WBA/WBCフライ級王者・寺地拳四朗が明白に有利の予想とオッズをひっくり返され、キャリア2敗目を喫し、二つのタイトルとPFPファイターのポジションを失ってしまいました。

2人のジャッジが挑戦者リカルド・サンドバル(117−110/115−112)、一人が拳四朗(114−113)を支持するスプリットデジション。

「王者のホーム」「微妙なラウンドが多かった」ことを考えると、僅差防衛の結果であっても大きな議論にならなかったかもしれません。



ーーーまず、ボクシングの採点、ジャッジには大きな問題がいくつも横たわっていることのおさらいから。

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ボクシングではメジャースポーツの審判とは異なり、まともな試験や研修、ライセンスの更新も行われていないため、ファン以下のジャッジが蔓延っているのが実情です。

野球などでは「審判が一番近くで見ているから」と判定を尊重することがありますが、ボクシングの場合は一番近くで見ているのはテレビカメラ、ジャッジはリング下からリングを見上げる死角だらけの席に座っています。

死角をなくす方法としては、テニスなどで見られる高椅子にジャッジを座らせる、リングの三辺にではなく四辺に席を設ける4人制などが提案されていますが、いずれも「高椅子なんて置いたら観戦の邪魔になる」「ジャッジ席を四辺にするとリングアナウンサーや解説者陣、コミッショナーなどの席がなくなる」という興行上の理由で、世界中のどのコミッションも採用していません。

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また、現行の採点ルールは「10−10は禁止」と勘違いしているんじゃないかという低脳なジャッジが多すぎるのも不可解な判定につながる要因になっています。

そいつが明日同じ試合を見たら「10−9」が逆転するような微妙なラウンドでも「無理矢理にでも10−9」を付けているのです。

ファンの中にも「無理矢理でも10−9にしなければならない」と思い込んでいる人も少なくないでしょうから、WOWOWなどテレビでも「ここは10−10でしょう(そうしないと不可解な結果につながりかねない)と啓蒙していくのが一番効果的かもしれません。

「拳四朗vsサンドバル」で問題視されているスコアはジョセフ・グウィルトの117−110。

「そんな大差の内容ではなかった」ということ。

拳四朗を支持したのはダウンを奪った第5ラウンドと続く第6ラウンドだけで、残りの10ラウンドを全てサンドバルに与えたのです。

「いくつもあった微妙なラウンドの全てをサンドバルに付けるのは酷い」という感情論は、私には理解できません。「極めて微妙なラウンドでも無理矢理10−9」のバカ・ルールを貫くと117−110は十分ありうるスコアです。

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【左】2025年7月30日:サンドバル戦/【右】2021年9月22日:矢吹戦

さらに、英国生まれタイ在住のグウィルトが攻勢を重視するアジア型採点思考のジャッジであることは容易に想像できます。さらに、この人のキャリアわずか2年5ヶ月、今回がジャッジ35度目(全てアジアの試合)という経験の浅いジャッジでした。

試合は拳四朗が認めているように、個人的には完敗だと思います。しかし、ジャブを評価する欧米型のジャッジがグウィルトの代わりに座っていたら、1−2のSDは逆転していたかもしれません。

4年前の矢吹正道との一戦でも「ジャッジの見方」が試合の趨勢を決め、拳四朗が敗北しています。

4ラウンド終了時点の公開採点で拳四朗陣営が大幅な戦略変更を強いられたという点で、今回のサンドバル戦よりも勝敗への影響は大きかったかもしれません。

互いに有効打がないラウンドを、どちらに振るか?リードブローで試合を作ろうとするボクサーか?それとも、突貫攻勢のファイターを評価するのか?

プロボクシングには世界的な統括団体が存在しないため、、ローカル色が濃い採点が根付いています。

人気階級のメガファイトを支配しているサウジアラビア総合娯楽庁ののトゥルキ・アル=シャイフ長官は「トム&ジェリーの鬼ごっこは見たくない。逃げ回ったジェリーが勝つのはおかしい」と主張、シャクール・スティーブンソンのスタイルにも影響を与えたと言われていますが、どこまで世界的に浸透するか?

ワシル・ロマチェンコらエリートアマが、プロ転向後も採点を計算する傾向が強いのは、採点の世界基準が存在するアマチュア時代の習慣を引きずっているからでしょう。

英国ボクシング管理委員会とネバダ州アスレティック・コミッション、日本ボクシングコミッションなど各国・各州では採点基準はほぼ同じでも文言は微妙に異なり、現実のスコアリングではローカル色が滲み出すことも珍しくないのがプロボクシングです。

ロマやムロジョン・アフマダリエフらはここを読み違えてしまいがち。



なんにせよ、ボクシング界はいつだって魑魅魍魎、です。