カテゴリ: 複数階級制覇

無敵のバンタム級チャンピオンがジュニアフェザー級の牙城に挑む…そんなサンプルはサラテvsゴメスだけではありません。

ボクシングの豊穣な歴史から井上尚弥の先駆けとなった5人の「無敵のバンタム」がジュニアフェザー級に挑戦した決戦を振り返ります。

「サラテvsゴメス」「フェネックvsサーマート」に続く三つ目のサンプルは1995年1月7日、オルランド・カニザレスvsウィルフレド・バスケス

挑戦者のカニザレスはIBFバンタム級を16連続防衛の記録を持つ、数字上は史上最も安定したバンタム級王者でした。世界王者になる前に敗北とドロー、2試合を勝てませんでしたが、当時のカニザレスを「無敵のバンタム級チャンピオン」と表現しても全く差し支えありません。

カニザレスは結局、強豪との手合わせが少なく、後世の評価は下落したファイターですが、現役時代の評価は信じられないかもしれませんが「史上最高のバンタム」という声もありました。

2階級制覇を賭けたバスケス戦。このとき、カニザレスは38勝28KO1敗1分。対する、日本でもお馴染みのWBAジュニアフェザー級王者バスケスは41勝32KO6敗2分。

29歳のカニザレスがホームのリングで、34歳のバスケスに楽勝するというのが大方の予想でしたが試合はチェスマッチの末にバスケスがSDを手繰り寄せました。

自信過剰のバンタム級王者を、過小評価されていたジュニアフェザー級王者が返り討ち。これは「井上vsフルトン」でも芽吹く番狂せの種かもしれません。

もちろん、井上に狭義の油断はないでしょう。しかし、油断というのはそれが露見するまでは多くの人に見えにくいものです。




四つ目のサンプルはノニト・ドネア。

ドネアも無敗ではありませんでしたが、当時は文句なしの「無敵のバンタム級チャンピオン」。

バスケスの息子ウィルフレド・バスケスJr.。空位のWBOジュニアフェザー級王座を争いました。2012年4月12日、テキサス州サンアントニオはアラモドーム。ボクサーとしては父親の血を一滴も受け継いでいないとしか思えないバスケスJr.。

ドネアの攻勢に押されっぱなしのまま試合が終わりますが、判定はなぜかSD。ジャッジへの非難は当然でしたが、バンタム級であれほど輝いていたドネアのパンチはパワーもタイミングも狂ったまま。

2012年はジュニアフェザー級で4試合を戦い全勝、二つのタイトルを手にしましたが、実力的に大きく劣る西岡利晃と、この階級では凡庸なホルヘ・アルセしか倒せない姿に、多くのメディアから「階級の壁だけではなく、ドネアのタイミングと反射(当て勘)が劣化している」と指摘されていました。

そして、ドネアが築こうとしていた122ポンドのダムは翌年のギレルモ・リゴンドー戦で一気に決壊。

井上もジュニアフェザーで、バンタム級時代の破壊力を喪失してしまう可能性がゼロとは言い切れません


ちなみにドネアはバンタム級とジュニアフェザー級でWBCダイアモンド2階級制覇。この2階級でのダイアモンドタイトルホルダーはドネアだけ…どうでもいい情報でした。




五つ目のサンプルはレオ・サンタクルス。

米国で全く人気がないはずのバンタム級でも大きな集客力を誇ったメキシカンは、山中慎介が対戦を熱望するものの、全く相手にされず。アピールの仕方が下手だったこともあるのでしょうが…。

もし、対戦していたら山中は西海岸のリングに引っ張り込まれていたでしょう。もちろん、山中はそれが夢だったでしょうが。



2013年8月24日、カリフォルニア州カーソン・スタハブセンター(当時)。

サンタクルスは24勝12KO無敗1分。バンタム級タイトルは3度防衛(2KO)。直近10試合は全勝8KOと、世界レベルになってKO率を上げてきたプレッシャーファイター。

サンタクルスは、フェルナンド・モンティエルをボコボコに殴りまくり、空位のWBCジュニアフェザー級タイトルをクリスチャン・ミハレスをSDで競り落として獲得していたビクトル・テラサスを3ラウンドで薙ぎ倒して呆気なく2階級制覇。

テラサスはガッツの溢れるファイターでしたが、技術的には何一つ世界基準に達していない穴王者。フルトンと同列に比べることはできませ。井上vsフルトンは長いラウンドになると予想されますが、スクーターの出方によっては早いラウンドでの決着も十分にあり得ます。
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バンタム級チャンピオンの野望を、ジュニアフェザー級チャンピオンが打ち砕く。

…そう聞いて真っ先に思い浮かぶのは、カルロス・サラテvsウィルフレド・ゴメスです(断言)。

しかし、無敵のバンタム級チャンピオンがジュニアフェザー級の牙城に挑む…そんなサンプルはサラテvsゴメスだけではありません。

ボクシングの豊穣な歴史から井上尚弥の先駆けとなった5人の「無敵のバンタム」がジュニアフェザー級に挑戦した決戦を振り返ります。


まずは、サラテvsゴメス。1978年10月28日。

1976年に新設されたWBCジュニアフェザー級。初代王者リゴベルト・リアスコからロイヤル小林、廉東均、そしてゴメス。わずか13ヶ月で4人の王者がタイトルをリレーした〝水増し階級〟を冷ややかな目で見るメディアやファンも少なくありませんでした。

しかし、1974年の世界選手権バンタム級でオールノックアウトで金メダルに輝いたゴメスは、純粋階級で通用しないかジュニアクラスを狙ったファイターとは次元が違いました

プロ初戦こそ引き分けに終わり、勝つことはできませんでしたが、その後は全戦全勝全KO、破竹の快進撃。16戦目で廉東均エオKOしてWBCタイトルを奪うと、5度の防衛もいずれもKOで片付けました。

そして迎えた6度目の防衛戦。54戦全勝53KO無敗のバンタム級王者カルロス・サラテの挑戦を地元プエルトリコ、ロベルト・クレメンテス・タジアムで迎え撃つことになりました。

当時21歳のゴメスも26戦して25勝オールノックアウト、一つの引き分け。

メキシコvsプエルトリコ。両者の戦績を合計すると80戦79勝78KO1分。こんな漫画的な対決は、もう2度とないでしょう。

キャリアで勝るサラテが有利と見られていましたが、28歳のメキシカンは1回目の計量でまさかの2.5ポンド超過。3度目の計量でなんとかリミットまで落としたものの、その肉体は干からび、表情からは生気が失せていました。

4ラウンドにキャリア初のダウンを喫したサラテは、5ラウンドで仕留められてしまいます。

このビッグファイトの中に「井上vsフルトン」を占うヒントがあるとしたら、それは試合展開ではなく両者のコンディショニングでしょう。

井上のコンディショニング失敗はあまり考えられませんが、フルトンはどうでしょうか?



二つ目のサンプルはジェフ・フェネックvs サーマート・パヤクァルン。1987年5月8日。

軽量級マニアにとっては忘れられない一戦でした。

プロ7戦目でIBFバンタム級のタイトルを新垣諭から強奪したフェネックは、WBCジュニアフェザー級王者パヤクァルンとの無敗対決に挑みます。

「豪州のIBF王者」という〝田舎臭〟が漂うフェネックに対して、サーマートはムエタイで4階級制覇、かけが成立しなくなったために国際式に転向、あのルペ・ピントールを破壊して王座に就いたタイの貴公子。天才肌ではなく、間違いなく天才でした。

アンダードッグのフェネックは初回にダウンを奪われるも、オージーならではの強烈なフィジカルで逆襲、4ラウンドで王者を失神KOしました。

フェネックのパワフルな攻撃は井上にも通じるところがあります。一方で、14戦全勝8KOだったサーマートはセンスでフルトンを凌駕するものの、その放蕩な性格からボクサーとして大きな期待に応えることはできませんでした。
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階級の壁を突破するには、マニー・パッキャオやフロイド・メイウェザーが見せたようなスタイルチェンジが不可欠です。

よく言えばハイレベルで完成されたローマン・ゴンサレスやワシル・ロマチェンコは、悪く言うと流動性のないスタイルが仇となって階級の壁にぶつかりました。

108ポンドから122ポンドへ。井上尚弥が挑む階級の壁は、チョコラティトが破壊された10ポンド、ロマチェンコが輝きを失ったのは9ポンドを上回る14ポンド。

井上は柔軟にモデルチェンジしたパックメイよりも、凝り固まったスタイルのチョコラティトやウクライナのハイテクと同じグループに所属しているようにも思えます。

井上のスタート階級が無理やりの108ポンドではなく、112ポンドなら壁の〝厚さ〟は10ポンド。

いずれにしても、モンスターの階級アップにも限界の刻が近づいている可能性はゼロではありません。

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あと1週間に迫った大勝負。

ジュニアフェザー級に挑戦したバンタム級王者、そのクラシックをスティーブン・フルトンに肩入れした視線で振り返ります。
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井上尚弥がWBC/WBOジュニアフェザー級王者スティーブン・フルトンに挑戦するビッグファイトまで、あと1週間に迫りました。

村田諒太の世界戦のように、試合決定時での対戦相手の来日・会見の二段構えや、米国のメガファイトのように主要都市を回るプロモーショナル・ツアーがあれば、もう少し盛り上がっていた気もしますが、それはこれからの課題かもしれません。

さて、オッズや勝敗予想では明白に有利と見られている井上ですが、ジュニアフライ級(108ポンド)からクラスを上げてきたモンスターにとってジュニアフェザー級(122ポンド)は14ポンド(6.35kg)も上。

これは、ジュニアミドル級(154ポンド)のジャーメル・チャーロと、スーパーミドル級(168ポンド)のカネロ・アルバレスの間に横たわっている体重格差と同じです。

もちろん、超軽量級と中重量級ではウエイトの〝分母〟が違います。、そして、井上は108ポンドからいきなり122ポンドに挑むわけではありません。

また、井上のスタート階級である108ポンドは将来的な複数階級制覇を見込んでの〝無理やり〟減量で押し込まれたもの。

井上のキャリアでジュニアフライ級時代のパフォが相対的に物足りなく映る最大の原因は、そこにあります。

井上にとって適正なスタート階級はおそらくフライ級か、ジュニアバンタム級だったかもしれません。

あるいは、無理のない体重でリングに上がったプロテストのジュニアフェザー級は冒険的かもしれませんが、バンタム級スタートでも〝適正〟だったかもしれません。

もし、バンタム級スタートなら単純計算で14ポンド上は132ポンド。ジュニアライト級を超えてライト級を伺うウエイトになります。

人気階級の本物のビッグネームと戦う、それこそ井上が恋焦がれたラスベガスの大舞台にも引っ張り上げられる可能性のあるゾーンに手がかかっていたことになります。

まあ、結果論です。

井上が傑出している理由が、層が薄くレベルも低い超軽量級だからという点もあることは、否定できません。

一方で、大橋秀行会長や真吾トレーナー、そして本人が描いていた未来予想図よりも、井上は力強い歩みを続けているとも言えます。

もし、2012年のプロデビュー前まで遡ることができたら、彼らはジュニアフライ級でのスタートを選ぶでしょうか?

それともやはり「米国の人気階級は体格的に無理」と諦めるでしょうか?



…本題に戻って「複数階級制覇」です。

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複数階級制覇の〝記録〟はマニー・パッキャオの「8」。

その内訳はフライ級(Lineal/WBC)、ジュニアフェザー級(IBF)、フェザー(Lineal/リング誌)、ジュニアライト(Lineal/WBC)、ライト(リング誌/WBC)、ジュニアウェルター級(Lineal/リング誌/WBC)、ウェルター級(Lineal/WBCWBO)、ジュニアミドル級(WBC)。


10階級にわたって8階級でタイトル獲得、その体重スパンは112ポンド(フライ級)から154ポンド(ジュニアミドル級)の32ポンド(14.51kg)。

ここで押さえておくべきは、人間が作った節目でしかない階級にどこまで意味があるか?ということです。

クルーザー級(200ポンド)王者のオレクサンデル・ウシクが、ヘビー級王者のアンソニー・ジョシュアを攻略したときの体重は221.5ポンド、ジョシュアは23ポンド(10.4kg)も重い244.5ポンドでした。

〝たった〟1階級だというのに。

「より弱い相手と戦うために自分も弱体化する減量」に身を晒しているボクサーにとっては、階級は大きな壁になりえますが、最強の自分を追求するヘビー級では体重格差の影響は受けにくくなります。


さて、井上は122ポンドでもバンタム級時代と同じ圧倒的なパフォーマンスを見せることができるのでしょうか?


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かつて、ゲンナジー・ゴロフキンとの対戦を回避、ミドル級を5ポンドも下回る155ポンドの〝カネロ級〟でタイトルマッチを繰り返したカネロ・アルバレス

それでも、2017年9月16日にはゴロフキンと常識に則った160ポンドのタイトルマッチを行いました。

カネロがキャッチウェイトでリングに上がったのは2017年5月6日のフリオ・セサール・チャベスJr.戦(165ポンド契約)が最後。

2019年11月2日のセルゲイ・コバレフ戦のあとは、前日計量からのリバウンド制限を契約に盛り込んでいません。


しかし、WBCクルーザー級王者バドゥ・ジャックと勧められていた交渉ではキャッチウエイトとリバウンド制限を要求していることが明らかになりました。

スウェーデン生まれの39歳〝The Ripper(切り裂き)〟ジャックはカネロの要求を拒否、交渉は暗礁に乗り上げています。

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現在のボクシングシーンで、カネロは最も大きな報酬が期待できるファイター。多くの選手が32歳のメキシカンとの対戦を熱望、ジャックもその1人でした。

しかし、カネロ陣営が突きつけたのは180ポンド(81.6kg)のキャッチウエイトに、リバウンド制限も加えたもの。

180ポンドは、クルーザー級リミットから20ポンド(9.1kg)も削り落とした体重です。正規ウェイトから20ポンドも下回るキャッチウエイトでのタイトルマッチは、クルーザー級というヘビー級を除いた最重量のクラスとはいえ、前代未聞。

スーパーミドル級、ライトヘビー級で不安定な王者だったジャックは、今年2月にWBC王者イルンガ・マカブを最終回でストップしてクルーザー級のタイトルを獲得。

このマカブも昨年、カネロとの対戦が内定と報じられていました。

ジャックが契約するアメール・アブダラはサウジアラビアのスキル・チャレンジ・エンターテインメント系列のプロモーション会社。

破格の契約でオレクサンデル・ウシクと契約、タイソン・フューリーにも「史上最高のファイトマネーを大きく更新する額」を提示、ウシクvsフューリーのメガファイトを企画しています。

アメール・アブダラはカネロ戦について「サウジか(ジャックが拠点を置く)UAEで行うことで大筋合意している」としていましたが、肝心のジャックが拒否反応をしましているようです。

もちろん、これはジャック陣営の駆け引き。彼らに取っての最悪は、カネロ戦が消滅してしまうことです。とはいえ、いくらなんでも「リバウンド制限+180ポンド」は飲めません。

9月のメキシコ独立記念日週間にカネロが試合をするのは既定路線ですが、ドミトリー・ビボル、デビッド・ベナビデス、ジャーモール・チャーロ、そしてジャックとなかなか交渉がまとまりません。

それにしても、ジャックに勝てば「史上初のジュニアミドルからミドル、スーパーミドル、ライトヘビー、クルーザーを制した5階級制覇」と喧伝していますが、非常に残念な5階級制覇です。

5階級も制覇したのに旬の強豪に勝ったのは、スーパーミドル級だけ。 それも殿堂クラスはもちろん、PFPにもかすらない相手では「いっそのことヘビー級までキャッチ+リバウンド制限で獲ったら?それで気が済むの?」とイヤミの一つも言いたくなります。
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さて、今度は「PLUS MINUS+/-」。

これは着弾率から被弾率を引いた数値です。

この数値もディフェンス能力に直結するかというと、必ずしもそうではありません。

◾️PLUS MINUS+/-◾️
 
①SHAKUR STEVENSON +20.3
②DAVID BENAVIDEZ +17.6
③DMITRY BIVOL +17
④VASILIY LOMACHENKO +16.4
⑤SAUL ALVAREZ +14.2
⑥GERVONTA DAVIS +14
⑦NAOYA INOUE+13.9
⑧DEMETRIUS ANDRADE +12.4
⑨KAZUTO IOKA +12⑩LEO SANTA-CRUZ +11.8 

ただ、手数で相手を上回る、ジャッジ映えするボクシングが出来ている、ということは言えます。


ディフェンス能力の指標としては、下記の「被弾率(の低さ)」の方が指標になるでしょう。
 
 
◾️OPPONENTS TOTAL CONNECT PERCENTAGE LOWEST◾️
 
①DMITRY BIVOL 12.7%
②SHAKUR STEVENSON 13.4%
③DEMETRIUS ANDRADE 17.9%
④REGIS PROGRAIS 18.5%
⑤KENSHIRO TERAJI 18.8%
⑥VASILIY LOMACHENKO 18.8%
⑦KAZUTO IOKA 18.8%
⑧DEVIN HANEY 19.9%
⑨OSCAR VALDEZ 20%
⑩ERISLANDY LARA 20.3%

「この10人の共通点は?」と聞かれると「倒しにいかない退屈なボクサー」と答えそうになりますが、拳四朗とオスカル・バルデスが入っています。

圏外のカネロは22%、井上は20.8%。対戦相手からの被弾は世界レベルでトップ10には入っていないものの、パンチャーとしては異常に高い水準です。

井岡よりも拳四朗の方が被弾率が低いというのは、軽い驚き。拳四朗は日本のボクシングファンからも過小評価されているタレントです。

着弾率トップ10と、被弾率の低さトップ10、両方のリストに名前を刻んでいるのはワシル・ロマチェンコだけ。この二つを両立させる難しさを物語っています。

 
◾️TOTAL CONNECT PERCENTAGEPERCENTAGE◾️
 
①DAVID BENAVIDEZ 38.4%
②GENNADY GOLOVKIN 36.5%
③SAUL ALVAREZ 36.2%
④ROMAN GONZALEZ 35.8%
⑤BADOU JACK 35.6%
⑥ANTHONY DIRRELL 35.5%
⑦VASILIY LOMACHENKO 35.2%
⑧GERVONTA DAVIS 35%
⑨JULIAN WILLIAMS 34.7%
⑩NAOYA INOUE 34.7%
 当て勘に秀でたファイターが並びました。カネロ、井上が共にランクイン。カネロ3位、井上10位ですが両者の差はわずか1.5ポイント。


「PLUS MINUS+/-」「着弾率」「被弾率」から見た「打たせずに打つ」という基準での比較では、カネロと井上は拮抗しています。

「PLUS MINUS+/-」と「着弾率」でカネロ、「被弾率」 で井上がわずかに上。10−10にしたいところですが、僅差でも差は認められるということで、10−9でカネロ。


第5ラウンドまでの合計はカネロの48−46。
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第1ラウンドは「PFPでの存在感」、第2ラウンドは「複数階級制覇の体重スパン」 でいずれもカネロ・アルバレス、第3ラウンドはKO能力とCompuBoxのデータから「パワーパンチ」をテーマにして井上が取りました。

第4ラウンドもCompuBoxから「ジャブ」をテーマにします。

どんなスポーツでも〝カウント球〟〝釣り球〟があります。ボクシングにおけるジャブは基本的に手首を返さずに速い引きを意識して放つパンチで、次に打ち込むパワーパンチの導火線になることはあっても、必殺の一撃ではありません。

また、パワーパンチは当たらなければ大きな意味は持たない「火力」ですが、ジャブはヒットさせるよりも「牽制」や「距離測定」などの役割を果たすことが重要な「レーダー」「触覚」です。

その意味で、ジャブの的中率に大きな意味を見出すのは禁物ですが、このリードパンチを数多く打つボクサーは「ジャバー」に大別するのは差し支えないでしょう。

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ドネアも「思いっきりねじ込んでくる、こんなんジャブちゃうよ!」と言うでしょうが…。


◾️AVG JAB THROWN/ROUNDPUNCHES◾️

①KID GALAHAD 40
②JOE JOYCE 38.7
③KENSHIRO TERAJI 38.3
④OLEKSANDR USYK 38.2
⑤REGIS PROGRAIS 38.1
⑥JAMAL JAMES 37
⑦DMITRY BIVOL 36.3
⑧CALLUM SMITH 35.1
⑨ERROL SPENCE 34.4
⑩CARLOS CUADRAS 33.9

1ラウンド当たりに放ったジャブの平均数では、カネロ・アルバレス(18.1発)は完全圏外。井上尚弥は33.3発と惜しくもトップ10入りを逃しています。

変幻自在のジャバーであり、ボクサーであり、ファイターでもある寺地拳四朗の3位は納得です。

このベスト10には、リードを起点にしたボクシングを完成させているジャバーたちが顔を揃えました。

そして、今度は着弾数。


◾️AVG JAB LANDED/ROUNDPUNCHES◾️
 
①GENNADY GOLOVKIN 9.9
②DMITRY BIVOL 8.6
③JOE JOYCE8.5
④NAOYA INOUE 8.5
⑤KID GALAHAD 7.9
⑥OLEKSANDR USYK 6.8
⑦LEO SANTA-CRUZ 6.7
⑧LIAM SMITH 6.6
⑨CALLUM SMITH 6.6
⑩KENSHIRO TERAJI 6.2 

トップはゲンナジー・ゴロフキン、4位に井上尚弥とパンチャーが顔を覗かせます。

カネロはここでも4.1発で圏外。

拳四朗は10位に〝転落〟。「手数は多いが着弾数は少ない」 ことになりますが、彼のボクシングを見たことがある100人が100人、この数字で「拳四朗はジャブが下手」とは思いません。

相手を牽制し、正確に距離を測り、空間を把握する〝ヒットしないが有効なジャブ〟が 多いのです。

これが着弾率となると「手数は多いが着弾数の少ない」拳四朗の名前が10傑から消えるのは当然。


◾️JAB CONNECT PERCENTAGEPERCENTAGE◾️
 
①GENNADY GOLOVKIN30%
②DEONTAY WILDER27.3%
③ANTHONY DIRRELL25.9%
④DAVID BENAVIDEZ25.9%
⑤NAOYA INOUE25.5%
⑥ANTHONY JOSHUA25.3%
⑦TONY HARRISON24.5%
⑧DMITRY BIVOL23.7%
⑨VASILIY LOMACHENKO23.6%
⑩DEVIN HANEY23.5% 

GGGとワイルダーがワンツーの時点で、このランキングがパワーパンチの色彩を濃くしているのが明らかです。

GGGやワイルダー、井上の手首を返して相手に大きなダメージを与えることを意識したリードブロー、つまり「教科書的にはジャブではない」パンチを〝ジャブ〟と数えているのです。

井上の的中率は25.5%で5位。カネロは22.7%で10位には入りませんでしたがヒット率は跳ね上がりました。

井上とカネロは拳四朗のように「偵察」や「距離測定」の役割を左リードよりも、フットワークによって得意の中間距離に持ち込むスタイルです。

そして、リードを主としてパワーパンチとして使うのもこの2人の共通点。

そして、このタイプのファイターにとって最も相性が悪いのはジャバーです。もちろん、両者の技量が接近していたら、という大前提がありますが。

その意味で、カネロにとってドミトリー・ビボルは悪夢のジャバーでした。

そして、来月25日に井上が対峙するスティーブン・フルトンは異常なまでの決定力の無さと体格を考慮すると、本当ならジャバーであるべきボクサーですが、そこまでの技量は全く認められません。

井上が戸惑うような「煙幕」や「バリア」のようなジャブを、来月になるとフルトンが急に習得していたなんてことは無いでしょう。

さて、カネロと井上の「ジャブ(リード)」対決は、このパンチの性格が多彩なだけに甲乙つけるのが難しいのですが、ジャブをワンツーの導火線としてマスターしている井上の10−9。

ここまでの4ラウンド合計は38−37でカネロ。
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第1ラウンドは「PFPでの存在感」、第2ラウンドは「複数階級制覇の体重スパン」 でいずれもカネロ・アルバレスに軍配が上がった仮想対決。

第3ラウンドからしばらくは「データ」の土俵で、世界のスターと日本のモンスターを比較します。

純粋な数字の戦いですから、そこには「対戦相手の質」が入り込む余地はありません。

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カネロと井上尚弥。圧倒的なパフォーマンスが目立つ2人ですから、そのパワーにまず焦点を合わせましょう。

KO率ではカネロの61.9%(63戦59勝39KO2敗2分)を、井上の87.5%(24戦全勝21KO)が大きく上回ります。

CompuBoxによる1ラウンド当たり平均のパワーパンチ・ヒット数は、カネロが10.4/22.8発=45.6%、井上が13.7/31発=44.2%。甲乙つけ難い数字です。

第3ラウンドは10−9で井上。ここまでカネロの29−27。



 
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ボクシングの階級には、人気の格差が存在します。

ウェルター級やミドル級、ヘビー級は世界的に注目度の高い人気階級です。

一方で、人種的な体格や、歴史的・文化的影響から、日本ではバンタム級など軽量級への思い入れが強くあります。

日本のボクシングファンの中には「バンタム級よりもクルーザー級の方が世界的にもマイナー」と思い込んでいる人もいるかもしれませんが、大間違いです。

単純な競技人口(今日のBoxRec)ではバンタム級の1060人に対して、クルーザー級は1160人。大きな差はありません。

とはいえ、バンタム級の選手層がアジアや中南米、アフリカなどをベースにしているのに対して、クルーザー級の選手の多くは欧米の富裕国が抱えています。

欧米での注目度はもちろん、報酬や専業の割合もクルーザー級の方がはるかに高くなるのは当然です。

複数階級制覇と一言でいっても、その価値は「誰に勝ったか」はもちろんですが「どの階級か」によっても価値は変わるでしょう。

ストロー/ジュニアフライ/フライ/ジュニアバンタムと、スーパーミドル/ライトヘビー/クルーザー/ヘビーでは同じ4階級制覇でも全く難易度が異なります。

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ジュニアミドル級、ミドル級、スーパーミドル級、ライトヘビー級と4階級制覇したカネロに対して、井上はジュニアフライ級、ジュニアバンタム級、バンタム級と3階級制覇ですが、フライ級をスキップしているので、4階級にわたって世界のトップで戦ってきました。

カネロの4階級と、井上の〝4階級〟を比較します。

体重スパンはカネロが21ポンド、井上が14ポンド。中量級と軽量級で、分母が違うとはいえ、カネロの方が同じ4階級制覇でもより大きな体重差を乗り越えてきたと言えそうです。

そして、競技人口でもカネロの4階級は合計6184人に対して、井上の実質5階級は4188人。井上の5階級から、まだ一度も戦っていないジュニアフェザー級の1239人を引くて、4階級で比較すると2949人と半分以下となります。

4階級制覇の体重スパン、競技人口では人気階級のカネロが明白に上回り、軽量級の井上では太刀打ち出来ません。

単純な競技人口でなく、その内容(報酬と専業ボクサー)まで加味すると、ダブルスコアどころの騒ぎではなくなります。

第2ラウンドもカネロで、10-8(カネロ20-17)。
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7月25日、井上尚弥が大方の予想通りにスティーブン・フルトンを倒してジュニアフェザー級のタイトルを奪取すると、井岡一翔に続く日本人2人目の4階級制覇を達成します。

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来月25日の有明アリーナ、史上2人目の4階級制覇達成は確実!

「4階級制覇」は、井岡の他にノニト・ドネア、エイドリアン・ブローナー、ローマン・ゴンサレス、ドニー・ニエテス、レオ・サンタクルスらが現役でリングに上がっていますから、稀代の大偉業とは言えません。

それでも、井岡ら現役の4階級制覇は一人残らずPFP10傑の評価を受け、ロマゴンは2年間もPFPキングに君臨しました。

そして、現在の米国市場で傑出した人気を誇るカネロ・アルバレスも4階級制覇。

世界では一般的な認知度は低いものの、専門家評価はトップランナーの井上も、フルトンに勝てば4階級制覇。

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カネロと井上。

「4階級制覇」を軸に「カネロvs井上 12回戦」のゴングを打ち鳴らします。


Round①はPFP。

どちらもPFPの常連で、1位も経験。リング誌のランクインは井上が302週間、カネロが246週間と、30歳の日本人が32歳のメキシカンに優っています。

現在の順位も、カネロが井上よりも上、というメディアは見当たりません。

しかし、2019〜2022年まで2年も1位をキープしたカネロに対して、井上の1位滞在時間は2週間足らず。

というわけで、オープニングラウンドは、10−9でカネロ。
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