カネロ・アルバレスvsゲンナジー・ゴロフキンの第3戦。

8試合がプログラムされたイベントは、KO決着が2試合だけ、タイトルマッチでは1試合(WBC米国スーパーミドル級王者決定戦:ディエゴ・パチェーコvsエンリケ・コラーゾ)だけという、落ち着いた興行になりました。

年間KO賞も期待された、セミファイナルのジェシー〝バム〟ロドリゲスとカネロは共に不発。

特に、アルファベット団体が捏造った偽ランカーに苦戦したバムは大きく評価を落としました。

日曜日、白昼のT-Mobileアリーナで私たちが確認できた10の真実。

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カネロ・アルバレスはUltimate fighter(完全無欠のボクサー)ではない。

左拳を負傷していたとはいえ、ティモシー・ブラッドリーら多くの専門家が「40歳のミドル級王者を破壊する」と予想していましたが、そんな惨劇とはほど遠い内容でした。

「カネロは史上最高のボクサーか?」。そんな馬鹿げた議論はもう終わりです。

そしてこれから先も、その議論の俎上に上ることはありません。



ゲンナジー・ゴロフキンはまだ終わっていない。

「KOで決着をつける」。そんなカネロの言葉が現実になると多くの人が予想していたメガファイトでした。

しかし、全盛期のカネロにとって、40歳のゴロフキンが今でも簡単な相手ではないことが証明されました。

偉大なTriple Gのキャリアが終幕に近づいているのは間違いありませんが、そのタンクにはまだ燃料が十分に残されています。

何よりも、試合直後のインタビューのトーンの高さと饒舌さ。

まだまだ出来る。その手応えはこの試合で誰よりも本人が感じていたのでしょう。



ドミトリー・ビボルvsデビッド・ベナビデスの勝者、あるいはアルツール・ベテルビエフはカネロにとって危険きわまる脅威になる。

フロイド・メイウェザーとエリスランディ・ララに施されたレッスンで多くを学んだカネロは、高い防御技術を持つメキシカンスタイルを完成させました。

引いて戦う相手をジリジリとストークして、仕留める、スタイルです。

しかし、完成とは成長の終着駅を意味します。

卓越した防御技術と軽打でゲームをコントロールするメイウェザーやララには有効であろうスタイルは機動力と攻撃力のあるボクサーファイターには後手に回ってしまうことを晒け出してしまいました。

ビボル前は、ヘビー級まで噂されたカネロでしたが、もはやそんな夢は語れません。

これまで旬の強打者を徹底的に回避してきた軟弱マッチメイクのツケを支払う段階に来ています。

ビボルのワンツーで何度も後退したカネロの顔面に、ベテルビエフのパンチが当たったとき、一体何が起きるでしょうか?



ゴロフキンは今なおジャモール・チャーロらの脅威たりうる。

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調整試合なし、村田諒太とのミドル級から5ヶ月で8ポンド上のカネロに挑戦したゴロフキンは劣化を差し引いてもミドル級最強候補の最右翼。

ジャモールとの団体統一戦が実現しても、明白なアンダードッグにはならないでしょう。それどころかフェイバリットの目もあります。

ジャモールもまた〝バム〟ロドリゲスほどではないものの、本当に強い相手と戦ったことがない未知数のファイターです。

ゴロフキンがスーパーミドルで戦うなら、次戦はもっとアジャストして来るはずです。しかし、タイトルはカネロが独占。

カネロとの4戦目を実現するのは、商業的にも時間的にも難しいだけに、ミドル級に戻ってundisputed championを目指すのではないでしょうか。



カネロの魔法のガウンは剥がされた。

完敗のビボル戦に続いて、カネロは決定的な見せ場を作れない12ラウンドを費やしてしまいました。

足が重く、相手の正面から距離を詰めて来るカネロを攻略するのはメイウェザーやララのようなボクサーだと考えられていましたが、12ラウンドでしっかりリターンするビボルのようなボクサーファイター相手に対する無策ぶりも曝け出しました。

左右の拳はライトヘビー級でも通用する強打、ボディワークとブロッキングを駆使した最高レベルの防御、そして鉄の顎…隙が無いように見えたかネロは、足が遅い、フットワークが使えない、という大きな欠陥を抱えています。

劣化にもほどがあるセルゲイ・コバレフのジャブに苦戦し、ポイントでリードされるカネロは痛風のティラノサウルス、32歳なのに動けないスカベンジャーでした。

これからの対戦相手はビリー・ジョー・サンダースが悩んだような幻影に、もう惑わされることがないでしょう。



ジェシー・ロドリゲスは過大評価。 

カルロス・クアドラス、シーサケット・ソールンビサイというジュニアバンタム級トップ戦線から落伍したロートルに勝利しただけで、他の誰に勝ったわけでも無いバム・ロドリゲスにとって、イスラエル・ゴンザレスは初めて直面するまともな115パウンダーでした。

〝まとも〟といっても、リング誌やESPNなどの世界ランキングでは圏外、アルファベット団体がでっち上げた偽世界ランカーです。

オッズの通りに簡単に仕留めると思われましたが、このレベルで限界を露呈するとは…。

バムはPFPはもちろん、Fighter Of The Yearまで取り沙汰された超新星でしたが、それはエディ・ハーンが勝手にほざいていただけです。

劣化老雄や、咬ませ犬相手に好き放題だったあの美しいポジショニングは、偽ランカー相手ですら機能しませんでした。

現時点では弱い相手や完全劣化老雄に勝つのが精一杯。これまでの対戦相手の質がいかに低かったか、イスラエル戦で一気に噴き出しました。

108ポンドに逃げ帰るのが得策ですが、強豪との手合わせ豊富な京口紘人と寺地拳四朗の勝者とどこまで渡り合えるか?

見映えするスタイルに、弱い相手に対する派手な勝ち方…マービン・ソンソナやフェリックス・ベルデホのような、過大評価名簿にリストアップされる匂いが漂い始めました。

もちろん、素材は一級品です。

彼が力強く再浮上してくれるのは軽量級にタレントを抱える日本のボクシングファンにとって、ありがたいことなのですが…。



ジュニアフライ〜ジュニアバンタムでブレークダウン

ジュニアフライ、フライ、ジュニアバンタムの3階級を遊撃する構えだったバムの失速は、これら3階級の未来地図を不透明にしました。

ハーンはジュニアフライで「京口vs寺地」の勝者にバムを当てるでしょうか?少なくとも日本開催は絶対にさせないでしょう。

中谷以外のフライ級王者の方がバムにはフィットするかもしれません。

ジュニアバンタムは難しいでしょう。

井上が返上するであろう4つのバンタム級王座を近い将来、那須川天心や武居由樹と争うのも面白いと思いましたが…頑強でスピードのある元キックボクサーは、バムにとってとんでもないジョーカーになるかもしれません。



115ポンド最強戦線は混沌。

ジュニアバンタム級戦線で事実上の主役に躍り出ていたバムの〝失態〟は、このクラスの行方を不透明にしています。

激しい激闘を繰り返したファン・フランシスコ・エストラーダとローマン・ゴンサレスはどこまで劣化が進んでいるのか?

12月3日の「エストラーダvsロマゴン」のあとの115ポンド級の見通しは全く不透明になりました。この試合の勝者が階級最強ではありません。

そして、超新星のバムにはこの老雄決戦の勝者を狩る能力が、少なくとも現時点ではないことが明らかになりました。

やはりキャリア晩年の老雄にカテゴライズされるかもしれない井岡一翔ですが、ダメージ・消耗度など劣化は殆ど見られず、むしろ充実期にあるようにも見えます。

フライ級最強候補筆頭でジュニアバンタム進出を睨む中谷潤人に至っては、3ポンド上げたジュニアバンタムで通用しない姿が想像できません。

もしかしたら、現在の最強は井岡か中谷かもしれません。



今年のFighter Of The Year の候補者リストから、カネロとバムの名前が完全に消えた。

5年間も世界のボクシングシーンを牽引してきたカネロは、ビボルとゴロフキン相手に24ラウンドを戦い、一度のダウンも決定的な場面も演出出来ませんでした。

そして、バムはもはや論外。

今年のFighter Of The Yearはビボル、ジャーメル・チャーロ、デビン・ヘイニー、オレクサンダー・ウシク、井上尚弥と、11月に激突するテレンス・クロフォードvsエロール・スペンスの勝者らが争うことになります。

最右翼はPFPトップ5同士の激突となるクロフォードvsスペンスの勝者ですが、井上尚弥が普段通りにポール・バルターを破壊すると、日本人初、バンタム級初の偉業を達成しても驚くことではありません。

クロvsスペがドローなら、12月13日という〝締め切りギリギリ〟の印象点も手伝ってモンスターが年間最高選手賞を勝ち獲る可能性が一気に膨らむのではないでしょうか。



米国ボクシングの地盤沈下が止まらない。

40年以上も凋落傾向が止まらない米国ボクシングをなんとか、かんとか支えているのはメキシカンパワー。

その象徴であるカネロの限界が露呈され、人気階級ではその後継者も見当たりません。

もし、カネロがビボルに2連敗、ベナビデスやベテルベエフにノックアウトされるようなことがあると…。

米国ボクシングは冬から厳冬どころか、氷河期にはまり込むかもしれません。

カネロの惨敗は見たいと思いますが、米国ボクシングがこれ以上衰退する姿は見たくありません。