リング誌電子版でアップされたばかりの記事から。

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「彼との付き合いはかれこれ10年になる。潤人の才能は頭抜けている。トレーナーの仕事はいつだって難しいものだが、潤人との仕事は例外だ」(世界的な名トレーナー、ルディ・エルナンデス)。

日本のメディアの中には、パウンド・フォー・パウンドのスター、井上尚弥のリングネームにちなんで、中谷を「ネクスト・モンスター」と呼ぶ人もいる。
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中谷は、プロキャリアのほとんどをフライ級で戦ってきた。この階級では身長170cmは大きく、階級アップは時間の問題だろう。

中谷は「直帰の試合では、9キロ(約20ポンド)減量した」というから、フライ級で戦うのは厳しくなってきており「次の試合ではジュニアバンタム級に上げて、今年中に(The RingとWBAの)タイトルホルダーのフアン・フランシスコ・エストラーダと戦いたい 」と具体的なターゲットまで明らかにした。

村野健「階級アップの問題はない。ミラン・メリンドとのジュニアバンタム級戦でも最高のパフォーマンスを見せてくれた(6ラウンドストップ)。ジュニアバンタム級のトップ選手とも互角以上に戦える」と自信を見せる。

中谷自身は、ジュニアバンタム級がキャリアの終着点だとは毛頭考えていない。
 
“My aim is to join the pound-for-pound fighters by beating big names at junior bantamweight one by one,” he said. “My career goal is to become a six-division champ – up to junior lightweight.”
 
「ジュニアバンタム級でビッグネームを次々と倒し、パウンド・フォー・パウンドファイターになりたい。そしてゴールは、ジュニアライト級までの6階級制覇」。
 

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エストラーダはジョシュア・フランコとの指名試合が競争入札に持ち込まれましたが、エストラーダをプロモートするザンファーと提携関係が深いはずのマッチルームがまさかのスルー。

入札開始の最低価格12万ドルから1セントの上積みもないまま、単独入札となって落札したのは〝部外者〟のゴールデンボーイ・プロモーションズ…。

軽量級、いくらなんでもどれだけ需要がないのか、暗澹たる気分です。

エストラーダは世界的評価も絶大なPFPファイターです…それなのに、米英目線の軽量級って、何なの???

日本のボクシングファンからすると、悔しいです。

ファイトマネーはエストラーダが75%の9万ドル、フランコが25%の3万ドルが割り当てられる見通しですが…。

軽量級と人気階級を比べるのは、女子ソフトとメジャーリーグを並べるよりも乖離した話ですが、先日の「タイソン・フューリーvsディリアン・ホワイト」で、フランク・ウォーレン&ボブ・アラムが叩いた史上最高の入札額4102万5000ドルの340分の1以下です。

現実にはPPV歩合などが加算されるフューリーの報酬は、エストラーダの340倍では済みません。

エストラーダが繰り返し口にしてきた「ボクサーにとって軽量級に生まれてしまうってことはこれ以上ない不幸」「PFP評価は嬉しいけどカネにはならない」という嘆きももっともです。

エストラーダのライバル、ローマン・ゴンザレスに至ってはPFPキングに2年も君臨しながら最高報酬は72万5000ドルどまり。それでも、人気からすると「もらい過ぎ」と言われる始末です。

エストラーダやロマゴンは日本人なら軽量級でも「コロナでも100万ドル。防衛を重ねたら天文学的金額」(井上尚弥の報酬について語った大橋秀行)になるんでしょうが…。

この不公平、この理不尽、軽量級の魅力も識る日本のボクシングファンからするとやり切れません。

エストラーダの嘆きや、カリド・ヤファイの「軽量級じゃなくミドル級なら乗る車も住む家も何もかもが違っていた」という不満は、多くのボクシングファンから「だったらパッキャオみたいに人気階級に行け!それができないなら文句を言うな!」と攻撃されてしまいました。

それも一理ありますが、軽量級の魅力がミドル級やヘビー級の人気クラスに劣らないのも真実です。



日本の軽量級は、飛び抜けて恵まれています。

そして「井上や井岡らの仕事は、自分より遥かに貧しいボクサーをシバき上げている〝貧困ビジネス〟」という、斜めからの皮肉にまともに反論できない自分もいます。

井上や井岡が世界的な人気はおろか認知すら低い超軽量級ではなく、ウェルター級やミドル級で同じパフォーマンスを見せていれば、日本での存在感までが全く違っていたというのも事実です。

井上がライト級以上なら〝なんちゃってラスベガス〟ではなくリアル・ラスベガスのリングに上がれていたでしょう。ミドル級やウェルター級なら大橋会長の「防衛を重ねていけば天文学的数字」も頭が悪すぎる戯言ではなくなります。

その意味で、残念ですが、軽量級が最も恵まれている日本ですら、やはり本物の人気階級への憧れが強烈なのです…。