カテゴリ: 世界の軽量級,世界に挑む日本人

米国で生中継したESPNはもう一つの世界戦とともにわずか4行の記事でしかアップしなかった「寺地拳四朗vsアンソニー・オラスクアガ」

最近では井上尚弥の防衛戦も記事にしなかったこともあり、世界最大のスポーツメディアは取捨選択の「捨」としてボクシングを扱い、米国で特に関心の低い軽量級に至っては全くやる気なし。

どうでもいいことですが、拳四朗とLAのPrincesaは、そんなESPNとトップランクの看板台詞 「THIS IS BOXING」な試合を見せてくれました。

試合は、拳四朗が2度目のダウンを奪った9ラウンド58秒でマーク・ネルソン主審が試合をストップ。

8ラウンドまでの採点は3ラウンドに最初のダウンを与えた拳四朗のフルマーク80−71が一人、残る二人は79−72。

数字上は拳四朗のワンサイドゲームでしたが、非常に面白い試合だったことは、全てのボクシングファンがわかっています。

両者が勝利への剥き出しの根性をぶつけ合ったにも関わらず、綺麗な試合でした。


試合は立ち上がりから拳四朗の左ジャブが冴え渡ります。

京口紘人戦の前に拳四朗と6ラウンドのスパーリングを経験しているオラスクアガは「ジャブが優れているのはわかっているが、私もジャブには自信がある」と、語っていましたが、ジャブを差し合うには両者の技術差は大き過ぎました。

速さだけでなく、絶妙のタイミングと角度、昨年のスパーリングではそこまで見せる必要もなかったのでしょう。

早々にジャブの差し合いを見切ったのも、5戦のキャリアしかない24歳とは思えない冷静さです。

とはいえ、オープニングラウンドでBプランに切り替えなければならなかったオラスクアガは追い詰められました。
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那須川天心のデビュー戦。

まずは、与那覇勇気の男っぷり溢れる拳に、ありがとうございました!

そして、今夜の3分6ラウンド、18分間で私たちが学習すべき「6つのお題」です。


①「パワー」の問題?

天心は非力か?

KO勝利が期待されていたデビュー戦。ダウンは奪ったものの、決定的な場面は作れませんでした。

与那覇が「死んでもKOされない」と鋼鉄の意志でリングに上がったのは想像に難くありません。それでも、あれだけ前がかりに攻め込んでくる、隙だらけの相手を仕留められなかった天心は、パンチャーではない絵面を描いてキャリアを進むしかないのでしょうか?



②独特の「スタイル」?

他の格闘技からボクシングに転向してくる選手には、癖や特徴やアクがあります。

そして、それは多くの場合ボクサーとしては欠点と見做されることがほとんどです。

天心も亀田興毅とのエキシビションやプロテスト。公開練習ではほとんど見せませんでしたが、今夜の有明アリーナでは独特のスタイルと、リズムを見せつけました。

このブログでもすでに「空手の間合い」と指摘されている、独特のスタンスとリズムは世界で通用するのか?



③抜群の「目」 は世界最高レベルか?

誰もがわかりきっていたことですが、天心の最大の特徴は「目」の良さ。

「日本ランカーが相手」と否定的な人でも、この元キックボクサーの「目」が、アルファベットタイトルの王者ではない、本物の世界最高レベルにあることを感じたのではないでしょうか?



④恐るべき「防御

目の良さから派生した要素に思えますが、独特のボディワークと、相手のリズムを簡単に寸断できる技術が再確認できました。

圧倒的なスピードと、効率的なステップ、天心にクリーンヒットを当てる能力を有するボクサーはどのレベルまで引き上げれば現れるでしょうか?



⑤「スタミナ」を証明した?

6回戦でしたが、スタミナは問題ないでしょう。これから、もっともっと増強されていくのは間違いありません。

タフネスという点では、きれいな顔をしていますから古傷はないのかもしれません。

距離が近いボクシングではバッティングやカットは当たり前、出血で視界が塞がれたり、呼吸を制限される試合も待ち構えているでしょうが、そこでの対応力も、あると思います。



⑥隠せない「華」。 

もしかしたらかなり〝自主規制〟してましたかね?そうだとしたら「堅苦しいボクシング」の一ファンとしてお詫びします。

それでも、華がありました。さすがです。ボクシング界に遠慮しないで、もっともっと自由に振る舞ってください。

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…そして、プロ転向会見から本人は「まだそんなことを言える立場じゃない」と一貫して否定しているテーマです。

「井上尚弥」
です。

「僕の生き方は挑戦」と公言する天心が「まだ」と口にしてるのです。それでも「そこ」を見据えているのは誰にだってわかります。

「穴王者に勝ってバンザーイ」で終わろうなんて、ツユほども思ってないでしょう。

こんなこと言っちゃうとザワついちゃうでしょうが、井上拓真には勝つでしょう。 


しかし、もちろん、 井上尚はまだ先です。

あり得ませんが、もし井上尚が与那覇と戦わば、早いラウンドで100%ノックアウトしています。では、井上尚が天心もKOできるか?というとそうは思いません。

あれは、想像してた以上に厄介な異業種からの参入です。

井上尚がフランス料理のシェフだとしたら、与那覇は扱い慣れた(というか普段は扱わないカジュアルな)食材です。賄い飯として、簡単に料理するでしょう。

一方で、今日の天心は純和風料理の職人で、フランス料理も長らく勉強してきましたが、いきなりの食材がジビエでした。さばくのに手間取りました。

しかし、この18分間は素晴らしい勉強になったはずです。 
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12 rounds – junior bantamweights 
(for Teraji’s Ring/WBA/WBC titles) 


■寺地拳四朗1/6=1.17倍
 アンソニー・オラスクアガ11/2=6.5倍

これも当然の数字。帝拳が青田買いした24歳の才能ですが、いきなり寺地は厳しすぎます。

大番狂せを起こすようなら、ジェシー・ロドリゲスを追うスター候補の誕生ですが…。

さあ、メインディッシュです!!! 

ボクヲタ必見、寺地拳四朗とアンソニー・ オラスクアガ。

日本の最高傑作と、帝拳の刺客、こんな面白い構図は滅多にありません。帝拳も意図的に送り込んだわけではありませんが。

さあ!佐々木尽とか那須川天心とか、あんなもん前座じゃ!というメインディッシュを堪能させてくれー!!! 



こういうのが、見たかったんだよ!!!!これがボクシング!!!!!!! 

拳四朗の男気、見ましたか?

これが、プライドがぶつかり合うボクシングの世界戦です。 
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タイではタイ式(キックボクシング)から国際式(ボクシング)の道筋が整備されており、ボクシングに数多くの世界王者を送り出して来ました。

しかし、タイは例外で、キックからボクシングは簡単に往来できる関係ではありません。

キックボクサーからボクシングに転向、大きな成功を収めた現役選手の代表格は 暫定ながらWBCヘビー級王者にもなったディリアン・ホワイトでしょうか。

過去に遡ると、やはりヘビー級で一時代を築いたビタリ・クリチコ(現キーウ市長)は、キックボクサーとして来日経験もあります。

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10年前のリング誌から。「ロシアはウクライナを占領する気だ」。ビタリの言葉を当時は切実に受け止めることができませんでした…。

キックボクシングからボクシングへの転向。ムエタイを除いて、そこには「栄光への脱出」という意味合いが包含されていました。

逆にボクシングからキックボクシングへの転向には「都落ち」の陰がつきまとっていたことも事実です。

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このヒエラルキーに最初に風穴を開けたのは、キックボクシングブームを巻き起こした沢村忠であり、ボクシングを諦めてボクシングの世界王者よりも高い場所に登った魔裟斗でした。

そして沢村よりもサステナな人気を持ち、ボクシングに挫折した魔裟斗とは違う、全く新しい才能、那須川天心が今週末、ついにボクシングのリングに上がります。

市場がシュリンクする一方のボクシング界にとって、最高のカンフル剤です。

今夜のNHKのニュースでも「那須川天心のデビュー戦」が大きく報じられました。専門誌で自己満足的に取り上げられていた「高校◉冠」とかとは注目度の次元が全く違います。

その「◉冠」側の粟生隆寛トレーナー、ミットが上手いのはわかってましたが、そればかりかまだまだ動けますね。頼もしいです、素晴らしいです。

あんな人にミット持ってもらったら、最高に気持ちいいでしょう。
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5月7日、横浜アリーナで予定されていた井上尚弥とWBO /WBCジュニアフェザー級王者スティーブン・フルトンのタイトルマッチが、井上の怪我のため7〜8月に延期となりました。

怪我の部位や程度は明らかにされていませんが「夏開催」 ということは、入院を要するような大きな負傷ではないようです。

井上はじっくり故障を治して、ベストの状態でリングに上がって来るでしょうから心配はありません。

心配なのはフルトンの方。減量苦からフェザー級に上げる予定を前倒しして、この試合の練習、減量を進めていたフルトンにとって、このタイミングでの仕切り直しは痛い。

井上は貴族ボクサー、フルトンは完全Bサイドの無名選手なので文句は言えません。 井上に選んでいただいて感謝する立場です。

とはいえ…なんだかなぁ。 
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Saturday 8, April 2023  
 Ariake Arena, Koto-KuTokyo 
(ESPN+)
 

12 rounds – junior bantamweights 
(for Teraji’s Ring/WBA/WBC and Gonzalez’s WBO titles)


寺地拳四朗vsジョナサン・ゴンサレスのリング誌とWBA /WBC /WBOの3団体のベルトがステイクされた注目の世界ジュニアフライ級タイトルマッチ。

…でしたが、リング誌は junior bantamweightsと誤表記。これ、軽量級あるあるです。

ジュニアバンタム級時代の井上尚弥もジュニアフライ級と、今回のケースの逆で誤表記されたことがありました。さて、試合の日まで間違いに気づくでしょうか…?



気を取り直して、寺地がこの試合に勝てばUndisputed Championに王手。残るはシベナティ・ノンティンガが持つIBFのストラップだけとなります。

日本でもお馴染みのWBO王者ゴンサレスは昨年11月に寺地がWBA王者の京口紘人を鮮やかにストップした名勝負のアンダーカードで岩田翔吉を老獪なボクシングで下したサウスポーのプエルトリカン。

ここまで27勝14KO3敗ですが、世界初挑戦で田中恒成に斬り落とされた黒星を含めて3つともKO負け。世界戦は3勝0KO1敗。

寺地も1敗はしているものの、その相手の矢吹正道にはきっちり雪辱。世界戦は10勝6KO1敗、このクラスの強豪をしっかり倒してきました。

ともに31歳という共通項はあるものの、両者の力量差は明白。スピード、テクニック、パワー、経験…全ての要素で寺地が上回っています。

机上の戦力分析が現実の勝敗と必ず一致するとは言えないものの、寺地の後半ストップ、あるいは明白な判定勝ちが固いと思われます。

オッズは寺地勝利が2/1(1.5倍)、ゴンサレスが13/8(2.63倍)。

予定通りに勝利を収めて、無敗(11戦全勝9KO)の〝Special One〟 ノンティンガとのUndisputed championshipへ!

ボクシングの枠を超えた人気者、那須川天心のデビュー戦がアンダーカードにセットされているだけに、この興味深い試合への注目は希釈されるでしょうが、それもまた一興です。 

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BoxingNews24が、井上尚弥とスティーブン・フルトンのジュニアフェザー級タイトルマッチが「4月に日本開催」とボブ・アラムが語ったと報じました。

しかし、アラムがこの試合にどこまで絡んでいるのか極めて怪しく、いつもの適当な戯言かもしれません。

それはさておき、記事の中で「井上は多くのタイトルを獲得してきたが、そのキャリアを通してまともな強豪とは戦っていない」とも書かれています。
 

While he has won many titles, he’s not faced any elite opposition during his career.

Inoue has on his resume are a mixed bunch of paper champions and B-level guys.

この手の記事は、ローマン・ゴンサレスやファン・フランシスコ・エストラーダらを語るときでも繰り返されてきました。

そもそも、軽量級は欧米では関心の低いクラスです。つまり、ヘビー級やミドル級でいうビッグネームなど存在しないのです。

ポール・バトラーが負け惜しみ半分で吐き捨てたように「(英国など先進国では)バンタム級は経済的に保障されていない(職業として成立しない」」階級です。


記事では「Inoue’s best opposition(井上の主な対戦相手)として、以下の10人を挙げています。

現役のPFPファイターは1人もいません。PFP経験者もドネアだけ。

ドネアを例外に、PFPのドアをノックしたファイターもいません。その意味では、物足りないリストかもしれません。

Nonito Donaire

Paul Butler

Jason Moloney

Emmanuel Rodriguez

Juan Carlos Payano

Jamie McDonnell

Kohei Kono

Omar Narvaez

Adrian Hernandez

Ryoichi Taguchi


この中で、井上との対戦時でESPNとリング誌、いずれもトップ10に数えられていたのが赤字のファイター。 10人中9人が文句なしの世界ランカー級の実力者。

バトラーはESPNでトップ10に入っていませんでしたが、リング誌では6位評価されていました。

アルファベット団体が勝手にでっちあげた〝世界チャンピオン〟や〝世界ランカー〟を倒してきたわけではないのです。

この10人で、最も高く評価すべき相手は田口良一で、誰も異論はないでしょう。

未来のリング誌王者にしてWBA/IBF統一王者。ただし、井上はプロ4戦目、田口は日本王者という蕾の激突でした。

それでも、he’s not faced any elite opposition during his career.と断じられてしまうのは、軽量級の悲哀です。

「超軽量級」という小さな井戸の中では、十分強い相手と戦ってきました。

もちろん、井上の舞台が先進国では「職業として成立しない」ような階級であることは残念です。

だからといって、井上がマニー・パッキャオのように「人気階級の本物のビッグネームをことごとく撃破してラスベガスのスーパースターになる」なんて夢が描けるわけもありません。

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「ビッグネーム狩り」。こんな芸当が出来るファイターはいません。


リカルド・ロペスは17階級で最も層が薄い、つまりレベルが低いストロー級でしたが、ミドル級やウェルター級のスター選手が霞むほど美しいボクシングを見せてくれました。

それでも、米国やメキシコではロペスの評価は低く、米国では小さな会場でもメインを張れず、女子ボクサーの前座に甘んじることもありました。

ロペスの評価が最も高いのは、目の肥えた軽量級の面白さを識る日本のファンです。

井上とロペスは欧米の不人気階級で無双し、専門家評価だけが高い存在、という点で共通しています。

しかし、ついに眩いスポットライトが当たる場所に恵まれなかったロペスとは違い、井上には母国の肥沃なリングがあります。

かつて恋焦がれたラスベガスの夢は幻覚に終わりましたが、欧米では職業として成立しない階級でも、日本のリングでビッグマネーを掴んでいます。 

4団体時代の超軽量級という井戸の中ではあるにせよ、井上はきっちり強豪に勝利しながら、ほとんど完璧なキャリアを刻み続けているのです。 
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今朝のNHK「おはよう日本」に井上尚弥が出演。

ボクサーが一般メディアに登場するのは、ファンとしても嬉しいものです。

ずらりと並んだ4つのベルトを眺めながら、井上は「やったという達成感はあります」と語りながらも、心境の変化はあるか?と聞かれると「それがないんです」と答えました。

そして、心境の変化がない原因について「記録や数字じゃないな、と」「結局は強いやつとやるのが一番大切なんだと」「今はまだ通過点」「スーパーバンタム級に上がれば体の大きい強いやつがいる」と言葉を繋ぎました。

122ポンドには、WBO/WBC王者スティーブン・フルトンと、WBA/IBF王者ムロジョン・アフマダリエフという団体統一王者がタイトルを二分しています。

二人ともお世辞にもビッグネームとは言えませんが、井上が未だ拳を交えたことがない世界レベルでの実績十分の、今がプライムタイムの強豪です。

次戦は来年、半ばと言われる井上ですが、その前に、フェザー級進出が既定路線のフルトンがアフマダリエフとのUndisputed championshipに急転直下で乗り出すようなら、一つ一つタイトルをピックアップした118ポンドから、122ポンドでは1試合でリング誌・WBA・WBC・IBF・WBOの5本のベルトを根こそぎ奪うチャンスに恵まれます。

さらに、フルトンとアフマダリエフの勝者がPFP入りする可能性もあり、そうなると井上にとってキャリア初の現役PFPファイターとの激突。

そこで勝てば、4団体時代では史上初のUndisputed title2階級制覇です。

PFP1位返り咲きはもちろん、オレクサンダー・ウシクにUndisputed title2階級制覇をされると一気に難しくなりますが、来年のFighter Of The Yearもほぼ確実になります。

その前に、今年のFighter Of The Yearでも候補の一人になるはずです。

まあ、今年はドミトリー・ビボルで決まりでしょうか…。
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ヘビー級やミドル級、ウェルター級。

先進国で人気のある階級は中量級から上のクラスです。

そして、フェザー級以下の階級が人気階級のように注目されることは、まずありえません。

フェザー級でなんとか、せいぜい「ここが出発点」( WBOフェザー級王座に就いたマイキー・ガルシア)というのが、スター候補選手の共通認識です。

マイキーは敗れはいたものの「究極のゴール、ウェルター級で最強王者と戦う」という夢を実現しました。 

ボクシングには17階級もありますが、どのクラスも同じ注目度、同じ報酬ではありません。

富裕国で全く人気のない軽量級は、ファイトマネーも格安、不遇です。

それは、PFP1位の座を2年も守ったローマン・ゴンサレスでも変わりませんでした。

その一方で、カネロ・アルバレスはPFPなどハシにもボーにもかからない頃から、PFPに数えられる軽量級の名王者よりも何十倍もの人気と報酬に浴していました。

17階級に横たわる厳しい貴賎を無視して、どの階級も公平に評価するのがPFPですから、そもそも不人気で認知されていない軽量級選手が「PFPファイターだからボクシングファンはみんな知っている」というのは、全く矛盾したロジックで、愚かな幻想です。

わかりやすく極言すると、PFPには無名の軽量級選手を慰める性格もあり、PFPに入ったから有名になってファイトマネーが跳ね上がるわけではありません。

では、軽量級選手が有名になって、高額の報酬を得るにはどうしたらいいのか?



「(井上戦は)日本開催しかありえなかった。私や井上の試合は米国で高く売れない」(ノニト・ドネア)。

「ボクサーにとって、小さな体に生まれついたことは最大の不幸」(ファン・フランシスコ・エストラーダ)。 

「もし私がミドル級なら住む家も乗る車も何もかもが違っていた」(カリド・ヤファイ)。

彼らの言葉は同情すべきなのでしょうか?それとも「だったらレベルの高い人気階級で勝負してみろよ!」で済ませられる、単なる泣き言なのでしょうか?

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軽量級の選手が有名になって、大きな報酬を手に入れるには、近代ボクシング150年の歴史で唯一無二の例外、マニー・パッキャオになるしか方法はないのでしょうか?

しかし、パッキャオは「軽量級の選手が有名になって大きな報酬を手に入れた」わけではありません。

彼は、卑しいフライ級から、貴い人気階級までクラスを上げて、軽量級には存在しないスター選手を狙い撃ちにすることで、人生でもボクシングでも極貧の出自を帳消しにしたのです。

井上尚弥や中谷潤人ら軽量級選手でも、絶望的不利予想の嵐の中、テレンス・クロフォードをキャンバスに沈めたら、パッキャオになれます。

それが無理でも、かなり手前のガーボンタ・デービスやライアン・ガルシアを破壊しても、無名から脱出できます。

もちろん、そんな危険(というか破滅確実)な橋を渡らなくても、日本国内では軽量級では破格の報酬と注目が約束されます。

野球やサッカー、テニスなどのメジャースポーツとは違い、マイナースポーツのボクシング、その中でも特に興味が薄い軽量級を優しく抱きしめてくれる富裕国は日本だけです。



しかし…きっと、それでも私たちはラスベガスやニューヨークの華やかな大舞台への憧れを捨てきれないのでしょう。

パッキャオは例外。

軽量級は、日本のリングに貧困な王者や挑戦者を引っ張り上げるしか、過去も今も未来も出来ないのでしょうか?
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豊穣な歴史を紡いできたスポーツには、多くの伝説が宝石のように散りばめられています。

野球は、環太平洋の一部の国でしかメジャーではなく、地球的視点からはマイナースポーツです。

しかし、日本と米国にとっての野球は特別なスポーツです。

NPBとMLBの優勝チームが真の世界一を決める、リアル・ワールドシリーズの実現を目指して立ち上がった日本のプロ野球は、100年近くも米国の背中を追い続けてきました。

米国で米国都合のルール改正があったとしても、それをすぐに取り入れるのは、来るべき決戦の日を見据えてのことです。

米国を見上げて芽吹いたプロボクシングも、よく似た感情を孕んでいました。

アジア、太平洋に橋頭堡を築いて、米国に挑戦するーーーもしかしたら、打倒・米国の思いは野球よりも強烈だったのかもしれません。

しかし、野球がMLB挑戦に長らく逡巡していたように、ボクシングもまた米国の中枢、ヘビー級やミドル級に攻め込むことに目を瞑り、フライ級やバンタム級に引きこもり続けているのです。

偉大な伝説が語り継がれ、野茂英雄という伝道師が太平洋に橋を架けた野球に対して、ボクシングは伝説を振り返ることなく、米国への挑戦も欺瞞の形でごまかし続けてきました。

それは、「長谷川穂積」や「西岡利晃」「井上尚弥」らで曝け出した帝拳イズム(大橋秀行らも含めて)だけの責任ではありません。

語り継ぐべき偉大な伝説が、現代のボクサーを抱擁しようとしない、その狭心な姿勢にも、その問題があります。

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この国のボクシングにおける〝王貞治〟や〝長嶋茂雄〟はファイティング原田です。

しかし、原田はその役割を十分に果たしてくれているでしょうか?

リング誌をはじめ欧米のメディアが日本最高のボクサーと一致して認めるレジェンド。

マイク・タイソンがアポ無しで訪れた原田をホテル・ニューオータニの貸し切りフロアに招き入れたのは、有名なエピソードです。

寝室には原田のブロマイドが貼ってあったと伝えられています。

あのとき原田でなく、具志堅用高ならタイソンは「誰だ?」と、他の取材陣同様に門前払いになっていたでしょう。


そんな、日本最高の伝説が、薬師寺保栄から「原田さんの防衛回数に並びましたよ」と冗談めかして話しかけられると、「お前らのタイトルと一緒にするな!」と一喝されたそうです。

メディアの質問に同じように答える原田を見て、薬師寺も「1団体で8階級(実際は10階級)の時代と今が違うのは分かってるけど、あんな言い方されると、ね」と、渡辺二郎との対談で苦笑いしていました。

昨日、村上宗隆の55号アーチに王はすぐに祝福のコメントを出しました。それも「私よりも村上君の方が難しい時代だ」と。

もちろん、イチローらからも絶大な尊敬を集め続ける王と、完全に忘れ去られた原田では心のヒネクレ方も違うのかもしれませんが…。
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