リング誌5月号から。

 RISING SONS(新世代の台頭)のタイトルで、「日本ボクシングの豊穣な歴史と、新しい風をわかりやすく紹介」と8ページフルカラー(リング誌は全ページカラーですが)で特集してくれています。
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井上尚弥は、現在日本で最もリスペクトされたファイター。これから、日本ボクシングの顔になれるか?

♠️♤♠️昨年9月の「Super Fly」興行は二つの重要な意味を持つ。

一つは、フェザー級以下の市場が米国でも受け入れられることを、スタハブセンターを埋めた観衆とHBOで多くの人が視聴したことで証明したこと。
 
二つ目は、年間最高試合の候補に挙がった三浦隆司と亀海喜寛、八重樫東によって日本人ボクサーの認知が広がった米国のリングに井上尚弥が上がって期待以上のパフォーマンスを見せたこと。

今後も日本人ファイターが米国に来るなら、さらに我々は彼らに親しみを覚えるだろう。

また、Super Flyの背景には、米国のTVネットワークが(ボクシング人気の低迷により番組予算が激減している中で、低報酬で興行が打てる)軽量級への関心が高まっていることもある。

井上は日本で最も評価が高いボクサーだが、極東の小さな国は他にも多くの才能が存在する。

最近の日本は常時10人を超える世界王者を抱え、そのほとんどがキャリア20戦未満で20代と、大きな未来を切り開く可能性を秘めているのだ。

カルフォルニア州よりも小さな国で、どうして若い才能が次々に芽生えているのか?

その答えを探すべく、ダグ・フィッシャー編集長と、日本ボクシングに造詣の深いアンソン・ウェインライト記者は、日本を代表するプロモーターやメディアへの取材を敢行した。

現在活躍している新世代のボクサーに焦点を当てる前に、まず日本のボクシング文化と歴史を紹介しなければなるまい。

世界基準のボクサーを輩出し続けている日本で、最初に世界王者になったのは1952年にフライ級王者となった白井義男だ。そして60年代にはファイティング原田、70年代に具志堅用高が国民的ヒーローとなり、二人は殿堂入りも果たしている。

日本がこれまでに生み出した世界王者は約90人。この数字は、米国とメキシコに次ぐものだが、JBCが2013年までIBFとWBOを認めていなかったにもかかわらず、この数字であることも考慮すべきだろう。

殿堂入りの日本ボクシング界の重鎮、ジョー小泉は「日本が質の高いボクサーを生み出している理由は3つある」と語る。

「一つは、チケット販売のシステム。ファイトマネーの一部がチケットで支払われることが珍しくなく、ボクサー自身が家族や友人知人、スポンサーにチケットを売る優秀なセールスマンなのだ」。…あまり自慢できることじゃないですね、これは。

「次に、実力別に分けられたA、B、C級トーナメントが行われ日本、東洋、そして世界に続くガイドラインが用意されていること」。

「3つ目は、ジムと興行を一手に受ける経験豊かなプロモーターの存在だ。彼らが地元に根付いて、テレビ局やスポンサーの支援を獲得して、優秀な選手を育てているのだ」。



ストロー級の王者に二度就き、今は大橋プロモーションズのトップである大橋秀行からは、意外な嘆きの声を聞いた。

「海外のハードコアファンなら知っている井上尚弥ら日本の若い才能は、日本では一般的には知られていない。井上を見てくれたら一目瞭然だが、この10年でボクサーの技術は格段に進歩している。彼らは、世界的な強豪王者にも勝利を収める可能性も秘めている。これは、過去には考えられなかったことだ」。

「しかし、率直に言うと日本のボクシング界は、素晴らしいボクサーが続々と生まれていることを一般のファンへ伝えることを怠ってしまった。本当の黄金時代を迎えるのに、一般のファンに知ってもらい応援してもらうことは欠かせない」。…世界王者の数だけ見ると、日本はメキシコや英国のようにボクシングが盛り上がってると、リング誌が考えてしまうのも無理もありません。現実は全く違いますが。

渡辺プロモーションズの渡辺均は、IBFとWBOを認めたことで才能が発揮できる舞台が増え、今の活況につながっていると説明する。

「ジムが興行を打ち、トレーナーも選手も抱えるクラブオーナーシステムが、日本のボクシングを発展させてきた。4団体を認めて世界王者の希少価値が失われたという人もいるが、より多くの世界戦を行うことがボクシング界の発展につながると信じている」。

一方で、最も古い歴史を持ち最も大きな成功を収めている帝拳の本田明彦は「世界王者に関しては多けりゃいいというものではない。10人も世界王者を抱えていても、決して黄金期ではない。村田諒太と、もしかしたら井上尚弥はスターの地位を獲得したかもしれないが、他の世界王者は違う。日本でボクシングの試合をテレビに乗せることは、考えられているほど簡単ではない」と危機感を語っている。

「一部で技術レベルが向上してるのは認めるが、プロボクサーの数は2年前の3分の1にまで激減している。実力のあるボクサーの数も減っているため、マッチメイクは非常に難しくなっている。世界王者の数だけ見てたら信じられないかもしれないが、これが日本の現状だ」。…one third compared to two years ago 2年で3分の1はさすがにありえませんから「20年」の間違いでしょうか。

「世界王者を量産する今の環境は、本物のスターを生み出すには良くない環境だ。より大きな試合、より大きな報酬を求めて日本を飛び出すことだ」。♠️♤♠️   
 
軽量級の場合は、日本が本場だと言い切って良い状況が長らく続いているだけに、日本を飛び出して「より大きな報酬」は難しいですね。木村翔のように日本で無名のボクサーが、海外のスター相手に咬ませ犬で出向くなら別ですが。

渡辺会長の言う「4団体認めたことが業界の発展につながっている」というのは一面あるかもしれません。もし、2団体のままだと王者の数は半分かそれ以下です。ボクシング産業トータルで見たら倍の世界王者を抱えている方が、市場規模も倍とはいかないものの、大きいかもしれません。

確かに5人の2000万円選手の市場と、10人の1000万円選手の市場はイコール、同じ1億円です。しかし、本田会長が指摘するように「それではスターは生まれない」ですね。一人の1億円選手の方が、市場は盛り上がります。

今でも、おそらく年収で1億円を優に超えている村田諒太が存在しますが、彼は純粋にボクサーとして評価されているようには見えません。

五輪金メダルで国民的ヒーローの一人になり、ボクサーとしては異例の露出で世間に認知され、不可解な判定を乗り越えてついに世界王者になった…プロのリングで評価された1億円ではありません。

プロボクサーが、他のプロスポーツ選手と決定的に違うのは、その収入のほとんどがファイトマネーということです。コマーシャル出演などのエンドースメントが、収入の大きな割合を占めるゴルフやテニスと違い、一つの敗北でイメージに傷が付くボクシングはスポンサーにとって危険な商品です。

しかし、村田の収入割合は、おそらくエンドースメントが大きくファイトマネーを上回るでしょう。もちろん、スポンサーが聡明で快活でハンサムな彼を応援したいと思う理由は充分理解できますが、突然変異の村田はモデルケースにはなりえません。

日本のボクシング市場を支えている軽量級のボクサーが、どこを目指せばいいのか、それが問題です。

今朝、アンソニー・ジョシュアがデオンティ・ワイルダーとの決戦にふれて「米国には行かない。ロンドンでもカーディフでも同じこと(実際には同じではなく英国の方が報酬ははるかに上)が出来るのに意味がない」と切って捨てましたが、英国ほど恵まれてはいませんが、軽量級に関しては日本も同じです。

「ラスベガスで一攫千金」なんて白昼夢はもう見ないで、メディアも興行に関わるジムも日本を軽量級の本場にするような前向きな努力をすべきです(すでに本場は日本ですが、いまだに「ボクシングの本場はラスベガス」と平気で吐く関係者が多すぎます)。