カテゴリ: 採点について考える

野球やサッカーの審判は、そのほとんどが競技経験者です。

プロ選手の経験がある審判も珍しくありません。

選手経験があることは、より正確な判定を下すことにつながると考えられます。

ところが、ボクシングにおいては競技経験がないことが当たり前です。

主審として256試合、ジャッジとして763試合を裁いている元日本ジュニアミドル級・ミドル級王者のビニー・マーチンのようなケースは、極めて稀れです。

スペクタクルなKO勝利に酔いしれたり、脳震盪を起こして病院に救急搬送された経験が、優れた主審やジャッジを育てる要素になるとは思えません。

それでも、ボクシングのあまりにも酷いジャッジを何度も何度も目の当たりにしていると、ど素人がまともな研修も受けずにジャッジになったからこんなスコアを付けてしまうんじゃないか、と腹も立ってきます。

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一方で、元世界チャンピオンたちの的外れな解説や採点を聞いてしまうことも珍しくありません。

プレーと、ジャッジは全く別物です。



下戸の杜氏や、酒の飲めないウィスキーのブレンダーは珍しくありません。

習慣的に飲酒、喫煙、刺激物、薬物を摂取している人は繊細な味覚・官能が損なわれているのはよく知られています。

絶対音感にも似た、優れた官能の持ち主が酒もタバコもやらないのは当然です。

とはいえ、ボクシングの主審、ジャッジに絶望的レベルの人が当たり前に仕事を続けている現実は、優れたブレンダーとは全く違うレベルの話になってしまうのですが…。



BOXINGSCENEから「Should boxing judges have experience as boxers?〜ボクシングのレフ・ジャッジにボクサー経験は必要か?」。この記事をベースに少し、お話を。











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WBA/WBCフライ級王者・寺地拳四朗が明白に有利の予想とオッズをひっくり返され、キャリア2敗目を喫し、二つのタイトルとPFPファイターのポジションを失ってしまいました。

2人のジャッジが挑戦者リカルド・サンドバル(117−110/115−112)、一人が拳四朗(114−113)を支持するスプリットデジション。

「王者のホーム」「微妙なラウンドが多かった」ことを考えると、僅差防衛の結果であっても大きな議論にならなかったかもしれません。



ーーーまず、ボクシングの採点、ジャッジには大きな問題がいくつも横たわっていることのおさらいから。

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ボクシングではメジャースポーツの審判とは異なり、まともな試験や研修、ライセンスの更新も行われていないため、ファン以下のジャッジが蔓延っているのが実情です。

野球などでは「審判が一番近くで見ているから」と判定を尊重することがありますが、ボクシングの場合は一番近くで見ているのはテレビカメラ、ジャッジはリング下からリングを見上げる死角だらけの席に座っています。

死角をなくす方法としては、テニスなどで見られる高椅子にジャッジを座らせる、リングの三辺にではなく四辺に席を設ける4人制などが提案されていますが、いずれも「高椅子なんて置いたら観戦の邪魔になる」「ジャッジ席を四辺にするとリングアナウンサーや解説者陣、コミッショナーなどの席がなくなる」という興行上の理由で、世界中のどのコミッションも採用していません。

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また、現行の採点ルールは「10−10は禁止」と勘違いしているんじゃないかという低脳なジャッジが多すぎるのも不可解な判定につながる要因になっています。

そいつが明日同じ試合を見たら「10−9」が逆転するような微妙なラウンドでも「無理矢理にでも10−9」を付けているのです。

ファンの中にも「無理矢理でも10−9にしなければならない」と思い込んでいる人も少なくないでしょうから、WOWOWなどテレビでも「ここは10−10でしょう(そうしないと不可解な結果につながりかねない)と啓蒙していくのが一番効果的かもしれません。

「拳四朗vsサンドバル」で問題視されているスコアはジョセフ・グウィルトの117−110。

「そんな大差の内容ではなかった」ということ。

拳四朗を支持したのはダウンを奪った第5ラウンドと続く第6ラウンドだけで、残りの10ラウンドを全てサンドバルに与えたのです。

「いくつもあった微妙なラウンドの全てをサンドバルに付けるのは酷い」という感情論は、私には理解できません。「極めて微妙なラウンドでも無理矢理10−9」のバカ・ルールを貫くと117−110は十分ありうるスコアです。

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【左】2025年7月30日:サンドバル戦/【右】2021年9月22日:矢吹戦

さらに、英国生まれタイ在住のグウィルトが攻勢を重視するアジア型採点思考のジャッジであることは容易に想像できます。さらに、この人のキャリアわずか2年5ヶ月、今回がジャッジ35度目(全てアジアの試合)という経験の浅いジャッジでした。

試合は拳四朗が認めているように、個人的には完敗だと思います。しかし、ジャブを評価する欧米型のジャッジがグウィルトの代わりに座っていたら、1−2のSDは逆転していたかもしれません。

4年前の矢吹正道との一戦でも「ジャッジの見方」が試合の趨勢を決め、拳四朗が敗北しています。

4ラウンド終了時点の公開採点で拳四朗陣営が大幅な戦略変更を強いられたという点で、今回のサンドバル戦よりも勝敗への影響は大きかったかもしれません。

互いに有効打がないラウンドを、どちらに振るか?リードブローで試合を作ろうとするボクサーか?それとも、突貫攻勢のファイターを評価するのか?

プロボクシングには世界的な統括団体が存在しないため、、ローカル色が濃い採点が根付いています。

人気階級のメガファイトを支配しているサウジアラビア総合娯楽庁ののトゥルキ・アル=シャイフ長官は「トム&ジェリーの鬼ごっこは見たくない。逃げ回ったジェリーが勝つのはおかしい」と主張、シャクール・スティーブンソンのスタイルにも影響を与えたと言われていますが、どこまで世界的に浸透するか?

ワシル・ロマチェンコらエリートアマが、プロ転向後も採点を計算する傾向が強いのは、採点の世界基準が存在するアマチュア時代の習慣を引きずっているからでしょう。

英国ボクシング管理委員会とネバダ州アスレティック・コミッション、日本ボクシングコミッションなど各国・各州では採点基準はほぼ同じでも文言は微妙に異なり、現実のスコアリングではローカル色が滲み出すことも珍しくないのがプロボクシングです。

ロマやムロジョン・アフマダリエフらはここを読み違えてしまいがち。



なんにせよ、ボクシング界はいつだって魑魅魍魎、です。

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ボクシングほど議論を呼ぶ判定が多いスポーツはありません。

主な観戦者が気の荒い男性だからというのは、大きな原因ではありません。

ジャッジ席は死角だらけで、2人のボクサーの攻防が完全に見えなくなることが普通にある…それも大きな原因の一つです。

多くのジャッジが「10−10は付けてはいけない」と、間違った認識で萎縮しながら、自身も優劣がわからないラウンドを無理やり10−9に振り分けて、その誤謬が積み重なっていく…それも大きな原因の一つです。

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⬆︎ジャッジ席からは審判によって2人の攻防が完全に見えないケースも普通に起こります。

しかし、それよりも大きく深刻な問題は、全く信じられないことですが、このスポーツのジャッジには定期的な試験や研修は義務付けられず、ボクシングファン以下(大袈裟な表現ではありません)のジャッジが野放しにされていることです。

昨日のマニー・パッキャオとマリオ・バリオスの一戦の判定が一部で議論を呼んでいることを受けて、ボクシングシーンが記事をアップしました。

記事ではパッキャオvsバリオスについては全くふれていませんが、この記事をベースに別の記事を書いたとしてお読みください。

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The Psychology of Conspiracy in Boxing:Why close decisions feel like robberies

ボクシングの判定から引き起こされる陰謀論の心理はどこから生まれるのか?なぜ僅差の判定を不当判定だと感じてしまうのか。

“This was a robbery.”  これは不当判定だ。

“That judge was paid off.” ジャッジは買収されていた。

“Boxing is corrupt — again.” ボクシング界は腐り切っている。

毎週土曜日の夜に聞かれるうめき声だ。

声の主はファンだけではない。テレビの解説者、1人の記者、SNSのつぶやき…。そんな声がときには事実として受け入れられる。

もちろん、明らかに間違った判定もある。ジャッジも人間だから過ちを犯す。しかし、それを陰謀論と結びつけるのは間違いだ。

人間の脳、思考はグレーゾーンを認めたくない傾向がある。接戦に終わった試合の判定が、多くの非公式のスコアと違うとき、あるいは自分の採点と食い違ったとき「接戦だった。どちらに転んでもおかしくない内容だった」とは考えない人もいる。

彼らはその代わりに「何か怪しいことが裏にある」と勘繰ることになる。

ボクシング界もラスベガスもスター不在に悩んでいる。だから、いまだに人気のある伝説のカムバックを成功させるために、ジャッジや対戦相手に何らかの邪な力学が働いたーーーそう考えると辻褄があう。

Narrative Bias:The Story Must Make Sense〜辻褄バイアス:物語の筋が通っているから、それが事実だろう、という理屈だ。

もし、そうだとしたら「パッキャオvsバリオス」の判定が多くの専門家やメディアのそれと逆の結果が出たことの方が辻褄が合わない。

あるいは、パッキャオが勝利すると都合の悪い勢力が何らかの手を打って、伝説から勝利を奪ったのか?

陰謀論はいつでも刺激的なものである。

NFLは毎年、スーパーボウルのロゴを発表するが、そこにはその年の出場チームのカラーが巧みに使われているーーーそんな明らかなフェイクニュースを信じる者もいる。

そして、現代はソーシャルメディアが陰謀論を助長している。

かつてはジムやバーで語られていた微妙な判定への意見は、ネット上でリアルタイムで応酬される時代になった。冷静に試合を分析して判定を支持する投稿よりも、刺激的な陰謀論の方が好んで読まれることが圧倒的に多い。

昨夜の試合は3人のジャッジが114−114/114−114/115−113とスコアした。多くのメディアはパッキャオの勝利を支持したが、ほとんど全てのスコアは115−113だった。公式も非公式も、採点の見立てはほとんど変わらない。

では、もし最も安全で確実な八百長が仕組まれていたとしたら?つまり、スター不在のボクシング界を救おうとする闇の勢力が、バリオスだけにわざと負けるように手を回していたとしたら?

これなら、バリオスが裏切らない限り、真相も闇の中。

しかし、もしそうだとしたらバリオスの「わざと負ける」はあまりにもお粗末すぎる。負けるどころか、下手したら勝ってしまっていた可能性が高い内容だったのだから。

「全盛期のパッキャオが序盤に強いのは知っていたから、様子を見る作戦だった。パッキャオが中盤から後半に疲れてペースダウンしたところで攻撃を強めるつもりだったが、見たことのないフェイントをいくつも仕掛けてきた。非常にトリッキーだったから、迷いが生じて試合を難しくしてしまった」というバリオスの言葉は実に説得力のあるものだろう。

いずれにしても、クロスゲームの判定は万人が納得する完璧なものではなく、どちらに10−9をふってもおかしくないラウンドが散りばめられている。

現代で、不可解な判定を最も多く語られているのは、カネロ・アルバレスだろう。

もし、事実がNarrative Bias、辻褄バイアスの通りだとしたら、なぜカネロはキャリアで最も重要な勝利となるフロイド・メイウェザー戦を落としたのか?あるいは、絶対に負けてはいけないドミトリー・ビボル戦で大番狂せを起こされてしまったのか?

全く辻褄が合わないではないか。














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ラモント・ローチと負けに等しいドローを演じてしまったガーボンタ・デービスは、本当に強いのか?

強い相手には勝てないが、弱い相手にはド派手に勝つーーーマイク・タイソンと同じ種類のファイターではないのか?

それでも、タイトルホルダーの中でのKO率は93.33%(31戦30勝28KO1分)で、井上尚弥(29戦全勝26KO=89.66%)を抑えて依然として1位をキープ。この数字にどれほどの意味があるのかわかりませんが。

さらにPFPランキングでもTBRBとESPN、リング誌の3メディアで全て8位に踏みとどまっています。

とはいえ、メイウェザーとパッキャオが通算何年君臨した他かわからないPFP1位、あるいは1位を巡る評価とは全く無縁。

もちろん、そんなハリボテ戦車ですからFighter Of The Year にも選ばれたことがありません。当たり前です。




選手評価が最も緩くなるのがリアルタイムであり、後世の評価が厳しくなるのは世の常です。

フロイド・メイウェザーやマニー・パッキャオのように同じ時代の近視眼で見ても、後世の評価でも凄いやつは凄い、というファイターも稀に存在しますが。

さて、タンクは誰に勝ったのか?

WOWOWではタンクのベストファイトとして、レオ・サンタクルス戦が何度も取り上げられていました。

山中慎介が対戦を熱望したIBFバンタム級王者だったサンタクルスを、WBAジュニアライト級王者として迎えながら5ラウンドまでジャッジ3者が48−47の1ポイント、第6ラウンドに豪快に沈めました…が、この時点であれがベストファイトって…完全なバッタもんでしょう?

すでに欧米の専門メディアで揶揄されていますが、タンクが誰に勝ったのかというと…。

IBFジュニアライト級王者ホセ・ペドラザ(贔屓目にいってB級王者)、ウーゴ・ルイス(誰の目にも雑魚)、ユリオルキス・ガンボア(元フェザー級王者の完全劣化版)、サンタクルス(ジュニアフェザー級が全盛期の劣化版)、マリオ・バリオス(いつ誰に負けても誰も驚かないボクサー)、イサック・クルス(過大評価デービスとクロスゲームしたことで評価された野良犬)、そのクルスにKOされるローランド・ロメロ、キャッチウェイトで干からびさせたライアン・ガルシア(タンク君よりも規律に欠けたSNSアイドル)…。

殿堂クラスはもちろん、PFPファイターも1人もいません。ガンボアとサンタクルスは元PFPファイターですが、それも遠い昔で下の階級の出来事です。

かつて、メイウェザーが「ワシル・ロマチェンコとは絶対にやらせない」と明言したのは、トップランクへのアテツケではなく、単純に遊ばれて終わり、あの規律の無さでは〝ノマスチェンコ負け〟確実だったからでしょう。

「cherry pick(雑魚狩り)しかしてこなかったから今引退したら、殿堂入りなんてありえない」と非難されるタンクは、現役の犯罪者でアスリートとは呼べない無規律な醜態を何度も晒してきました。

最近のボクサーではエイドリアン・ブローナーが同じ「過大評価類・犯罪者科」のボクサーです。そういえば、WOWOWはブローナーも過大評価していましたが。


アスリートなのに規律に欠ける、醜悪な犯罪を繰り返す、さらに雑魚狩り専門…そういうボクサーは好きになれません。


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倒産危機も囁かれるPBCのバークレイズセンターのイベント。

判定試合が続きましたが、メインまでその流れに飲み込まれるとは意外でした。

スタッツだけを見ると手数と着弾数は〝The Reaper(死神)〟ローチに軍配。パンチの精度はタンクが上回ったものの、決定打はヒットできないまま36分間が過ぎてしまいました。

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個人的には115−113でタンク。第9ラウンドの〝ダウン〟を取ると114−114。

ただ、もしかしたら私は公正な目で試合を見ていなかった気がしてきました。

均衡した展開でもタンクの一撃で一気に試合が決まる、そんな残像が刷り込まれているために無意識にタンクのパンチを過大評価しながら見ていたかもしれません。

そこに「ローチは弱い」という先入観もミックスされて「タンクの一撃を受けていつかローチが倒される」と考えながら試合を見てしまっていたかもしれません。

海外の専門メディアでも「あれはダウンでしかない」「採点やり直しでデービスは負け」という見方が噴出しています。

ボクシングの場合、一度出た判定が覆ることはレアケースですが、あれは明らかなダウンですから。


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2024年10月12日、サウジアラビア・リヤドはキングダム・アリーナ。

アルツール・ベテルビエフとドミトリー・ビボルのライトヘビー級 Undisputed championship は2−0のマジョリティデジションで当時39歳のベテルビエフに軍配が挙がりました。

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公式採点は116−112/115−113/114−114(ラウンドで見ると8−4/7−5/6−6)。議論を呼んだ判定でしたが、3人のジャッジの揺れ幅は2ラウンド差、別の試合を見ていたスコアではありません。

それでも、試合終了のゴングが鳴るとビボルとコーナーは勝利を確信して喜び、ベテルビエフ陣営は静かに採点発表を待ちました。

旧ソ連ダゲスタン共和国ハサヴユルト出身のカナダ人はデビュー以来20戦全勝20KOとパーフェクトレコードを更新中、この試合も「KOならベテルビエフ、判定ならビボル」が大方の予想でした。

元ソ連キルギス共和国トクマク出身のビボルのスピードと精度が中盤まで6歳年長の強打者を封じ込めていましたが、ラスト3ラウンドは全てのジャッジがベテルビエフを支持、採点上はここで貯金を吐き出す形になってしまいました。

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スタッツが試合の真実を映し出すとは限りませんが、CompuBoxの数字上は手数(682:423)でベテルビエフが259発も多くパンチを放った一方、ヒット数はビボルがわずか5発ながらリード。

その結果、ヒット率(34%:20%)はビボルが14ポイントも上回りました。


明日に迫った再戦が、初戦から続く第13ラウンドになるのか?それとも、全く違う試合になるのか?

極めて高い技術を持つ2人の再戦だけに、非常に興味深いものがあります。




前日計量はベテルビエフはリミットいっぱいの175ポンド、ビボルは0.9ポンドアンダーの174.1ポンドで1発クリア。

オッズは初戦(ビボル8/11=1.73倍/ベテルビエフ11/10=2.1倍)から、ビボル11/10(2.1倍)/ベテルビエフ5/6(1.83倍)とカミソリ1枚の僅差ながら逆転。

WBC勝者に記念ベルトを贈呈するそうです。

WBC_MS_Riyadh_Season

日本の国旗はずいぶん外側に追いやられてしまいました…。

それにしてもWBC、人気階級で特別ベルト乱発しやがて…。

マウリシオは承認料ばっかり掠め取らずに日本人の試合でも特別ベルト作れよ。


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ウエルター級バージョンのフロイド・メイウェザーやマニー・パッキャオがらほんの一握りの変態を例外に、ヘビー級を除く16の階級では「より弱い相手を求めて自分も弱体化する苛烈な減量」に身を投じています。

計量前の井上尚弥は頬がこけ、顎が尖り、肌はカサカサ、そして水分を断ち、皮下脂肪までほとんど落とした体は筋肉の形があらわになっています。

そこから一晩、一気のリカバリーとリバウンドで表情には生気が戻り、計量時よりも筋肉のラインは緩やかになっています。

井岡一翔やノニト・ドネアのように、計量時でも筋肉の輪郭が比較的緩い選手もいますが、これはタイプによるもので、軽量級選手が過酷な減量と向き合っていることに変わりはありません。

この「より弱い相手を求めるプラス」と「自分も弱体化するマイナス」のギリギリの収支を追求するのが減量階級です。

一方で、体重制限のないヘビー級のファイターのウエイトコントロールは単純明快、最強の自分を作り上げることです。

パワー重視で体重を増やすこともあれば、スピードを意識して体重を絞ることもあります。

体重を絞る、といってもファイティング原田から井上尚弥に通じるようなストーブを燃やした部屋で毛布にくるまり、出ない汗を絞り出すような〝自殺行為〟はしません。

Usyk-Fury 2 - CompuBox Punch Stats

PUNCHESUSYKFURY
Total landed179144
Total thrown423509
Percent42.3%28.3%
Jabs landed7344
Jabs thrown211252
Percent34.6%17.5%
Power landed106100
Power thrown212257
Percent50%38.9%

さて、オレクサンデル・ウシクとタイソン・フューリーの再戦は返り討ちに終わりました。

判定には様々な見方があるでしょうが、許容範囲だったと思います。

フューリーは過去最重量で臨んだことに、何か計算があったのでしょうか?

もちろん、こんなもの結果論です。フューリーが判定勝ちなら「パワーでウシクを押し切った」です。

ただ、フューリーはもっと絞って動ける肉体を作るべきだったように思えてなりません。

そんなこと百も承知でも、体を絞る規律が保てなかったとしたら、ウシクのような老練な勝負師を倒すことは不可能です。





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WBAジュニアミドル級王者イスライル・マドリモフと、テレンス・クロフォードの試合結果が一部で「controversial(議論を呼ぶ)」判定だったと見られています。

確かに接戦で、僅差判定ならどちらに転んでも納得できるものでした。


116-112, 115-113,  115-113 という判定は突拍子もないスコアではありません。

マドリモフをプロモートするエディ・ハーンが「私の採点は117−111。有効打で明らかに上回っていた。いつから有効打よりも手数を評価するようになったんだ?」という不満もわからないではありません。

PUNCHESCRAWFORD  MADRIMOV
Total landed9584
Total thrown433275
Percent22%31%
Jabs landed4019
Jabs thrown22391
Percent18%21%
Power landed5565
Power thrown210184
Percent26%35%

パワーパンチ(後ろ手のパンチ)で精度もヒット数も上回ったマドリモフが勝利の手応えを感じたのは、不思議でもなんでもありません。

その一方でジャブ(前手のパンチ)のヒット数でダブルスコアをマークしたクロフォードが試合をコントロールしたと感じていたのも当然です。


 Depends what the judges like. 〜ジャッジが何を重視するかでスコアが分かれるラウンドが続いた。(ESPN)

マドリモフ勝利とスコアしたハーンでも「 It was a super close fight. ... It was a fight that could have went either way."〜スーパー大接戦だった。採点がどちらに転んでもおかしくなかった」と、スコアリングの難しいラウンドが続いたことを認めています。



「勝ったと確信したが…」。マドリモフは当然、判定に納得していません。

結果論ですがラスト2ラウンドを落としたのが致命傷でした。

GUHclR_bsAAOVfm

11ラウンドか12ラウンドを一つ取っていたら、ジャッジ二人が114−114でマジョリティードロー、タイトル防衛でした。

そんなタラレバ、何の意味もありませんが、マドリモフにとっては悔いの残る試合になりました。
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井岡一翔のキャリアのフィナーレが近づいています。

もしかしたら、本人の中でもう決着がついて、あとは発表のタイミングだけの段階かもしれません。

35歳という年齢と、15年近くも世界トップ戦線で戦い続けてきた心身おの消耗は想像する以上に蓄積されているはずです。

FullSizeRender
七夕の夜に、また複雑なスタッツが出来上がりました。




…朝からジリジリと焼かれるような暑さの7月9日、火曜日。

この記録的な暑さに、がむしゃらに冷房を効かせて寒いくらいの列車内からスタートする新しいお話。

Time To Say Goodbye 〜いまこそ分かれ目、いざ、さらば。

一昨日のジュニアバンタム級の統一戦、120-108はありか?から、判定の問題をまた考えながら、井岡一翔の去就にも触れて行きます。
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Lifetime Boxing Fights 22


7月7日(日)両国国技館

ジュニアバンタム級 団体統一戦

WBA©︎井岡一翔
vs
IBF©︎フェルナンド・マルチネス


井岡一翔の35戦のキャリアで初めて喫した、どうみても負けた試合でした。

リング誌は 「Scores were 116-112, 117-111 and a criminally poor 120-108 (Edward Hernandez Sr.) for Martinez.〜エドワード・エルナンデスの120−108は犯罪的まで狂ったスコアだった」と報じました。

BOXINGSCENEも「The fighters embraced before the final round, and the 120-108 card of Edward Hernandez will rightly cause a stir, because four-weight champion and future Hall of Famer Ioka merited far more than that.〜120−8は当然ながら議論を呼ぶだろう、未来の殿堂選手井岡が一つも取ってないなんてありえない」。

BOXING NEWS24は「The Night Of Questionable Judging: Fernando Martinez Crowned Amid Controversy(不可解なジャッジの渦中でフェルナンド・マルチネスが統一王者に就いた」。

ただ、個人的にはフルマークも許容範囲に見えた内容でした。

そして、いくらメディアの〝玄人筋〟に評価が高くても、彼らですらフェルナンド・マルチネスの勝利に対して、120−108というスコア以外には何の文句もなかったでしょう。

英国ボクシングニューズ誌の「The 120-108 card posted by Eduardo Hernandez Sr seemed extremely dismissive of Ioka’s efforts, but the right man got the nod.〜120−108は井岡の健闘を無視したカードだったが、勝者は間違っていなかった」というのが、多くの人の共通認識です。


 “I gave him everything I had. We gave the fans what they want. A war.”(俺はこの試合に全てを出し切った。ファンが見たかった戦争のような戦いをお見せできたはずだ)。

勝者を讃えるしかありません。

おめでとう、プーマ。

行きがかり上、バムとの決戦はあなたの応援に回ります。



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