「後の祭り」ではありません。





7月15日、日本体操協会強化本部へ「通報」が入ります。16日にモナコ合宿に帯同していた原田コーチが本人に確認し、疑いが浮上。

もし事実なら「日本代表選手・役員の行動規範」に違反したこととなるため17日に帰国指示、18日夕方には日本に戻る。規定や規範などに違反する事実があったことを確認。協会と本人の話し合い、五輪への出場辞退を決めてしいました。

「日本代表選手・役員の行動規範」では、冒頭に「『体操ニッポン』という称号は長い栄光の歴史の中で、先人たちの競技成績だけでなく行動により培われたものである。一部の選手や役員の行動により、先人たちが築き上げた栄光の歴史を汚す行為は決して許されない」と【趣旨】が表明されています。

【趣旨】の下に【基本方針】が構成され、その具体的な内容がその下の18項目にわたる【行動規範】です。


8、日本代表チームとしての活動の場所においては、20 歳以上であっても原則的に喫煙は禁止する ※2016 年度から数年かけて段階的に全面禁止とする


9、日本代表チームとしての活動の場所においては、20 歳以上であっても飲酒は禁止とする ただし、合宿の打ち上げ、大会のフェアウェルパーティー等の場合は監督の許可を得て可能とする

「日本代表チームとしての活動の場所」ってどこに線引きがされているのでしょうか。

「原則的に喫煙は禁止」とは絶対禁止ではないという含みがあります。「数年かけて段階的に全面禁止」というのは、どんな段階を踏んでいくのか?達成年度はいつなのか?全くわかりません。

「飲酒は禁止とする ただし、合宿の打ち上げ、大会のフェアウェルパーティーの場合は監督の許可を得て可能」というのも訳がわかりません。「『協会が事前に定めた』打ち上げやフェアウェルパーティー等」なら理解できますが、この書き方では「等」はいくらでも拡大解釈が可能です。

極めてボヤッとした公益財団法人日本体操協会が作った「法律」です。「憲法」という方が正確かもしれません。

もちろん、本物の法律や憲法ではありません。「内規」に過ぎません。

そして、今回の件を複雑にしているのは19歳という数字です。


20歳未満の者の飲酒や喫煙は法律で同じ考え方で禁止されています。

飲酒を例にとると「未成年者飲酒禁止法」は未成年者に対する法律ではありません。


①親や親の代理をする者は、監督する未成年者(20歳未満の者)の飲酒を制止しなければならない、②酒類を扱う販売業者や飲食業者は、20歳未満の者が飲むことを知りながら酒類を販売・提供してはならないこととされており、①に違反した場合は科料、②に違反した場合は50万円以下の罰金が課されることになります。

基本的に「義務教育」と同じ考え方です。
「大きな重圧を抱えていた」と声を絞り出す原田睦巳コーチの涙は「泣いて馬謖を斬る」思いだったかもしれません。

また、昨今の目にあまる狭量なバッシング風潮を恐れて、協会側から発表、即時の決断を下したという背景もありそうです。

通報者がマスコミに情報を流す前に公表しなければならない、という姿勢はその通りですが、問題はその内容です。



【違反選手・役員に対する処分】は「行動規範」以上にさらにボヤッとしています。「 日本代表選手・役員が、前記の行動規範に違反した場合は、本会『倫理規程』の適用があるものとし、『倫理規程』予定の手続きによって処分を科する」。

この文章を読んで、その内容を想像できる人は誰もいません。おそらく書いた本人もよく理解していない、それだけが確実に伝わる文章です。





「後の祭り」ではありません。

もちろん、本人の中では決着してしまってるでしょうから、今から切り替えてパリは無理でしょう。

もっといろいろな方法を考えるべきなのです。

公表は仕方がありませんが「馬謖を斬らない」選択はなかったのでしょう。

誤解を招く表現ですが「飲酒と喫煙の科(とが)は五輪後に発表して協会と本人が負う。パリには行く。競技が終わるまで待って欲しい」という骨子で会見を開くこともできたはず。

もちろん、異論は噴出したでしょう。


協会は、何を恐れて軍法会議のスタイルで〝未成年の馬謖〟を斬ったのか?

19歳の夢を引き裂いたのは、日本体操協会ではありません。

「19歳の五輪選手」でも「たかが飲酒と喫煙」でも〝極刑〟に処さなければ、納得してもらえないと協会が恐れた、私たちが歪に捻じ曲げてしまった日本社会です。