カテゴリ: イップス

藤浪晋太郎の制球難は故意ではありません。


故意死球には、2種類あります。

MLBなどでよく見られる「報復死球」。そして、打者を崩すために投じる「ブラッシュボール」。



東尾修は、故意にブラッシュボールを投げていました。

藤浪は故意に暴投しているわけではありません。

藤浪の死球が乱闘騒ぎに発展しにくく、東尾の場合はそうではない最大の理由は、おそらくそこにあるのでしょう。

キャッチャーの動きを見れば一目瞭然ですが、それ以前の投手との視線のやり取りなどで、打者は狙って投げたのか、それともコントロールミスなのかは、大体はわかるものです。



そして、故意死球には必ず伏線があります。

報復の場合は「やられたらやり返す」。

報復以外の多くの場合は、自分の持ち球で抑えるのが難しい打者に対して、バランスやリズム、精神の落ち着きを崩すために投げられる「ブラッシュボール」です。

報復死球とブラッシュボール、どちらにも故意が潜んでいますが、報復死球は当てなければいけません。ブラッシュボールは打者を大きくのけぞらせて心身を崩すことが目的ですから、必ずしも当てる必要はありません。

「昔の投手は相手の四番をつぶそうと頭を狙って投げてくることもあった」(落合博満)。



しかし、藤浪の場合は報復死球でもなければ、ブラッシュボールでもありません。そこには「味方が当てられたから当て返す」「打者を崩すために死球覚悟でインコースをえぐる」という、明らかな故意は存在しないのです。



報復死球は当てる相手が最初から決まっています。相手打線を象徴する主力打者です。東尾がブラッシュボールを投げる相手は、実力が低い、つまりブラッシュボールを投げるまでもない打者は対象ではありません。

だからこそ、故意が容易にくみとれるのです。



藤浪の場合は、何の伏線もなく、いつ、誰が、あの剛球に襲われるのか、投げるに本人ですらわかっていません。

当たり前です。そこに故意は存在しないのですから。




殺人か、それとも業務上過失致死か?故意があるのかどうかは非常に重要なポイントです。殺人罪が成立するためには、殺意(故意)が認められなければいけません。


藤浪の制球難は本人はもちろん、彼を獲得した球団もしっかり認識しています。もちろん、本人も日米の所属球団も制球難を改善しようと努力を積み重ねてきました。


東尾のブラッシュボールは制球難ではなく、打者を打ち取るために組み立てられた配球であり、決め球に次ぐ重要なボール…いや、決め球よりも大切な一球だったのです。

もちろん、藤浪も投球を組み立てる配球を考えています。その配球の中に暴投はありません。一方、東尾は配球の中に巧妙にブラッシュボールを潜ませていました。

それは、ロベルト・デュランが嵐のコンビネーションの中に反則打を紛れ込ませるのにも似ていましたが、東尾のブラッシュボールの方がより狡猾で、より重要な一投でした。


東尾に対して2割3分6厘と抑え込まれた落合博満は「嫌いだもん。頭ぶつけられてるから」と吐き捨て「最後の外のスライダーへの伏線としてインサイドにデッドボールがお構いなしに来るというのが厳しかった」と語り、「また来るんじゃないのかなということで身体が逃げてしまうっていう、よくあるパターン」と苦笑いしました。

落合とまともに勝負しては東尾に勝ち目はありません。東尾が強打者を抑えるには、それしかありませんでした。

一方で、落合が一番安心して打席に立てたのは江川卓でした。のけぞらせるボールは絶対に投げない。内角を意識させる配球を絶対に使わないからです。

もちろん、それはそんなものを使わなくても抑えられるからでした。

リーグの違いから直接対決はほとんどないものの、オールスターで空振り三振に打ちとられたときは、笑っていました。

「速いだけなら簡単に打てる」と嘯き続けている落合が、です。

「江川は速かったか?」と聞かれた落合は「速いだけなら打てますよ」と、言ってもわかんねぇだろうなと苦笑いしていました。



藤浪が、その球質だけにフォーカスすると東尾型か江川型かは明らかです。

一発病と揶揄された、ホップはするが球質の軽い江川とは、藤浪の剛球はまた別の種類のものでしたが。

「マイナーでも100マイルを超える投手は掃いて捨てるほどいるが、彼らに問題なのはコントロールだけではない、ボールに威力がないんだ」とは、よく言われていることで、実績を残せていない藤浪の可能性にMLB球団が最後まで期待したのは〝そこ〟でした。

スピードガンが速い投手はマイナーでもあちこちに転がっているが、フォーシームでMLBの強打者を押し込める投手はめったにいない、ということです。

もし、東尾が制球難であったなら、プロ野球の世界では生き残ることが難しかったでしょう。

また、藤浪に東尾の度胸と制球があれば、高校時代からのライバル関係はMLBでも継続していたかもしれません。

「二刀流の大谷は確かにすごいけど、投手としては藤浪の方が遥かに上」。



ーーー現実はそうではありません。


さて。

故意でなければ許されるのか?

世界でも稀有な剛球の素質があれば許されるのか?

故意かどうかでいえば、故意ではないにしても、そこには間違いなく未必の故意が存在しています。


NPBがベイスターズと藤浪に対する特別注意を発するなど、何らかの形で動くべきなのか?となると、まだその段階ではありません。


個人的には…もし、自分が藤浪に近い人間だとして「気にするな。後悔しないように、思いっきり腕を振って投げろ」と言えるかどうか?正直、微妙です。


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ドラゴンズの井上一樹監督は「けが人を出したくない。ベストオーダーで臨めない。でもそれはしょうがない。そういう投手を立てられたら」「普段は出ていない控えのメンバーを出しながらも左を並べるという策しかこちら側としてはない。しゃくには障るけど、実際右の細川であり、石伊でありに万が一のことがあったらと思ったら、他の監督さんもそうするんじゃないかな」とぶ然とした表情で吐き捨てました

解説者の里崎智也は「もやもやは晴れない。あの左打者を並べた決断は、ネガティブなものだったのか、ポジティブな決断だったのか。何としてでもAクラスに割って入る中日ならば、迷わずポジティブだったと思いたいが、そうと割り切れない後味だけが残ってしまった」。

里崎のいう「ネガティブかポジティブか」は、井上監督の言葉を聞くまでもなく「ネガティブ」でした。




藤浪晋太郎の1059年ぶりのNPB一軍マウンドは5回86球、被安打5、失点1、奪三振5、四球1。

マックス156kmだった球速はまだまだ上がってくるでしょう。

今後の問題は、井上監督が嘆いた「ベストオーダーが組めない」「他の監督さんもそうするんじゃないかな」という言葉通りに、他チームも右打者をオーダーから外すのか?

あるいは、ベストオーダーで臨むチームが現れるのか?

もし、右打者に対して予想通りに制球難が噴出、各球団が窮余の策の「左を並べるネガティブオーダー」を強いられるとすると、NPBがベイスターズと藤浪に対する特別注意を発するなど、何らかの形で動くべきなのか?



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「学説」です。

まさに、そうです。

わかりやすくいうと「研究対象」です。

藤浪晋太郎については賛否両論あると思います。

いや「否」の方が圧倒的に多いかもしれません。

今夜、ニュースで見たのは相変わらずのスッポ抜け。

まだ未熟な二軍選手が、MLBでも可能性を期待された球威のボールが顔面に抜けてくるのは、織り込み済みとはいえ、死球にならなくても心理的に深い傷を負ってしまうかもしれません。

「どこに行くかはボールに聞いてくれ!」という藤浪はどこまで許されるのか?

難しい問題です。



学説を発展させて下さいませ。


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シーズン終了までの変則契約、報酬5000万円。

契約には、MLBへの再挑戦に支障をきたす条項は入っていないとのことで、藤浪晋太郎としては〝腰掛け〟契約、受験的にいうと〝仮面浪人〟な形でベイスターズのユニフォームに袖を通すことになりました。

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両者にとって最高の形は、電撃復帰したNPBで藤浪の制球力が劇的に改善、MLBの強打者も押し込んだ剛球で横浜の2年連続日本一に貢献、シーズンオフにMLBから好条件でオファーが殺到…そんな筋書きですが、そこまでムシの良い話が現実になると思っているプロ野球ファンは1人もいないかもしれません。

「子供の親孝行は3歳までに済んでいる」。

そんな名言がありますが、甲子園で大谷翔平のライバルとして日本中の野球ファンを熱狂させ、高卒ルーキーで二桁勝利の離れ業、トラキチを「向こう15年、エースに困らない」と確信させた藤浪もまた、ある意味で〝親孝行〟を済ませたアスリートです。

「MLBでも大きな欠陥を曝け出し、何の成果も挙げられなかった選手が日本に厚遇で迎えられるなんておかしい」…もし、そんな意見があるとしたらとんでもない勘違い、大間違い。

さて、ムシの良い話を、久しぶりのハマスタを楽し見ましょうか。




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スポーツに筋書きなどありません。

日本短距離界をブーストさせた桐生祥秀が日本選手権でタイトル奪回を果たすなんて、筋書きはない、しかし、間違いなくドラマでした。

同じ日本選手権で、最終種目に女子100Hがセットされたのは、筋書きをかけないスポーツの世界で「ドラマを起こしたい」という、運営サイドの渇望でした。

そして、寺田明日香は決勝で完敗したものの、期待していた以上のドラマが起きました。

「日本選手権って、こんなに泣ける番組だったの?」(北口榛花)。





ーーー筋書きをかけないスポーツの世界で「ドラマを起こしたい」。

もし〝それ〟が起きたら「泣ける」。


藤浪晋太郎が3年ぶりに日本球界に戻って来ます。

なんか、あっという間でした。

ーーー藤浪晋太郎が、悪い意味だけで〝手ぶら〟で戻って来ます。


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リング誌のProspect of the Year に輝いたのは14人。

Fighter of The Year に選出されたのは14人中2人で、マイク・タイソン(1986年)とワシル・ロマチェンコ(2017年)です。

この数字が少ないと見るか、健闘してると評価するかは微妙かもしれませんが、もし1人もFighter of The Year を輩出できていなければ「期待外れ名簿」「リング誌は見る目がない」と切り捨てられても仕方がないところです。

そう考えると14人中2人というのは「少ない」と見なして差し支えないのではないでしょうか。

もちろん、プロ野球やサッカーの新人王も将来MVPになる確率はもっと低いことから 「最優秀新人と未来の最高選手には相関関係が薄い」という見方も出来ますが。

さて、以下が「リング誌の14人」です(1989年〜2010年は休止)。

1983 Kenny Baysmore
1984 Mark Breland
1985 Mike Tyson
1986 Mike Williams
1987 Engels Pedroza
1988 Michael Moorer
2011 Gary Russell Jr.★
2012 Keith Thurman(デビッド・プライス)
2013 Vasyl Lomachenko★
2014 Anthony Joshua(フェリックス・ベルデホ)
2015 Takuma Inoue(エロール・スペンスJr.)
2016 Erickson Lubin★
2017 Jaime Munguia(ライアン・ガルシア)
2018 Teófimo López ★

実は、リング誌が休止中の2000年からESPNもProspect of the Year を選出しています。リング誌が合議制で選出しているのに対して、ESPN版はダン・ラファエル記者の個人選出です。

リング誌とESPNが同時にProspect of the Year を発表してきた時期は2011年から現在までの8年間。

この8年で4人までが一致(★印)、残る4年は不一致(カッコ内はESPN選出のProspect of the Year )でした。

1983年、晴れある第1回Prospect of the Year に選ばれたのはケニー・ベイスモア。1979年に全米ゴールデングローブのバンタム級で優勝。

1981年にジュニアライト級でプロデビュー、周到なマッチメイクでデビューから20連勝18KOを飾りUSBAジュニアライト級王者を獲得した段階で、温室が剥がされます。

初防衛戦の相手はブラックマンバ、ロジャー・メイウェザー。年齢こそベイスモア23歳、ロジャー24歳で二人とも若手でしたが、ロジャーは元世界王者。

ロジャーは、上原康恒と激闘を繰り広げたサムエル・セラノを8ラウンドTKOで下してWBAジュニアライト級王者に就いていましたが、フェザー級上がりのロッキー・ロックリッジに無残な1ラウンドKO負けを喫して評価は暴落していました。

名前のあるグラスジョー、ロジャーはベイスモアにとって格好のステッピングストーンに見えましたが…。結果は無残にも3ラウンドストップ負け。
 
その後、引退までの22戦は8勝12敗2分。最後の8戦は全敗全KO負け。28歳でグローブを吊るしました。
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最初から〝外した〟リング誌でしたが 第2回はマーク・ブリーランド(期待値が大きかったため期待外れの烙印を押されていますが、尾崎冨士夫戦は滅法強かったです)、第3回マイク・タイソンと強豪世界王者が続きます。

しかし、第3回のヘビー級マイク・ウィリアムスは雑魚相手にデビューから13連勝9KOも元王者ティム・ウィンザスプーンに競り負けると、バスター・ダグラスやコリー・サンダースといったコンテンダーに惨敗。

地域タイトルの一つも取れないままリングを去りました。 

第4回のアンヘル・ペドラサは20歳のデビューから19連勝全KOと見かけだけの破竹の快進撃を見せますが、最初のリトマス紙となったミシガン州ジュニアウェルター級王者マイク・ジョンソンとのウェルター級10回戦でポイントでリードしていながら9ラウンドTKO負け。

地域タイトルをいくつか獲るものの、世界挑戦の前哨戦をことごとく落としリングを去りました。

第5回はマイケル・モーラー。マイケル・スピンクス以来、史上二人目のライトヘビー級王者からのヘビー級制覇を達成。「サウスポーはヘビー級王者になれない」というジンクスを史上初めて打ち砕きました。

ジョージ・フォアマンにあまりにも劇的で歴史的な逆転KO負けを許したシーンが印象的ですが、合格点です。

次回は2011年の再開後からProspect of the Yearに選出された8人、全員がまだ現役バリバリの通信簿です。
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どんなスポーツでも期待の新人が鳴かず飛ばずで表舞台から姿を消すことは珍しくありません。

中日ドラゴンズの根尾昂が二軍レベルでも全く使えないなんて、去年の今頃に予想出来た人が果たして何人いたでしょうか。

清宮幸太郎の同期、その圧倒的な出世頭が村上宗隆だなんて誰が考えたでしょうか。

プロ野球12球団のドラフト1位選手12人が「未来のスーパースター名簿」などではなく「才能の墓場」の性格の方が色濃いように、ボクシングにおいても将来を嘱望された若者があっけなく蹉跌してしまう光景は珍しくありません。

清宮も根尾もまだプロ野球選手としてスタートしたばかり、頑張って欲しいですね。

トップランクやゴールデンボーイ・プロモーションズの過保護なルーキーが挫折するのは冷かな目線で見れますが、過酷な高校野球の世界で卓越した活躍を魅せて、最高の評価を集めた彼らがもがく姿は痛々しくて見たくありません。


リング誌の期待のボクサー、Prospect of the Year、彼らのその後を追いかけてみます。

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2013年のProspect of the Year から 2017年のFighter of the Year へ。ワシル・ロマチェンコのように「期待の新人」が「年間最高選手」に昇華するのはきわめてレアなケースです。
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2015年、日本人では井上拓真が日本人で初めて 
Prospect of the Year に輝き、暫定とはいえ世界王者になっています。

このProspect of the Year ですが、意外と歴史は浅く1983年から制定、1989年から2010年まで何故か休止、2011年から再スタートしました。

リング誌の選んだ14人の Prospect of the Year その後と、拓真のような最近選出された選手については現在進行形を追いかけてみます。
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