きょう「新語・流行語大賞」の候補30が発表され、「50−50」(大谷翔平)などのことばが選ばれましたが、今回もボクシング関連からは一つも選ばれませんでした。

それでも。

日本でも米国でも完全マイナー化しているボクシングですが「フシ穴の眼〜スポーツ疾風怒濤編〜」では一貫してメジャースポーツです。

メジャーかマイナーか?その尺度は、そこにあります。

とはいえ「アザラシ幼稚園」(何のことだか知らないし調べる気もない)が、「井上vsネリの東京ドーム」「UNDISPUTED」や「バンタム級4団体独占」よりも上なのか?

国民的関心という意味では「亀田一家」の方が遥かに上だったのは間違いありませんが…もしかして亀田も流行語にはノミネートすらされていない?(調べる気はありません)。


inoue-vs-nergy22.jpgのコピー


さて、井上尚弥はリヤド・シーズンとのスポンサー契約を結んだことについて「階級の壁を壊し、こんな大型契約を結べたこと大変嬉しく思います」と喜びました。

「軽量級のビッグファイト」は日本以外では非常に起こりにくいのは、富裕国での需要がないという一点に尽きます。

それでも、団体分裂と階級の細分化が一気に進んだ1980年代半ばまでは、軽量級は今ほど軽い扱いではありませんでした。

軽量級がメガファイトの主役ではないのは80年代半ば以前も同じでしたが、それ以降はメガファイトの前座が最も報酬の高いポジションとして定着してしてしまいました。

日本でもマイナー化の坂道を転がり落ちるのは同じでしたが、間歇的に国民的関心を呼ぶビッグファイトも出現しています。これは、米国ではあり得ない現象です。

米国での軽量級のビッグファイト、日本でのメガファイト。そして、井上尚弥のリヤド・シーズン。

いずれも「軽量級の壁を壊した」特殊事情がありました。といっても、人気階級のメガファイトと比べてしまうとミニファイトでしかありませんでしたが…。

特殊事情は大きく二つの類型に分けることができます。

一つ目は、実際に人気と需要があっての特殊事情。もう一つは、実際の人気や需要を大きく上回る要因を孕む特殊事情。


前者は…

米国での(1)マイケル・カルバハルvsウンベルト・ゴンザレス、(2)レオ・サンタクルス、日本での(3)亀田興毅vs内藤大助のような、実際の人気と需要を反映したビッグファイトです。

一方で、米国での(4)ナジーム・ハメドや、日本での(5)井上尚弥は実際の人気と需要とは大きく乖離したビッグファイトの主人公です。


(6)辰吉丈一郎vs薬師寺保栄のケースは〝中間型〟と見ることができます。

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(1)(2)は「メキシカンスタイルの人気者」という特殊事情です。

カルバハルとゴンザレスは、ジュニアフライ級というクラスという階級を考えると100万ドルという奇跡的なファイトマネーを手にしました。

メキシカンスタイルの人気者の激突という特殊事情でしたが、これはカルバハルとゴンザレスというマッチアップのみで起きる、極めて限定的な化学反応でした。

フェザー級のサンタクルスは同じメキシカンのアブネル・マレス、アイルランドのカール・フランプトンという好敵手に恵まれ、LAのステープルズ・センターや、NYのバークレイズ・センター、ラスベガスのMGMグランドガーデンアリーナでメインを張りました。

(3)は「亀田一家」という耳障りの悪い騒音が奏でた狂想曲で、やはり再現性に乏しい特殊事情でした。

(4)は米国で注目度の低い軽量級、フェザー級にも関わらず、ハメドのために湾岸諸国がHBOに5000万ドルを投じて、マディソン・スクエア・ガーデンでの米国デビューにNYでラッピングバスを走らせるなど広告を展開、ハメドの報酬にも反映されました。

しかし、ハメドがメキシコの超強豪との対戦を頑なに敬遠したことで、カジュアルなボクシングファンの人気までは集めることができず、最大のパトロンであったイエメン王朝からの支援が途絶えたところでジ・エンド。


本人の「プリンスは作られた仮面だった」という告白こそが、生々しい真実でした。

(5)の井上は対戦相手に恵まれない中で、PFPはおろかシュガー・レイ・ロビンソン賞まで獲得した、2010年代以降の軽量級(フェザー級以下)ではノニト・ドネア、フランプトンに並ぶグレート。

ただ、人気と需要は米国ではほぼゼロ、日本でも具志堅用高のような国民的な人気には全く届いていません。

それでも、高額の報酬が保証されているカラクリは、ネット配信企業が宣伝広告費として投資しているから。商売としてPPVで課金した場合、井上の報酬がいくらになるのかは極めて不透明です。

今回の〝サウジアラビア〟にしても、人気と需要から井上が選ばれたのではないことは明らか。サウジで試合をするとして、米国のゴールデンタイムに合わせるとは考えられません。

そうはいっても「シュガー・レイ・ロビンソン賞」が流行語大賞は無理にしても、ノミネートされる程度に注目されるなら、あるいは今回の「リヤド・シーズン」が流行語になるなら、ボクシング界にとっても明るい材料になるのですが…。

敬虔な井上信者さんですら、「シュガー・レイ・ロビンソン賞」を今年初めて知ったようでは、どうしようもありません。