井上尚弥は2012年、7月2日に開かれたプロ転向の記者会見で井岡一翔の世界王座最短奪取記録の更新を宣言。プロテストはスーパーバンタム級B級ライセンスの受験でした。

もし…大橋秀行や 井上が「2012年7月2日」にタイムスリップしたなら、無理やりの減量で19歳の肉体をジュニアフライ級に削ることはいなかったかもしれません。


もし、ジュニアフェザー級からプロデビューしていたら…10年後の今はジュニアライト級はとっくに通過してライト級で戦っていたかもしれません。

もちろん、こんなことを言ってもどうにもなりません。

ジュニアフライ級でスタートしたから、今のステイタスにあるのでしょうし、もしジュニアフェザー級デビューなら何度も負けて、もう引退しているかもしれません。

さて、「井上vsドネア2」は「減量苦vs減量楽」の対決でもあります。

減量とは何なのか?
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今から35年前、ボクシングマガジン誌上では「HOW TO BOXING〜渡辺二郎のボクシング講座」の連載がスタートしました。

ときどきご紹介しているものです。

第20回は「ウェートコントロール①」(1990年10月号)。 

慧眼の拳闘家が、今読んでも全く古くない鋭利な洞察で減量について語ってくれています。

渡辺がまず伝えているのは「ボクサーが消費するエネルギーは想像を絶する」ということ。

「イベンダー・ホリフィールドがドワイト・カウイに勝利した世界クルーザー級戦 で、試合中に6.7㎏もの体重を失っていた例を挙げて「消費量に匹敵するエネルギー(カロリー)を補給する必要がある」と、「なにを」「いつ」「どのように」食べるかがいかに大切かを説いています。

非常に理路整然としたロジックです。
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そして、5大栄養素についてボクサーが避けがちな脂肪についても「他の栄養素と比較して熱量価が高い。体内のグリコーゲンが不足したとき、脂肪はこれを補うかたちでエネルギー源となる」「短時間でエネルギーに変化する炭水化物は最も大事な成分」。

「バランス良く摂取することが大切」としながらも「誰もが同じ体質ではないから、自分なりの食事を早く見つけること」と、いつものように「誰かが正解を与えてくれるわけじゃないから、自分で考えること」に行き着くのです。

そして「試合と試合の間でも58㎏を超えないようにキープしていた」「分銅のついた正規の秤で体重を管理することを怠らない」という渡辺は、炭水化物を中心にした減量でウェイトコントロールがスムースになったと言います。

プロデビュー当時はフライ級の体重を作るのに苦労し「空腹で眠れず腹にさらしをきつく巻いて眠った」「試合前日にサウナにこもった」とも。

渡辺にとって、水抜きとセットのサウナは〝禁じ手〟だったのかもしれません。  

それにしても、渡辺の言葉を読むにつけ、聞くにつけ、本人の自業自得とはいえ、残念です。

彼は間違いなく偉大な指導者になっていたでしょう。