6月19日(日)東京ドーム

THE MATCH 2022

那須川天心vs武尊

地上波やAmazonプライムの価格なら絶対見ようと思ってましたが、PPV5000円以上するとわかって断念。

魔裟斗がK1ワールドマックスで優勝したとき、ロッカールームで「これは価値がある。ボクシングでいうとWBAやWBCのタイトル」と語り、「ラスベガスでバーナード・ホプキンスと戦いたい」と夢見るのを聞いて悲しくなりました。

大相撲の優勝力士がそんなことを口にすると、どうでしょうか?

あるいは、井上尚弥がPFP1位になって「バロンドールと同じくらいの価値がある」なんて言ってしまったら?

那須川天心がボクシング転向を決断した理由を「キックでやり残したことはない」といくら説明しても、彼が陽の当たる場所を渇望したのは明らかです。



もしもの世界…キックが日本はもちろん世界的にも認められていたなら…。

引退したキックのスター選手に現役のスターボクサーやMMAスターがキックルールでexhibitionを〝土下座〟して熱望するようなステイタスがキックにあったなら、天心はキックにとどまっていたでしょう。

天心がやろうとしているのは「泪橋を逆に渡る」ことです。

もし、格闘技の才能溢る少年の前に神様が現れてこう尋ねたらどうでしょう。

「日本人のあなたの願いはどれですか?一つだけ叶えてあげます」。

●日本中の注目を集めて東京ドームをフルハウスにするキックボクサー。

●社会的にも認知され、ボクシングファンから尊敬を集めるフライ級やバンタム級のボクサー。

●米価のラスベガスや巨大スタジアムで世界中から注目され、Forbesアスリート長者番付1位に君臨するウェルター級やヘビー級のボクサー。


最後の「願い」と、他の二つの違いは、世界的・圧倒的・爆発的なカネと名誉の熱量というだけです。

三つともその競技に全身全霊を注いで、与えられた場所で頂点に立ったのですから、本質的な意味での貴賎など存在しません。

しかし、三つの間には乗り越えることなど出来る道理がない高くて分厚い壁がそそり立っています。

それでも、天心は与えられた場所に「NO」と言ったのです。

キックはかつて「ボクサーの姥捨山」と呼ばれていました。〝泪橋〟は、落ちてゆく者が通る一方通行でした。

一方通行の標識を無視して、泪橋を逆走しようとしているフロントランナーが、那須川天心です。

そして、そんな姿勢は武尊にとって面白いわけがありません。キックボクサーであることの誇り、という一点で、武尊は天心を大きく上回っています。

もちろん、武尊の前に神様が現れて「人生をやり直す三択」を提示したら…。

いずれにしても、天心も武尊も感情移入しやすい人生とキャリアを重ねてきました。

そこに刻まれた生き様は、五輪金メダルからプロボクシングの人気階級で大きな花を咲かせ、社会的認知の印鑑をいくつも押印してもらい、誰からも抱きしめられた、そもそも泪橋など見たこともない村田諒太とは全く違うものです。

村田が睨みあげたゲンナジー・ゴロフキンやカネロ・アルバレスは、彼らの空にはどこをどう探しても、どんなに目を凝らしても見えません。

それは、井上尚弥の目に映る軽量級の空でも同じことです。

いいえ、見えないのではありません。

彼らの空には、残酷な話ですが、元からそんな星など輝いていないのです。

泪橋を逆に渡ろうとする天心に、タダでは渡らせないと立ち塞がる武尊ーーー。

当日は昼間にボクシングのライトヘビー級3団体統一戦を見て、THE MATCHは見ませんが、2人ともベストの状態でリングに上がり、悔いの残らない戦いたいをしていただければ、と願っています。