【Český rozhlas(チェコ国営放送)】

Díky Haruce Kitagučiové bylo oštěpařské zlato tak trochu i české. 

私たちの誇りを取り戻してくれたのは、北口榛花だった。






私たちは陸上競技フィールド種目、特に投擲種目に思い入れがある国民だ。

五輪や世界大会でチェコ人が金メダルを獲れば国中が喜びに沸き立つし、そうでなければ落胆してきた。

負けてしまったときは、私たちの誇りが奪われたような気分になってしまって、その日は誰もビールを飲む気になれない。

飲む飲まないは別にして(笑)。

そういえば。世界の人々は大きな勘違いをしているが、世界で一番ビールを飲むのはドイツ人でもベルギー人でもない。

チェコ人だ。

そして、世界で圧倒的に人気があるのはピルスナービールであり、世界のビールのほとんどがピルスナービールなのだ。

何が言いたいのかって?

ピルスナービールはチェコのピルゼン地方で生まれたビールのことなんだ。

地球上の何十億人という人類が今日も明日も明後日もビールをたらふく飲むだろうが、あなたの喉を潤し、全身に活力を与えるこの飲み物がどこからやって来たのか、ほんの少しでもいいから思い出してくれたら、私たちも嬉しい。

ドイツでもベルギーでもないのだ、チェコなんだ!(笑)。



そういうわけだから、女子槍投げの世界記録保持者バルボラ・シュポタコバは私たちにとって、ほとんど神のような英雄だ。

私たちを誇らしい気持ちにしてくれて、美味しいビールを飲ませてくれるのだから、まさしく神だ。

バルボラが2008年の北京、そして2012年のロンドンで大放物線を描いて金メダルを持って帰って来てくれてから、もう10年以上も経ってしまった。

そして、バルボラは2022年の欧州選手権で3位になって引退してしまった。

私たちの太陽が沈んでしまったってことだ。

私たちは、少し長い間、暗いトンネルの中をとぼとぼ歩かなければならない…そう覚悟しなければならないはずだった。

しかし、不思議なことにそんな予感は、湧いてこなかった。


プラハから南西に130kmも離れたところに、ドマジュリツェという小さな町がある。

そこに、アジアの最果てからやって来た一人の女性が2018年に「憧れのシュポタコバの国で槍投げをマスターしたい」と住み込んでいた。

デービッド・セケラックの指導を受ける、ただそれだけのために。

セケラックの名前は、チェコの陸上ファンでも知らない人がいる。つまり、無名だ。セケラックはジュニアのコーチの一人に過ぎなかったのだ。

北口は「フィンランドで参加した国際講習会でセケラックの指導法に惹きつけられた。私はシュポタコバのチームに入れてくれなんて言えるレベルじゃない」と、チェコ語はもちろん、英語もほとんどできないのに何度もメールを送って、槍投げの優秀な指導者がいるということだけしか知らない私たちの国に、たった一人でやって来たのだ。



申し訳ないが、私たちも、極東の最果てにある日本について何も知らない。他の欧州の国と同様に、中国と韓国と日本の区別もついていない。

しかし、怒らないでくれ。

私たちはあなたたちにビールを捧げた。そして、あなたたちは私たちに金メダルを取り戻してくれた。

金色の飲み物と、金色のメダルを交換したんだ。

これでイーブン、貸し借りなしだ。

だろ?



それに、私のようなメディアに携わる人間なら、日本のことを少しは知っている。

マンガとアニメの国で、みんな子供のように小さくて可愛い。

やはり、北口榛花もアニメの主人公のように前向きで天真爛漫で可愛らしかった…しかし、彼女は小さくはなかった。

そして、彼女は大嘘つきの傾向もあった。

「私はレベルが低いから、シュポタコバのチームに入れてくれなんて言えない」というのは、アジア人によくある謙遜の中でも、呆れ果てるほどの最上級の謙遜だった。

彼女が大嘘つきだという証拠は、ちょっと調べただけでいくらでも出てくる世界大会の鮮明な動画を見れば誰にでもわかる。

彼女は世界陸上やダイヤモンド・リーグの大舞台、絶体絶命の最終投擲で全てをひっくり返して金メダルをかっ攫って見せた。そう、やはり日本のアニメの主人公のように。

そして、優勝インタビューではチェコ語で喜びを爆発させてくれるんだ。槍投げと同じくらいにどんどん上達するチェコ語で。

それを聞いたチェコ人がどんな気分になるのか、あなたたちにわかるだろうか?

「誰か教えてくれ。チェコ人が北口榛花を嫌いになるには、どうしたら良いのか?」という気分になってしまうのだ。

昨年、チェコ人が全員敗退してしまったブダペスト世界陸上の決勝で、やはり最終投擲で大逆転の金メダルを獲って、北口が「チェコに教えてもらって優勝した」と、いつものように破顔一笑、チェコ語で叫んでくれたとき、私たちは北口榛花を嫌いになる方法も理由も永遠に失ってしまった。



あの世界選手権で、孤高の英雄バルボラ・シュポタコバは、外国人の北口が最終投擲の助走を始めたとき絶叫して応援していた。

英雄は「私たちはパリで必ず誇りを取り戻す」と興奮気味に宣言した。

それがどういうことなのか、少しだけ複雑な話になるけど、肌の色やパスポートの国籍を重視する人にはわからない話だろうけど、北口榛花の胸には日章旗が縫い付けられているけど、北口榛花はどう見てもアジア人かもしれないけど…図々しい話だが、彼女は私たちにとってはチェコ代表でもあるということだ。

きっと、こういうことは日本の人は嫌がるだろう。日本だけでなく、どこの国でもそうだろう。

自分たちの国のヒーローが獲った金メダルを「チェコの取り分もある」というようなものだから。同じことを言われたら、私たちだって嫌な気分になるかもしれない。

それでも、それは偽りのない気持ちなんだ。

いや、「金メダルの取り分」じゃないな。私たちは、北口榛花の金メダルを日本人よりも喜びたいんだ。

まあ、どっちにしても厚かましい話ではある(笑)。


"Je to bojovnice, zapsala se do dějin. Je to obrovský úspěch. Předvedla hezký výkon šestým hodem, takhle se vyhrává. Moc hezký a navíc ještě ta česká stopa. Samozřejmě by bylo lepší, kdyby tam byla nějaká naše oštěpařka,"

インタビューを受けたり、フィールドを離れている彼女は底抜けに明るいパーティガールだが、槍を握った途端にファイターになる。

すでに榛花は歴史に残るジャベリンスローワーだが、来年のパリ五輪でまたヨーロッパに来て、彼女は最後の証明書に署名するだろう。


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そして、その通りになった。



最後に。

野球が大好きな日本人にお伝えするのを忘れてはならないことがある。

アトランタ・ブレーブスのトライアウトを受けてアメリカ中の話題を集めたヤン・ゼレズニーもチェコ人で槍投げの世界記録保持者なんだ。



ありがとう、北口榛花。

ありがとう、日本。



以上。






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本当ならチェコの英雄・北口榛花のホーム旭川の地酒「男山」あたりを飲みたかったのですが…自宅の貧弱なサケナリーには見当たらず。

新潟の限定品「雪国 甚九郎 生酒」を。

しかし、チェコのビール「ピルスナー・ウルケル」は2本だけあった!!!

乾杯!

うう、しかし、甚九郎…美味すぎる。


昨年のワールド・ベースボール・クラシックでも大きな話題を呼びましたが、チェコは気質的にも日本人と相性が良い国です。

おめでとうございます、北口榛花。

おめでとうございます、チェコ共和国。