井上尚弥は6月7日ノニト・ドネアのWBCタイトルを吸収、Lineal Championの座に就きました。

年末にWBO王者ポール・バトラーとの対戦が実現すると、勝利は確実で「議論する余地のない=他の誰にも王者を名乗らせない」Undisputed Champion になります。

バンタム級でLineal Championが生まれるのは、ベルナルド・ピニャンゴが1987年にタイトル返上して以来35年ぶりのことでした。

Undisputed Champion となると1972年のエンリケ・ピンダー以来、50年ぶりと成ります。

「山の日」 の今日は、井上が登ったLineal Championと、これから極めんとするUndisputed Championの系譜を簡単に振り返ります。

 The Lineal Champion  is informally called "the man who beat the man".

「王者を倒した者だけが王者を名乗れる」というチャンピオンシップの原理主義です。

マイク・タイソンが3団体時代に全てのベルトを掌握しUndisputed Champion になったとき、Lineal Championとリング誌王者はマイケル・スピンクスでした。

「王者を倒した者だけが王者を名乗れる」。つまり「倒されない限り王座は誰も剥奪できない」ということです。 この"the man who beat the man"の大原則はリング誌の哲学でもあります。

スピンクスはタイソン戦を回避したことでIBF王座を剥奪、トニー・タッカーとバスター・ダグラスによる決定戦が行われ、その勝者タッカーに判定勝ちしたタイソンがUndisputed Championになったのです。

Undisputed Championが「議論する余地のない=他の誰にも王者を名乗らせない」王者という意味なら、リング誌とLineal ChampionにもならないとUndisputedとは言えないじゃないか!?

というのは国語をよく理解した方のド正論です。

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主要4団体以外のベルトは認めないというスタンスなら、リング誌は除外。そもそもベルトも存在しないLineal Championも除外するのが、現在のUndisputed Championの考え方です。

「Undisputed ちゃうやん」といわれると返す言葉もありません。

これがプロボクシング、これだからプロボクシングなのです。

気を取り直してバンタム級のUndisputed ChampionとLineal Championです。

実は、バンタム級はオリジナル8の中でも、ある意味で、最も新しいクラスです。正確にいうと118ポンド級は「オリジナル8で最も新しいクラス」なのです。

グローブ時代の初代王者は1889年のチャッピー・モランですがその上限体重は混迷、118ポンドに落ち着くには1920年代まで待たねばなりませんでした。

このウェイト問題は英国と米国の間でも右往左往したことから、両国で王者が並立。米国のNBA王者がLineal ChampionやUndisputed Championではない時代が入り乱れます。

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この戦国時代を統一したのがエデル・ジョフレでした。1960年にNBAのタイトルを獲得すると、英国が認める世界バンタム級王者ジョニー・コールドウェルらを駆逐し「他の誰にも王者を名乗らせない」状態を作り上げたのです。

このバンタム級のUndisputed titleをジョフレから奪い獲ったのが、我らがファイティング原田。

Undisputed titleは、原田からライオネル・ローズ、ルーベン・オリバレス、チューチョ・カスティージョ、ラファエル・エレラと継承。

しかし、1972年にエレラに勝ったエンリケ・ピンダーがロメオ・アナヤを初防衛戦に選ぶとWBCが「アナヤに挑戦資格はない」と反発、エレラとロドルフォ・マルチネスをWBC初代王者決定戦と認定してしまい、タイトルは分裂。

この時点で、Lineal Championの系譜は当然ながらWBAのラインです。

それ以来、世界バンタム級のタイトルは分断されたまま50年の歳月が流れました。

一方で、WBAラインのLineal Championは途切れることなく "the man who beat the man" を繰り返しましたが、1987年にピニャンゴが減量苦からジュニアフェザー級転向を表明、タイトル返上したことでついに断絶してしまいます。

Lineal ChampionではないWBCラインでカルロス・サラテやルペ・ピントール、ミゲール〝ハッピー〟ロラら、バンタム最強と目される王者が登場したのは、原理主義の矛盾が露呈した皮肉な構図でした。

ウェイト問題にWBCの分離独立、欧米で全く関心が払われない階級…オリジナル8の中でもバンタム級はUndisputed ChampionLineal Championが生まれにくい数奇な運命を辿っていましたが、「バンタム」が特別な響きを持つ日本で最強の王者が全てのタイトルを束ねようとしています。

最後のピース、WBOを持つバトラーにとって井上戦は、キャリアハイを何倍も更新するファイトマネーが期待出来る一世一代の晴れ舞台です。

その舞台は富裕国では唯一、バンタム級に人気がある日本でしかありえません。井上は「英国にでも行く」と明言していますが、そうなるとまたショボい興行で低い報酬になってしまうバトラーの方が困るでしょう。

バトラーは挑戦者の立場、競争入札とはいえ幻のジョンリール・カシメロ戦の報酬はわずか2万6250ドル、約300万円でした。これまで10万ドルの報酬にあずかったことも稀なはずです。

カシメロ戦の約20倍、50万ドルでも貰いすぎですが「100万ドル」とかゴネているなら、もう交渉はおしまい、ジュニアフェザー級に行きましょう。

バトラーも何かアルバイトしてそうです。いや、ボクシングがバイトか?井上と戦えば何十試合分ものお金が入って、バイト(本業?)もしばらく休めるというのに。


29歳の井上に、貧乏人の雑魚ボクサーに付き合ってる暇はありません。