Too Many Cooks:The pros and cons of the boxing entourage
英国ボクシングニューズ誌から「 コックが多すぎると料理は不味くなる?:取り巻き連中の功罪」。取り巻き連中の多さでは史上屈指のマネーですが、手錠をかけられた彼を守ろうとする取り巻きはたったの一人もいませんでした。「おかしいな?こんな一大事にみんなどこへ行ったんだ?」…薄ら笑いを浮かべるマネーは最初から全てわかっていました。
マイク・タイソンやフロイド・メイウェザー、マニー・パッキャオは多くの取り巻きに囲まれています。
もちろん、彼らがキャリアをスタートしたときに引き連れていたのはコーナーの数人だけで、それもリングに向かう花道に限られていました。
しかし、ファイトマネーと名声とベルトの数が増えるとスター選手の周りにはメディアもファンもよく知らない取り巻き連中の顔が増えていきます。
プロボクサーは孤独な商売です。ラウンド中の3分間はどんな危機に曝されても、自分だけで解決しなければなりません。ベンチから投手コーチが飛び出して、打ち込まれた投手を励ますような生易しい競技ではありません。
もし、コーナーに出来ることがあるとしたら、タオルを投げて試合を止めることだけで、タイムをかけて助言を送ったり励ますことは出来ないのです。
一旦、リングに上がってしまうとボクサーたちは自分だけで戦い、自分だけで危機を解決しなければならないのです。
孤独にも程がある商売です。
そして、残念ながら、一人のボクサーがスターに成長するということは、そんな孤独を乗り越えたということではありません。
むしろ、孤独の色がますます濃厚になったのか、取り巻き連中で周囲が溢れることまであるのです。
スター選手の強さは世界中のボクシングファンが認めてくれているというのに、彼らは自分がどれほど強いのかを直接、何度も聞きたいかのように取り巻きの数を増やしていきます。
有名なスター選手ですら「あなたは強い」「あなたが世界一だ」という生の声を、まるで呪文のようにずっと聴いていたいのです。
まるで、呪文が途切れると何もかもが崩れ落ちてしまうと恐れているかのように。
職業として成立しない軽量級からミリオネラの人気階級へ。パッキャオが増やしたのは銀行口座の金額だけでなく、取り巻き連中もでした。
ファイターとしては精神的に大きな欠陥を抱えていたタイソンがリングに上がる恐怖に打ち勝つために使ったのは、マリファナだけではありませんでした。
もちろん、群がる取り巻き連中の言葉に耳を傾けず、振り払おうともしない天衣無縫のパッキャオや、取り巻き連中をセルフプロデュースの演出に利用する天才マーケッター、メイウェザーのような例外もありますが、多くの場合は悲しいタイソン型です。
自分を礼賛してくれる呪文を聞きたいのです。
英国ヘビー級のフレイザー・クラークは「キャリアを始めた頃は副業の警備員の仕事をしないといけなかった。あの頃の初心を忘れたくないんだ。私には、スーパースターのような取り巻きは必要ない」と、今も必要最低限の人材で周囲を固めている動機を語ります。
引退後はすっかりトレーナー業が板についた元WBOミドル級王者アンディ・リーは、ジョセフ・パーカーがスランプを脱出できた要因を「15人の取り巻き連中が集まり好き勝手に美辞麗句を並べるキャンプをやめて、私とロック・ハート(ストレングス&コンディショニングコーチ)とパーカーだけで雑音のない練習を積み重ねたこと」と説明しました。
リーは「コーチングで最も大切なのは空間と静寂。訳のわからない取り巻き連中がひしめき、さもトレーナーのようにあちこちから勝手な指示を出すなんてことは異様な状況だ。ファイターに必要なものは数少ない。グローブと信頼できるトレーナー、リングに賭けた夢、それだけで十分なんだ」と、取り巻き連中の存在を否定します。
実際に、そんな取り巻き連中はファイターが没落すると真っ先に姿を消すのがデフォルトです。
しかし、この孤独な職業で取り巻き連中を排除するのは大変な作業になります。
ファイターが成功するとなんでも与えて、気持ちの良い環境を作ろうとするトレーナーもいます。多くの場合、そんなトレーナーは成功したファイターと意見が対立して、自分が排除されるのを恐れているからです。
タイソンに親戚の娘を強姦されそうになって激怒したテディ・アトラスが、「タイソンを甘やかしすぎる」とカス・ダマト陣営を去ったとき、残されたのは無能の極みである〝イエスマン〟ケビン・ルーニーでした。
成功したファイターの周りには、追従の笑みを浮かべ、ファイターがくだらないジョークを言うものなら大袈裟に手を叩いて喜ぶ男たちがショウジョウバエのように湧いてきます。
「セルヒオ・マルチネスの前座で戦ったとき、控え室を占拠したマルチネスの取り巻き連中はチーム・マラヴィラとプリントしたお揃いのジャージを着て威圧的に振る舞っていた。こうした風景は、当のファイターにとっても心強いものかもしれない」(リー)と、全く効用がないわけではありません。
昨年、ラスベガスで行われたウエルター級の完全統一戦。試合前の最後の記者会見で座席は両陣営の取り巻き連中で溢れ、一部の報道陣が座れないという事態が発生しました。
記者席からエロール・スペンスJr.の従兄弟からヤジを浴びたクロフォードは「落ち着け。このイベントを邪魔しないで、一緒にこのイベントを成功させよう」と冷静に語りかけました。
一番悪いのは取り巻き連中ではありません。
他のスポーツならIDカードを持った記者しか入れないはずの会見場に「盛り上がればいい」としか考えていないプロモーターとテレビ局が取り巻き連中を入れることが、そもそもの間違いなのです。
ボクシング界は腐っています。
リーは「自分の周囲を信頼できる人間で固めたいという心理はよく理解できる」としながらも「アンソニー・ジョシュアを見るがいい。彼にはあんなに多勢の信頼できる人間がいるのだろうか?私は信頼できる人間なんて数えるほどしかいない。ヘッドコーチは船の船長だ。素人が自分勝手にあれこれ指示を出すなんて言語道断」と、人気階級のスーパースターの取り巻き連中を蔑視しています。
「プロのコーチの言葉に重ねるようにチャチャを入れるような取り巻き連中は、ただのゴロ付き、信頼できない人間の典型」という訳です。
本物のトレーナーから自身の欠点を指摘されると、多くのファイターは戸惑います。それがスター選手なら尚更です。
そして、その克服に悪戦苦闘していると、取り巻き連中の声が聞こえてくるのです。
「今まで勝ち続けてきたのに何を変える必要があるんだ?お前の良さが消えてしまうだけだ」「お前のスタイルは最高だ。それに難癖をつけてくるのは嫉妬深い人間だけだ」「お前は間違ってなんかいない。お前が正しい」。
美辞麗句に溺れてしまうのはスター選手だけではありません。
スターの卵、あしたのチャンピオンたちの周囲にもショウジョウバエは湧いてきます。
トップランクと史上最年少の17歳で契約したザンダー・ザヤスは「甘い言葉を欲しがるのは自分の弱さだ」と自戒しています。
「キャンプには最低限のプロしか入れない。私とトレーナー陣、練習相手…他には誰も要らない」(ザヤス)。
ザヤスはまだ21歳ですがデビュー5年目。現在は人気階級のジュニアミドル級を主戦場に無敗ですが、まだ世界戦線から一歩も二歩も離れた状況で、温室マッチメイクで戯れあっています。
最も見極めなければいけない取り巻きは、プロモーターなのかもしれません…。
https://fushiananome.blog.jp/archives/28904458.html
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