
10ラウンドまでのスコアは2人のジャッジが95−95のイーブン、残る1人が96−94でリコ・バーホーベンを支持していました。
運命の第11ラウンド、オレクサンデル・ウシクが序盤から狙っていたアッパーカットを繋いで強烈なダウンを奪うと、立ち上がってきたキックボクサーに猛攻、英国リバプールからやって来た主審のマーク・ライソンが試合をストップしました。
タイムキーパーが時計を止めたのは11ラウンド2分59秒。
この試合のジャッジで問題となったのは①主審のストップが終了ゴングの後だったのではないか?、②第10ラウンドまでの30分間は公式採点のような接戦ではなくリコが大きくリードしていたのではないか?という二点。
まず、①について。
ライソンのコールはタイムキーパーの通り、2分59秒で問題はありません。主審が両者の間に割って入ったのは、そのあとでした。
そして、ストップそのものが早すぎたかどうか?あそこで、ライソンが試合を続行させていたなら、すぐにゴングが鳴って37歳のオランダ人は最終ラウンドに進めたはずです。
チャンピオンシップラウドを10−8でウシクが取っていたとすると、最終回は105−103*2/104−104の2−0でウクライナ人がリードする形で迎えていました。深いダメージを負っているように見えた挑戦者が60秒間で超人的な回復を見せ、大逆襲していた可能性も否定できません。
しかし、主審が最終回を許したイフの世界で最も可能性が高い展開はウシクの明白なKOかストップ勝ち、あるいはバーホーベンが根性を見せて終了ゴングまで逃げ込むーーーいずれにしても大番狂せは起こっていなかったでしょう。
そして、ここでもう一つのイフです。第11ラウンド2分59秒で試合を止めなければ、頑健なキックボクサーが判定に持ち込んだ可能性もあったでしょう。もちろん、それでもオフィシャルではダウンを奪い返したとしてもスコアは10ラウンドまでの2者がドローに戻るだけ、残りの1人が指示してくれていてもマジョリティドローで、WBCストラップは12年ぶりにボクシング2戦目を戦ったキックボクサーには渡りませんでした。
ここで、②の「第10ラウンドまでの30分間は公式採点のような接戦ではなくリコが大きくリードしていたのではないか?」。
どんなに微妙なラウンドでも「10−9」に振り分けなければいけないと勘違いしているファンは少なくありませんが、ジャッジも「10−9」を敬遠する傾向が泥沼的に色濃くなっています。「1時間後にあらためて判定したら逆になるかもしれない」と感じるようなラウンドは「10−10」をつけなければ、とんでもなく醜悪な集計が排泄されてしまうことをプロのジャッジなら肝に命じなければいけません。
ところが、メジャースポーツからは信じられないようなジャッジのライセンス試験と、杜撰(というか事実上存在していないコミッションもある)更新試験、研修制度…プロボクシングのジャッジほど低レベルなプロは、他の業界を見渡しても、この世の中で滅多に存在しません。
同じラウンドでも、ジャッジが割れるのは当たり前のように見られます。そして、全くおかしな集計結果を目にした海外メディアは「どうやらジャッジは別の試合を見ていたようだ」「これは重症だ、すぐに目医者に行かないといけない。もう手遅れかもしれないが」という常套句を声に出し、活字にするのです。
しかし、今回の試合でジャッジの見方が分かれたのは2者がウシク、残り1人(パスケル・プロコピオ)がバーホーベンに振った第10ラウンドのたった一つだけでした。プロコピオが他の2人と同じようにウシクを支持していたなら、10ラウンド終了時点の集計は3者とも95−95のイーブンでした。
その意味では、3人のジャッジは「同じ試合を見ていた」ことになります。ESPNも95−95で、ピラミッド前広場で繰り広げられた10ラウンドを互角と見ていました。
一方で、複数の海外メディアのスコアは〝別の試合〟を見ていました。
その一つ、英国ボクシングニューズ誌の採点は10ラウンドまで97−93でオランダ人がリード。ウクライナ人が取ったのは第3、4、10の3つだけ。第11ラウンドを8−10、最終回を9−10で失っていたとしても114ー113で世紀の番狂せが起きていたことになります。
10ラウンドまでを、5つずつ分け合って95−95か、7ラウンド:3ラウンドの97−93か?その差は2ラウンド。
個人的には採点していませんでしたが、残り2つのラウンドを取っても判定になったらウシクは勝てないと見ていました。ウシクとコーナーも同じ見立てだったから、10ラウンドまでフェイントを交えて〝順序立てて〟放っていたアッパーを強引にまとめたのです。その勝負勘と遂行力はさすがでした。
しかし、ボクシング専業のヘビー級ファイターを翻弄してきた変幻自在のフットワークは鈍重で、相手のサイドに回れずに、不用意に正面に立つ、およそウシクらしくない劣悪なパフォーマンスでした。
過去最重量で計量したことも含めて、これがウシクの油断によるものなのか、それとも機動力が生命線のヘビー級にとって39歳という数字は劣化を意味するのか?
あるいは…リコ・バーホーベンという名前の37歳が世界史上最高の天才で、アンソニー・ジョシュアらとも互角以上に戦えるのか?それとも、今回の超大健闘はやはりウシクの油断や劣化が原因で、フランシス・ガヌーと同じように「次戦」で想像以上の脆弱を晒してしまい、幻想は木っ端微塵に打ち砕かれるのか?
…リコ・バーホーベン、もう少し楽しませてくれそうです。
コメント
コメント一覧 (2)
10対10と10対9を分ける基準も人によって違って来るので、ソウル五輪大スキャンダルを機にアマボクで導入されたヒット数カウントシステムは一理あるシステムだとは思ったものです(3人のジャッジが1秒以内にボタン押さないとスコアにならないのはそら駄目だと思いますが)
プロなら相手を怯ませたヒットは5点、よろめかせたら10点、反則減点も10点、ダウンは20点ぐらいにして合計点を競ったら今よりは説得力ある採点になるのでは?とか思ったり。
同じく曖昧過ぎると言われたフィギアスケートも相当理詰め採点に変えて行ってるようですが
フシ穴の眼
が
しました