この33年間で、4団体完全統一王者=Undisputed Champion(議論する余地のない王者)=はたった4人しか誕生していません。
ミドル級のバーナード・ホプキンス、そのホプキンスに勝ったジャーメイン・テイラー、ライト級のテレンス・クロフォード、クルーザー級のアレキサンダー・ウシクです。
ここに「WBCフランチャイズを王座と認める」という愚行*を英断するならライト級のテオフィモ・ロペスも加わって5人となります。
*先に予防線を張っておきますが「中谷正義vs テオフィモ」が決定した時点で、このブログはESPNやリング誌の「フランチャイズは認めない」という立場から一転離反、テオフィモはUndisputed Championと認定しますので悪しからず。
3階級制覇はもちろん、4階級制覇よりも遥かに難問となった4団体完全統一ですが、そのラインナップを見ると一目瞭然「強いけど人気が伴なわない不遇の選手」の名簿であることがわかります。
この33年間でスターダムの頂点を極めたオスカー・デラホーヤもフロイド・メイウェザーも、マニー・パッキャオも、カネロ・アルバレスも、4人合わせて21階級制覇もしながら、誰一人としてUndisputed Championの座に就いていないのです。
スターダム頂点とUndisputed Champion、この各4人のグループはまさに光と影です。
頂点のスターと戦っていないクロフォードやウシクは仕方がないにしても、デラホーヤやフェリックス・トリニダードを完膚なきままに叩きのめしたホプキンスですら影のままだった事実はあまりに悲しく、このスポーツがいかに不条理と理不尽なスター・システムで成り立っているのかを改めて思い知らされ、暗澹たる気分になってしまいます。
「テオフィモは人気があるし、これからもっと人気も出る光じゃないか」という意見もあるかもしれません。
繰り返しますが、中谷戦が決まるまでテオフィモがUndisputed Championとは絶対に認めません。
そして、エル・ブルックリンがUndisputed Championと認められる経緯や、それを肯定する腐敗メディアの姿勢こそが、唾棄すべきスター・システムを象徴する事象なのです。
ワシル・ロマチェンコ戦を前に「フランチャイズのタイトルもステイクして欲しい」というリクエストをマウリシオ・スライマンは快諾、それどころか「唯一無二のWBCのUndisputed titleはフランチャイズ。デビン・ヘイニーはセカンド王者」と狂言を口走ったのでした。
「WBCの最高責任者が明言しているんだからフランチャイズが正統で正当な王者と認めるしかない」というのは大間違いです。それでは腐敗承認を認めることです。
見境なく世界王座を粗製乱造するアルファベット団体と、それらを奴隷の如く思うがままに扱うスーパースターの醜いエゴ。
そんな汚らわしいベルトをコンプリートすることに、どこまでの意味があるのか?
村田諒太の口から「ミドル級完全統一」という言葉よりも「カネロ・アルバレス」「ゲンナディ・ゴロフキン」の名前が挙がることから伝わるのは、彼の謙虚な姿勢だけではなく、ボクシング界がスター・システムに支配されているという現実です。
どのアルファベット・ベルトがステイクされていたのか記憶がないパッキャオやメイウェザーは4−Belt Eraを象徴するアイコンで、80年代までは考えられなかった、タイトルとの結びつきが非常に希薄なスーパースターです。
現在でも、Undisputed Champion=完全統一王者に就いたホプキンスやクロフォード、ウシクは、専門家からは最高レベルの評価を得ていますが、地味なキャラクターからの脱却は失敗に終わりました。
では、現代のUndisputed Championには専門家とマニアの評価と希少性以外には価値はないのでしょうか?
スター・システムに完全支配されている欧米だけで考えるなら、答えはYesです。
メキシコのスーパースター、カネロがUndisputed Championを目指すなら話は別ですが、クロフォードがウェルター級でもUndisputed Championの座に就いたとしても依然地味なままです。
「(クロフォードがスターの頂点を極めるには)コナー・マクレガーとのMMAとボクシングの2試合マッチで勝てば扱いは変わる」(ボブ・アラム)でしょうが、クロフォードは断固拒否、アラムへの不信感を募らせました。
それなら、パッキャオがやったように圧倒的不利予想で上の階級のスター選手を食うしかありませんが、そのつもりもないようです。クロフォードはこのままトップランクの養殖生簀で腐っていくのでしょう。
Undisputed Championになるには4つもベルトを集めなければならない、つまり最も困難な時代が4−Belt Eraのはずですが、その名声は専門家とマニアの脳内で完結してしまう自慰的偉業に堕ちています。
ただし、スター・システムはメキシコや英国の人気階級という特権ボクサーにだけに用意された醜悪なギルドのルールに過ぎません。
もちろん、そこの親玉カネロを村田諒太が粉砕KOするようなことがあれば、こんなスッキリすることはありません。
しかし、そうでなければ…。奴らのスター・システムの中では絶対に見向きもされない、超軽量級の才能を憧れ料と土下座外交で押し売りする必要など、どこにもありません。
米国で地味、人気がないと切り捨てられるクロフォードやチャーロ兄弟と井上尚弥は同列には語れません。
しかし、日本では奴らのスター・システムなど無効です。奴らの眼中にない超軽量級も「伝統のフライ」であり、日本国内では「黄金のバンタム」も間違いではありません。
そこでUndisputed Championになることは、日本では大きな意味があります。
もちろん、そこにはメディアの正しい報道と、ファンの正しい受け止め方が不可欠になります。