カテゴリ: トレーナー/プロモーター/舞台裏の主役たち

認定団体が協力することは極めてまれです。

独自のデタラメ・ランキングによって独自のタイトルを作っている彼らにとって、マフィアがそうであるように同業者は限られたパイを争う敵でしかありません。

しかし、「デタラメでないランキングを作る」「タイトルは1階級に一つ」「意味のない水増し階級は廃止」と、ド正論を唱える者が出現すると話は別です。

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…ガラクタ?


サウジアラビア総合娯楽庁の肝煎りで立ち上げられたZuffa Boxingプロモーションの責任者ダナ・ホワイトは「認定団体のランキングはおかしい。つまりチャンピオンシップも腐敗、崩壊している。おかしくないと考えるなら、堂々と表に出てきて釈明してみろ」と笑い飛ばしています。

しかし、認定団体はまともな回答はできず「ホワイトはUFCと同じように選手を搾取しようとしている」と議論をすり替えています。

「収益を下位のファイターにも分配する」というUFCのやり方は間違っていません。「持続可能な成長のため(の内部留保)」は怪しい部分もありますが、収支決算を透明化することなどで正当化できるでしょう。

わずか30年あまりで、ゼロからボクシング界を買い取るまでに成長したUFCの方が経営的に優れているのは疑いようもなく、既存のボクシング界がこの30年でさらに没落したのは「選手ファーストの姿勢を貫いたから」なんて綺麗事ではないことは、ボクシングファンなら誰もがわかっています。

認定団体の反論はあまりにも虚しく、弱々しく、そこには盗人にもある一部の理すらありません。彼らは、ほぼすべて、何から何まで間違っているのです。

2026年、IBFとWBOは異例の合同総会を開催、現在のシステムの維持と、各国コミッションがZuffa Boxingと提携しないようロビー活動にも取り組んでいく方針ですが、すでにカリフォルニア州ボクシング・コミッションはサウジの提案を受け入れることを決定しています。

また、リヤド・シーズンからスポンサー資金の提供を受けているWBAとWBCは、この合同総会の参加を拒否しており、主要団体の足踏みは乱れています。

ホワイトの「規制の認定団体は認めない」という声明が聞こえているはずのWBAとWBCですが、ここでサウジに反旗を翻すのは得策ではないと考えているのでしょう。しかし、「認定団体のベルトはチャンピオンベルト(一番強い証拠)ではない」と断じられているのです、存在を否定されているのです。

それでも「自分たちのランキングは正しい。ベルトには価値がある」とはっきり反論できないのは、自分たちが間違っているのを、自分たちでよくわかっているからでしょう。

それにしても、デタラメ仲間が戦おうとしているのに無視…腐り切った認定団体らしくて笑えます。



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サウジアラビア総合娯楽庁のトゥルキ・アル=シャイフ長官とダナ・ホワイトが設立したプロモート会社 Zuffa Boxingが「ボクシング興行に参入する」と宣言したのが、今年6月。

その最初の興行「カネロ・アルバレスvsテレンス・クロフォード」が9月13日に開催されました。

宣伝広報活動ではUFCの3文字が踊り、違和感を覚えたファンも少なくなかったでしょう。既存勢力は「ポッと出の総合格闘技の参入はボクシングの伝統や格式を混乱させるだけ」と嫌悪感をあらわにしますが、Zuffa Boxingの主張が正論です。

「4つの認定団体がデタラメランキングをベースにチャンピオンシップ制度を騙る現状がボクシングをここまで堕落させた元凶。腐敗した認定団体と共謀したプロモーターたちも同罪」と糾弾、4Belt -Eraの深まりと共に認定団体のベルトの価値はますます下落、認定団体と既成の利益にしがみつくプロモーターを追放する」。

ボクシングは腐敗認定団体が選手報酬の3%を徴収してタイトルマッチを認定する異常な事態が常態化、米国ではマイナースポーツに追いやられただけでなく、もはやスポーツとしての扱いを受けないケースも多々見られています。

Zuffa Boxingは、最終的に軽量級を中心に利益追求だけのために水増しされた階級を廃止、タイトルも一本化する方針です。ベルトも総合娯楽庁の機関誌「The RING magazine」に統一されると見られています。

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⬆︎カネロvsクロフォードで用意された黄金をふんだんに使った特別ベルト…。結局、やってることはWBCと変わりません。主張は正論でも、人気階級のスター選手を優遇する本性は隠せません。

それでも、これまで放置されてきた8回戦以下のプロボクサーに対して、従来自己負担だった健康保険と薬物検査の費用を保障、ファイトマネーも引き上げることを約束、カリフォルニア州アスレティック・コミッション(CSAC)は緊急の採択会議を開き、全会一致でZuffa Boxingを受け入れることを決定しました。

いつまでに認定団体と既存のプロモーターを追放するのか、そのロードマップはまだ示されていませんが、最も多くの興行が開かれているCSACはこれから様々なレギュレーションの変更に着手します。

エディー・ハーンやオスカー・デラホーヤはこの動きに「ファイターが搾取される」と、すぐさま猛反対していますが、「ボクシングはスポーツとしてもう死んだ」と市場から撤退したHBOやSHOWTIME、ESPNが自らも利用していた認定団体のデタラメランキングに基づくデタラメタイトルマッチを「間違いだった」と反省したことには、一切口をつぐんでいます。

認定団体が複数あるのは異常…というか認定団体が存在して、世界的な統括団体が無い状況が狂っています。そして、階級が多すぎるというのも誰も反論できない、ボクシング堕落の大きな原因。

「彼らはボクシングの素晴らしい歴史と伝統と格式を踏み躙ろうとしている」(デラホーヤ)と叫んだところで、虚し過ぎます。

長官とホワイトが指摘するボクシングが堕落した原因は、まさに正鵠を射ています。

Zuffa Boxingが本部を置くネバダ州のコミッションがどう動くか分かりませんが、CSACの動きに同調しそうな気配です。

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さて、ボクビーでも買ってどこぞで読みましょうか…。

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昨日、フィラデルフィアで行われたWBAジュニアミドル級王者決定戦(ジャロン・エニスvsウイスマ・リマ)の試合後の記者会見で、エディー・ハーンは、ボクシングに新規参入したUFCの最高責任者ダナ・ホワイトとの提携について「全く興味がない」と吐き捨てました。

「私たちが取り組んでいるのは選手ファーストの本物のボクシング。 Muhammad Ali Act(アリ法)を変更することなんて考えていない。このイベントでもエニス陣営と興行収入についてオープンに仕事をしている」。

アリ法は、興行収入の内訳(テレビ放映権料やゲート収入の詳細)を選手が知る権利を保障するもので、プロモーターが選手を搾取する弊害を排除するために制定されました。

ホワイトが立ち上げた Zuffa BoxingはUFCスタイルをそのままスライドさせた経済モデル。

収益の大部分をプロモーターが手にしてしまうため、より人気のあるUFCのトップファイターよりも斜陽産業のボクシングのトップファイターの方が多くの報酬を受け取っています。

ホワイト側の言い分は「UFCが持続可能な発展をするために必要な内部留保」。

ハーンは「選手をないがしろにするやり方を認めない。アリ法はもちろん、リングの規格やルール変更もありえない。ボクシングがどれだけの歴史と伝統によって、今の場所に辿り着いたのかを(ポッと出の)UFCには理解できないんだろう」。


I’m not interested in a fake belt.


「(ホワイトが)新たに導入するベルトなんて偽物だ。私がボクシングファンに届けたいのはエニスのような素晴らしいファイター。彼はハグラーやハーンズ、ウイテカーらと同じ素質のあるファイターだと信じている。我々が追求するのは本物のベルトと本物のボクシング。偽物には興味はない」。


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▶︎▶︎▶︎新規参入に強烈なアレルギー反応を起こすのは既得権益を握る者たちにとって当然のこと。

UFCが持続可能な発展をするために必要な内部留保のために、ボクシングの超トップ選手と比較するとファイトマネーが大きく見劣るのは、UFCが抱える短所の一つ。

また、ボクシング同様に軽量級への興味・関心が極端に低く、報酬もさらに低くなるという現実を放置したまま。「大きな意味での発展」と表明しているのですから、軽量級の待遇を向上させる取り組みも必要でしょう。

ハーンはあえて持ち出しませんでしたが、ホワイトの「金儲けのためだけの細分化された階級を廃止、UFCと同じ8階級に、公明正大なランキングに改善しタイトルの価値を引き上げる」「金儲けだけで蠢く認定団体を排除して一つのベルトだけにしてベルトの価値を引き上げる」という言い分は正しい。

まともなボクシングファンなら、WBAやWBCのベルトやランキングが本物とは誰一人考えていません。

タイトルが一つだけになると、ファンが見たいマッチメイクの実現はより容易になります。王者(タイトル・ベルト)がいくつもある現状では、乱立する王者が対戦を避ける、先延ばしにするのは避けられません。

ホワイトがド正論、ハーンの発言は既得権益を守りたいだけの惨めなやっかみです。



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CompuBoxの話、その続き。

ローガン・ホブソンとボブ・カノビオ、〝発明者〟の話とは別に「現在のCompuBox」で何がわかって、何がわからないかについて。

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非公式スコアと、ラウンドごとの〝勝敗〟の裏付けのように使用されているCompuBoxの数字は、いまやボクシング中継の必須アイテムです。

ここで、見逃してはいけない大きな問題があります。

3人のジャッジは誰一人、CompuBoxの数字を見ていないということ。もし、それを見てしまうと多くのジャッジは強烈なバイアスを受けてしまうほど訓練されていませんから大混乱に陥るでしょう。

カノビオが「ジャッジの代わりになるもの、ジャッジの参考になるものを意図して作ったわけではない」と断言しているように、CompuBoxの数字はラウンドごとの勝敗を決定する要素は測定していません。

CompuBoxは、どれだけのパンチを放ったか?そのうち何発がひっとしたか?その数字だけを拾っているのです。


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「レイ・マンシーニvsリビングストン・ブランブル」(1984年)のリングサイドにホブソンとカノビオが運び込んだCompuBoxの〝初号機〟。



CompuBoxにはグローブに内蔵されたセンサーとの連動はありません。AIによる処理も施されていません。

二人のオペレーターがそれぞれ一人のファイターを担当、リングサイドかテレビ放送の画面を見ながらパンチ数を目視、手動で入力するのです。

記録されるのは「ジャブを放った数とヒット数」「パワーパンチを放った数とヒット数」「ボディショットを放った数とヒット数」だけ。

「目視と手入力」ですから、ヒューマンエラーは付きもの。さらに、ヒットしたかどうか微妙なパンチ、ブロックされたかブロックをくぐったか微妙なパンチはオペレーターの判断に委ねられます。

また、ジャブは「前の手」、パワーパンチは「後ろの手」と画一的。つまり、逆ワンツーのようなコンビネーションは「ジャブ→パワーパンチ」の正ワンツーではなく「パワーパンチ→ジャブ」と見られます(集計結果は一緒ですが)。

また、手首を完全に返した左ストレート強打も、パワーパンチではなく「ジャブ」とみなされます。

それでも「誤差は2%」(カノビオ)といいますから、十分許容範囲です。

また、カノビオは「95%の確率で、より多くのパンチを出し、より多くのパンチを当てたファイターが判定をものにしている」と胸を張っていますが、これはどうでしょうか?

CompuBoxでわかるのはあくまでも「手数」だけ。「パンチの質(相手にどれだけダメージを与えたか)」は全くわかりません。

実際の勝敗やスコアを決定づけるのは強烈な打ち下ろしのストレートや、美しいコンビネーション、高速のジャブ。しかし、CompuBoxでは一発のパンチは「1」としか記録されません。



さて、将来、パンチの質まで評価できるAIがジャッジをする時代がやってくるでしょうか?

これは、AIにとってチェスや囲碁、将棋で人間を打ち負かすよりもはるかに難しい問題かもしれません。





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戦闘機Figher

2025/06/22 01:13
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リアドシーズンのカネロvsスクールはCompuBoxが過去40年間のデータ追跡を開始して以来12回戦で記録された最少総パンチ数(445発)を更新したと報じられていましたが、1990年に行われたカルロス・デ・レオンvsジョニー・ネルソンのWBC世界クルーザー級タイトルマッチはボクマガの記事で確か12ラウンドで両者合わせて50発未満のパンチ数と記載されていた筈。
「お願いだから何かやってちょうだい!」という観客の悲鳴が上がったと書いてある程の凡戦でしたがイギリスでの興行だったのでCompuBoxは出張していなかったのでしょうか。
youtubeにこの試合がフルラウンドでアップされていましたが未だに見る勇気が湧きません。

元記事: アレジアントスタジアムは大きいか?小さいか?…カネロvsクロフォード (編集)
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1985年に行われたレイ・マンシーニとリビングストン・ブランブルの再戦がCompuBoxのデビュー。1990年はすでに営業していたはずですが、この試合は英国開催、どうだったのか?…正確には分かりません。

現在と違い、インターネットが存在していなかった時代。そもそもこの試合の情報は専門誌からでしかキャッチできない環境でした。

BoxRecはインターネット時代の波に乗って発展しましたが、ファンはBoxRecは名前と機能は知っていても実物を見る機会はなかったのです。

1985年、日本ではまだ昭和の時代に立ち上がったCompuBoxは、さらに一般のファンから遠い存在でした。


CompuBoxはBoxRecとともに、ボクシングファンの副菜として40年以上も私たちを楽しませて続けてくれています。

このブログでは「CpmpuBoxのスタッツは試合の実態を反映していないケースがある」と〝参考資料〟の域を出ないことをお断りしていますが、試合を振り返るときにはほぼ毎回貼り付けています。

試合の実態を映し出さなくても、参考資料を通して真実が見えることはよくあるからです。

ワシル・ロマチェンコとホルヘ・リナレスの試合はその典型で「変幻自在のポジショニングとさまざまな角度から手数を出すロマチェンコと、右の強打を狙い澄ますリナレス」という偏見を、BoxRecのスタッツが溶解してくれました。

日本でも米国でもこの試合中は「リナレスは手数が多い」と感心されていましたが、それは錯覚で、実際には「リナレスはパンチの角度や緩急が多彩だが、手数そのものはリナレスが上回っている」が正解でした。

さて「戦闘機Fighter」さんが指摘してくれたWBCクルーザー級戦(1990年1月27日:英国シェフィールド/©︎カルロス・デ・レオンvsジョニー・ネルソン)のパンチ数。

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ボクシング・マガジン1990年3月号にはスタッツの出所はありませんが「ネルソンがたったの40、デ・レオンにいたっては31に過ぎない。しかも、この数字は単に〝放った〟だけのもので、クリーンヒットは皆無だった。」とあります。

当時、スタッツを扱っていたのはBoxRecだけで、「マンシーニvsブランドル2」のリングサイドに陣取ったラリー・マーチャントは「初めて見たけど、ちっぽけなコンピュータの玩具だね」と笑ったそうです。

おそらく、CompBoxのスタッツでしょう。



さて、そのCompBoxをクローズアップします。



========テニスのスタッツをヒントに、ボクシングのスタッツを開発したボブ・カノビオと、ローガン・ホブソンが今よりも二回り以上も大きなパソコンをネバダ州リノのローラー・イベンツ・センターに運び込んだのは、1985年2月16日のことでした。

HBOと結んだ契約は決して大きなものではありませんでしたが、世界のボクシングをリードする圧倒的なパワーハウスでスタッツの有用性を披露することは非常に大きな意味があったのです。

カノビオとホブソンは「絶対に失敗は許されない」と、まだ誰もいない、エアコンが行き届いていない肌寒い会場で緊張の汗をかいていました…。


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No longer wants to see “Tom and Jerry” type fights

「トムとジェリー」みたいな試合はもう見たくない。

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トゥルキ・アル=シャイフ長官の発言が波紋を広げています。

「トムとジェリー」みたいな試合はもう見たくない。

長官は、シンコ・デ・マヨ週間にタイムズ・スクエアで行われたデビン・ヘイニー(vsホセ・ラミレス)との試合に激しい嫌悪感をあらわにしたと言われています。

誤解を恐れずにいうと、シンコ・デ・マヨはメキシコ移民が米国で祝う祭事であって、メキシコでは一般的・全国的なものではありません。

この祭事は西海岸で特に盛り上がり、米国ボクシングを支えるようになったメキシコ系ファンが偏愛するのは激しい打撃戦、トム&ジェリーとは対極にあるメキシカンスタイルです。

米国の会場でブーイングが起きるのはTom & Jerryスタイル、あるいは Jerry and Jerry スタイルと相場が決まっています。

米国ボクシングはメキシコ色に染められていますが、他の国でもメキシカンスタイルだけが歓迎されているわけではありません。

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米国でメインストリームを形成するメキシコや一部中南米のボクシングファンからは、逃げるだけのタッチボクシングやクリンチをルールとして禁止して、柔道の(教育的)指導のように減点、指導を3度受けた時点でTKO負けにすべきという馬鹿げた声まで聞こえています。

こんなルールが成立したら、メイウェザーは10敗くらい喫してそうです。

中南米のボクシングファンだけでなく、フィリピンはもちろん、日本でも「The Floyd Mayweather Jr. boxing style(タッチボクシング)」は、軽蔑の意味を含んで使われるケースが少なからずありますから、私たちも〝あっち側〟なのかもしれません。

個人的には、というか日本のボクシングファンはデオンティ・ワイルダーやノニト・ドネアのようなパンチャー、井上尚弥のようなKO中毒ファイターが好きですが、ワシル・ロマチェンコやオレクサンデル・ウシクのような、これぞ Sweet Science! という美しいボクシングにも魅せられているのではないでしょうか?

まあ、私でもシャクール・スティーブンソンのようなボクサーが好きかと聞かれると…アマチュア時代からプロの今まで、チキン丸出しのスタイルがとにかく嫌いです。

ボクシングの素晴らしさは、そのスタイルの多様性にもあります。

シュガー・レナードvsトーマス・ハーンズの初戦に至っては、試合の途中でトムとジェリーの立場が完全に入れ替わるという、超絶の演出が仕込まれた上質のドラマでした。

また、カネロ・アルバレスとゲンナジー・ゴロフキンの三部作は2戦目からトムがジェリーに、ジェリーがトムに役回りを変える面白さが溢れていました。

「ロマチェンコvsギレルモ・リゴンドー」を「ジェリーvsジェリー」と表現するのは違和感がありますが、それは結果論で、試合前は世界最高のテクニック展覧会が期待されていました。

「マービン・ハグラーvsハーンズ」や「井上vsドネア初戦」は、これぞ「トムvsトム」でした。

パンチャーvsボクサー は、このスポーツの最も興味深いテーマで「モハメド・アリvsジョージ・フォアマン」「レナードvsハーンズ」「レナードvsマービン・ハグラー」…歴史を刻んだ多くの名勝負がこのマッチアップでした。

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「カネロvsメイウェザー」が戦前あれほど盛り上がったのはBattle of Age(王の交代)という予感だけでなく、「マチスモの化身メキシカンスタイルvs卑怯者のタッチボクサー」というコントラストが鮮やかだったからです。

もちろん、技術を伴わない「ジェリーvsジェリー」は誰も見たくありません。技術を伴わない「トムvsトム」もやらせてはいけません、危険なだけです。

大谷翔平の登場でMLBのルールが変更されましたが、ファンが全面的に支持しました。「タッチボクシングやクリンチ・ホールディングの禁止」を叫んでいるのは、ボクシングからSweet Scienceの美しい虹彩を脱色しようとする一部の〝暴徒〟だけ。

それでも、昨今の「強い奴の意見が罷り通る」世界情勢を見てしまうと、メキシカン・スタイルだけが正義という暴論が認められる日が来るかもしれません。

すでに、ラスベガスをはじめ米国の採点は以前よりも攻勢を評価するようになったと見られており、茶番劇が大きな興行になる現状はSweet Scienceの脱色に他なりません。

米国がボクシングをまともなスポーツとして扱わなくなって久しいですが、業界に突如現れた圧倒的なパワーハウス、サウジアラビア総合娯楽庁の長官が「トムとジェリーみたいな試合は見たくない」と吐き捨てているのです。

この競技はどこまで落ちていくのでしょうか?



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Saturday 13, September 2025
  
Allegiant Stadium, Las Vegas, Nevada, USA
commission:Nevada Athletic Commission

 media:Netflix

Undisputed Super -Mddleweight Championship



BoxRecなどではpromoter(主催者)の名前が見当たりませんが、サウジアラビア・総合娯楽庁の主催となります。

Netflix はPPVでサービスすると見られていますが、どれだけ販売件数を伸ばせるか?

さらに、舞台はアレジアントスタジアム。カネロvsデビッド・ベナビデスでも大きいと思われるスタジアムに、相手は〝集客の死神〟クロフォード。

会場フルオープンで6万人規模の観客を集めることが出来るのか?これで上階席封鎖だとかなり寂しい光景になりますが、井上尚弥のT -モバイル・アリーナのような事故レベルの大惨事にはならないでしょう。

6万人は集まらなくても、多くのメキシコ系ファンがつめかけ異様な盛り上がりを見せるはずです。




ラスベガスはボクシング興行の最高舞台の一つ。

かつてはヒルトン、そしてシーザースパレス、MGMグランド・ガーデンアリーナ、T−モバイル・アリーナ、現在はザ・スフィアが最高舞台ですが、スフィアでのボクシング興行はまだ一度も打つことができていません。

スフィアに匹敵するとしたらスタンド席だけで6万5000人を飲み込むNFLラスベガス・レイダースの本拠地、このアレジアントスタジアムです。

アリーナ席を設けると7万2000人までキャパが膨らむ、2020年オープンの最新設備を揃えた美しいスタジアムが「ボクシング史上最大のイベントにふさわしい舞台」(サウジアラビア総合娯楽庁)。

WWEがすでにプロレス興行を打って大成功を収めている舞台ですが、ボクシングでは初めてとなります。

会見で、トゥルキ・アル=シャイフ長官は「KOボーナスを出す」と発表。金額は明らかにしていませんが、10万ドルレベルではないでしょう(100万ドルれべるでもない?)。


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アル=シャイフ長官はつねづね 「Tom & Jerry fights, where one fighter is "running around the ring and another fighter is chasing him."」(鬼ごっこみたいなタッチボクシング、トムとジェリーみたいな試合を追放する)と口にしてきました。

これはある意味「帝王の命令」です。フロイド・メイウェザーのような眠たい試合しかできないタッチボクサーは、サウジ主催のメガファイトには呼ばれないということです。

それにしても…。

メイウェザーのように試合は面白くなくても、品性下劣な言動でファンを煽り、驚くほどの集客力を誇ったマーケッター・ボクサーも必要です。メキシカンスタイルの喧嘩ファイトばかり見せられるのも如何なものでしょうか?

「カネ持ってる人が一番強い」と喝破したのは現役時代の浜田剛史でしたが、それにしても、ねぇ…。



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今朝、リング誌(サウジアラビア・総合娯楽庁のボクシング専門広報誌)は、サウジアラビアの首都リヤドでカネロ・アルバレスとテレンス・クロフォードによるメガファイトの発表会見を開催しました。

いまや、サウジアラビア・総合娯楽庁はWBAやWBCと同じ認定団体であり、プロモーターです。そしてプロボクシングが歴史上一度も手にしたことのない世界の統括団体になりつつあります。


このホンモノのメガファイトを主導するのはUFC…。今更いうことではありませんが、ボクシングは完全に敗れ去りました。UFCスタイル、1団体8階級の理想を目指して再興を進めるのがベターです。


腐臭を放ちながら堕落し続けるボクシング界。サウジがボクシング産業を抜いて世界最大価値を持つ格闘技団体UFCのノウハウを取り入れ、将来的に1階級に王者は1人、8階級への理想回帰も

ONCE IN A LIFETIME

9月13日、ラスベガス。特設リングが組み立てらるのはアレジアントスタジアムのフィールド、そのど真ん中。

この会見では、勝者に贈られる特別ベルト「Mega Belt」もお披露目されました。

リング誌のリック・リーノCCOは「歴史上最も高価なチャンピオンベルト」と紹介。

制作費は14万ポンド(18万8000ドル=約2800万円)。画像や動画からは、昨年から総合娯楽庁主導で制作されている従来のベルトとの大きな違いは認められないものの、14万ポンドなら24純金がふんだんに使われていると思われます。

制作にあたった工房は英国の王族や世界の大富豪をクライアントに持つ最高の職人を集めた〝貴金属を扱う銀河系チーム〟。

すでにカネロに贈っているリング誌ベルトには10万ポンドがかけられ、このベルトはさらに4万ポンドを上乗せ、ボクシングのチャンピオンベルト史上最高価値を更新したそうです。

WBCなどの認定団体が同じ価値を持つベルトを作ることは、ビジネス構造的(認定団体はタイトル認定・ベルト販売業であり有料で販売している)にも、経済的に不可能。

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豪奢だけれども陳腐に見えてしまうのは気のせいでしょうか?


もはや、リング誌がやってることはWBCに代表される認定団体、英米の大プロモーターと同じです。ただ、資金力が全く違います。


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中野区役所で公開されていた〝神の左〟山中慎介のリング誌ベルト


トリコロールの布製ベルトに、ブリキにも見えるバックルに墨で書いたような文字…「質素だけれども陳腐ではない」リング誌ベルトが好きでした。

認定団体のランキングを否定し、プロモーターの我田引水なマッチケイクを批判するリング誌が好きでした。

選手やトレーナー、マネージャー…リングに関わる人々の生き様を伝えてくれる記事が好きでした。




ネットニュースでよく「最も権威のある米国の専門誌」という表現を見かけますが、大間違いです。

権威があるかどうかは個人の感想なので、スキャンダルと販売不振にのたうちまわった専門誌を「権威がある」と思うのは勝手ですが、サウジアラビアの国営企業の広告だけが並び、定期購読の振込先はアラブ首長国連邦の中核都市ドバイで、主要な記者会見や情報発信はリヤドから

この雑誌は「リングマガジンの名前を安く買い叩いたサウジアラビア総合娯楽庁が展開するリヤドに本拠地を構えるボクシング専門の広報誌」というのが、正解です。

当たり前ですが、サウジがリング誌を買収して何をするのも自由です。採算がとれるわけがないボクシング事業に乗り出す本当の目的がどこにあるのかが心配です。

目的を達成したとき、あるいはボクシング事業がその目的に期待していた効果がないと判断したとき、彼らが撤退するかもしれないのが心配です。


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どうしてベルトを売るのかな?


World Boxing Council(WBC)。

日本語で「世界ボクシング評議会」と訳されるこの認定団体を知ったボクシングファンは少し不思議な感覚にとらわれたに違いありません。

World Boxing Association(世界ボクシング協会)、International Boxing Federation(国際ボクシング連盟)、World Boxing Organization(世界ボクシング機構 )…協会や連盟、機構は理解できても「評議会」ってなんなの?という違和感です。

1963年にWBAとEBU(ヨーロッパボクシング連合)、BBBofC(英国ボクシング管理委員会)、LAPBU(ラテンアメリカプロボクシング連合)、OBF(東洋ボクシング連盟)が対等の立場で議論する評議会として設立されたのがWBCです。

わかりやすくいうと、WBA内部の不満分子が地域の統括認定団体を抱き込む形で分離独立を謀ったのです。


そもそも、WBAの内部で膨張していた不満の正体は「ボクシング大国メキシコのボクサーが、実力通りに世界タイトルに挑戦できずに不遇に追いやられている現状を打ち破るため」。

「評議会」という名で反乱の機会を窺っていた不満分子は、1966年8月27日のWBC総会で、独自ルールと、初のWBC世界ランキングを発表、WBAから完全に分裂しました。
https://fushiananome.blog.jp/archives/22675529.html

https://fushiananome.blog.jp/archives/22689655.html


1966年から、2025年の現在まで世界王者の数は増殖し続けています。

10年後の1976年、2団体並立がすっかり定着していましたが、そのランキングは非常に興味深いものでした。

WBAは12階級、WBCは13階級。かつて地球上に8人しか存在しなかった世界チャンピオンは25人までに肥満(ヘビー級のモハメド・アリとミドル級のカルロス・モンソンはUndispited champion だったので実際は23人)。

そして、ランキングの〝中身〟も今では考えられないほどすっきりしたもので「これなら団体分裂の弊害は最小限だったのでは?」と思えるほどでした。

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世界的な統括団体が存在せず、ローカル・コミッションと怪しさ満点の認定団体が蠢くプロボクシングの世界。

勝ち続ければ、より強い相手が待ち構えている、というスポーツの当たり前が全く通用しない世界であることは、井上尚弥の対戦相手を見ればよくわかります。

どうしてこんな狂ったシステムが出来上がってしまったのか?

Make boxing a sport again!


英国ボクシングニューズ誌の「The History Of Boxing」をベースに考察してゆきます。

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ボクシングの「形」を近代ボクシングから遡ると、1743年、英国でジャック・ブロートンによって制定された公式ルール〝ブロートン・ルール〟に行き着きます。

それ以前の「ボクシング」は、レスリングなどのちに他の格闘技に枝分かれする技術も包括された原始的なもので、公式ルールや統一ルールの概念はありませんでした。

まだ、ベアナックルの時代でしたが、マフラーと呼ばれるグローブの原型が実験的に導入されるなど、近代ボクシングの息吹きが芽生えていました。

人類の進化で例えると「原人」のステージでしょうか。

ボクシングを「形」にしようという動きは、この競技を護身術として認めていた英国貴族によって支持されます。

そして、1867年にクイーンズベリー・ルールが制定され、本格的な近代ボクシングの幕開けを迎えます。

ホモ・サピエンスの誕生です。

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「グローブ着用」だけでなく「3分1ラウンド/インタバル1分」「ダウンから10秒以内に立たないとKO負け」「ダウンを奪った選手は自陣のコーナー(現在はニュートラルコーナー)に下がらなければならない」…現代にそのまま残るルールが随所に見られます。


しかし、ボクシングファンなら誰でも知っているグローブ着用を義務付けたクイーンズベリー・ルールはすぐに定着したわけではありません。

当時のボクシングは貴族も積極的に関わっていたとはいえ、懸賞金(ファイトマネー)は観衆から集める賭け金と、貴族だけでなく資産家や富裕な商人などがパトロンとなって提供していました。

マッチメイクが決まり、懸賞金が集まるとこれを管理するコミッションのような組織が生まれます。

19世紀の後半には1人の興行主(プロモーター)と、一つの組織が試合を主催する形が出来上がりました。

1887年にはペリカン・クラブ、1891年には現在の英国ボクシング管理委員会の前身であるナショナル・スポーティング・クラブ(NSC)が誕生します。

NSCは吉本興業のNew Star Creationではありません、念のため。


ベアナックルの試合を中心に主催していたペリカン・クラブは1892年、わずか5年でNSCに飲み込まれるようにして消滅してしまいますが、このユニークな名前を持つ統括組織はボクシングの大衆化に大きな役割を果たしました。



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