井上尚弥が二つの拳で焼け野原にしたバンタム級シーン。

リング誌と、Linealのタイトルは空位のままですが、井上が捨てた4つのアルファベットタイトルの残骸をLeftoversとIndirect leftoversがピックアップする作業が完了しました。

次の段階は若い勢力、Emerging Powers が Leftoversをどう駆逐していくのか。

もし、彼らが残飯で食中毒を起こすのなら、バンタム級の焼け野原は燻ったままです。

Emerging Powersの筆頭に挙げなければならないのは、Transnational Boxing Rankings Board(TBRB)にも、ESPNにも、リング誌にもランキングされていない26歳のサウスポーです。

ノーランカーなのもそのはず、ストロー級でプロデビューした中谷潤人は118ポンドでは一度も戦った経験がないのですから。

それでも、ここまでの戦績は26戦全勝19KO。わずか2年半足らずでフライ級とジュニアバンタム級を2階級制覇。調整試合を挟まずに今月24日にはWBC王者アレハンドロ・サンチアゴにアタックします。

3年3か月7試合での3階級制覇は、田中恒成の8試合4か月を凌ぐスピード記録になります。

中谷の3階級制覇がコロナ禍で試合ができなかった期間があったことを考慮すると、その速度の異常さがさらに分かりやすくなるはずです。

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  「日本では大騒ぎだ!」(リング誌)。



何をそんなに急ぐ必要があるのか?

172㎝という規格外の長身に起因する減量苦はもちろんですが、それだけではないでしょう。

ついに本人が口にした「頂上決戦」です。

このまま勝ち続けるだけで、念願のPFP1位はもちろん、Sugar Ray Robinson Award も十分に狙えます。軽量級で手に届く全ての栄光が視界に入っているのです。

しかし、PFPキングになっても、Sugar Ray Robinson Award を獲得しても、26歳の心の中に何か引っ掛かることがあるとしたら、どちらも「日本史上2人目」の注釈が付けられることでしょう。

それが、ファイティング原田や柴田国明のような半世紀前のグレートならまだしも、まだ現役バリバリだとしたら?

「ネクストモンスター」と呼ばれることも「光栄」と口にはしていますが、リングの中ではあれほどの自己顕示欲をあらわにする凶悪なファイターです。「2人目」「ネクスト」という表現を快く受け入れるはずがありません。

「対戦したいと言って出来る相手じゃないのはわかっている」「ファンの皆さんから中谷ならと、納得してもらえる形で挑戦する」。

ずっとずっと先を走っていたモンスターとの階級差は、ついに1階級までに縮まりました。

もし、バンタム級を再び焼け野原にするパワーが存在するとしたら、それは中谷潤人をおいて他には誰一人いません。