前回、ボクシングには体重による階級の他に、純粋に実力だけを反映したわけではない待遇による階級がある、ということをお話ししました。
まず、Elite Boxer。4団体17階級の時代でもタイトルホルダーはこのカテゴリー。プロテクトされながらチャンピオンに育てられ、トップボクサーと呼ばれることもあります。線路や温室を用意されたホープもこの階層のファイターです。
そして、Gatekeeper(門番)とも呼ばれるJourneyman。実力的にエリートボクサーに劣ると見られますが、まれに番狂せを起こすことも。エリートボクサーとの決定的な違いは、咬ませ犬を提供されないことです。
そして、Sacrificial Lambs 。咬ませ犬です。Elite Boxerの育成に欠かせない栄養素ですが、JBCでは「スポーツとしてのボクシングでは存在してはいけない」という建て前から、直近の試合内容によってフィリピン人やタイ人ボクサーを締め出してきました。
〝3階級〟全ての身分を経験したシーサケット・ソールンビサイのように、キャリアを通じて身分が固定されるわけではありません。また、咬ませ犬から這い上がったシーサケットは、咬ませ犬を提供されることはありませんでした。
エリートの肩書を持たないボクサーはデビューからJourneymanに向かって努力しますが、Elite Boxerに辿り着けるのはほんのひと握り。多くのボクサーはJourneymanにもなれずにキャリアを終えます。
ノニト・ドネアが9月に再起戦を予定しています。
ドネアは、ブライアン・ビロリアに敗れてシドニー五輪代表の座を掴めず、2001年プロデビュー。2戦目で判定が割れないようにする実験的な5回戦に出場するなどプロテクトされることはありませんでした。
それでも米国で非常に層が薄い軽量級ということもあり、ジュニアバンタム級を主戦場に地域タイトルを拾いながらJourneymanのポジションを獲得。2007年にはIBFフライ級王者ビック・ダルチニアンに挑戦、軽量級史上に残る大番狂せを起こし、Elite Boxerになってリングを降ります。
それから約20年も、ドネアはElite Boxerとして走り続けてきました。2013年にギレルモ・リゴンドーに敗れてからの10試合は7勝3敗、そこから増田陸まで続く11試合は5勝6敗。
直近5試合で見ると1勝4敗。敗れた5人は井上尚弥との第2戦、アレハンドロ・サンチアゴ、堤誠也、そして増田。いずれも全盛期のElite Boxerですが、ドネアのポジションはJourneymanレベルまで落ち、Sacrificial Lambs(咬ませ犬)の沼に沈みつつあります。
PFPファイターにまで登ったドネアやシーサケットが咬ませ犬としてリングに上がり続ける…これは日本人ではありえないことです。彼らの母国が日本のように富裕であったなら、Elite Boxerとして全てお膳立てされた母国のリングを主戦場にできたでしょう。
43歳のドネアが9月に戦うのは当初、バンタム級のジェイソン・モロニーと言われていましたが、ジュニアバンタム級の弟アンドリューに標的が変更されたようです。
お膳立ての通りにドネアが負けると、モロニーや増田よりもワンランク下の相手に提供される咬ませ犬の役割が回ってくるでしょう。
その行先を想像すると、暗澹たる思いしかありません。
日本のElite Boxerが蹉跌する姿には哀愁と残酷が混交する感情にとらわれますが、これがフィリピンやタイとなるとそんな感傷的なものは通り越して「咬ませ犬のリング禍」という最悪の悲劇に行き着いてしまいます。
スポーツにおける実力がかけ離れた相手との対決。それは、本来ならありえないことです。そのスポーツが選手の生命・健康にかかわる格闘技となると、絶対にあってはいけないことです。

そして、軽量級のボクサーの多くはこの咬ませ犬はもちろん、タイトルホルダーや挑戦者でも劣悪なスケジュールでの来日を強いられます。
ましてや咬ませ犬になると、日曜日開催ノンタイトル戦のスケジュールは金曜日に成田着のエコノミーで来日。土曜日に前日計量。そして、日曜日の試合が終わるとその日のうちに帰国。
日本側から用意されるのは、航空券と格安のビジネスホテル代(最終段階の減量でサウナを使う場合は自腹)、食費として3日分(1日2,500円*3日分=7,500円)。選手とトレーナーの2人分が支給されます。
ファイトマネーはフィリピン人で1ラウンドあたり100米ドルが相場、約1万5,000円。10回戦なら約15万円が現金で支給されます(流石にチケット払いはありません)。
ここからトレーナーに10%、マネージャーに45%が差し引かれ、選手が手にするのは45%、6万7,500円。JBCに支払うライセンス取得費と医療検査費の合わせて185ドル(2万7,750円)は基本的に選手負担ですから、手元に残るのは5万弱です。少ないと思うかもしれませんが、これはマニラの貧困地域なら1世帯が2ヶ月以上暮らせる金額です。
世界王者クラスになっても航空機のエコノミーはデフォルトですが、ファイトマネーの相場は10倍以上。宿泊費・食費も1週間分用意されます。それでも、人気階級のタイトルホルダーを呼ぶことを考えれば安いもの。
もちろん、人気階級のスターともなると様相が一変します。
特別な日航機に乗って、高級ホテルに宿泊したゲンナジー・ゴロフキンには食費1日2,500円は準備されず、ファイトマネーに含まれていたといわれていますが、トレーナーやスタッフに日本側から別途経費が支払われていたかもしれません。
日本人で最高の報酬を手にしたのは、先月の東京ドームで戦った井上尚弥でしょうが、井上が倒した選手でGGGを上回る、あるいはそれに近い待遇、ファイトマネーが用意された選手は間違いなく1人もいません。
世界の人気階級と、そうではない軽量級は全く違う世界なのです。
まず、Elite Boxer。4団体17階級の時代でもタイトルホルダーはこのカテゴリー。プロテクトされながらチャンピオンに育てられ、トップボクサーと呼ばれることもあります。線路や温室を用意されたホープもこの階層のファイターです。
そして、Gatekeeper(門番)とも呼ばれるJourneyman。実力的にエリートボクサーに劣ると見られますが、まれに番狂せを起こすことも。エリートボクサーとの決定的な違いは、咬ませ犬を提供されないことです。
そして、Sacrificial Lambs 。咬ませ犬です。Elite Boxerの育成に欠かせない栄養素ですが、JBCでは「スポーツとしてのボクシングでは存在してはいけない」という建て前から、直近の試合内容によってフィリピン人やタイ人ボクサーを締め出してきました。
〝3階級〟全ての身分を経験したシーサケット・ソールンビサイのように、キャリアを通じて身分が固定されるわけではありません。また、咬ませ犬から這い上がったシーサケットは、咬ませ犬を提供されることはありませんでした。
エリートの肩書を持たないボクサーはデビューからJourneymanに向かって努力しますが、Elite Boxerに辿り着けるのはほんのひと握り。多くのボクサーはJourneymanにもなれずにキャリアを終えます。
ノニト・ドネアが9月に再起戦を予定しています。
ドネアは、ブライアン・ビロリアに敗れてシドニー五輪代表の座を掴めず、2001年プロデビュー。2戦目で判定が割れないようにする実験的な5回戦に出場するなどプロテクトされることはありませんでした。
それでも米国で非常に層が薄い軽量級ということもあり、ジュニアバンタム級を主戦場に地域タイトルを拾いながらJourneymanのポジションを獲得。2007年にはIBFフライ級王者ビック・ダルチニアンに挑戦、軽量級史上に残る大番狂せを起こし、Elite Boxerになってリングを降ります。
それから約20年も、ドネアはElite Boxerとして走り続けてきました。2013年にギレルモ・リゴンドーに敗れてからの10試合は7勝3敗、そこから増田陸まで続く11試合は5勝6敗。
直近5試合で見ると1勝4敗。敗れた5人は井上尚弥との第2戦、アレハンドロ・サンチアゴ、堤誠也、そして増田。いずれも全盛期のElite Boxerですが、ドネアのポジションはJourneymanレベルまで落ち、Sacrificial Lambs(咬ませ犬)の沼に沈みつつあります。
PFPファイターにまで登ったドネアやシーサケットが咬ませ犬としてリングに上がり続ける…これは日本人ではありえないことです。彼らの母国が日本のように富裕であったなら、Elite Boxerとして全てお膳立てされた母国のリングを主戦場にできたでしょう。
43歳のドネアが9月に戦うのは当初、バンタム級のジェイソン・モロニーと言われていましたが、ジュニアバンタム級の弟アンドリューに標的が変更されたようです。
お膳立ての通りにドネアが負けると、モロニーや増田よりもワンランク下の相手に提供される咬ませ犬の役割が回ってくるでしょう。
その行先を想像すると、暗澹たる思いしかありません。
日本のElite Boxerが蹉跌する姿には哀愁と残酷が混交する感情にとらわれますが、これがフィリピンやタイとなるとそんな感傷的なものは通り越して「咬ませ犬のリング禍」という最悪の悲劇に行き着いてしまいます。
スポーツにおける実力がかけ離れた相手との対決。それは、本来ならありえないことです。そのスポーツが選手の生命・健康にかかわる格闘技となると、絶対にあってはいけないことです。

そして、軽量級のボクサーの多くはこの咬ませ犬はもちろん、タイトルホルダーや挑戦者でも劣悪なスケジュールでの来日を強いられます。
ましてや咬ませ犬になると、日曜日開催ノンタイトル戦のスケジュールは金曜日に成田着のエコノミーで来日。土曜日に前日計量。そして、日曜日の試合が終わるとその日のうちに帰国。
日本側から用意されるのは、航空券と格安のビジネスホテル代(最終段階の減量でサウナを使う場合は自腹)、食費として3日分(1日2,500円*3日分=7,500円)。選手とトレーナーの2人分が支給されます。
ファイトマネーはフィリピン人で1ラウンドあたり100米ドルが相場、約1万5,000円。10回戦なら約15万円が現金で支給されます(流石にチケット払いはありません)。
ここからトレーナーに10%、マネージャーに45%が差し引かれ、選手が手にするのは45%、6万7,500円。JBCに支払うライセンス取得費と医療検査費の合わせて185ドル(2万7,750円)は基本的に選手負担ですから、手元に残るのは5万弱です。少ないと思うかもしれませんが、これはマニラの貧困地域なら1世帯が2ヶ月以上暮らせる金額です。
世界王者クラスになっても航空機のエコノミーはデフォルトですが、ファイトマネーの相場は10倍以上。宿泊費・食費も1週間分用意されます。それでも、人気階級のタイトルホルダーを呼ぶことを考えれば安いもの。
もちろん、人気階級のスターともなると様相が一変します。
特別な日航機に乗って、高級ホテルに宿泊したゲンナジー・ゴロフキンには食費1日2,500円は準備されず、ファイトマネーに含まれていたといわれていますが、トレーナーやスタッフに日本側から別途経費が支払われていたかもしれません。
日本人で最高の報酬を手にしたのは、先月の東京ドームで戦った井上尚弥でしょうが、井上が倒した選手でGGGを上回る、あるいはそれに近い待遇、ファイトマネーが用意された選手は間違いなく1人もいません。
世界の人気階級と、そうではない軽量級は全く違う世界なのです。
コメント
コメント一覧 (2)
ただ、今後一部の選手がいかに膨大な報酬を得ようと、興行が華々しくショーアップされ表面的な成長というものを見せられても、未来永劫ボクシングのこの構造は変わらないと思います
ボクシングが成立して以来、やられる前提の噛ませがいないとボクシングは成立しないということ
やはり生け贄がいないと成り立たない競技かもしれません
フシ穴の眼
が
しました