えてデュボア戦に備えています。






話は変わりますが、ウシクの逞しさの要因には、色んな意味でのクロスオーバーの取り組みもあるでしょう。

日本では、JBCの規定でクロスオーバーは厳禁。こんなアホ鎖国状態をいつまでつづけるつもりでしょうか?


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リングマガジン6月号は「追悼 ジョージ・フォアマン特集」。

政治、経済、文化…多くの側面でアメリカが偉大だった時代は、遠く彼方に過ぎ去りました。

スポーツはある程度の威厳は残しているものの、ボクシングに関しては目も当てられない凋落ぶりが、もう半世紀以上も続いています。

娯楽の少なかった時代は〝男たちの時代〟。競馬とボクシングが2大スポーツでした。

1950年代、テレビの普及はスポーツ界にも劇的な変化をもたらしますが、その恩恵を浴びたのは小さなブラウン管画面で見るのに最も適したボクシング。

1950年代がボクシングの黄金時代でした。メジャースポーツと呼んでも、誰も異論がない時代。ロッキー・マルシアノが君臨した時代。マルシアノは、世界中が認める最後の強い白人世界王者でした。

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そして…観戦スポーツの多様化と、女性や子供のマーケットが開拓されるようになり、テレビの進化はアメフトや野球、球技にも恩恵を与え。〝男たちの時代〟つまりボクシングの黄金時代は終わります。

そんな社会の変化だけでなく1960年代になると、メガファイトは「NO TV(テレビでは放送しないからお金を払って劇場で見て)」とクローズドサーキットが一般的になり、カジュアルはスポーツファンがますますボクシングから離れてしまいます。

さらに、ヘビー級には大きな影響はないと楽観された認定団体と階級の増殖も、ボクシング全体への不信感を膨らませ、ヘビー級も無関係ではいられませんでした。

そんなマイナースポーツへの転落が始まった1960〜1970年代にもかかわらず、ボクシングの存在感が希薄化していることを実感できなかった理由は二つあります。

一つは衛星放送の開始で、米国でのメガファイトが世界中で同時に観戦できるようになりました。

とはいえ、世界中が注目する価値があるメガファイトがなければ何の意味もありません。最高の食材がなければ、どんなに素晴らしい調理器具もただのガラクタ。ジョージ・フォアマン・グリルも食材があってこそ、です。

そうです。二つ目は「モハメド・アリと愉快にも程がある仲間たち」の登場です。

テレビの普及で国民的関心事となったオリンピックで金メダルを獲得したアリ、フレイジャー、フォアマン。そして、抜群の身体能力を持つケン・ノートン。

アリにバトンを渡したソニー・リストンやフロイド・パターソン、世界王者よりも有名だった史上最強パンチャーのアーニー・シェーバース。

欧州の刺客、ヘンリー・クーパーやカール・ミルデンバーガー。物語を持つジョージ・シュバロやチャック・ウェプナー…。

ありえません。

マニー・パッキャオも問題外、アリほど好敵手に恵まれたボクサーは他にいません。

そして、世界のスポーツ界のみならず、米国の政治と文化にも大きな影響を与えたThe Greatest のクライマックス、最高傑作が1974年10月30日、ザイールの首都キンシャサで行われたジョージ・フォアマンとのRumble in the Jungle(邦題:キンシャサの奇跡)でした。

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日本でも、1990年頃までボクシングは海外のメジャースポーツを代表する一つでした。

現実には米国でも英国でもメジャースポーツとは言えませんでしたが、日本では野球もサッカーも世界の最高峰で大きな成功を収めるアスリートがまだ出現していなかった時代です。

海外のメガファイトは専門誌はもちろん、一般紙でも大きく報じられていたのです。

米国の惨状よりはマシとはいえ、日本でカネロ・アルバレスを知っているスポーツファンがどれだけいるでしょうか?

日本では、井上尚弥が〝最高峰〟米国でも有名なファイターだと大きな誤解を招く報道が溢れています。米国ではボクシングは完全マイナースポーツ。そのマイナースポーツでもさらに関心の低い軽量級のアジア人など誰も興味を持ちません。

井上の何十倍もの長きにわたって2年間もPFP1位に君臨したローマン・ゴンサレスや、軽量級とは桁違いの注目を集めるミドル級で大活躍、やはり井上の何十倍も長くPFP1位に君臨したゲンナジー・ゴロフキンですら米国でスターにはなれませんでした。

30年以上も販売不振と経営難に喘ぎ続けてきたリング誌のPFPなど、誰が見てるというのでしょうか?(俺くらい…)



アメリカはグレートではなくなりました。

そして、日本はグレートではないまま、摩訶不思議なボクシング黄金時代を謳歌しています…。






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Saturday 19, July 2025
  
Wembley Stadium, Wembley, London, United Kingdom
commission:British Boxing Board of Control
promoter:Frank Warren (Queensberry Promotions)
matchmaker:Steve Furness
media:DAZN



一昨年8月26日、ポーランドのヴロツワフ市立競技場で行われた初戦に続く第2戦。

前回はウシクの母国ウクライナ以上ににロシアの脅威に晒されているポーランドでの開催でしたが、第2戦はデュボアが生まれ育った英国ロンドンのウィンブリー・スタジアム。

アンソニー・ジョシュアやタイソン・フューリーより〝格下〟のデュボアは初体験の〝聖地〟。

ウシクもウィンブリースタジアムは初めて。ジョシュアやフューリーとそれぞれ2試合ずつ4試合も戦っていますから、意外に思えます。

第5ラウンドに起きた議論を呼ぶローブローでウシクが〝ダウン〟。ここで〝休息〟をしたウクライナの英雄が自力の差を見せつけて第9ラウンドでデュボアを仕留めました。

第8ラウンドまでのスコア(79-72*2/78-71)が示すように、あの〝ローブロー〟がなければウシクの圧勝。

27歳のデュボアはあの敗北からジャレル・ミラー、フィリップ・フルコビッチ、そしてジョシュアとビッグネームをビルドアップするように対戦、全てKOで片付けてきました。

かつて見せたひ弱いイメージは薄れていますが、38歳のウシクが操る盤石のテクニックの前には返り討ちが濃厚とみられ、ウィリアム・ヒルのオッズもウシクの1/5(1.2倍)、デュボア10/3(4.33倍)。

引退が囁かれているウクライナ人が普通の状態に仕上げてきたら、デュボアに勝ち目はないと思いますが、前回はスピード重視で233ポンド1/4まで絞って挑んだデュボアがジョシュア戦と同じ248ポンド1/4と同じくらいかそれ以上に増量してくると見られています。

タイソン・フューリーも同じ体重管理でウシクと再戦しましたが、連敗。前日計量ではデュボアに注目です。

さて、それにしても、今回のタイトルマッチはUndisputed championship。WBA /WBC /WBO /IBO王者ウシクとIBF王者デュボアの激突なのですが、IBFは指名挑戦戦に応じなかったウシクからタイトル剥奪したようなもの(ウシクが自主返上)。

どうしようもない形式主義に凝り固まったIBFにはうんざりです。リバウンド制限もストロー級からクルーザー級まで一律10ポンドって、算数もできないバカばっかなのか?

そして、ウシクは現在、多くのメディアで圧倒的評価を受ける形でPFP1位。もしデュボアが圧勝したなら、不安定なロンドンっ子がPFP1位になるのでしょうか?

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多くのメディアでPFP1位に推されているオレクサンデル・ウシク

クルーザー級のUndisputed championからヘビー級に進出、最強階級でもUndisputed championの座に就きました。

4Belt -Eraにおいて、2階級制覇なんて犬の糞。どこにでも転がっています。最近は犬の糞の方が珍しいかもしれません。

ただ、そんな時代にあってもクルーザー級とヘビー級の2階級制覇は別格。この2階級でUndisputed championになったのもイベンダー・ホリフィールドとウシクの2人だけ。

とはいえ、ヘビー級での7試合は全勝ながらKOは二つだけ。タイトルマッチの5試合ではKOは一つ、2試合がスプリットデジション。

どの階級も平等に見るPFPで重視される「当該階級での圧倒度」という点で、ウシクのPFP1位はあり得ません。

飛び抜けて価値のある2階級でのUndisputed championも、これを持ち出すのは「どの階級も平等に見る」というPFPの原理原則を反故にしてしまう蛮行です。

その一方で、5戦1KO2SDという凡庸な戦績は、200ポンドリミットのクルーザー級から、現実の計量で最大50ポンドを超える体重差を跳ね返して築き上げられた、PFPの概念「体重同一時」に照らし合わせると文句無しのPFPキングです。


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「当該階級での圧倒度」は最低レベルにも関わらず、「体重同一時」という仮定では他の減量階級の王者では逆立しても真似のできないスペクタクルを見せているーーー大きな矛盾を抱えながらのPFPキング、それがウシクです。

いまでは圧倒多数の推しを受けてのPFP1位。テレンス・クロフォード、井上尚弥と評価を三分していた時期は過ぎてしまいました。クロフォードと井上は、対戦相手の質の低さが相変わらず減点材料として指摘されています。

層の厚い人気階級のクロフォードが雑魚狩りに偏っているのは本人に責任がありますが、層が薄くビッグネームが存在しない軽量級の井上には責任はありません。

もし、それを言い出すと「すべての階級を平等に見る」というPFPルールに違反します。

さて、専門家17人による記名投票で最も透明性のあるESPNのPFPでは15人がウシクを1位に投票。クロフォードと井上の1位票はそれぞれ1名にとどまっています。

ウシクの次戦はまだ未定ですが、無敗で評価急騰中のWBC暫定王者アジ・カバイェルに勝つと、フロイド・メイウェザーやマニー・パッキャオ以来の満票PFPも十二分にありえます。

そうなっても、ウシクが「当該階級での圧倒度」で大きく見劣りするという見方は払拭できません。

しかし、それでも「最大50ポンド以上のハンデを跳ね返したのだから、体重同一時なら圧倒していた」という、PFPならではの妄想も成り立ちそうです。

個人的には、ウシクのようなファイターをPFP1位にするのはいかがなものかと感じていました。PFPはあくまで妄想であり、本当に一番強いやつが厚かましくここに割り込むべきではありません。

しかし、よくよく考えるとクルーザー〜ヘビー級のUndisputred 2階級制覇は、安易な4階級制覇や、5階級制覇よりもはるかにレアな存在で、ウシクの後にまたウシク2世が出現してPFP1位はクルーザー級からヘビー級を制圧したファイターの指定席になってしまう、なんて心配はなさそうです。

個人的には〝ウシク型〟のPFP1位は認めて良いと思います。


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現在、オレクサンデル・ウシクは多くのメディアでPFP1位の評価を受けています。

インターネットの時代が成熟した2010年以降、ESPNやリング誌電子版などがPFPを相次いで発表するようになり、コアなマニアはPFPランキングを気にかけるようになりました。

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この15年でESPNとリング誌でPFPにランクされたヘビー級はウラジミール・クリチコと、ウラジミールに勝利したアンソニー・ジョシュア、タイソン・フューリー、ウシクの4人だけ。

これが1位となるとウシクただ1人だけに絞られます。

PFPの概念は階級制が導入される19世紀末には存在していました。

PFPが一般的になったのは、1950年代に近代ボクシングの技術体系を完成させたシュガー・レイ・ロビンソンへの賛歌として紹介されたこと。

ロビンソンは、PFP(pound for pound=1ポンドあたり=体重同一時)なら知名度と人気で圧倒的だったヘビー級王者ロッキー・マルシアノよりも屁理屈上は強いという妄想です。

当時は、PFPとはロビンソンその人を指し、定期的なランキングなど存在しませんでした。

地球上に世界王者が8人しかいないオリジナル8の時代ですから、PFPトップ10なんて妄想は膨らませようがない時代だったのです。

PFPがランキングとして取り上げられるのは、1980年代。

やはりメディアからの仕掛けでシュガー・レイ・レナードを中心としたFour Kings たちがいかに素晴らしいかを喧伝するツールとして使われました。

ここでも、モハメド・アリからマイク・タイソンとヘビー級への問答無用の注目度を逸らすのに、PFPは格好の詭弁となります。

さらに、リング誌は1980年から年間表彰にPFPキングを加えました。

リング誌がPFPではなくBest Fighter Pollと表現したのは、多くの人がPFPがロビンソンを指す言葉であることを勘案したからでした。

歴史的にもPFPはヘビー級に偏重するファンの意識、人気を減量階級に向けるための小道具ですから、ヘビー級に厳しいのは当然です。

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それでも、ウシクは無視できませんでした。
減量階級に光を当てるために、PFP(体重同一時)という妄想に逃げ場を求めたのは理にかなっているように見えましたが、現実のヘビー級の舞台でウシクがやってのけたのは〝PFP破壊〟でした。

例えば、108ポンドでキャリアをスタートした井上尚弥は4階級制覇(スキップしたフライ級を含めると5階級)していますが、それは自分の肉体も上の階級に合わせて膨らませる作業でした。

前日計量では対戦相手とたったの1ポンドも違わないような試合を必死の減量で積み重ねてきました。

ウシクと比べると、マニー・パッキャオの8階級制覇ですら、茶番にすぎません。

ウシクは前日計量で50ポンド以上も重い相手と当たり前に戦って、勝ち抜けているのです。

ウシクの不敵な微笑みには、フロイド・メイウェザーやパッキャオがカネロ・アルバレスにキャッチウェイトを無理やり飲ませた狭量とは全く違う、無差別級の矜持がにじみでています。



歴史上「最も尊敬されて最もカネが稼げるヘビー級が相対的にレベルが低い」なんて時代は一度もありません。

もし、そうであるならライトヘビー級やクルーザー級の強豪王者が簡単に攻略して、ヘビー級は下の階級の王者にとって楽園になっているはずです。

現実は、ヘビー級のレベルが絶対的に低い時代でも、減量階級からの挑戦はとんでもなく高いハードルであり続けています。

ヘビー級は「PFP(体重同一時)」なんて甘えとは常に無縁のクラスなのです。



そして…ウシクだけが特別ではありません。

そう思うのは、最近ボクシングファンになった人だけでしょう。

ヘビー級は無差別級。それを忘れてはいけません。

本物の世界ヘビー級チャンピオンは、いつの時代でも矮小な減量階級では何階級も飛び越えた体重差を跳ね返してきたのです。


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それにしても、サウジアラビア版リング誌…。⬆︎

私が高校時代に惹きつけられたリング誌のカッコ良さとは、別次元。恥ずかしくなるほどのカッコ悪さです。

まあ、漫画に厳しい審美眼を持つ日本人でなければ、あれがクールに見えるのかもしれませんが。


ここまで2024年12月号から2025年2月号までの3冊とも表紙はウシクがらみのコミック風、かわいそうになるほど陳腐です。

あのカッコ悪いTHE RINGのロゴも、なんであれを世に出すかな?

センス劣悪の娯楽庁長官が「こんなんどう?」と提案して、馬鹿どもが「素晴らしい!!!」となったんでしょうか?

あるいは、さらにその上の皇太子が「これ、俺が考えたんだけど」と出されたクソロゴに誰もが狂喜乱舞したのでしょうか?

サウジの趣味なのでしょうが、誰も「それカッコ悪いよ」と言えない空気がすでに醸成されているとすると、リング誌は死んでます。

まあ、リング誌なんて20年以上前にすでに死んでたからどうでもいいっちゃあ、どうでもいいのですが。




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