魚雷(トルピード)バットは4月11日から使用が解禁され、西武の源田壮亮、中村剛也、阪神の大山悠輔、中日の木下拓哉、日本ハムの清宮幸太郎、松本剛らが実戦で使用しています。

5月6日のオリックス戦からこのバットを手にした清宮はいきなりホームランを放ち「ヘッドの入りがいい」と好感触を口にしました。

しかし、14日には「ボールが飛ばない」と、わずか10日で元のバットに戻しました。


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このタイプのバットは突然現れたのではなく、以前から魚雷バットに似たツチノコ型バットは存在していました。

ツチノコ型は遠心力や、バットのしなりにこだわる打者には不適ですが、ボールにバットをガツンとぶつけて飛ばすタイプの打者には合うと言われています。

魚雷バットも重心がグリップ寄りにあるのでスイングが軽い一方で、遠心力は効かせにくい。

遠心力やしなりを上手く使う上清宮幸太郎のような長距離打者に不向きなのは、最初から想像できていたでしょう。その懸念は本人が一番よくわかっていたかもしれません。

それでも、一度は試そうとする清宮の勇気、挑戦者魂は大したものです。魚雷に見向きもしない大谷翔平やアーロン・ジャッジを駆逐する打者が現れるとしたら、清宮のようなプレイヤーでしょう。

そもそも、元物理学者のアーロン・リーンハートは「2023年の開幕から三振が増えていることに芯の部分を太くするとヒッティング面積も増え三振が減るはず」という仮説のもとに開発したのが魚雷バット。

リーンハートの仮説でも、当たり損ないでもいいから空振りを回避したい打者には適していても、三振のリスクを飲み込んだ一撃で仕留めたい長距離打者には不向きと想定されていました。

魚雷バットは、レイザーレーサー(現在は禁止)や、スラップスケート、プレート仕込みの厚底シューズのようにほとんど全ての競技者に明白なメリットがあるギアとは違います。

それでも、魚雷がきっかけとなって別の形状のバットの研究・開発がすでに進んでいるはずです。

多種多様なグリップの形状と比べて、バット本体部分の形状は画一的でしたから、打者にとってバットの選択肢が増えることは良いことです。

さて、野球の世界では常に弱者が大きな革命を起こしてきました。

「セイバーメトリクス」をフィールドに持ち込んだオークランド・アスレティックス、「フライボール革命」を巻き起こしたヒューストン・アストロズ。彼らはいずれも弱者でした。

しかし、魚雷バットは〝悪の帝国〟とまで言われた強者の象徴ニューヨーク・ヤンキースの分析部門が開発しました。

ヤンキースはもはや帝国ではない、という見方もできます。あるいは、ヤンキースですら潤沢な資金を選手獲得だけでなく、戦術やギアにも投資して研究・開発を進めなければ勝てない時代にになったということかもしれません。