カテゴリ: 井上尚弥

誰に勝ったのか?

それが最も重要視されるボクシングの世界。

では「誰」に勝つのが一番、美味しいのか?

これは〝エデル・ジョフレ〟に決まっています。

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後世から「60年代PFPキング」と圧倒的な評価を受けることになるジョフレと、ファイティング原田は2度戦って2度とも勝っているわけです。

そして、ジョフレが負けたのは生涯、原田だけ。

原田がジョフレとの初戦に勝利したとき、批判が全くなかったわけではありません。

「地元判定。サンパウロでやってたら逆の判定になっていた」「世界奪取から8度連続KO防衛のジョフレは劣化が激しかった」「1団体8階級時代の9度目の防衛戦なんて、今なら単純計算で×4団体に、階級は×2で72回目の防衛戦。そこまでいかなくとも消耗と劣化は相当進んでいた」…。

劣化ジョフレに地元判定で勝った原田は幸運だった、という見方です。

ただ、ジョフレは大切な世界戦の全てをKOで片付けてきていること、そのジョフレと接戦に持ち込んだだけでも原田は途轍もなく強かったというのが歴史的評価です。

そして、劣化の点も、原田に2連敗して引退したジョフレが3年のブランクを経てカムバック、フェザー級の世界王者になった事実を考えると、極めて怪しくなってきます。

同じ〝ジョフレ〟型の典型は、モハメド・アリのジョージ・フォアマンでしょう。

1974年に「象をも倒す」と恐れられた強打でヘビー級史上最も恐れられた25歳のフォアマンを、32歳のアリが「ロープ・ア・ドープ」「Rumble In The Jungle」「キンシャサの奇跡」…ボクシングファンなら誰でも知っている神秘的なキーワードに彩られた大勝負で破壊したのです。

そのフォアマンが、ボクシング没落でレベルが落ちた80年代にカムバック、94年に20年と4日ぶりに世界王者に返り咲いた偉業はフォアマンはもちろん、アリのレガシーにも特別すぎる光を当てることになるのです。

「90年代でも頂点に立ったフォアマンの1974バージョンはどれほど強かったんだ?」という素直な疑問と「徴兵拒否で3年以上のブランクを作らなければアリはどれほど強かったんだ?そもそも1974年時点でもどれほど強かったんだ?」という畏敬の想像。

もし、エマヌエル・ロドリゲスが井上に敗れただけで無敵の快進撃を続けていたなら、スティーブン・フルトンがやはり井上に負けただけでフェザー級やジュニアライト級で強豪王者として君臨してくれたら…。

井上もまた〝ジョフレ〟を手に入れたことになるのですが…。
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ロベイシ・ラミレスが「またやっちまったショック」を紛らわせるため、再びこのお話を再開。

去年からやってる年末行事、タイトルの西暦はこのままにしときます。

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今、日本のボクシングファンに「史上最高ボクサーは誰か?」のアンケートを取るとどんな結果になるでしょうか?

これはボクシングに限らず、難しいテーマです。

というか、こんなもの答えのない禅問答。

純粋に技術だけに焦点を当てると現代のボクサーが有利、日本を熱狂させたという温度では娯楽の少なかった昔日に軍配があがります。

それでも「今の日本のボクシングファンへのアンケート」とすると、こんな感じでしょうか?

①井上尚弥
②具志堅用高
③西岡利晃
④長谷川穂積
⑤山中慎介
⑥内山高志
⑦辰吉丈一郎
⑧井岡一翔
⑨村田諒太
⑩竹原慎二

…日本人にとっての階級難易度や欧米目線での人気階級まで考慮すると村田と竹原が一気にトップ戦線に躍り出るかもしれませんが、おそらくは井上がダントツで、2位以下が大混戦という図式になるんじゃないでしょうか?

そして、世界的・歴史的評価が非常に高い、日本人で唯一のモダン部門での殿堂入り、それも一発殿堂を果たしているファイティング原田は、リング誌などの圧倒的な世界評価にも関わらずベスト10入りも怪しいかもしれません。


ボクシングの魅力は他の格闘技にはない〝連続性のある歴史〟です。

プロ野球も同じで、村上宗隆を王貞治が語ったり、大谷翔平がベーブ・ルースを呼び覚ますのも、艶やかな歴史が紡がれてきたがゆえ。

王が村上を絶賛したり、多くの専門家やファンが大谷を「バンビーノと比較する選手が見れるなんて!」と感動するのも、豊穣な歴史があってこそ。

ピート・ローズが「イチローの日米通算安打なんて認めない」と、〝後継ぎ〟を激しく否定するのだって、分厚い歴史があるからこその一断面です。

語られない歴史なんて、意味がありません。

もし、そんな狭量な人がいるとしたら…、ピート・ローズの方がはるかにマシです。
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ロベイシ・ラミレスが15−1と圧倒的有利の賭け率を引っくり返され、無名のメキシカンに敗れてしまいました。

渡辺二郎はかつて「相手に生き死には俺が一番わかってる」と、セコンドの指示に従わず、ファンの「倒せたのに」という声にも「こっちが一番わかっとんねん」と笑い飛ばしました。

ラファエル・エスピノサが失神させないとKOできないタフな相手であることは、イスマエル・サラスが黄色信号を出スマでもなく、モニター越しに観ているファンにも伝わってきました。

経験と技術が不足しているメキシカンがそれを補う勝負根性を持っていることをわかっていないのは、一番近くでエスピノサを見ていたはずのラミレスでした。

圧倒的な技術に加えて、その過剰なまでの自信が、五輪決勝でシャクール・スティーブンソンを恐怖のどん底に叩き落とし、金メダルの可能性を放棄してまで逃げ回らせたともいえます。

しかし、サラスが「私が見た中では三つの指に入る」という才能は、デビュー戦でまさかの敗北を喫します。

世界中のボクシングファンやメディア、ブックメーカーの「あの屈辱の〝出落ち〟が良薬になるはず」という好意的な見方は、間違っていたようです。



ラミレスと井上尚弥の対決は、具体的な交渉ベースに乗った話ではなく、未来の希望でした。

生涯の試合数が限られ、プロモーターやテレビ局などの外的要因から強豪との対戦が実現しにくいのがプロボクサーの因果。

特に、一つの階級に強豪王者が長期政権を築くことは珍し苦なってしまった4Belt -Eraでは、複数階級制覇してもまともな旬の強豪と巡り会えない不幸が当たり前に起きてしまいます。

そんな4Belt -Eraでもマニー・パッキャオやフロイド・メイウェザーは、多くの好敵手に恵まれました。

〝青コーナー〟と〝Bサイド〟が宿命づけられていたパッキャオと、メキシコの時代を迎えて強い黒人選手が正当に評価されない時代に悩んだメイウェザーを、何もかもに恵まれた井上と比較するのはそもそもの実績が違うという以前に、立場が違うのです。

しかし…。

運が悪いだけでなく、何もかも恵まれた環境もこの原因の一つかもしれません。

もし、井上がフィリピン人ならジュニアフライ級王座のアタックでアドリアン・エルナンデスなんて選べなかったでしょう。選べない立場のタイトル奪取には、全盛期のドニー・ニエテスやローマン・ゴンサレスとの対戦が避けられなかった可能性大です。

さらに、パッキャオならエマヌエル・ナバレッテの対戦要求を「縁がなかった」と、見合い話を断るようなぬるい言葉で片付けるわけがありません。シャクール・スティーブンソンやガーボンタ・デービスとの対戦へもあからさまな興味を示していたのは間違いありません。

もちろん、井上がチキンやヘタレなのではなく、井上にはそんな危険な橋を渡る必要がないのです。

パッキャオやメイウェザーが日本人なら、自殺行為と揶揄されるような冒険に乗り出したり、下劣な振る舞いで悪役イメージを演出する計算も、全く必要のないことです。



それをわかった上で、やはり井上はタイミングが悪過ぎます。あまりにも悪過ぎます。

伝説の理想は、モハメド・アリやパッキャオ。

「誰もが恐れる王者を倒して」「その存在をリングの中で誇示し」「敗北から立ち直って若き王者を翻弄する」。

井上は「強さを誇示すること」は出来ていますが、彼が倒した相手がどれほど強かったのか?というファイティング原田やアリやパッキャオを間接的に際立たせた演出が欠落したまま、年齢だけが「若き王者を翻弄する」ステージに差し掛かってしまっているのです。

極貧パッキャオや、狂気のアリはさておいて、時代が違うだけで同じ日本人の原田のなんと恵まれていたことか。

もちろん、原田は1団体8〜10階級、それぞれの階級に強豪王者が君臨するのが当たり前の時代に生きていました。

…と考えると、やはり運、タイミングが悪すぎるのか?
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来年、31歳になる井上尚弥にとって、2大会連続金メダリストの看板を背負うロベイシ・ラミレスはキャリア最高の敵になるはずでした。



PUNCHESRAMIREZESPINOZA
Total landed119222
Total thrown376995
Percent32%22%
Jabs landed1843
Jabs thrown79355
Percent23%12%
Power landed101179
Power thrown297640
Percent34%28%

現時点で、井上のキャリア最強はのちにジュニアフライ級でリング誌と団体統一王者になる田口良一です。

続いて、オマール・ナルバエスとノニト・ドネアの軽量級では40前のロートル。

スティーブン・フルトンは初めて拳を交える全盛期の階級最強王者でしたが、最強と呼ぶには世界レベルでのキャリアは貧弱、非力なのに防御が欠点という目も当てられないボクサーで、フェザー級でその評価を上げることは難しいでしょう。むしろ、どんどん評価を下げてフェイドアウトしていくと考えるのが自然です。


そして、ラミレス。デビュー戦で躓いたとはいえ、その後は順調に実力を発揮してきたエル・トレンでしたが、15−1のオッズをひっくり返される敗北。

「Fighter Of The Yearにノミネートされるダウン応酬の激闘だった」(ESPN)なんて慰めは要りません。

勝ったエスピノサは29歳のメキシカン。第5ラウンドの痛烈なダウンから立ち直って逆襲、メキシカンらしい勝負根性を見せましたが、ここから強豪王者になるか?というと、今日の戦いぶりでは疑問符しか浮かびません。

体格のアドバンテージを自ら殺すことにかけては、セバスチャン・フンドラを連想させます。

井上がフェザーに上がったとき、エスピノサはベルトを守り続けているでしょうか?
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ボクシングシーン・ドットコムが、ジュニアフェザー級を完全統一した井上尚弥が来年にもWBOフェザー級王者WBOロベイシ・ラミレスとのビッグファイトに進む可能性を報じています。


 The odds in place make it easy to envision a Ramirez-Inoue fight in 2024. 


この二人が共にトップランクと契約していることは、試合成立の障壁が一枚少ないことを意味します。

また、今年7月25日のイベントで揃い踏みしていること(井上vsスティーブン・フルトン/ラミレスvs清水聡)を、近い将来に向けた伏線(現実的な交渉云々ではなく両者の意識的なものも含めて)と考えるのは穿った見方ではないでしょう。


さて、このビッグファイトが実現したら…?

井上サイドから見て、キャリアのターニングポイントになる要素は7つ。

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①キャリア初の金メダリスト。

ラミレスはロンドン2012、リオデジャネイロ2016の五輪2大会連続の金メダリスト。

日本人選手が元金メダリストと対決したのは尾崎富士雄vsマーク・ブリーランド(ロスアンゼルス1984)、木村翔vs鄒市明(北京2008/ロンドン2012)、中谷正義vsワシル・ロマチェンコ(北京2008/ロンドン2012)の例があります…他にもあるか?。

しかし、勝利したのは木村だけ。その木村の鄒は、プロでは煮え切らない戦いぶりに終始しており、強豪と呼ぶのは憚られる存在でした。

いずれにしても、井上にとってラミレスはキャリア初の五輪金メダリストです。




②ラミレスは過去最強の相手。

オマール・ナルバエス、エマヌエル・ロドリゲス、スティーブン・フルトン、階級を上げるたびに「過去最強の相手」が現れてきた井上。

今回もその流れでラミレス…というわけでは、もちろんありません。

39歳のナルバエス、評価暴落のロドリゲス、そもそも決定的な強さが欠落していたフルトンと、29歳のラミレスではワケが違います。




③会場は東海岸?MSG?バークレイズセンター?

井上もラミレスもこのクラスではビッグネームとはいえ、軽量級人気が高い日本での開催が有力です。

それでも、キューバ人の多い東海岸での開催もあり得るかもしれません。

実際に、ラミレスはマディソン・スクエア・ガーデン(MSG)で2試合を戦っています。

いずれもシアターで、アンダーカードでしたが、「井上vsラミレス」なら人気階級のセミファイナルでMSGのアリーナや、バークレイズセンターも十分ありでしょう。




④フェザー級以下で史上初の18ポンド超え。

ジュニアフライ級(108ポンド)からジュニアフェザー級(122ポンド)の14ポンド超えの階級制覇を成し遂げたのは、ホルヘ・アルセと井上尚弥(フライ級をスキップ)だけ。

ノニト・ドネアがフライ級(112ポンド)からフェザー級(126ポンド)のタイトルをピックアップしていますが、このスパンも14ポンド。

井上がフェザー級でもベルトをコレクションすると、史上初の18ポンド超えとなります。


※フライ(112)〜ジュニアミドル(154)を制したマニー・パッキャオは除く。




⑤この試合に勝てばFighter Of The Yearと、PFP1位を掴む。

井上が印象的な勝ち方を収めたら、PFP1位返り咲き、日本人初のFighter Of The Yearも確実。

すでに決定的なモダン部門での殿堂入りにも「First ballot(一発)」の枕詞が付けられるはずです。

モダン部門での殿堂入りはファイティング原田だけ、その原田も一発殿堂でした。

原田は1団体8〜10階級時代にフライ級とバンタム級でUndisuputed Chamoion、フェザー級でも十分通用する素養を見せました。

井上は4団体17階級時代でジュニアフライ級からフェザー級を制覇、原田の階級を完全に飲み込むことになります。

「日本人最高ボクサー」は、もはや議論されなくなるかもしれません。




⑥国民栄誉賞もあり?

ボクサーではプロアマ問わず、国民栄誉賞は誰も獲得していません。

ボクシングファンなら、ジュニアフライ級からフェザー級までの5階級で階級最強王者として君臨することがどれほどの偉業かよくわかるとはいえ、悲しいかなマイナースポーツ。

しかも、公共性の高い(人気のある)スポーツでユニバーサル・アクセス権が取り沙汰されている中で、ネット配信の方向に一気にのめり込んでいるボクシングは、自らマイナーの沼に沈み込んでいると言えます。

国民栄誉賞は難しいか?





⑦井上が引退するときにキャリアを振り返って、これが最大の試合になる。

井上の上限階級がフェザーかジュニアライトだとすると、カネロ・アルバレスや、ウェルター級時代のフロイド・メイウェザーやマニー・パッキャオはもちろん、その一つ下のビッグネームとの遭遇も非常に難しいと言わざるを得ません。

井上引退のリミットまでの時間にフェザー級〜ジュニアライト級で、人気と実力を兼ね備えたメキシカンが突然現れないとも限りませんが、やはり難しいでしょう。

そう考えると、この試合が井上尚弥というファイターのクライマックスになる可能性が濃厚です。
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さて、そして現在のジュニアフェザー級シーンです。

ランキングはよく使うリング誌やESPNではなく、The Transnational Boxing Rankings Board(TBRB)から。

ドロドロ・ボロボロのリング誌(「誌」というのはもう違いますね)、トップランクと関係の深いESPNよりも、多くのボクシング専門記者が集まって創立したTBRBが発表しているランキングが最も信頼すべきものでしょう。

ギレルモ・リゴンドーが昨年7月、時間切れで王座は空位に。

1位:井上尚弥、2位:マーロン・タパレス、3位:スティーブン・フルトン、4位:ルイス・ネリ、5位:ムロジョン・アフマダリエフ、6位:サム・グッドマン、7位:ライース・アリーム、8位:ジョンリール・カシメロ、9位:アザト・ホバニシャン、10位:リーアム・デービス。

フルトンが以前として高止まりなのは、他のファイターもほぼ傷物で「誰にその傷を付けられたのか?」の問題です。

このメンツで無敗なのはグッドマン(16戦全勝7KO)と、デービス(14戦全勝6KO)。

グッドマンはTJ・ドヘニーに勝利して名前を挙げた、25歳のオージー。昨年5月には1階級下の当時日本バンタム級1位の富施郁哉に判定勝ち。

パワーはもちろん、スピードもない、モロニー兄弟の亜種。那須川天心に完封されそうな、豪州の過保護です。



デービスは27歳の英国人。こちらも過保護という点では、グッドマンに負けてません。デビューから恐るべき雑魚ばかりと戦い、最初の英国バンタム級タイトル(空位)を獲るまでの対戦相手の星勘定トータルは6戦(6人)で66勝239敗20分。勝ち越している相手はゼロ。

それでも、英連邦や欧州、WBCインターナショナル・シルバー、WBOインターナショナルなどの地域タイトルを2階級に渡って5つもコレクション。

今週末にはキャリア初の無敗の相手を迎えますが、もちろん相手は無名の雑魚。

フランク・ウォーレン傘下の白人英国人、まあ知らないうちにフェイドアウトしてそうです。



こうして見ると、不運な判定(と言っても自業自得)でタパレスに足元をすくわれたアフマダリエフが今なお、「vs井上」で最も興味深い相手でしょう。

五輪のバンタム級(56kg)銅メダルという看板も、井上の過去の対戦相手では傑出したアマ実績。

アフマダリエフは来月16日、再帰戦で無敗のメキシカン、ケビン・ゴンザレスを迎えます。このイベントのメインはバム・ロドリゲスとサニー・エドワーズの無敗のフライ級団体統一戦。

しかし、12月もすぐそこです。

去年はボクマガにリング誌が廃刊、今年はショータイムがボクシング事業から撤退。景気の悪い話ばかりのボクシング界ですが、26日の有明アリーナでは不景気もタパレスも吹っ飛ばす井上尚弥プレゼンツのスペクタクルを期待しましょう。
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まだ記憶に新しい、井上尚弥のバンタム級完全統一。

井上が118ポンドに乗り込んだのは2018年5月25日、WBAセカンド王者ジェイミー・マクドネルに挑戦したときでした。

減量大失敗で重篤状態だった英国人を92秒で轟沈した井上は、この試合が16戦目。この時点でのバンタム級シーンは、ゾラニ・テテが1位で井上はいきなり2位に格付けされていました(リング誌)。

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階級最強候補のライアン・バーネットは3位、そのバーネットがIBF王座を放棄し、対戦を先延ばしにしタイトルを獲得したのが4位のエマヌエル・ロドリゲス。

5位には完全劣化バージョンとはいえ、PFPファイターのアンセルモ・モレノを大番狂せで破ったファン・カルロス・パヤノ。

WBSS開幕前のこの段階では、英国の人気者バーネットに、プエルトリコのホープ10傑にも数えられたロドリゲスという楽しみなターゲットが二人存在しましたが…。

バーネットは圧倒的有利予想だったノニト・ドネア戦を腰椎すべり症で落とし、ロドリゲスもジェイソン・モロニー戦で信じられないほどの気持ちの弱さとディフェンスの欠陥を曝け出してしまいます。

残る興味はマクドネルと同じ長身のバンタムながら、実力評価は遥かに高いテテでしたが、WBSS準決勝のドネア戦を怪我を理由に棄権。口頭で約束された報酬と、書面の報酬の格差に絶望し、WBSSの欺瞞に怒りを抑えきれなかったのが、棄権の本当の理由と言われています。

そのテテは、ジョンリール・カシメロにまさかの大番狂せでノックアウト負け。

井上のバンタム級統一ロードの前に立ち塞がるのは、このランキングには名前の見当たらない全盛期から8年過ぎたドネアと、一発屋カシメロになってしまいます。

井上にとってバンタム級を焼け野原にして完全統一するのは、最後に残された相手がポール・バトラーという心身ともに穴王者、造作もない作業になってしまいました。

勝つ気のないバトラーに井上が「何しに来たんだ?」と吐き捨て、松本人志は「全然、バトラーじゃなかった」と呆れ果てた試合で、バンタム級の完全統一は幕を閉じてしまいます。

ワールド・ベースボール・クラシックのフィナーレを「これ以上の物語はない」と評した沢木耕太郎の言葉を借りると、井上のバンタム級統一は、その強さが頭抜けていることを考慮しても「これ以下はない」という見応えのないものに終わってしまうのです。
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井上尚弥の4階級。

108ポンド(2014年4月6日)、115ポンド(2014年12月30日)、118ポンド(2019年5月18日)、122ポンド(2023年7月25日)。※(カッコ)は世界タイトル獲得の日時。

その直前の階級勢力図をリング誌ランキングから見直します。

まずは、108(ジュニアフライ)=左=と、115(ジュニアバンタム)=右=。

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WBC王者アドリアン・エルナンデス挑戦前の井上は、ジュニアフライ級9位。

一応、世界王者でも長谷川穂積戦前のフェルナンド・モンティエルと、井上戦前の〝10年無敗の絶対王者(笑うとこです)〟ジェイミー・マクドネルも9位でしたが、アルファベットタイトルを持っていたにもかかわらず9位、彼らは非常に低い評価でした。

逆に、アルファベットを持っていないにもかかわらず9位に序列された井上は、非常に高い評価を得ていたことになります。

4位のエルナンデスは4団体のタイトルホルダーとしては最低評価、モイセス・フエンテスより下。リング誌は、階級最強をドニー・ニエテスか井岡一翔と目していました。

この時点のエルナンデス狙いは当然です。井岡とは試合が成立するわけがなく、ニエテスは危険すぎます。

突っ込むところがあるとしたら「限界通り越した減量なんてせずにジュニアバンタムかバンタムでデビューしていたら、今頃は…」ということでしょうが、それは結果論。

この時点で、井上がどこまでの器のファイターか、誰もしっかり把握していませんでした。



続いて、井上が飛び込む直前の115(ジュニアバンタム)。1位は39歳のオマール・ナルバエスですが、結構なメンツが控えています。

2位がカルロス・クアドラス、3位にシーサケット・ソールンビサイ、8位のオーレイドン・シスマーチャイは井岡にストロー級タイトルを奪われた元王者、井岡にしか負けずにジュニアバンタムまで行進してきたのです。

そして5位にはゾラニ・テテ。

ここも、ファン・カルロス・レベコのWBAフライ級狙いだった井上が、同じアルゼンチンのマネージャー傘下のナルバエスに路線変更したもので「全盛期のクアドラスやテテとやっていたら」というのは結果論。


以上のように、この2階級はそれなりのレベル、陣容だったのです。
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井上尚弥は4つの階級でトップ選手を次々と撃破してきました。

ジュニアフライ級でアドリアン・エルナンデス、ジュニアバンタム級でオマール・ナルバエスと河野公平、バンタム級ではジェイミー・マクドネル、ファン・カルロス・パヤノ、エマヌエル・ロドリゲス、ジェイソン・マロニー、ポール・バトラー、ジュニアフェザー級でスティーブン・フルトン。

この9人はいずれも認定団体のデタラメランキングを糾弾する記者たちで結成したTransnational Boxing Rankings Board(TBRB)や、ESPN、リング誌が作成したまともな世界ランキングで10位以内に入っていたコンテンダーです。

4団体17階級時代で特徴的な認定団体のエゴ丸出しのデタラメの王者や、デタラメ〝世界ランカー〟との対戦はほとんどありません。

安易な対戦者を選んでいないのです。

その一方で、文句無しの強豪との対戦はナルバエスだけという〝不思議〟が横たわっています。

井上信者が盲信する〝10年無敗の絶対王者〟マクドネルはWBAのセカンド王者に過ぎず(井上がバンタム級タイトルを最初に獲得したのはロドリゲスのIBF)、リング誌ランキングでは下位、誰もが認める階級最弱王者でした。

世界王者に就くまでは評価が高かったロドリゲスは世界戦ではパッとしない試合が続き、株価は暴落。

リング誌122ポンドで1位評価を受けていたフルトンもパンチスタッツのデータを見るまでもなく、防御に難がある、驚くほど非力なボクサー。世界戦わずか4試合(3勝1敗)で最高の勝利は減量苦で脱水状態だったブランドン・フィゲロアにMDで辛勝したものというお粗末さ。

フルトンがフェザー級で覚醒、強豪に明白な勝利を収めながらランクを上げ、王者に返り咲くようなら、井上の評価にも跳ね返ってきますが…。

そして、唯一の文句無しの強豪であるナルバエスはフライ級とジュニアバンタム級で無敗の2階級制覇、それぞれ二桁防衛という数字を並べながら「これでPFPに入らない方が難しい」と馬鹿にされるほど、対戦相手の質は低いものでした。

そして、3階級制覇を狙ったドネア戦で見せた勝つ気ゼロの試合ぶりから世界中のメディアとファンから「ライセンスを返上しろ」「2度とリングに上がるべきではない」と、さらに軽蔑される始末。

そんなナルバエスが日本に来ると「伝説の名王者」。

ナルバエスは、ゾラニ・テテ戦でもドネア戦と同じ、スポーツを侮辱するような行為を繰り返し、ボクシング界を呆れ果てさせ、確かに〝伝説の迷王者〟になるのですが。

井上には一片の責任もなく、〝不思議〟の正体は井上が攻め込む階級はレベルが落ち込んだ時期だったということでした。

ナルバエスではなく、ファン・フランシスコ・エストラーダだったなら…同じキャリア末期で劣化バージョンの強豪王者でも世界評価には天地の差があります。

井上のタイミングには、不運としか表現のしようがありません。


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井上と対照的なファイターがマニー・パッキャオでした。

最初の世界戦でユーリ・アルバチャコフを破って王座とPFPランキングを引き継いだチャチャイ・ダッチボーイジムを大逆転KO。

さらに、マルコ・アントニオ・バレラ、エリック・モラレス、ファン・マヌエル・マルケスというPFPトップ5に数えられる人気と実力を兼ね備えたのメキシカンが居並ぶ、軽量級では歴史上ありえない豊穣な時代に恵まれるのです。


ちなみに、井上は現役PFPファイターとの対戦は1試合もありません。PFPに接近していた相手もいません。元PFPでもドネアだけという残念さ。

死んだ子の歳を数えるような虚しいことですが、「モンスターがすれ違った上等の獲物たち」を振り返ってみます。

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もし、ちょうど8年前の2015年11月に井上がフライ級進出のタイミングなら…。PFP2位、デビューから43連勝、昇り龍のローマン・ゴンサレスと戦う幸運に恵まれていたかもしれません。

あるいはバンタム級なら、PFP9位、やはり無敗の山中慎介との史上最大の日本人対決が実現していたかもしれません。

そして、ジュニアフェザー級ならやはり無敗でPFP5位のギレルモ・リゴンドーの超絶技巧に挑んでいたかもしれません。

2018_09

あるいは、5年前の2018年。井上があとほんの少しだけジュニアバンタムにとどまっていたら、115ポンドで勃発するPFPラッシュ(カルロス・クアドラス、ローマン・ゴンサレス、シーサケット・ソールンビサイ、ファン・フランシスコ・エストラーダ、ドニー・ニエテス、井岡一翔ら最多3人が同時にPFP入り)に遭遇、入れ食い状態のPFP10傑の〝上等の獲物たち〟と激闘を繰り広げていた公算大です。

あるいは、井上があと10年早く生まれて2011〜2015年のバンタム級からジュニアフェザー級シーンに飛び込んでいたらアンセルモ・モレノ、ノニト・ドネア、アブネル・マレス、レオ・サンタクルス、カール・フランプトンら、PFPファイターと拳を交えていたはずです。


これほどタイミングに恵まれないファイターも珍しいとはいえ、マイク・タイソンやロイ・ジョーンズJr.もそうでした。

〝上等の獲物たち〟とのニアミスを重ねてきた井上に、いつの日かその実力に相応しいライバルが現れてくれるのでしょうか?

現在のジュニアフェザー級は無惨な状況、一つ上のフェザー級も荒れ果てて、PFPファイターなど〝元〟すらいません。ロベイシ・ラミレスが脅威の王者にのし上がってくれたら嬉しいのですが…。
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◾️あ

2023/10/12 19:38

個人的には、井上尚弥は藤井聡太や羽生結弦、吉田沙保里並のリスペクトを受けても良いと思うんですけどね。
元記事: 【今朝の丸の内線5分話】藤井聡太、八冠独占、Undisputed Championに! (編集)
IPアドレス:124.159.41.229/禁止IPに追加

1.数日前にも取り上げさせていただいた「あ」さんのコメント。

これはボクシングファンの多数意見かもしれません。

将棋やフィギュア、レスリングと比較して、プロボクシングは特別マイナーな存在ではありません。

そして、井上尚弥は現代日本ボクシングシーンの中では彼らと同じく傑出した存在です。

井上にも羽生や吉田のように国民栄誉賞が贈られたり、藤井のような老若男女から大きな関心・注目が注がれても良いのではないか?という思いは自然の発露かもしれません。

ただ…。




◾️いちご

2023/10/12 22:48

書いておられる様なことをある程度理解した上で井上を過剰に悪くいう人もまたいますね。
結局、4つの団体、細分化された軽量級、プロモーター次第のマッチメイク。。ツッコミどころ満載のスポーツ?では彼ら3人とは比べようがないかな。とは思います。
元記事: 【今夜の銀座線15分話】暴論サロンと答えのない格付け査定。 (編集)
IPアドレス:183.77.88.102/禁止IPに追加

2.「いちご」さんのコメントは対象の記事は違いますが、「あ」さんへのアンサーになっています。

誰の頭の中でも「藤井聡太=日本最強=世界最強」「羽生結弦=世界最強」「吉田沙織=世界最強」という単純な等式が簡単に成立するのに対して、井上尚弥は、非常に難解な方程式の解を求められるような存在です。

WBCジュニアフライ級、WBOジュニアバンタム級、完全統一バンタム級、2団体統一ジュニアフェザー級のストラップを全て完全ホームの日本のリングでコレクション。

「軽量級」は、少なくとも、ストラップが分配されるステージが基本的に日本という点では「世界」には見えません。さらに、アルファベットの承認団体が一つ残らず腐敗した零細団体であること、明らかにおかしなランキングと世界戦を性懲りもなく捏造し続けています。

本当ならスポーツ仲裁裁判所(CAS)などに訴えられてもおかしくない不条理が平然とまかり通っているのが、プロボクシングですが、プロボクシングの世界では誰もがその不条理を甘受したり、利用したりしています。

世界挑戦権を与えられながら不条理に「待て」を喰らった亀田和毅はCASに訴えたら良さそうなものですが、そうしないところにこのスポーツの闇が横たわっっています。というか、プロボクシングはもはやスポーツとして認められないステージに突入しています。

2団体13階級あたりまでは、一般紙でも海外で行われた外国人同士の対戦でも世界戦なら、少なくとも結果は掲載されていました。それが今では、カネロ・アルバレスの試合でも全く触れられないのが当たり前。

世界的な統括団体を持たない、各国各地域で好き放題やって、4つもあるアルファベット団体が利潤目的だけで細分化した細切れ・水増し階級で理解不能のタイトルマッチを挙行する…もはやスポーツとしての体を成していないのです。




◾️yuin

2023/10/13 00:06

どこのメディアでもPFP3位以内にいるから凄いんだ、と評価したら妥当な評価と言えるでしょうか。
国民栄誉賞も瞬間風速の人気に政府が乗っかってるだけで、難易度反映にはなってませんね。世界一のタイトルこそありませんが、メジャーな男子テニスの世界トップ10に4年程居続けた錦織圭を世間に再評価してもらいたいところです。
元記事: 【今夜の銀座線15分話】暴論サロンと答えのない格付け査定。 (編集)
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3.非常にわかりにくい井上尚弥のポジションについて、承認団体やプロモーターの仕掛ける興行の素材には欺瞞が含まれていても、それらを批判し続けてきたESPNやTBRB、リング誌などのジャーナリズムのPFPがトップレベルで一致するなら、それなりの評価を与えて良い、また国民栄誉賞には競技種目やその達成度に対する難易度が反映されていない、という「yuin」さんのご指摘。

妄想であるPFPでも信頼できるメディアが揃って高評価しているなら、それは一つの真実。また、日本のプロスポーツ選手で最高の名誉とほぼ確定されている国民栄誉賞もまた、達成難易度が全く反映されていないもう一つの妄想であるというのは、事実です。

もちろん、達成難易度と世界へのインパクトを適正に評価してしまうと大坂なおみと錦織圭、サッカー男子フル代表はとっくの昔に国民栄誉賞が贈られていて然るべきす。

ボクシングでは「軽量級の完全統一」と、村田諒太の「五輪金メダル&ミドル級で世界王者返り咲き」の達成難易度は比較になりませんが、井上も村田も完全対象外。




◾️戦闘機Fighter

2023/10/13 00:47

井上尚弥も隣合った二つの階級でUndisputed Championになれば8階級1団体時代の世界王者と遜色のない嘘偽りの無い世界王者なので驚くべき快挙ではありますね。
ここ数戦は試合後にはNHKや報道ステーションでも特集が組まれネット配信試合でも世間的関心は高まってる感じです。
元記事: 【今夜の銀座線15分話】暴論サロンと答えのない格付け査定。 (編集)
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4.「戦闘機Fighter」さんの「隣合った二つの階級でUndisputed Championになれば8階級1団体時代の世界王者と遜色のない嘘偽りの無い世界王者」というのも、その通りです。

現実にはフライ〜バンタム〜フェザーの3階級が、ストロー〜ジュニアフライ〜フライ〜ジュニアバンタム〜バンタム〜ジュニアフェザー〜フェザーと7階級に細切れされ、安易な複数階級制覇の流行から強豪王者が鎮座することが少ないという事情がありますが、4つのタイトルを蒐集する手間暇では現代のファイターの方が負担が大きくなります。

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いずれにせよ、ボクシングの世界は「単純な等式」では語れません。

上記では「非常に難解な方程式」と書いてしまいましたが、もしかしたら「解」などないのかもしれません。つまり、等式でも方程式でもない…。

特に、数えきれない歪なファクターが絡み合った軽量級は厄介極まります。
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