カテゴリ: 没落するアメリカボクシング

日本でも今ひとつ盛り上がらない「井上尚弥vsムロジョン・アフマダリエフ」。

欧米メディアの関心も、日本時間で同じ日、9月14日に行われるガチのラスベガスのメガファイト「カネロ・アルバレスvsテレンス・クロフォード」に一極集中です。

さて、アレジアント・スタジアム(帝拳と大橋でもさすがにアレジアントは〝工作〟できない?)で初めて開催されるボクシングイベント、全盛期を過ぎた2人のPFPファイターの激突は、王者カネロが明白に有利とみられています。

その大きな根拠は階級差。

ウエルター級(147ポンド)からジュニアミドル級(154ポンド)に上げてわずか1試合しか戦っていないクロフォードが、スーパーミドル級(168ポンド)を主戦場にして5年で2度もUndisputed championの座に就いているカネロに、2階級もジャンプしていきなり挑戦するのですから。

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それでも、トレーナーのブライアン・マッキンタイアは「クロフォードはもともとの体格が大きい。ライト級、ジュニアウェルター級、ウエルター級で戦ってきたが減量は常にストレスになっていた。(最近の)彼の肉体を見たか?無理やり贅肉を付けたんじゃない、168パウンダーの完全体だ」と、体重は大きな問題ではないと笑う。

「前日計量のフェイスオフでも、あなた方は驚くだろう。まず、身長差がない(クロフォードは173㎝/カネロは171㎝)。そして、体の厚み、筋肉でもカネロと遜色がないことがわかるだろう。これは、ダビデとゴリアテの戦いではないのだよ」。

「カネロが有利?でもその根拠は体格差、階級差だけなんだろう?その根拠が消えてなくなってしまったら、リングの上で何が起きるか、よく考えたまえ」。

カネロの勝利が8/13(1.62倍)、クロフォード13/10(2.3倍)というオッズは、クロフォードが勝ったとしてももはや番狂せとはいえない数字です。

ファイトウィークから試合前までの短い時間でも、掛け率が逆転する可能性も十分ありうる差です。

当時WBCミドル級王者だったカネロが、アミール・カーンのスピードに手こずりながらも6ラウンドで痛烈に沈めたのが2016年5月7日、9年以上も前のこと。

クロフォードがカーンとは違うのと同様に、カネロもあのときのカネロではありません。


クロフォードが明白な勝利を収めると、歴史的なグレートの仲間入りを果たすのでしょうか?

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勝鬨橋はきょうも暑い、暑い…。本文とは関係ありません。

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とにかく特別でスペシャルなんだってさ…


Fighter of The Year にカネロ・アルバレスが2度、テレンス・クロフォードが1度選出。

この6年間、2人はPFPキングにそれぞれ2年以上も君臨。

この10年、2人がボクシングシーンの中心的なファイターであり続けてきたのは間違いのない事実です。

そして、その激突の舞台はラスベガスの巨大スタジアム、アレジアントスタジアム。

ステイクされるのはカネロ・アルバレスの持つundisputed super-middle weight title。

〝米国ボクシング最後のスーパースター〟カネロと、〝人気階級に咲いた不人気の徒花〟クロフォードの大勝負…

ネガティブなイメージが先立つ2人の年齢はカネロが35歳、クロフォード37歳。プライムタイムは通り越して下り坂を降りるファイターです。

カネロはドミトリー・ビボルに超大番狂せで敗北してから6勝1敗、6つの勝利もKOはゼロ。

この5年間、年1試合ペースのクロフォードも直近の試合はウエルター級からジュニアミドル級に上げたイスマイル・マドリモフ戦。ウエルター級時代の面影はどこへやら、凡戦の末の小差判定勝ち。

2人ともPFPキングの頃に放っていた輝きは完全に失っています。

舞台は間違いなくメガファイトですが、拳を交えるのは黄昏時の2人。

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多くの専門家が予想するような〝トムジェリ〟ファイトに終始、逃げ足の重いジェリー(クロフォード)を鈍重なカネロが追いかける…そして長官が不機嫌になる…それが最悪の展開です。



さて?

クロフォードが大番狂せを起こせば、歴史的なスーパースターの系譜に参列することができるのでしょうか?


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NPBでは激しい首位争いを展開しているパシフィック・リーグのMVPはまだまだ分かりません。

しかし、セ・リーグは阪神タイガースがすでに事実上の優勝を決めており、MVPはおそらくたぶん事実上の三冠王と思しき佐藤輝明で決まり。

MLBではアメリカン・リーグが、捕手として歴史的な本塁打数をマークしているカル・ローリーが、アーロン・ジャッジを引き離してMVP最有力に。

ナショナル・リーグは今年も大谷翔平が有力候補の1人で、熾烈な本塁打王争いを繰り広げるカイル・シュワーバーとの一騎打ち。

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そして、プロボクシングです。

こちらのMVP、Fighter of the year レースも混沌。

まずは〝一発の威力〟を持っているテレンス・クロフォード。

9月13日に2階級上のカネロ・アルバレスに明白に勝つようなら決定。写真判定でも勝てば、最右翼。

もし、クロフォードが最も権威のあるFighter of the year 、Sugar Ray Robinson Awardを獲得すると2014年以来、11年ぶり2度目。

9月に38歳の誕生日を迎える不遇のスイッチヒッターが、この消耗の激しい競技のトップにクルーズし続けている時間の長さには尊敬しかありません。

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そして、2023年以来、2度目の栄冠を狙う井上尚弥は、今回も〝合わせ技〟が決まると、有力候補の1人になります。

9月にアフマダリエフ、12月にアラン・ピカソに勝利すると年間4試合をこなす、現代では珍しい戦うチャンピオンの勇姿が評価され、Fighter of the year レースに参戦するでしょう。

もちろん、キム・イェジュン、ラモン・カルデナス、そしてピカソという非常に水準の低い相手が3/4 人という大きなマイナス要素を突いてくるメディアやファンが出てくるのは避けられません。

それでも、クロフォードの敗北と、フェルナンド・マルチネス戦でバム・ロドリゲスが不細工な試合をすることを前提にするなら、「井上にとってキャリア最難関のテスト」(リング誌)と言われるアフマダリエフに鮮やかに勝利するとFighter of the year はグッと近づきます。

クロフォードの敗北は十分ありえますが、バムはどうでしょうか?

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井上が今年、2度目のFighter of the year に選出されるのは他力本願です。しかし、もし選ばれるとして、来年の中谷潤人戦でスペクタクルな勝利を収めるようなら2年連続3度目のFighter of the year が見えてきます。

2023年/2025年/2026年の4年スパンで3度のSugar Ray Robinson Awardを獲ると、2006年/2008年/2009年のマニー・パッキャオ以来、史上2人目の快挙です。

井上のケースとは違い、パッキャオはビッグネームの強豪を打ち破っての文句無しの受賞でしたが、なんと2人ともアジア人のアタッカー。選ばれると実に面白いのですが…。





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Saturday 13, September 2025
  
Allegiant Stadium, Las Vegas, Nevada, USA
commission:Nevada Athletic Commission
matchmaker:Charles Bosecker

media:Netflix

Undisputed Middle weight championship

©︎カネロ・アルバレス
vs
テレンス・クロフォード

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現在のオッズはカネロの勝利が8/13(1.62倍)、クロフォード13/10(2.3倍)。

ウィリアム・ヒルの見立てで最も起こりうる結末は、カネロの判定勝ちで5/4(2.25倍)。大穴はクロフォードの前半KO勝ちで18/1(19倍)。

同じ型式の試合としては、カネロとアミール・カーンの一戦(2016年5月7日)をピックアップできます。

悪名高き〝カネロ級(155ポンドのキャッチウエイトのミドル級)〟王者カネロは、ウエルター級のカーンを迎え、第6ラウンドで英国のスピードスターを豪快に沈めましたが、第5ラウンドまでの採点は47−48/48–47/49−46 と拮抗していました。

カーンよりも速くてタフ、そしてはるかにテクニカルなクロフォードなら「12ラウンドを〝完走〟できる」と見るのは、けして突拍子もない予想ではありません。

カネロが完成させた、踵をつけてノッシノッシとプレッシャーをかけ、ガードの上からでもお構いなしに強打を叩き込むスタイルは、体力のある相手に対しては打ち終わりにリターンされる危険を孕んでいます。

また、キャリアが深まるにつれて重くなる足は、格下相手でも捕まえることができないほど遅鈍になっています。ウィリアム・スクールを取り逃すような鈍足が、クロフォードを捕まえるとは想像できません。

一方で、37歳という年齢、階級飛ばしの挑戦、この5年間で年1試合ペースでしかリングに上がっていないクロフォードも全盛期は過ぎています。12ラウンド36分間、〝ジェリー〟を演じ切ることはできるでしょうが、しっかりポイントを取ってラウンドを積み重ねることが出来るのか?となるとかなり怪しくなってきます。

もし、延命だけに36分間を費やすようなら世界中のメディアとファンから深い幻滅と、軽蔑の非難が集中するのは間違いありません。

ーーーなんだか、スペクタクルな試合が期待できそうにない、そんな空気が充満しています…。






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8月になってもなかなかアップされなかったリング誌8月号。

ようやく届いたのは、カネロ・アルバレスとテレンス・クロフォードのスーパーミドル級Undisputed championship 最初から最後まで、100%特集。

それはそれなりに読み応え十分です。

オッズや戦前予想、両者の階級、勝敗を分ける全ての要素を並べてもクロフォードにとって非常に厳しい戦いになるのは誰の目にも明らか。

さらに、サウジアラビア総合娯楽庁のトゥルキ・アル=シャイフ長官が「トム&ジェリーは見たくない」と繰り返していることからも、クロフォードは難しい立場に追い込まれています。

カネロがかつてのハングリーさを喪失していること、クロフォードにとってジュニアミドル級(154ポンド)でも重すぎるという印象…この一戦は全盛期の激突ではありません。

それでも、ミドル級を飛び越えて14ポンド彼方のカネロにいきなり挑戦するクロフォードが勝つようなことがあると、この歴史的な〝人気階級の不人気選手〟がオールタイムPFPのランキングにリストアップされる議論が生まれるはずです。

果たして、大番狂せは起きるのか?




ーーーそして、この日は井上尚弥vsムロジョン・アフマダリエフとほとんど同じ。シンコ・デ・マヨに続いて、仕方がないとはいえ、さらに注目度が薄まってしまいそうです。



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10年前のThe Ring Magazine 2015年8月号。

2015年、すでに大幅なリストラと誌面の削減で痩せ細っていたリング誌。

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当時で販売部数は1万部もないとされ、落ち目のマイナースポーツでは救済の買い手も現れず「廃刊は時間の問題」と言われていました。

しかし、7年後の2022年まで廃刊は引き延ばされます。

そしてーーーサウジアラビア総合娯楽庁に買収されて2024年暮れにまさかの復刊。

現在、2025年7月号まで発行されていますが、8月になってもまだ8月号がプリントバージョンはもちろん、デジタルバージョンもアップされていません。

そして気になることが…リング誌からプリントバージョンの代金が返金されていました。

え?また廃刊???

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デジタルバージョンは自由に読めるのですが、う〜ん。

相変わらず全く売れないリング誌ですが、サウジにとってもそれは織り込み済みだったはず。そんなサウジを持ってしても「許せないレベルで売れない」ということでしょうか…。

まあ、ここ10年くらいで誌面のレベルは低下、サウジ買収でもはやジャーナリズムのカケラもない、仲良しクラブの回覧板みたいな、砂を噛むように味気ない雑誌にまで落ちていました。

今回、廃刊だとしても、ショックはありません。

それにしても、サウジをしてサジを投げさせるリング誌、ある意味でものすごい貧乏神パワーです。

「権威あるリング誌」とかノタマッてるお馬鹿さんたちは、一冊も買ったことがないんだろう?!お前らが買わないからまた廃刊したじゃねぇか!






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1961年9月7日、テキサス州フォートワースに生まれたドナルド・カリーは兄2人と妹1人、4人兄弟の3番目だった。

ブルースとグレイリン、ドナルド、男の子3人はプロボクサーになった。

長兄ブルースは、日本のボクシングファンなら誰でも知っているWBCウエルター級チャンピオンだった。

トーマス・ハーンズの噛ませ犬もつとめたが、ハーンズと戦っただけでもすごいというのが日本からの〝下から目線〟だ。日本人相手にはバッファロー鈴木、ライオン古山、杉谷実(杉谷満の兄)、そして赤井英和をKOした天敵だった。

それなのに、日本の専門誌では「賢弟愚兄」と語られるのが定番だったのは、弟のドナルドが突き抜けて完璧なボクサーだったためだ。

ドナルドの「ハーンズとやりたいけど(彼が私を選ぶわけがないから)無理だろう」という言葉に、誰も傲慢さを感じない、それほど評価が高かった。

ボクシングに2人の兄に連れられて近所にあったピー・ウィー・ジムに通い始めたのは8歳のとき。

兄と違ってボクシングに興味はなかったが「ボクシングは嫌い」なんて口にすると仲間はずれにされるような小さな町だったから、ドナルドはしぶしぶ兄に付いていった。

80年代のボクシングはすでに没落の坂道を転がり落ちていたが、小さな町にもジムがあって、ボクシングがメジャー競技だった時代に少年だった父親から薦められるーーーそんな流れが珍しくない最後の時代だった。

プロ入り後もドナルドのトレーナーをつとめたポール・レイスと出会ったのもこのジムだった。

やはり父親からボクシングを薦められてボクサーになったレイスはゼネラルモータースのフォートワース工場で働きながら練習生を教えていた。

ブルースとグレイリンは他の子とは全く違う才能の持ち主だったが、ドナルドはなかなかリングに上がろうとしなかった。こちらから言わないと、グローブにも触りたがらない少年だった。

ボクシングに興味がないことがありありの物静かな少年だったが、いつもやけに落ち着いていたドナルドだった。

「ボクシングはタイミングが全て」という信条を持つレイスが、ドナルドに異次元の才能があることに気づくのに多くの時間は必要なかった。

「この8歳の少年が練習を積んで15歳になれば、誰も勝てない」。

アマチュアの大会で数々のトロフィーを持ち帰ってくるブルースを見て、ドナルドも「ぼくもあれが欲しい」とねだった。

レイスは「あれは1番のトロフィーじゃない。1番いいやつは1980年のモスクワで用意されている」と答えた。

10歳でアマチュアデビュー、抜群のタイミングでコンパクトにパンチを撃ち抜くドナルドは、彼を初めて見た人々を「phenomenon(天才)」と驚かせ続けた。

ところが、15歳でジュニアオリンピックで金メダルを獲った天才は、ボクシングよりも野球や陸上競技にも熱中していた。

1年ほどボクシングから離れていたが、17歳のとき再びピー・ウィー・ジムでわずか2日間の練習を再開して出場したフォートワースのゴールデン・グローブ(GG)大会で金メダル。

1978年と79年の全米AAUタイトル、五輪イヤーの1980年にはケニアで行われた世界選手権で金メダル、五輪トライアルでも勝ち抜いて米国代表の座をつかんだドナルドのアマチュア通算成績は404戦して400勝4敗。

「負けたのはブルースと戦うことになった全米GG大会の準決勝も含めて4つだけで正しいが、400勝どころかもっと勝っている」と語るカリーの言葉は事実だろう。

彼は大言壮語を並べるタイプではない。

フォートワースの天才少年は、ヒューストンの大学から奨学金制度を提示されたこともあって、都会での大学生活に憧れていた。プロとしてボクシングを続けながら学生生活も保証する奨学制度の特典には15名ほどが選抜され、彼らは高級車に乗って通学する〝貴族〟だったからなおさら憧れた。

モスクワ五輪で金メダル、そして進学というのがドナルド・カリーの将来プランだった。

先にプロ入りしていた兄ブルースを間近で見て、スポーツとはかけ離れた興行優先のプロボクシングの世界に嫌気もさしていた。

ところが…。



米国はモスクワ五輪をボイコット、カリーの将来プランは瓦解してしまう。

学生とプロボクサーの二足の草鞋でヒューストンの大学に進学するか、ボクシングに集中してプロでも頂点を目指すか?

カリーへの勧誘は大手プロモーターを中心に加熱したが、彼が選んだのは15歳のときから支援してくれていた地元のデビッド・ゴーマン。カリーの意を汲んで、レイスをトレーナーとして契約することも受け入れてくれた。

しかし、ゴーマンはトロイ・ドーシーやジーン・ハッチャーをマネジメントしたが、テキサスを離れるとけして強力なパワーハウスではなかった。

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左がポール・レイス。右がデビッド・ゴーマン。彼らがペトロネリ兄弟とマービン・ハグラーのような鉄の結束を誇る最強チームになると信じられていましたが…


誰もが知っているプロ入り後の快進撃は、ここで語る必要はないだろう。

順風満帆に見える連勝街道だったが、NABF王者マーロン・スターリング(初戦)との試合3日前に9ポンドオーバーの調整失敗(絶食で体重を落として計量クリア、判定勝ち)、レナードの引退で空位となったWBCウエルター級王座の決定戦は楽勝と思われた黄俊錫にダウンを喫する大失態も犯している。

小さな綻びはいくつも見えたが、当時は「単なる不注意」「完璧すぎるが故の油断」で片付けられた。

格下相手にダウンーーーレナードはそんな穴など全く見せなかったというのに…。

さらに、ビル・コステロにKOされてWBCジュニアウエルター級のタイトルを奪われた兄のブルースがマネージャーのジェシー・リードに発砲、現行犯逮捕されたあと精神異常と診断され長期入院してしまう。

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それでも、周囲からは「レナードの後継者となり、レナードが出来なかった打倒ハグラーを現実のものにする」ーーーカリーがそこに向かって駆け上がるに違いないと信じられていた。



テキサス州バールソンに構えた豪邸は5つのベッドルームを擁し、ガレージにはメルセデスやBMWの高級車種が並んでいた。

そして、腐ったボクシング界を冷静に見ていた彼はウォールストリート・ジャーナル紙やマネー誌を愛読、引退後に実業家になる準備にも余念がなかった。

ドナルド・カリーは旧来のボクサーとは全く違う。

多くのメディアがそう報じ、ファンはドン・カリーの未来が今以上に明るく開けたものになると予感していた。




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2011年、彼は就寝中の妹に殴りかかった。

正気ではない兄の目を見た妹は警察に通報、彼は現行犯逮捕され収監された。

彼は自分が何をやったのかを正確に記憶できていなかった。そして、妹の兄の健康を気遣う事情聴取を終えると、警察は彼を釈放した。

その年に50歳になったばかりの男はまっすぐに歩けず、老いさらばえた老人のように衰退していた。

酒や葉っぱの匂いがしないのに、彼の呂律が回らないのはアルコールやドラッグの影響でなく、Chronic traumatic encephalopathy(CTE:慢性外傷性脳症)であることは明らかだった。

CTE。21世紀に入ってNFLが選手の健康管理に本格的に乗り出してから、よく聞く病名だ。

1928年にこの症状の原因は特定されており、当時から現在までCTEとともに使われてきたpunch drunk syndrome(ボクサー型認知症・パンチドランカー)の方がより広く知られているかもしれない。



全く愚かな話だが「ボクサー型」「パンチドランカー」と長い間、呼ばれてきたにもかかわらず、ボクシング界はこの問題に対して全く真剣に取り組まないまま100年が経とうとしている。

NFLは、ボクシング界からも積極的にデータ収集を行っているというのに。



ーーー兄の狂気に戸惑う妹の代わりに、彼を引き取ったのは息子のドノバンだった。

ドノバンが3歳のときに両親が離婚、父親のことは人づてにしか知らなかったが、父親は素晴らしいプロボクサーだったと、誰もが絶賛した。

どうして、そんなアスリートが露頭に迷うのか?

放蕩の末に散財したわけでも、酒やドラッグに溺れたわけでもないというのに。

競技で脳が損傷してしまったのは明らかで、彼が1セントの労働者災害補償も受けることができないなんて、誰がどう考えても狂った世界だ。



彼を見送った警官たちは「同姓同名だけど、本当に彼なのか?」と驚きを隠せなかった。

「あれが本当にドナルド・カリーなのか?」。

2011年だから、もう15年も前のことになる。


そして、警官たちも知っていた「彼」は、1980年代中盤に当時無敵のマービン・ハグラーを倒せると期待され、次期スーパースター候補の最右翼といわれた、ウエルター級のUndisputed champion(議論する余地のない王者)だった。

もう、いまから40年も前のことだ。



Curry is on a conveyor belt of old champions, used, abused and tossed on a scrapheap with nowhere to go.

興行主のトップランクはもちろん、WBAもWBCもIBFにも年金基金や選手組合は存在しない。ブラック企業ではない。

真っ黒けのブラック産業だ。

プロモーターや認定団体に利用されるだけ利用され、搾取されるだけ搾取され、使い物にならなくなったらスクラップのゴミの山に放り投げられるーーー彼もまたそんな非情なベルトコンベアの上に乗せられた1人の世界チャンピオンだった。

Curry's Sad But Important Story is a Tale That Needs To Be Told

いまこそドナルド・カリーの物語を伝えなければならない(ドノバン・カリー)。



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すでに種火が点いている状況です。

マリオ・バリオスとの試合後に、マニー・パッキャオは「メイウェザーがカムバックするなら再戦しようじゃないか。こっちはいつでもOKだ」と、ライバルの名前を出しました。

パッキャオが投げたボールはメイウェザー側にあります。


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⬆︎⬆︎メディアもファンも、両者の激突を「いつやるか?今でしょ!」と煽りまくっていたのは2010年のこと。

ボクシング史上最大の興行記録を持つ2人ですが、ヘビー級の逆襲とジェイク・ポールの茶番劇攻勢でその座から滑り落ちるのは時間の問題。

茶番には茶番で、再びこの2人で大記録更新を狙うのでしょうかーーー?

この2人ならサウジアラビアと組んでラスベガスのザ・スフィアを贅沢に使ったメガイベントが開催できるでしょう。

いやあ、素晴らしい。

米国ボクシングに鎮魂の10点鐘が鳴らされるときが来た模様です。

しかし、パッキャオとメイウェザー、米国ボクシングに2回もトドメを刺すか

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ボクシングほど議論を呼ぶ判定が多いスポーツはありません。

主な観戦者が気の荒い男性だからというのは、大きな原因ではありません。

ジャッジ席は死角だらけで、2人のボクサーの攻防が完全に見えなくなることが普通にある…それも大きな原因の一つです。

多くのジャッジが「10−10は付けてはいけない」と、間違った認識で萎縮しながら、自身も優劣がわからないラウンドを無理やり10−9に振り分けて、その誤謬が積み重なっていく…それも大きな原因の一つです。

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⬆︎ジャッジ席からは審判によって2人の攻防が完全に見えないケースも普通に起こります。

しかし、それよりも大きく深刻な問題は、全く信じられないことですが、このスポーツのジャッジには定期的な試験や研修は義務付けられず、ボクシングファン以下(大袈裟な表現ではありません)のジャッジが野放しにされていることです。

昨日のマニー・パッキャオとマリオ・バリオスの一戦の判定が一部で議論を呼んでいることを受けて、ボクシングシーンが記事をアップしました。

記事ではパッキャオvsバリオスについては全くふれていませんが、この記事をベースに別の記事を書いたとしてお読みください。

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The Psychology of Conspiracy in Boxing:Why close decisions feel like robberies

ボクシングの判定から引き起こされる陰謀論の心理はどこから生まれるのか?なぜ僅差の判定を不当判定だと感じてしまうのか。

“This was a robbery.”  これは不当判定だ。

“That judge was paid off.” ジャッジは買収されていた。

“Boxing is corrupt — again.” ボクシング界は腐り切っている。

毎週土曜日の夜に聞かれるうめき声だ。

声の主はファンだけではない。テレビの解説者、1人の記者、SNSのつぶやき…。そんな声がときには事実として受け入れられる。

もちろん、明らかに間違った判定もある。ジャッジも人間だから過ちを犯す。しかし、それを陰謀論と結びつけるのは間違いだ。

人間の脳、思考はグレーゾーンを認めたくない傾向がある。接戦に終わった試合の判定が、多くの非公式のスコアと違うとき、あるいは自分の採点と食い違ったとき「接戦だった。どちらに転んでもおかしくない内容だった」とは考えない人もいる。

彼らはその代わりに「何か怪しいことが裏にある」と勘繰ることになる。

ボクシング界もラスベガスもスター不在に悩んでいる。だから、いまだに人気のある伝説のカムバックを成功させるために、ジャッジや対戦相手に何らかの邪な力学が働いたーーーそう考えると辻褄があう。

Narrative Bias:The Story Must Make Sense〜辻褄バイアス:物語の筋が通っているから、それが事実だろう、という理屈だ。

もし、そうだとしたら「パッキャオvsバリオス」の判定が多くの専門家やメディアのそれと逆の結果が出たことの方が辻褄が合わない。

あるいは、パッキャオが勝利すると都合の悪い勢力が何らかの手を打って、伝説から勝利を奪ったのか?

陰謀論はいつでも刺激的なものである。

NFLは毎年、スーパーボウルのロゴを発表するが、そこにはその年の出場チームのカラーが巧みに使われているーーーそんな明らかなフェイクニュースを信じる者もいる。

そして、現代はソーシャルメディアが陰謀論を助長している。

かつてはジムやバーで語られていた微妙な判定への意見は、ネット上でリアルタイムで応酬される時代になった。冷静に試合を分析して判定を支持する投稿よりも、刺激的な陰謀論の方が好んで読まれることが圧倒的に多い。

昨夜の試合は3人のジャッジが114−114/114−114/115−113とスコアした。多くのメディアはパッキャオの勝利を支持したが、ほとんど全てのスコアは115−113だった。公式も非公式も、採点の見立てはほとんど変わらない。

では、もし最も安全で確実な八百長が仕組まれていたとしたら?つまり、スター不在のボクシング界を救おうとする闇の勢力が、バリオスだけにわざと負けるように手を回していたとしたら?

これなら、バリオスが裏切らない限り、真相も闇の中。

しかし、もしそうだとしたらバリオスの「わざと負ける」はあまりにもお粗末すぎる。負けるどころか、下手したら勝ってしまっていた可能性が高い内容だったのだから。

「全盛期のパッキャオが序盤に強いのは知っていたから、様子を見る作戦だった。パッキャオが中盤から後半に疲れてペースダウンしたところで攻撃を強めるつもりだったが、見たことのないフェイントをいくつも仕掛けてきた。非常にトリッキーだったから、迷いが生じて試合を難しくしてしまった」というバリオスの言葉は実に説得力のあるものだろう。

いずれにしても、クロスゲームの判定は万人が納得する完璧なものではなく、どちらに10−9をふってもおかしくないラウンドが散りばめられている。

現代で、不可解な判定を最も多く語られているのは、カネロ・アルバレスだろう。

もし、事実がNarrative Bias、辻褄バイアスの通りだとしたら、なぜカネロはキャリアで最も重要な勝利となるフロイド・メイウェザー戦を落としたのか?あるいは、絶対に負けてはいけないドミトリー・ビボル戦で大番狂せを起こされてしまったのか?

全く辻褄が合わないではないか。














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