誰に勝ったのか。

それは、もちろん「誰」だけではなく「いつ」も重要な要素です。

例えば「モハメド・アリに勝つ」のは60年代なのか、70年代なのか、それとも80年代なのかで大きく変わってきます。

例えば、実力評価と人気の乖離が大きいマイク・タイソンの場合、対戦相手の質、その最上位「殿堂や年間最高選手賞レベル」を見ると…ラリー・ホームズ、マイケル・スピンクスの2人だけ。しかも2人とも完全劣化バージョン。

タイソンの現役全盛期は多くのメディアがPFPキングと認めましたが、現在では「存命ボクサーPFPランキング」で10位に数えられることもなく、80年代や90年代の10年PFPでも勝ったホームズやスピンクスの後塵を拝しています。

弱い相手に圧勝することが大の得意だった一方で、強い相手を前にするとパニック障害を起こしてしまいました。

「レーザー・ラドックよりは強い」というのがタイソンの正体です。

そんなタイソンほどではないものの、ロイ・ジョーンズJr.も現役時代のPFP評価と、後世の評価で掌を返された〝被害者〟でした。

では、井上やカネロ、クロフォードの対戦相手の質はどうなのでしょうか?

パッキャオ型なのか?タイソン型なのか?

カネロとクロフォードは層の厚い人気階級、井上は層の薄い不人気階級ですが、PFPと同様に対戦相手の質に階級差別は一切持ち込みません。


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まずは、人気階級としては目も当てられない不人気に喘ぐクロフォードから。

殿堂、年間最高選手賞クラスの強豪との手合わせは一人もありません。

現役PFPファイターとの対戦もゼロ。

それでも無理やりめぼしい相手を探してみると、ライト級ではリッキー・バーンズとユリオルキス・ガンボア。どちらも劣化バージョンでしたが、ガンボアにグラつかされるシーンもありました。

Undisputed champion になったジュニアウェルター級では、ビクトル・ポストルとジュリアス・インドンゴ。どちらも悪い選手ではありませんが、殿堂入りは論外、PFPの末席を汚すこともできない平凡なアルファベット王者でした。

ウェルター級ではアミール・カーンとケル・ブルック、ショーン・ポーターの3人。カーンとプルックは、ミドル級で破壊された完全劣化版。

ポーターはクロフォード戦が引退試合になったように、思うように動かない肉体を自覚していました。

あらためて見直すと、トップランクという〝鳥籠〟に閉じ込められた不幸はあるものの、対戦相手の質が高いとは口が裂けても言えません。

クロフォードの現状評価は「弱い相手には滅法強いが、強い相手とはまだ戦っていない」。

「弱い相手への勝ちっぷりを見ると、強い相手にも十分通用するのではないか?」という、タイソンと同じイフに支えられているのが現状のクロフォード評価、つまり今が評価のピークかもしれません。

アマチュアでは勝負所でことごとく敗退。プロに入ってから叩き上げでのし上がってきたクロフォードには、自分の処遇を妥当だとは感じていません。

このパンデミックを「メディアと国家の陰謀」と決めつけていた悲しいほど暗愚で低脳な男は、自分に人気がないことも「巨大組織の陰謀」と思い込んでいるかもしれません。

表層的な数字では、プロ38戦全勝29KO無敗。

ライト級、ジュニアウェルター級(完全統一)、ウェルター級の3階級制覇。

層が厚く米国での人気が高いクラスでの3階級制覇ですが、これを持ち出すとPFPも意味がなくなり、このシリーズでバンタム級の井上尚弥と比較することができなくなるので、この側面は評価対象外です。

Bud(大輪の花を咲かせる若芽)も、今年9月で35歳。

本当に強い相手を迎えるにふさわしい時間は限られています。

このままではキャリア末期のポーターか、ライト級バージョンの劣化ガンボアが最強の相手、新芽のまま朽ちるかもしれません。



次は、大物。カネロ・アルバレスです。