ボクサーの評価は、引退してそのキャリアを見直したときに確定します。

ボクシングの場合、現役中の鮮烈なインパクトが異常に過大評価されがちで、多くの選手は全盛期の賞賛からその評価を暴落させてしまいます。

私が米国のボクシングに惹きつけられた1980年以降だけでも、リング誌の試合レポートを振り返るとロベルト・デュラン、トーマス・ハーンズ、シュガー・レイ・レナード、マイク・タイソン、ロイ・ジョーンズJr.、フロイド・メイウェザー、マニー・パッキャオらが「史上最高かもしれない」と推定されましたが、いずれも蜃気楼に過ぎませんでした。

パッキャオは8階級制覇したとき、ヘンリー・アームストロングと比較されました。しかし、今、アームストロングの1団体8階級中3階級制覇(4階級目にも激しく肉薄)と、パッキャオの4団体17階級での8階級制覇を同列に並べる人は皆無でしょう。

圧勝したのは揃いも揃って弱い相手だけというタイソンとジョーンズに至っては、存命PFPですらトップテンに数えられることがありません。

そして…。ここ10年で推定・史上最高と謳われたのがカネロ・アルバレスです。

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2019年11月2日にWBOライトヘビー級王者でPFPでも2位まで上昇したことのあるセルゲイ・コバレフをストップ、ほとんどのメディアのPFP1位に躍り出ると、2022年5月7日までの2年6ヶ月余りの期間で、このmythical ranking(妄想ランキング)の王位を守り続けました。

さらに、2019年と2021年には全米ボクシング記者協会(BWAA)のSugar Ray Robinson Awardとリング誌のFighter Of The yearをW受賞。2019年にはBest Boxer ESPY Awardにも輝くトリプル受賞でした(2021年のBest Boxer ESPY Awardはタイソン・フューリー)。

ちなみに昨年、2012年のノニト・ドネアに並ぶ史上最軽量のジュニアフェザー級でBWAAとリング誌でW受賞を果たした井上尚弥はBest Boxer ESPY Awardはテレンス・クロフォードに譲っています。

カネロはBWAAが定める2010年代のJoe Louis Fighter of the Decade(Fighter Of The Decade)でも有力候補でしたが、10年最高選手賞はフロイド・メイウェザーが獲得。2016年引退のメイウェザーはわずか7年実績でカネロを退けたことになります。

34歳のカネロは15歳でプロデビューしてから20年、66戦(62勝39KO2敗2分)のキャリアを積み重ねてきました。

現役ボクサーではSugar Ray Robinson Award 2回は最多、PFP在位2年半も最長。現在、どんぐりの背比べ状態のPFP、オレクサンデル・ウシクと井上尚弥、クロフォードらからは頭ひとつ抜けた存在です。

昨日、カネロはエドガー・ベルランガを相手にスーパーミドル級のタイトルマッチを行いました。

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まともな相手と戦わなかったバレロでも、このメンバーの中ではかなりマシに見えます。


ボクシングの世界では、プロモーターが数字だけの紛い物ファイターを養殖することは珍しくありません。「連続1ラウンドKO」の世界記録で注目を集めた偽物ベルランガがカネロに勝てるわけがなく、カネロにとってもどんな勝ち方をしようが、キャリアの無駄遣い。

試合はカネロの完勝でしたが、自身も「8ラウンド」と予告していたKOは逃してしまいます。

This time, he should finish.

実況席では、カネロが第3ラウンドにダウンを奪うと「今度こそKOしなければならない」。

しかし、その瞬間はついに訪れませんでした。

現代ボクシング随一の注目選手。34歳という年齢。ジュニアミドル級(154ポンド)からライトヘビー級(175ポンド)という層の厚いゾーンのトップで戦い続けた66戦508ラウンドというキャリアは長いだけではなく、非常に濃厚なものでした。

本物のグレートは「終わった」と見られてからも、まばゆい輝きを見せつけます。

モハメド・アリが無敵のジョージ・フォアマンを沈めたように。マニー・パッキャオが無敗のキース・サーマンを倒したように。

しかし、カネロにその瞬間は訪れるでしょうか?


「It's a good time to sum up Canelo. カネロを総括するのにちょうどいいタイミングだ。」なんて書くと、カネロのファンに「来年5月のシンコ・デ・マヨでドミトリー・ビボルに雪辱を果たしたらどうするんだ!」と怒られそうです。

もし、来月のサウジアラビアでアルツール・ベテルビエフがビボルに圧勝して、そのベテルビエフをカネロが倒すようなら、カネロの評価は一気に跳ね上がります。

しかし、カネロにそんなことは起きないでしょう。あのカネロに限って、そんな勇気あふれるグランドフィナーレが訪れるわけがありません。