ボクシングにおいて、日本では分水嶺、分かれ道のような階級があります。

日本ではジュニアフェザー級とフェザー級の間に〝それ〟があります。

フェザー級から上は、日本人には王座に就くのはもちろん、挑戦するのも難しい階級になります。

フェザー以上でも、ジュニアライト級とジュニアウェルター級、ジュニアミドル級は辛うじて馴染みがあるとはいえ、それも欧米での人気が下落しているときに間歇的にチャンスが訪れる程度です。

ライト、ミドルは挑戦するのも珍しい難関階級で、ウェルターともなると未だにアルファベット王者1人も生み出せていません。

日本ではジュニアフェザー級とフェザー級の間が分岐点になっているのは明らかです。

白井義男やファイティング原田の時代から、日本人の体格は飛躍的に向上しているというのに、彼らの時代から70年も経っているというのに、未だにフライ・バンタム周辺でうろちょろしているのです。

もちろん軽量級は日本の伝統ですから、そこを橋頭堡として、分水嶺をもっと上に押し上げても良いはずなのですが、現実には軽量級の細分化もあり、下がっているのです。

ボクシングの世界に限っては、日本人の体格の向上が全く反映されないどころか劣化していると言っても差し支えありません。

かつての軽量級大国メキシコがルーベン・オリバレスからサルバドール・サンチェス、フリオ・セサール・チャベス、カネロ・アルバレスと、明らかな大型化が見て取れるのとは対照的です。

「より層の薄いクラスでより弱い相手と戦うために過酷な減量に身を投じる」のが当たり前の世界とはいえ、残念なことには違いありません。

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今は消滅してしまったリング誌の人気企画「100 Best Fighters in The World」(年間PFP100傑)。2016年に13位まで順位を伸ばした内山でしたが、翌年は…。


さて、内山高志です。

「食事の管理を徹底することで減量のストレスがなく、同じ階級で長く戦える」。

内山が多くの日本人スター選手と異なる点は、過酷な減量とリバウンドアドバンテージとは無縁であることです。

減量は試合2ヶ月前から。糖分・塩分・脂肪を減らすだけで、食事の量は減らさず、約2週間前にはリミットまで3㎏まで落とし、そこから食事量を65%程度に抑えるだけ。

「減量は全く苦しくない。試合前に減量で苦しんでいる選手を見ると、普段から食事を管理していれば、そんなことにならないんだ、と思います」。

その規律ある減量は、試合から離れていてもリミットから3㎏以内という次元にまで研ぎ澄まされました。

より弱い相手と戦うために自分も弱体化する、過酷な減量とリバウンドアドバンテージを選ぶか。それとも、減量ストレスゼロでナチュラルな強さを目指すか。

どちらを選ぶかは、アスリートが決めることです。

マイキー・ガルシアとの〝相思相愛〟の大勝負は具体化せず、本当に強い相手との対戦を渇望し続けた内山は12度目の防衛戦でニコラス・ウォータースとの対戦がテーブルに乗りました。

しかし、WBAからセカンド王者ハビエル・フォルツナとの団体内統一戦が指令されます。

それでも「フォルツナ、相手に不足ないです。次にウォータースでもいい」と切り替えました。

「世界のトップとやれて勝てるならぶっ壊れてもいい」。

「巨額の富なんて野望はないです。ただ、僕は内山ってすげぇな、あいつの試合、見たいよな。そう世界中のボクシングファンに思われたい」。

「そりゃ、パッキャオみたいに名前のある相手とどんどん戦いたい。でも僕はもう36歳。20代ならパッキャオみたいに向こうに乗り込みたいけど、今の僕には時間がないし、パッキャオのような体の強さもない。でも、だからこそ、早く名前と価値のある相手と戦いたいんです」。

しかし…アメリカで対戦することを前提に交渉を進めていたフォルツナ戦は頓挫。

渡辺均は具体的な理由を説明せず、日本開催に切り替えて再交渉が始まりましたが、今度は「フォルトゥナ陣営からジムが潰れるようなファイトマネーを要求された」として完全に決裂。

「ジムが潰れるような金額」は、3500〜4000万円と言われていました。虚しさしか感じない金額です。

そして、結局、暫定王者ジェスレル・コラレスと日本で対戦することが決まります。