多くのメディアでPFP1位評価を集めているオレクサンデル・ウシク。

リング誌のベスト10を「当該階級の支配度」という尺度で見ると、ウシクはど誰がどう見ても、どうしようもない最下位です。


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Pound For Pound(体重同一時=全ての階級を差別なく平等に見る)では、階級支配度が評価の基準であるはずですが、ウシクの場合は1人だけ「体重同一ではない試合」を現実に繰り広げて勝ち抜けているのです。

3〜4ポンド上げるのにも慎重な井上尚弥ら減量階級のファイターを横目に笑いながら、ウシクは50ポンド以上も重いタイソン・フューリーらをコントロールしてきました。

PFPは妄想だから自由。階級支配度を完全無視して「本当に強のはヘビー級だから10人全員ヘビー級」でも差し支えありませんし「ウエルター級はレベルが高いから10人全員ウエルター級」でも間違いではありません。


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********* 現生人類の新種が発見された。

それが、Homosapien athleticus(運動能力に極めて優れた人類)だ。

まだ、その個体は一体しか存在を確認されていないが、彼は He says he wants to train a world champion one day.(いつかウクライナから世界チャンピオンを育てたい)と、夢見ている。

ウクライナで生まれたHomosapien athleticus。

そう、彼とは、Undisputed heavyweight champion of the world(議論する余地のない世界ヘビー級チャンピオン)オレクサンデル・ウシクのことだ。

彼の所属チームはReady to Fight(RTF)。チームのスローガンは「Never enough(十分なんてありえない)」。常に貪欲に最高を希求して、ゴールは無い。

だからこそ、オレクサンダー・ウシクは「ゼロ」の異名で語られているのだ。

オリンピックの金メダル、世界選手権の金メダル、プロでも視界に入る全てのベルトをコレクションした。ウクライナの国民的英雄で、数えきれない名声と富も手に入れた。

しかし、彼は全く満足していない。

Never enough

まるで何一つとして手に入れていないかのように、飢えたままだ。



スペインの東海岸にガンディアという小さな港町がある。母国が戦火に焼かれている状況で、ホームで試合も練習もできない彼はダニエル・デュボアとの再戦に備えた練習拠点としてこの静かな町を選んだ。

黒海に突き出たクリミア半島のシンフェロポリで生まれたウシクは、やはり海の近くが一番落ち着くのかもしれない…いや、ここではシンフェロポリを「Homosapien athleticusが発見された土地」と書くべきだったか。

世界最強の男のベースキャンプは、古いレンタカー店を改装したもので豪奢な建物ではない。

しかし、ここにはウシクが必要とするものが全て用意されている。

2階にはリングにサンドバッグ、パンチングボールにバイク、ウエイトトレーニングの設備も一通り揃っている。

1階に降りると、空の青と麦の黄色をあしらったウクライナ国旗に試合のポスター、白いコンクリートの壁にはチームのメンバーが落書きを寄せている。

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「猫」はウシクのニックネーム。ヘビー級なのに猫のようにすばしっこいのだから、そりゃあ誰も勝てないのも頷ける。

「2018MOSCOW」は、2018年7月21日にモスクワでムラト・ガシエフに完勝、クルーザー級のUndisputed championになったこと。

「2024年SAUDI」は2024年5月18日にサウジアラビア・リヤドでタイソン・フューリーを翻弄、ヘビー級のUndisputed championになったこと。

そして「2025LONDON」は、もちろん7月20日にどういう経緯かダニエル・デュボアに渡ったIBFのストラップを取り戻し、再びヘビー級のUndisputed championになることを先取りして書いたもの。

壁一面には「UNDISPUTED」のネオンサインが輝いている。

大きなテレビモニターにはデュボアの試合映像がループで再生されている。もちろん、ウシクがKOした初戦の動画も。

ストレングス&トレーニングコーチのヤクブ・チッキの指導は科学的なデータが全てだ。そこには感情が入り込む余地はない。心拍数や酸素摂取量、血中ヘモグロビン濃度…トレーニングではお馴染みだが、チッキはスパーリング中の脳波もモニタリング、ウシクの心理面までデータとして蓄積している。

そこには感情や根性は存在しないはずだが、ハイペースのサーキットトレーニング、巨大なメディシンボールを壁に投げながらの腹筋運動、見ているだけで顔をしかめたくなるようなメニューに励むウシクは「この練習が好きか嫌いか?嫌いに決まってるだろ!」と感情を露わにし、「それでもこれをこなせば強くなれるのがわかってるんだ」と、根性をむき出しにする。

「ヘビー級に転向してからパワーへの対応、適応は完成しつつある。デュボアも私を研究して再戦のロープをくぐるだろうが、彼が直面するのは初戦とは全く違うオレクサンデル・ウシクだ」。

「ジョシュア、フューリー、デュボア、英国のスーパースターを倒すのは仕事だから、それだけさ。英国にはなんの恨みもない。恨みのある国はどこかって?それは今は関係ないから話すつもしはないし、あんたの想像に任せるさ」。

またしても敵地で戦うウクライナのファイターは「全く気にしていない。私は元サッカー選手だからね。あのウィンブリー・スタジアムで戦えるなんて最高の気分さ。みんなデュボアを応援するんだろうから、先に謝っておく。ガッカリさせて申し訳ない」。


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********** 階級支配度だけに焦点を当てると、ウシクは井上尚弥や中谷潤人はもちろん、寺地拳四朗も大きく下回ります。

ヘビー級以外の現実の体重差を乗り越えた例として、マニー・パッキャオ(144ポンド1/2)とアントニオ・マルガリート(150ポンド)の「5ポンド1/2(2.49kg)」などがありますが、〝たかだか〟2.5kgです。

そもそも、PFPは弱者の言い訳です。ヘビー級を冷遇することが基本中の基本でした。

Pound For Pound(体重差を無視して)というから、現実に巨大な体重差を跳ね返しているウシクが無視できないだけで、今後はPFPという用語を廃止してMeasure of Divisional Dominance(MDD:階級支配度)など別の表現でウシク的な侵略者を排除すべきかもしれません。