カテゴリ: 壁を越える人々

2月24日(月:天皇誕生日の振替休日)
東京都江東区 有明アリーナ

コミッション:日本ボクシングコミッション
プロモーター:本田明彦(帝拳プロモーションズ)

メディア:アマゾン・プライムビデオ



■WBCバンタム級12回戦

中谷1/7(1.14倍) クエジャル9/2(5.5倍)

有明のリングに上がる6人の118パウンダーの中で、天心の次に素質があるのはクエジャルかもしれません。

直近の試合はジュニアフェザー級ですが、レイノソ一門の薫陶を受けたのですから体重超過はないでしょう…。ライアンやらネリはカネロに惹かれて気まぐれ入門しただけと信じましょう。

素材は確かですが、まだまだ未完の匂いしかしないクエジャルは今回が初の12回戦で、世界基準の相手との手合わせはありません。それがいきなりPFPファイター相手に世界戦です。

1−7のオッズは、23歳のメキシカンにかなり好意的に映ります。

あってはいけないことですが、もしもクエジャルが途轍もないポテンシャルを秘めていて、それをこの試合で爆発させるようなことがあると…。

それはないでしょう。

1日前に行われているアルツール・ベテルビエフvsドミトリー・ビボルの再戦が明白な形で決着すると敗者がPFPランキングを急降下、中谷のランクが繰り上がっているはずです。

ESPNやリング誌、そして最も公正と考えられているTransnational Boxing Rankings Boardで1位に評価されているオレクサンデル・ウシクが噂されている引退となると、ここでも一つ繰り上げ。

9月に予定されているカネロ・アルバレスvsテレンス・クロフォードの勝敗がどう出ようとも、やはり繰り上がる可能性大。

来年の今頃は多くのPFPでトップ3を井上尚弥、バム・ロドリゲス、中谷の超軽量級ファイターが独占、オスカー・コラーゾや寺地拳四朗らもランクイン、ジュニアフェザー級以下のファイターが過半を占めているかもしれません。




■バンタム級10回戦

天心2/5(1.4倍) モロニー19/10(2.9倍)

オッズが示す通り、モロニーにとって非常に難しい試合です。

サウスポーの武居由樹のスピードに翻弄された34歳のオージーが、天心の速さに順応できるとは到底考えられません。

世界戦2勝3敗。その2つの勝利もクロスゲーム。元・王者というのは不正確な表現で、正確には元・穴王者です。

モロニーが開き直って、第1ラウンドから超ホープに向かっていけるか?立ち上がりに不安があり、迷ってしまいがちないつものジェイソンだとそれも出来そうになく、厳しい展開しか予想できません。

逆目でいうと、この元・穴王者に苦戦するようなら、天心のチャンピオンロードの雲行きと評価は一気に怪しくなります。帝拳セレクションに抜かりはないとは思いますが…。

そして、モロニーは自分がどんな役回りで日本に呼ばれたのかを理解しているはずです。天心の噛ませ犬になる気はさらさらないでしょう。

母国でAサイドで戦い続け、晩年はホープの踏み台に。

スピード、パワー、テクニック…モロニーが世界基準の武器を何一つ持たないことは、その世界戦の内容を見れば誰の目にも明らか。しかし、頑健な肉体と根性があることも、その試合内容から明らかです。

もちろん、天心を応援しますが、モロニーにも天心の良薬になるような意地を見せて欲しい、そんな気持ちにもなってきます。




■WBAバンタム級12回戦
©︎ 堤聖也vs比嘉大吾

堤2/5(1.4倍) 比嘉19/10(2.9倍)←天心vsモロニーと同じ掛け率です。

日本が好き勝手できる軽量級の本領発揮の一戦。日本最強決定戦ですらない〝世界タイトルマッチ〟って一体何なのか?あまりにもシュールです。

もちろん、堤にも比嘉にも一片の瑕疵もありません。

ファンにとっては〝ボクシング純情〟が正面衝突する、楽しみな試合です。このイベントで最も感動する試合の予想、最右翼でもあります。。

「とにかく勝利を優先させる」なんて口にしても、そんな小手先の器用さをこの2人が持ち合わせているはずがありません。

魂の拳がぶつかったとき、2人のファイターはどれほどの痛みを感じるのか、私たちの鼓膜をどこまで振動させるのか、そして私たちの心をどんなふうに揺さぶるのか、じっくり味合わせてもらいます。



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オーストラリア!オーストラリア!!オーストラリア!!!

間歇泉のように、ときどき素晴らしいファイターを生みだしてきた国だが、ここ数年はスター候補が数珠繋ぎに登場。空前の黄金時代を迎えている。

日本目線で見ると、ファイティング原田の快進撃をストップしたライオネル・ローズ、当時としては歴史的な快挙となったはずの3階級制覇を阻止したジョニー・ファメショという宿敵が。

さらに日本でも大きな人気を集めたマニー・パッキャオを下したジェフ・ホーンと、忌々しい番狂せファイターがすぐに思い浮かぶ。


また、新垣諭からボクシング界から冷たい視線を突き刺されていたIBFで、バンタム級のストラップを強奪してから一気に4階級制覇の坂を駆け上がったジェフ・フェネック、フリオ・セサール・チャベスを痛烈にストップしたコンスタンチン・チュー、心身とも頑健なファイターたちの系譜も連なっている。

アルメニアのビック・ダルチニアン、南アフリカのラブモア・ヌドゥ、ムスリムのビリー・ディブら、逞しい移民国家の光彩も眩く放ってきた。

井上尚弥に果敢に挑んだキム・イェジュンは国籍こそ韓国だが、練習拠点はオーストラリア。準オージーのファイターといっても良いかもしれない。

人気階級のティム・チューがメガファイト路線に乗り、やはり人気階級の玄関口・ライト級のジョージ・カンボソスも米国の王者デビン・ヘイニーを地元のリングに引っ張り上げている。

ヘビー級進出を睨むクルーザー級のジャイ・オペタイアに至っては、サウジアラビアのキングダムアリーナのリングにすでに3度も上がっている。

市場規模こそ米国には全く及ばないものの、いまのオーストラリアのリングにはとにかく勢いがある。

チューやカンボソスと比べなければ、軽量級でもジェイソンとアンドリューのモロニー兄弟も地元で一定の人気を誇ってきた。

そんなジェイソンも34歳。キャリアの着地点を探す段階に入っているが、7年前はオーストラリア軽量級のホープだった。

ちょうど、今の那須川天心のように。

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ーーー2018年5月19日、豪州ビクトリア州マルバーンタウンホール。モロニー兄弟が揃い踏みするイベントのファイナル。

ジェイソンはすでに打診されていたワールド・ボクシング・スーパー・シリーズへの出場を内諾。バンタム級の強豪が集まるトーナメントに自信を持って挑戦するために選んだのが河野公平だった。

デビュー以来、16戦全勝14KOのジェイソンでも「軽量級の本場・日本の元世界王者」はキャリア最強の相手。

対戦相手の質でも亀田興毅やルイス・コンセプション、井上尚弥らと拳を交えてきた河野に対して、マロニーは貧弱な相手としか戦ってこなかった。

ただし、河野は直近5試合で2勝3敗の37歳。ジェイソンはプライムタイムのドアをノック中の27歳。

国内タイトルとアルファベト団体の地域タイトルをピックアップしながら着実にステップアップ。この日はWBAオセアニア・バンタム級王者として、河野を地元リングに引っ張り上げたのだ。

試合はオッズ(ジェイソン1.22倍/河野5.8倍)の通りにジェイソンが支配、第3ラウンドには相打ちながらダウンしたのは日本人。

第6ラウンド終了TKO負けに屈した河野は「昔の自分ならダウン後にもっと反撃できたのに」と引退を決意した。

そして、来週。

ジェイソンは7年前の立場から逆転して、那須川天心の踏み台として有明アリーナのリングに引っ張り上げられる。

オッズは26歳の天心が2/5(1.4倍)、34歳のジェイソンが19/10(2.9倍)。明白なアンダードッグ。

雑魚相手に強打で売り出したジェイソンも世界戦は5戦2勝3敗で、KO出来ないどころか二つ勝利はいずれもMDというフラフラぶり。

井上に粉砕されたのを差し引いても、まともな王者レベルにないことは誰もが認めるところ。

さらにサウスポーが苦手で、Aプランでしか戦えない不器用な34歳に上積みがあるわけもなく、劣化は時間経過と足並みを揃えている。

ところが、元王者という看板に加えて、信者らの「井上尚弥と戦ったから強い」という思い込みから強豪王者と勘違いしている人がいる。

そこも踏まえた見事な帝拳セレクションだ。

武居由樹のように強打でジェイソンをビビらせることは出来ないかもしれないが、天心にはスタミナ、ペース配分の上手さもある。武居が犯したガス欠のようなミスはしないだろう。

ジェイソンにとっては武居以上にノーチャンスの相手だけに、初回から猛攻を仕掛けるくらいしか勝算は思い浮かばない。

はたして、サウスポーが苦手でスピードへの対応力も鈍いジェイソンにそれが出来るか?


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その27歳のホープは、母国に引きこもって、温室マッチメイキングを順調にクルーズしていた。

そうは言っても、だ。

ホープにはいつか露路に出なければならない日が、必ずやって来る。

彼に用意されたのは、タフが売り物の元世界王者。

つまり、ホープの力量を測るには持ってこいの相手ということだ。

何よりも、この試合に勝てば、自身が温室で栽培されていることを意識してるにせよ、してないにせよ、その温室をブチ破る本物の自信を手に入れることができるのだ。

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一般紙がデビュー前のボクサーを大々的に取り上げる…「人気階級の五輪金メダリスト」村田諒太のような特別すぎる理由があるならまだしも、彼にはボクシングの実績が何一つないというのに!


ーーー那須川天心も今年、27歳の誕生日を迎えるが、この話は彼のことではない…。

2018年5月19日、今から7年前に27歳だったジェイソン・モロニーのことだ。


ーーーホープにはいつか必ず露路に出なければならない日がやって来る。

2025年2月24日。

那須川天心にも、ついに〝その日〟がやって来た。


…おっと、その前に…ジェイソンとオーストラリアの話を少しさせてくれ。







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まったく…。激動の2025年1月がやっと終わった。




新年早々、この1ヶ月は激動だった。

その試合の数週間前のその日、クリスマス休暇でケニアに滞在していたマイク・アルタムラがベッドに潜り込んだのは午前1時58分のことだった。

オーストラリアを拠点に活動する彼の職業は、主にアジアの軽量級ボクサーをマネジメントすること。

欧米の人気階級のプレイヤーが大手プロモーターによって囲い込まれているために、スキマを狙ったというわけではない。

「ボクサーのマネージャーである前に、私は熱狂的なボクシングファンなんだ。欧米では軽量級のボクシングはメインディッシュにならないが、本当に面白いのは軽量級」。

その日もボクシングの試合をネットで見て夜更かしすることになったのだ。

午前2時3分に電話が着信した。スマホの画面に表示されたのは「AKIHIKO HONDA」の名前。

本田明彦は日本のプロモーターだが、ボクシング関係者なら世界中の誰もが知っている伝説だ。

アルタムラはIBFバンタム級王者・西田凌佑のマネジメントにも部分的に関わっており、アヌチャイ・ドンスアとの初防衛戦で来日したとき、本田にある売り込みをかけていた。

「サム・グッドマンのカットは深い、完治しなければまた延期を申し出てくるかもしれない。リザーブファイトに私がマネジメントする韓国人を使って欲しい」。

本田は、アルタムラの提案を受け入れた。


その韓国人キム・イェジュンには、彼よりもさらに無名のケニー・デメシージョというフィリピン人との8回戦がリザーブファイトとしてセットされた。

これで、幸運をつかむのに必要なステップはあと一つだけになった。



ーーー電話の向こうで本田が「オーストラリア人がまた同じところをカットした」と伝えたとき、寝ぼけていたアルタムラは「また延期か」と思った。

本田が「韓国人はきっちり体重を作れるのか?」と訊いてきたその瞬間、アルタムラの眠気が吹っ飛んだ。

「そうだ!そうじゃないか!!グッドマンの代役にキムを送り込んでいたじゃないか!!」



マネージャーはいつだって選手と寄り添っている。

キムの故郷の韓国ではボクシングが壊滅状態。キム自身は両親の顔も知らずに5歳のときから孤児院で育った。

辛い毎日だった。

「親にも必要がないと、お前は捨てられたんだ」。

「なんで生きてるの?捨てられたゴミのくせに」。

小学校でも中学校でも、陰湿な言葉と、容赦ない暴力でいじめられ続けた。

それでも、どんなに酷い仕打ちを受けても、キムが反撃することはなかった。

「あいつらは殺してやりたいくらいに大嫌いだったが、自分なんて生きてる価値がない、というのは悲しいけど、そうなのかもしれないと思っていた」。

「親にも必要とされなかった」。きっとその通りだろう。じゃないと子どもを捨てたりはしない。

捨てられたんだから、ゴミと一緒。これも、その通りだ。


1人になると、いつも泣いていた。


1人になると、どうしてお父さんやお母さんは私を捨てたんだろう、と考えた。

私はどこにどうやって捨てられていたんだろう?

考えても仕方がないことだったが、もし両親に会えるなら、私を捨てた理由を聞きたいと思っていた。

必要がなかったのか?いや、もしかしたら経済的にどうしようもなかったからか?

大人になってからも、1人になると泣き続けた。

ところが、19歳でプロデビューするボクシングを始めてからは、泣かなくなった。

1人になると筋トレやシャドーボクシングに励んだ。

自分の過去にあれほど粘着してこだわっていたのに、それがどうでも良くなったのだ。

ボクシングの試合は大したカネにはならなかったが、勝つと自分が何者かになれる気がした。

自分の未来が、もしかしたら明るいものになるかもしれない、そう信じられることが、どれほど素晴らしいことかに気づいたキムに、たとえ天涯孤独でも毎日泣き暮れる時間は、もうなかった。

キムは過去の自分を嘆くのをやめて、ゼロから作り上げる未来だけを睨んで生きることにした。

当時、アメリカのプロボクシングはすでに衰退の坂道を転げ落ちていたが、小さな身体の2人のファイターがリングの中でとびっきりに輝いていた。

自分よりも酷い境遇から二つの拳で成り上がったマニー・パッキャオとフロイド・メイウェザーが、とにかくまぶしかった。

自らを「Pacquiweather」と渾名したとき、周囲は笑ったが、本人は冗談のつもりはなかった。目指す場所はそこだったのだから。

天涯孤独のキム・イェジュンの人生は、幸運とは全く無縁だった。本人にはなんの責任もないのに、不運と不幸だけが押し寄せてくる人生だった。

どのクライアント(ボクサー)も贔屓目なく平等に見てきたアルタムラだったが、不運と不幸を向こうに回して、七転八倒しながら戦い続けるキムには「この男がいつかラッキー!と喜べるような日が訪れたらいいな。それに自分が一役買うことが出来たら最高だな」と思っていた。

ジュニアフェザー級を主戦場とするボクサーは誰もが井上尚弥と日本で戦いたがっている。

ファイトマネーが割安で、人気もなく大きな関心を集めることがない軽量級だが、日本だけは特別だ。

軽量級でもファイトマネーは10万ドルを超えることが珍しくなく、キャパ1万人を超えるアリーナでメインを張ることも当たり前、それが日本だ。

そして、その特別な日本の中でも特別なのが、井上尚弥だった。



アルタムラは本田に「ファイトマネーは100万ドルでなんとかならないか」とふっかけたが「無名の挑戦者にそれは無理」と却下され「興行収入にも左右されるが、半分の50万ドル」で落ち着いた。

アルタムラは「納得できない」と不満をたらしたが、内心は躍り上がっていた。


50万ドルは、韓国ボクシング史上最高のファイトマネーだったのだ。

なによりも、キム自身、これまで2万ドルのファイトマネーすら一度も受け取った経験がなかったのだ。

アルタムラは、豪州でキャンプを張っているキムにすぐに電話した。

「デメシージョとの試合はなくなった」。

そう告げただけで、キムは全てを理解した。

アルタムラはずっと長い間、キムに言いたくても言えなかった言葉をついに口にした。

「お前はなんて幸運な男なんだ!本当に羨ましいぜ!」。

「ファイトマネーは50万ドルだ!」。

キムは「5万ドル?本当にそんな金額がもらえるのか」と聞いてきた。

アルタムラは「5万じゃない、50万ドルだ」と笑って返した。キムが唾を飲み込む音が聞こえた気がした。

短い沈黙。

8000マイル、1万2800km、最高のタイミングで飛行機を乗り継いでも8時間はたっぷりかかる、インド洋の最果てでキムが喜びをかみしめているのがよくわかった。

ビッグファイトに抜擢された無名のボクサーは、往々ににしてそこで満足してしまうものだ。

キムに限ってそんなことはないとは思ったが、アルタムラは「相手はPFP No.1ファイターだが、負けたら元も子もない。集中して練習しろ」と気合を入れようとしたが、その必要はなかった。

「ありがとう、マイク。私を売り込んでくれて本当にありがとう。ここから先は私の仕事だ。ずっとこの日のために準備してきた。マイクを史上最大の番狂せをお膳立てしたマネージャーにしてみせるよ」。





もし、井上尚弥に勝っていたなら、ボクシング人気が完全に沈滞した韓国でも大きな話題を巻き起こしていただろう。

世界中のボクシングファンにも、1-100のオッズをひっくり返した男として、語り継がれたはずだ。

そして、親兄弟もいない天涯孤独の身から、韓国5000万人に愛される国民的英雄に。

〝リアル・ロッキー〟として、ハリウッドも興味を示したかもしれない。

しかし、キム・イェジュンはロッキー・バルボアにはなれなかった。

現実は、1-100のオッズをそのまま反映したような惨敗だった。

それでも、瀕死の韓国ボクシングに刺激を与え、日本のボクシングファンも彼の名前を覚えた。

そして、多くの人が彼の生き様に小さくはない共感を覚えた。


キムの人生はこれからも波乱万丈だろう。そんな32歳の韓国人にとっても、激動の2025年1月が終わった。


1月24日、有明アリーナのリングの上で、彼は何も手に入れることができなかったが、たった一つだけ確かなことがある。



キム・イェジュンは、もう天涯孤独ではない。




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試合前のオッズは田中恒成の勝利が1/10(1.1倍)、プメレレ・カフが13/2(7.5倍)。


ストロー級からジュニアバンタム級まで4階級でアルファベットのタイトルをピックアップした恒成はビック・サルダール、モイセス・フエンテス、アンヘル・アコスタ、田口良一、ジョナサン・ゴンサレスと、アルファベット団体のエセ世界ランカーではなく、ESPNやリング誌が認める世界ランカーに勝利、その実力の輪郭がはっきりしたファイターです。

一方のカフの戦績は、プロ13戦10勝8KO3引き分けと無敗ながら、13試合はいずれも世界的には無名の選手を相手に地元南アフリカで積み重ねてきたもの。「世界最速」の恒成のスピードについていけないと見られていました。

結果はご存知の通り。

カフは恒成からダウンを奪って、後半の追い上げも振り切ってSDの勝利を収めました。26歳(30歳説も有力)の南アフリカ人が未知の強豪から、その渾名のとおりThe Truth(本物)であることを証明した試合になりました。

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このカフの次戦が3月半ばを目処に交渉が進められてします。交渉の相手は、なんとローマン・ゴンサレス

「田中恒成に勝って、私は自分が世界のベストファイターであることを示した。私が、数々の伝説を作ってきたチョコラティトと戦うことに誰も違和感をおぼえないはずだ」。

南アフリカ東ケープ州のダンカン村はアパルトヘイト時代の旧黒人居住区、治安は劇的に改善されたと言われていますが、外国人旅行者が歩ける街ではありません。

特に、The Hood と呼ばれるエリアは暴力と犯罪の巣窟でした。


カフはここで育ちました。WBAフェザー級王者シンピウィ・ベトイェカも、このダンカン村の出身です。

Cafu seemingly had a one-way ticket to joining him in prison.

父親は酒びたり、カフはストリートで悪事に手を染め、刑務所へ一直線の人生に見えました。

「争いごとばかりだった。人を刺したこともある、刺されたこともある。それがThe Hood で生活するってことはそういうことなんだ」。

それでも、母親は優しく、カフが飢えるようなことはありませんでした。父親も酔っ払って暴力を振るうようなことはなく、人生に絶望しているようでしたが、やはりカフには優しく接してくれました。

元ボクサーだった父親が地元のボクシングジムにカフを連れて行ったのは、なんと3歳のとき。

カフがThe Hood の深い闇に真っ直ぐ落ちなかったのは、夢と希望があったからでした。夢と希望、もっと具体的にいうなら、それはボクシングです。

「父親に連れられてボクシングジムに通うのは本当に楽しかった。いろんな技術を覚えて、成長している実感があった。この道を進めば、ずっと先に明るい未来があると信じることができたんだ」。

「もし、ボクシングが無くて、The Hoodで暮らしていたなら、そんなことは思いもしなかっただろう」。

「ストリートでは喧嘩に明け暮れるしかなかったけど、私にはボクシングがあった。すぐに刑務所に行く、長生きできないなんて言われたけど、私はこの町から脱出する方法を知っていた」。

カフは2018年5月26日にプロデビュー。19歳のときでした。

地域タイトルをコレクションしながら、主要団体のタイトルを窺う南アフリカ人にWBO王者の田中恒成からオファーが届くと、二つ返事で請け負いました。

「当時の私はWBO6位、田中は私を勝てる相手だと選んだ。それが間違いだった」。

ほとんど互角の攻防は、5ラウンドにダウンを奪ったカフと、最終12ラウンドにカフをダウン寸前に追い込んだものの倒せなかった恒成。その差が114−113*2/113−114のスプリットでカフに勝利をもたらしました。

26歳のカフにとってキャリア初の海外遠征、そして世界基準の相手との激突。まだまだ伸び代のある南アのThe Truthがチョコラティトまで飲み込んだとしても大きな驚きはありません。

「私が田中に勝てるなんて誰も思っていなかった。それでも第1ラウンドで、どうしようもない壁ではないとわかった」。

I want show kids anything is possible.  If I can do it, They aiso can.

「The Hood で絶望に鬱屈している子どもたちに、不可能なんてないと教えてあげたい。ほら、私ができたんだから君にも出来るさってね」。




*******

カフvsチョコラティト。

37歳になるニカラグアの伝説にまだ何か残されているのか?

恒成との試合から大きな自信と経験を上乗せしてリングに上がるカフですが、チョコラティトがある程度仕上げてくるならボディを中心とした美しいコンビネーションでカフが削られていくと予想します。

やはり、ロマゴンに思い入れしてしまいます。







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井上尚弥がFighter Of The Yearに輝いたリング誌の2023年アワード。ビリー・ディブはMOST INSPIRATIONAL(最も感動的な物語)賞に選出されました。

8月17日で39歳になるビリー・ザ・キッドは、リング復帰については明言していません。

グローブを吊るして、家族と友人たちと幸せな人生を歩んでいって欲しいと思いますが…。




こう書いたのは、今年2月のことでした。
https://fushiananome.blog.jp/archives/35023992.html


ところが。というか、やっぱり、というか。

ビリー〝The Kid〟ディブがリングに戻ってきます。

母国オーストラリア、英国、米国、中国(マカオ)、日本、タイ、サウジアラビアのリングに上がってきたビリー・ザ・キッドにとって8カ国目のドイツ・ハンブルクが舞台。

日本時間の12月13日。

「余命6ヶ月と宣言された男が、こうして生きているんだ。それだけじゃねぇ、主治医からリングに戻れる状態だと許可がおりたんだ。これが俺のラストダンス。踊らない理由はないだろう?」。

さて、本当にラストダンスとなりますやら?


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Wednesday 23, October 2024
  
Madison Square Garden Theater, New York, New York, USA
commission:New York State Athletic Commission
promoter:Lou DiBella (DiBella Entertainment)
matchmaker:Ron Katz
media:ProBox TV



バンタム級が熱いのは、男だけではありません。

男のバンタム級が日本国内に閉じこもっているのに対して、女のバンタムはニューヨーク、マディソン・スクエア・ガーデンのシアターでメインを張ります。

IBF女子バンタム級チャンピオン、36歳の吉田実代です。



39歳の シュレッタ〝SHA〟メトカーフとは昨年10月以来の再戦、吉田にとってはリベンジマッチ。

MSGで4“Heroes on the Hudson 2” と銘打たれたイベントのメインをつとめるーーー男子でも出来ない舞台です。

オッズはチャンピオンの吉田が9/4(3.25倍)でアンダードッグ。メトカーフが1/3(1.33倍)でフェイバリット。

まあ〝女パッキャオ〟にとってはオッズは関係ありません。

2戦連続の番狂せといきましょうか!


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世の中、何が起こるかわからない。

アンソニー・オラスクアガはタクシードライバーと調髪師、ときにはウーバーイーツで働きながら、ボクシングの世界チャンピオンになった。

同じようにタクシーの運転席から、世界チャンピオンを目指している男がいる。

20年ほど前、正確には2001年から2年間ほど、彼は夜中のベネズエラの街をタクシーで流していた。

身長188cmの巨漢が運転席に窮屈そうに座ってるのはコミカルにすら見えたが、昼間の彼が建設作業員だと聞けば少しは納得できるかもしれない。

ドライバーシートでまばゆい都会のネオンに照らされながら、埃っぽい建設現場で容赦のない陽射しに晒されながらも、彼は薄暗い部屋の片隅で膝を抱えてぼんやりしているような、そんな鬱屈した気分から抜け出せなかった。

ずっと夢見ていたメジャーリーガーは、20歳で諦めた。

メジャーは、信じられないほど残酷な競争社会だ。

メジャーに辿り着くには、競争の入り口に立つことさえも困難な、とんでもない険しい道のりを乗り越えなければならない。

20歳で夢を諦めるなんて早すぎる。

もし、そう思うなら、現実を何も知らないおめでたい人だ。お祝いしてあげよう。

常識で考えれば、20歳でメジャーリーグを諦めるのはーーー遅すぎる。

そう、ロベルト・スアレスはもう十分過ぎる悪あがきをして、夢が夢でしかないという現実にようやく気がついて、踏ん切りをつけたのだ。

そのはずだった。

それなのに、それなのに。

タクシーのカーラジオや、建設現場で同僚たちの世間話で、母国の選手がアメリカや日本で活躍する話題を耳にすると、スアレスは胸の奥底でザワッと何かが蠢くのを抑えきれなかった。

その蠢きは、とっくに捨てたはずの夢のかけらたちが擦れ合う、摩擦音だった。

ハイレベルなリーグでプレーした経験もない、しかも丸2年もブランクがある無名の青年がメジャーにたどり着くのは100%、不可能だ。

最高の形を絵に描けば、ベネズエラの国内リーグを経て、うまくいけばメキシコリーグか独立リーグに潜り込み、そこからマイナー契約を勝ち取り、1A、2A、3Aとステップアップしてメジャーに辿り着く。

しかし、それは絶対にあり得ない、絵に描いた餅だ。

もし、万が一、その絵の通りに現実が進行したとしても、10年以上の時間が必要になる。

百歩、いや一万歩譲って、絵に描いた餅は画用紙を丸めて飲み込めば食えるだろう。

しかし、ここはベネズエラだ。

Pie in the Sky

もし、スアレスがフィールドに戻ろうとしているのなら、それは
Pie in the sky、高い空に浮かんだパイを食うような非現実的なことになる。

そもそも空にパイが浮かんでいるわけもなく、そう見えたのだとしたら、それはスアレスの幻覚だ。

もし、本物のパイが空に浮かぶ奇跡があったとしても、タクシーは空を飛べないし、空に翔け上がるには建設作業員が担ぐ鉄骨はあまりにも重すぎる。


しかし、世の中、何が起こるか、わからない。


なんと、スアレスは、10年以上かけて、空に浮かんだパイを掴み取り、むしゃむしゃと喰らってみせたのだ。



それにしても…。

日中は建設現場、夜はタクシードライバーとしてベネズエラで働いていた男が、12年後に福岡ソフトバンクのセットアッパーとして活躍、阪神タイガースの絶対的守護神として君臨しているだなんて、一体誰が想像できただろうか?

それどころか、再び太平洋を渡り、約70億円の契約を結んだサンディエゴ・パドレスのクローザーとしてワールドチャンピオンを目指し、今まさにあの大谷翔平の前に立ち塞がろうとしているだなんて!


“ 薄暗い部屋の片隅で膝を抱えてうずくまっていたことを思えば、今の私は最高に充実している。ドジャースの強力打線が怖くないかって?

私が打たれたらチームが負ける。そんな崖っぷちで大谷翔平やムーキー・ベッツと真剣勝負が出来るんだよ。野球選手にとってこれ以上の幸せがあるか?

たまんねぇ快感だよ 


世の中、何が起こるかわからない。


とはいっても大きなブランクを作って、カムバックするなんてことは常識ではあり得ない。

ロベルト・スアレスという男は、例外中の例外だ。

スアレスが20歳で野球を諦めたということは、そこまで悪あがきするほどの才能だった、という見方も出来なくはない。

ゴールデンエイジという言葉は、誰でも知っているだろう。

5〜12歳までのゴールデンエイジの運動経験が〝滑走路〟を作るということだ。

そして、10代の残りの時間でエンジンや飛翼を形作り、テイクオフする。

もし、ゴールデンエイジに長くしっかりした滑走路が作れなかったら、どんなに出力の高いエンジンを積み込んでも、どんなに大きな両翼を広げても、最高峰のレベルで遠くまで飛ぶことは難しいと、スポーツ科学の偉い人が決め付けている。

ゴールデンエイジの前半は、ある意味で何をやっても良い。体操やダンスでバランス感覚や体の使い方を覚え、水泳などで全身を鍛えるのが理想的と言われている。

そして、ゴールデンエイジの後半、遅くとも〝12歳から先の10代の残り時間〟は最高峰を目指す競技に集中したい。

もし、それが出来なければ?

もし、その大切な〝残り時間〟でその競技から完全に離れるようなことがあったなら?

まあ、そういうこともあるだろうが、レベルの高い舞台で活躍するのはもう諦めるべきだ。たとえば、その種目が野球な草野球か、せいぜい野球同好会で楽しめばいい。

軟式野球をやってた小学生が、中高6年間も野球を離れて、大学から硬式野球の世界に飛び込んだら?勇敢なチャレンジャーだ。その心意気は尊敬するが、大きな成功は絶対に掴めない。




しかし、世の中、何が起こるかわからない。



次に紹介するのも、呆れ果てるほど往生際の悪い、どうしようもない男の話だ。


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Great、グレート、偉大…。

その基準はどこにあるのでしょうか。

モハメド・アリは、ボクシングがまだメジャーだった時代にアマチュアとプロで歴史的な実績を残し、それだけで十分にグレーテストの名にふさわしかったのですが、スポーツの枠内だけで「偉大」というのはなんだか違う気がするのです。

米国の帝国主義に反旗を翻して戦い抜き、ついに勝利するという、世界史に大きなインパクトを与えたこととのツー・プラトンでアリは偉大になりました。

いまなお、いや、もしかしたら永遠にアリのような世界一有名で、世界史にもインパクトを残すようなグレートは出現しないかもしれません。

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さてさて、では日本にはモハメド・アリのようなアスリートは存在しないのでしょうか?

長嶋茂雄がいなくても、それなりにプロ野球は盛り上がっていたでしょう。読売ジャイアンツへの一極集中という弊害を考えると、長嶋がいない世界にも、それなりのメリットもあったかもしれません。

中田英寿がいなくても、日本のフットボーラーが世界で活躍する潮流に大きな影響はなかったでしょう。

…日本でGreatと呼ぶに相応しいアスリートは、いないのでしょうか?
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WBAバンタム級王者・井上拓真が9ラウンドKOで初防衛に成功しました。


彼に吹く世間の風には、どうしても〝嫌な匂い〟が混じってしまいます。本人には全く責任がないのに、必然的に吹きつけてくる風です。


主審のマーク・ネルソンが試合を止めた瞬間、男泣きした拓真。

勝利者インタビューでは普通の表情で「お客さんが不満を持っているのもわかってた。変わった自分を見せたいと思ってた。これから変わった自分を見せていきたい」と清々しく〝宣誓〟しました。

長谷川穂積は「確変した。これからKOを量産していくと思います」とリップサービスしましたが、相手は元強豪でピークを過ぎたフィリピン人。

拓真は、まともなコンテンダーには一度も勝っていません。まだ信用できません。

彼はプロテクトされた世界戦しかしない、井上家の中の〝亀田〟〝みにくいあひるの子〟です。



こういうブログを晒し続けていると、自分の性癖が丸わかりで匿名とはいえ、なんだかな〜なんですが、パッキャオとか拓真(全く違うやん!と思うかもしれませんが)とかって、実はツボなんです。

「実は」ではないですね。

とにかく、WBAバンタム級チャンピオン井上拓真のパフォーマスには入場から退場まで、しっかり感動させていただきました。

往生際の悪い拓真のせいで、またまた、終わりのないシリーズの開幕です。
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