亀田興毅は「やっぱり目標はパッキャオ」と憧れ、井上尚弥は「パッキャオが見た風景を見たい」とラスベガスを目指しました。

マニー・パッキャオと同じサウスポーの亀田家の長男は、何度もビデオを見てそのスタイルを学び、彼の試合では「兄ちゃん、パッキャオや!」と、アイドルのコンビネーションを出せと弟たちが声を張り上げるシーンが何度もありました。

「井上家では世界チャンピオンなんて言葉は軽々しく口に出せなかった。(亀田兄弟が話題の中心だった)デビュー当時のボクシング界は大嫌いだった」と、具体的な名前こそ出さなかったものの「亀田」を唾棄してきた井上。

対照的に見える彼らですが「パッキャオ」を目指し、「パッキャオ」になれなかったという二つの共通点を抱えています。


安易なマッチメイクと、ビッグマウスとは真逆の退屈な試合ぶり、親子揃っての品行下劣でヒールに追いやられた亀田は「5階級制覇したら文句無いやろ!」と啖呵を切り、パッキャオに近付こうとしました。

井上は「WBSSで優勝できたらパッキャオのレベルに行けると思う」と、軽量級でも米国でスーパースターになれると信じていました。

しかし、2人にとって現実は厳しいものでした。

興毅が勘違いしていたように、パッキャオは8階級制覇したから偉大なのではありません。遥かに格上のビッグネームからのオファーを二つ返事で受けて、何度も番狂わせを起こしてノシ上がっていったからです。

井上が幻覚した「パッキャオの見た風景」とは、米国で需要の低いバンタム級や、人気のないアジア人にとっては到底望むべくもないものでした。WBSSとは米国で人気の無い階級をターゲットにした、詐欺的な〝貧困ビジネス〟でした。
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もし、マニー・パッキャオが同じ日本人なら、彼らも勘違いせずに済んだかもしれません。

パッキャオへの憧れを「日本人」というフィルターを通すと、そこに向かうアプローチは全く歪んで見えてしまいました。

「複数階級制覇が格好良い」。「MGMグランドが格好良い」。「ファイトマネー100万ドル。防衛を重ねたら天文学的数字になる」。「ESPNの視聴者数が飛び抜けて高い数字を記録した」。

「格上相手に世界の度肝を抜く大番狂わせを起こす」という本質から離れて、どうでもいい「数字」や「ハコ」が目標にすり替わってしまう…。

「弱い相手を選んでの複数階級制覇」。「MGMグランドの小さな会場で無理やり試合」。「日本からの補填で膨らんだファイトマネー」「人気コンテンツと隣接させて〝捏造〟された視聴者数」。

結果的には、彼らがやったことは〝逆〟パッキャオでした。

こんな悲しい勘違いを生み出したのは、彼らだけの責任ではありません。

亀田一家への批判を抜きにしていたずらに露出させ、WBSSやPFPがスーパースターへのパスポートになるかのような報道を垂れ流したメディアの責任が最も重いのは言うまでもありません。

本人たちは真面目にヒーローを目指していたのに、亀田一家がヒールとして演出させたメディア。

米国ボクシングのことを少しでも知っていれば「軽量級にPPVで20億円」なんてメガファイトは歴史上一度もなかったこと、人気の無い階級ではありえないことを知っていたはずです。

また、井上の海外進出はJBCにとっては承認料収入の大きな損失であるにもかかわらず、指を咥えて見ているだけでした。

メディアは視聴率や閲覧回数を売り物にする営利団体ですから、亀田を悪者として演出させ、バンタム級にもメガファイトがあるかのように虚偽の報道をまきちらすのは百歩譲って頷けます。

しかし、JBCほど謎の組織はありません。

米国撤退を余儀なくされた井上尚弥と、歪んだ腐敗団体JBCの被害者だった亀田の、第二のスタートを見守るお話の始まりです。