ボクサーにとって最も名誉ある賞は、全米ボクシング記者協会(BWAA)の年間最高選手賞(Sugar Ray Robinson Award)です。

ノニト・ドネアは2012年のジュニアフェザー級での活躍が評価され、フェザー級以下では史上初めてこの栄冠に輝きました(その後、2016年にフェザー級のカール・フランプトンも受賞)。

しかし、アスリートにとって「評価がピークに達したときはプライムタイムは終わっている」ことはよくあることです。

ウィルフレド・バスケスJr.戦の完勝をスプリットデジションにされたのは〝誤審〟でしたが、凡庸極まるバスケスJr.を倒せず、上々の立ち上がりを見せたにもかかわらずジェフリー・マゼブラもやはり仕留め切れませんでした。

西岡利晃とホルヘ・アルセという倒して当然の相手はKOしたものの、反射の衰え、急所を撃ち抜く当て勘の鈍化は明らかでした。

そして、ドネアはトップランクからゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)への移籍を図りますが、トップランクとの訴訟に負けて差し戻されます。

激怒したボブ・アラムが差し向けた刺客はギレルモ・リゴンドー 。

よりによって、2012年度のBWAA表彰式が行われるニューヨークが〝処刑〟の舞台に選ばれます。

記者会見で、ドネアは「俺は速いぞ。ちゃんと見てろよ、見えないだろうけど」と自らの目を指差しますが、キューバのジャッカルはニヤリと笑うと「その目ん玉を潰してやる」と答え、その通りに実行しました。

下り坂のドネアにトップランクは容赦がありません。

ニコラス・ウォータースにはキャリア初のKO負けを喫してしまいます。

さらに、ウォータースよりも評価が高いオスカル・バルデスとの対戦を突きつけられて、ドネアは「フェザー級のトップは強すぎる」と〝ギブアップ〟。

アラムは「まだ契約期間が残っているからドネアに拒否権はないが、可哀想だから無償でフリーエージェントにしてやる」と、傷ついたフィリピン人を解放します。

そして、GBPを追放されたリチャード・シェーファーと合流、2018年4月にカール・フランプトンとのビッグファイトに挑みましたが、圧倒的不利の予想通りに完敗。

リング誌もESPNも「いい加減に引退すべき」と薦めました。

リゴンドー に敗れてから、フランプトン戦までの星勘定は11戦7勝4敗。世界基準の相手にはことごとく負けてしまいます。

ドネアは、フランプトンとのフェザー級戦に敗れたその年の11月に、WBSSバンタム級トーナメントのリングに上がるのです。

誰の目にも無謀な挑戦にしか見えませんでした。

そもそも、バンタム級の体が作れるのか?



WBSSの出場選手はドネアの他に井上尚弥、エマヌエル・ロドリゲス、ライアン・バーネット、ゾラニ・テテ、ミハエル・アロイヤン、ジェイソン・マロニー、ファン・カルロス・パヤノ。

さて、このメンバーを優勝オッズの順番に並べたら、どうなっていたでしょう?

井上が飛び抜けて一番、2位が5倍というのに1倍台という〝鉄板三枚重ね〟のフェイバリットでした。

続く。