井上尚弥。

6月7日の「ドネア2」の勝利。メディアは大々的に報道しませんでしたが、Lineal Champion の座に就きました。

ヘビー級以外のLineal Champion、しかもバンタム級のLineal Championにどれほどの意味があるのか?と問われると言葉に詰まりますが、1987年のベルナルド・ピニャンゴ以来、17階級で最長の35年間も空位だったバンタム級の玉座にモンスターが着席したのです。

日本人としてはファイティング原田以来、なんと54年ぶりの快挙になります。

スクリーンショット 2019-06-14 17.02.26

現在、17階級でLineal Championを頂いているのはヘビー級(タイソン・フューリー)、クルーザー級(ジェイ・オペタイア)、ライトヘビー級(アルツール・ベテルビエフ)、スーパーミドル級(カネロ・アルバレス)、ジュニアミドル級(ジャーメル・チャーロ)、ジュニアウェルター級(ジョシュ・テイラー)、ライト級(デビン・ヘイニー)、ジュニアライト級(シャクール・スティーブンソン)、バンタム級(井上)、ジュニアバンタム級(ファン・フランシスコ・エストラーダ)の10階級。※黒字はUndisputed champion。

空位の7階級はミドル級(2021年にカネロが返上)、ウェルター級(2016年にマニー・パッキャオが引退宣言)、フェザー級(2005年にパッキャオが返上)、ジュニアフェザー級(ギレルモ・リゴンドーが2019年6月から当該階級で試合を行っていないため2022年7月に剥奪)、フライ級(ローマン・ゴンサレスが2016年に返上)、ジュニアフライ級(2011年にジョバンニ・セグラが返上)、ストロー級(1999年にリカルド・ロペスが返上)。

井上が35年の空白を埋めたために、現在の最長空位階級は23年間のストロー級になります。

upcoming-wbo-bouts

現在、IBF、WBA、WBCと主要団体のタイトルを3/4まで統一した井上がコレクションを完成させるためのピースは残り一つ。

WBO王者ポール・バトラーとの試合決定なら、勝利はまず動かないでしょう。

凡庸な英国王者をキャンバスに沈めると、1984年にWBAジュニアバンタム級王者・渡辺二郎が、WBC王者パヤオ・プーンタラトを破って以来の38年ぶりのUndisputed championになります。

katie-taylor-jacket-770x509

前置きが長くなりました。

「カネロ〜クロフォード〜井上」の対戦相手の質からの比較検証です。

カネロは、人気階級の問答無用のスーパースター。

クロフォードは堂々の人気クラスであるウェルター級最強候補の最右翼目ですが、その実力に見合った人気は全くありません。

そして、井上に至ってはクロフォードとも比較できないカジュアルなボクシングファンには全く無名、米国では大会場でメインを張る需要はゼロという、人気という尺度を当てる以前の問題です。

人気の階級格差を取っ払って「階級に貴賎はない」という立場で考えるのがPFPですが、この企画もそれに則っています。

さて、井上の対戦相手の質は…。

【殿堂・年間最高選手賞クラス】では、ノニト・ドネアがいます。30代後半の劣化版とはいえ、フィリピーノフラッシュとの2度の対戦はともにタイトルホルダーでした。

このクラスの対戦相手が一人もいないクロフォードとは違いますが、タイトルホルダーでPFP1位のゲンナジー・ゴロフキン(初戦)と引き分け、WBCミドル級王者のミゲール・コットに勝利しているカネロには及びません。

井上が拳を交えた【現役PFPファイター】は、クロフォードと同じく一人もいません。

しかし「元PFPファイター」までハードルを一気に低くすると、やはりドネアが2007年から12年までの6年間PFPに名前を刻んでいました。

クロフォードは「元」すらいません。

【未来の世界王者】に目を移すと、井上は田口良一(リング誌/WBA&IBFフライ)と、ドネア(WBCバンタム)と二人いますが、クロフォードはリッキー・バーンズ(WBAジュニアウェルター)だけで、そのバーンズはジュリアス・インドンゴに封じられた絶対穴王者でした。

「階級に貴賎はない」という原理原則に立つと、井上とクロフォードの比較はナンセンス。対戦相手の質で両者には決定的な差があります。

ただ、カネロの実績は井上とクロフォードとは一味も二味も違います。もちろん、対戦相手の質が高く見えるのは「オーダーメイドで相手を選んでいるから」なのですが…。

リング誌のPFPランキングで、カネロは1位から5位まで急落しましたが、これは妥当だったのでしょうか?ライトヘビー級の無敗の強豪王者ドミトリー・ビボルに挑戦、敗れたとはいえ判定まで持ち込んだ結果は、井上やクロフォードの最近の対戦相手とは比較にならない健闘ぶりにも思えてきます。

「階級無視」「レガシー(偉業をクリアした実績) 」という観点で、カネロの挑戦は井上にもクロフォードとも次元が違うようにも思えるのですが…妄想ランキングにケチをつけるのもおかしな話なんですが…。