階級の壁。

承認団体が4つに増え、階級が17にも増殖した時代でも階級の壁は厳然として存在します。

世界王者になること、複数階級制覇することが飛躍的に安易になった時代にもかかわらず、階級の壁の存在を思い知らせてくれたロマンチストたちのリストです。

彼らにロマンを見せ、無謀な挑戦に誘ったのは勇気と冒険心だけではありません。

このお話を始める前に、その張本人がいたことを紹介しなければなりません。

複数階級制覇を従前よりもはるかに軽く考え、成功への拠り所とされていたのはマニー・パッキャオの存在でした。

フライ級からジュニアミドル級まで、10階級のスパンで8階級を制覇した正真正銘の傑物。

エイドリアン・ブローナーからマイキー・ガルシアまで、亀田興毅から井上尚弥まで、つまりFrom pin to drill=ビンからキリまでパッキャオを強烈に意識した発言を残し続けてきました。

そして…ピンからキリまで、結局のところ誰一人としてパッキャオの領域には触れることすらできないのです。

その意味ではマイキーもブローナーも、亀田も井上も、同じリーグの住人に過ぎません。

IMG_2947


【3ボンドの壁か、それとも経年劣化か?】


アルメニア生まれで豪州を拠点に活躍、主戦場を米国に移したビック・ダルチニアンは2004年12月に無敗のIBF王者イレーネ・パチェコを11ラウンドでストップすると、KOを逃したのは負傷判定の1試合だけという圧巻の6連続防衛でIBO王座も吸収、PFPファイターにもその名を連ねました。

7度目の防衛戦も一方的に有利と見られていたましたが、ノニト・ドネアにまさかのTKO負け、デビュー以来の連取を28で止められてしまいます。

その瞬間まで拮抗していたドネアとの再戦を急がず、すぐにジュニアバンタムに上げると再起戦でIBO王座を強奪、再起2戦目でIBFもコレクション。WBA/WBC王者クリスチャン・ミハレスを攻め落とし、人気者ホルヘ・アルセも破壊してUndisputed champion に王手をかけましたが、3階級制覇を狙ってバンタム級進出。

スーパーミドル級の「スーパー6」トーナメントでで一定の成果を残したShowTimeが企画した、低予算の「バンタム4」に優勝候補の筆頭として参戦します。

ダルチニアンと、ガーナのジョセフ・アグベコ、コロンビアのヨニー・ペレス、そしてメキシコ系米国人でオスカー・デラホーヤの秘蔵っ子アブネル・マレスによる総当たり戦。

IMG_0991

しかし、115ポンドで絶対王政を敷いていたレイジングブルが118ポンドでは平凡なボクサーになってしまうのです。

IBF王者アグベコにマジョリティデジションでドネア戦いらいの黒星をつけられると、マレスにはスプリットデジションで敗退。ジュニアバンタムで見せていた鮮やかな決定力は、バンタムで完全に喪失してしまっていました。

もちろん、アグベコは地味ながら2020年、43歳になるまで戦い続けたタフな強豪。マレスは判定では勝ち目のない軽量級では稀有なスター。

ジュニアバンタムまでの相手とは一味も二味も違いましたが、それにしてもパワーはもちろん、スピードもタイミングも何もかも失ったダルチニアンの変わりようは、見えないはずの階級の壁をはっきり映し出してくれた気がしました。