8月2日に後楽園ホールで行われたプロボクシングの興行で、それぞれ別の試合に出場した2人の選手が試合後に意識を失って都内の病院に救急搬送、一人が昨夜、帰らぬ人となってしまいました。


8月4日、日本ボクシングコミッション(JBC)の安河内剛本部事務局長は「また何が原因でという見極めが難しい両試合だった。原因を究明していくのが難しい事例になった。ただ、もう分からないから(何も対策を)やらないっていう場合じゃない」と語り、現在12回戦で行われている東洋太平洋王座戦を10回戦に短縮する方針を示し、主に12回戦で実施されているWBOアジア・パシフィック王座戦も10回戦に統一したいと意向を示しました。

JBCは東洋太平洋ボクシング連盟(OPBF)の本部国を務めており、萩原実JBCコミッショナーがOPBFの会長、安河内氏が事務局長を兼任、ルール改正に大きな障害はありません。

全国のジム会長らで組織する日本プロボクシング協会と話し合った上で、早急な変更を目指す方針です。


事故が起こりやすくなる原因の一つとして考えられている過度な水抜き減量を抑制するため、すべての試合で当日のリバウンド体重に制限をつけることも前向きに検討していく方針です。

過度な水抜きについては、やはり事故が重なったことから英国ボクシング管理委員会(BBBofC) が試合直前のサウナの使用を禁止しています。

3年前に当時のWBOバンタム級王者ジョンリール。カシメロが試合直前にサウナで「減量も順調!」と写真をSNSにアップしてしまい〝御用〟となりました。

ヘビー級を除く現代のボクサー、特に軽量級ではほとんどのボクサーがは直前に水抜きで一気に体重を落としています。

このメリットは長期の減量で心身ともに消耗するのを回避できること、前日計量後のリバウンド幅が大きく、当日の試合で優位な体重でリングに上がることができることなどがあげられます。

デメリットは一気に水分を抜いて生じる極端な脱水症状は肉体に大きな負担をかけ、前日計量クリア後に極度の体調不良を訴えたり、軽量に臨めないというケースも珍しくありません。

リミット105ポンド(47.62kg)のストロー級選手が10ポンド(4.54kg)を大きく超えてリバウンドすることもあります。

わずかな時間で、水抜きをした極度の脱水状態の体内に体重の10%以上の水分と食事を摂るわけですから、医学的にもありえない非常に危険な行為です。

青白い顔とこけた頬で秤に乗ったボクサーが、翌日には血色の良い表情でリングに上がるーーー井上尚弥をはじめ多くのボクサーで見られる光景です。


JBCは2023年12月の日本バンタム級タイトルマッチで起きたリング禍から、事故検証委員会を設置、再発防止に取り組んできましたが、抜本的な解決に向かう道筋はまだ見えていません。

相次ぐリングの事故について、亀田史郎は「JBCもラウンド数を減らすとか、レフェリーが止めるにしても、どこで止めるべきか難しい。そこの問題じゃないと思う」とし「そこ(ルールの変更)はそれでいいが、大きなグローブを使うジムでのスパーリングでダメージが蓄積されている。大きなグローブは面積広くなるから、揺れるダメージも大きい。スパーリングでダウンはあまりないから、ダメージが全部、蓄積する」と話しています。


一方の選手が大きなダメージを負っていると判断したならストップですが、激しい打撃戦の末に両者が大きなダメージを負って互角の戦いを繰り広げていたら?…「早く止めないと最悪の事態になる」と判断して引き分けストップなんて出来ません。そこまでのラウンド計算で判定というのが現実的でしょうが、やはりストップの判断が非常に難しい。

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グローブの問題についてはこのブログでも度々取り上げていますが「10オンスよりも6オンスの方が危険、ナックル部分が薄いレイジェスが危険」というのは大間違いです。

安河内事務局長は「原因を究明していくのが難しい事例になった」と語り、JBCの朝本俊司オフィシャルドクターも「運営側の瑕疵はほぼないだけに、対策が難しい」としています。

これは、大筋でその通りだと思います。

一方で、何が原因で〝それ〟が起きたのかはわかりませんが、ほとんどの事故で〝それ〟が何なのかははっきりわかっています。

頭蓋内出血から引き起こされる「硬膜下血腫」です。

「そんなのわかってるわい」と思われる方も多いかもしれませんが頭蓋内出血・硬膜下血腫がどんなものなのかは知らない人が多いのではないでしょうか?

「衝撃で脳が頭蓋骨内で回旋することで脳と硬膜をつなぐ静脈が切れて、脳を覆う硬膜とくも膜の間に血が溜まる」のが、硬膜下血腫です。

そして、硬膜下血腫はダメージの蓄積ではなく、多くの場合でたった一つの打撃で起きてしまうというのです。

つまり、それまでの試合やスパーリングで蓄積されたダメージでリスクが増大するなら、事前検査で脳内血管が痛んで、脳の回旋が起きやすい等の事前検査で予見できますが、そうではないのです。

また、どんな打撃によって脳が回旋しやすいのか、そのメカニズムもわかっていません。

井上尚弥のファン・カルロス・パヤノ戦、マニー・パッキャオのリッキー・ハットン戦のような一撃で相手を失神させる、いわゆる「スイッチを切る」ようなKOパンチは比較的安全(安全なKOパンチというのもおかしな表現ですが)と見られています。

ほとんど素手に近い4オンスのオープンフィンガー・グローブを使うMMAでボクシングよりも事故が少ないことを考えると、グローブの大型化は事故に一定の影響があると考えて良いでしょう。

しかし…。

そもそもの問題として顎、テンプル、頭部の急所を狙うボクシングの競技性格を考えると、重大事故のリスクを排除することは不可能なのかもしれません。

そして…。

もし、そうだとすると、これは、もはや「事故」とは呼ぶべきではないのかもしれません。




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