今年は日本人が絡むことがなかった年間各賞。

それでもリング誌のCOMEBACK OF THE YEARは、日本のボクシングファンにとって馴染み深い顔が揃いました。

COMEBACK OF THE YEARに選ばれたのはキコ・マルチネス。

スペインの突貫ファイターが、長谷川穂積に募らせていたボクシングファンの夢を完全に打ち砕いたのは2014年4月のことでした。

長谷川戦と同じように、2021年11月13日も戦前の主役はIBFフェザー級王者のキッド・ガラハド

ガラハドは、カタールで生まれ湾岸戦争から逃げるように家族で英国に流れ着きました。

ナジーム・ハメドの導きによって、ウィンコバンク・ジムでドミニク・イングルの薫陶を受け、世界王者に辿り着いたガラハドはメディア受けするエピソードの宝箱のようなボクサーでした。

そのガラハドが〝聖地〟シェフィールドで初防衛戦を迎えるのです。

対するマルチネスは長谷川に大番狂わせ(実際には長谷川が過大評価されていただけでした)を起こした後は、カール・フランプトンにあっさり王座を明け渡し、スコット・クイッグ、レオ・サンタクルス、ジョシュ・ウォリントン、ゲイリー・ラッセルJr.らに予定どおりに完敗してきた35歳。

マルチネスは42勝30KO10敗2分。54試合のキャリアで消耗劣化した不細工なファイターは、完全なアンダードッグ、咬ませ犬の匂いすら漂っていました。

主役のガラハドが減量に苦しんでいるという噂どおりに、前日計量を1度失敗しても圧倒的有利のオッズや予想は変わらず。
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フランシスコ"キコ"マルティネスにとって、ガタガタと地響きのするような列車の音が王者の道への序曲だった。

「私バックパックを背負って一人でアメリカまで来た。これが私の最後の列車だとわかっていたので、絶対に勝たなければならなかった」。

キコは、2013年にアトランティックシティでコロンビアのジョナサン "モモ "ロメロと対戦し、IBFジュニア・フェザー級のベルトを奪取した。

そして、日本からビッグマネーのオファーが届く。「長谷川陣営が私を楽な相手だと勘違いしていたのはわかっていた。ただ、私が長谷川が防御に甘く非常に打たれ弱いと思ってたのは勘違いではなかった」という通りの試合で、日本のエースを粉砕しました。 



その後、フランプトンにタイトルを奪われてから7年。

同郷のヒーロー、ハビエル・カスティジェホの2階級制覇に匹敵する偉業を達成し、世界に衝撃を与え、カムバック・オブ・ザ・イヤーに輝きます。 

今年はサンドル・マーティン(4階級制覇王者マイキー・ガルシアに判定勝ち)も番狂わせの雄叫びをあげました。

スペインは気骨のあるファイターを生み続けていますが、大きな業績を上げることは出来ていません。



いつも、あと一押しが足りませんでした。

そして、キコの初防衛戦が3月26日、ジョシュ・ウォリントンに決まりました。

「あと一押し」には、十分すぎる相手です。 


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リング誌COMEBACK OF THE YEARのRUNNERS UP(次点)は「Nonito Donaire KO 4 Nordine Oubaali」と「Jonathan Gonzalez SD 12 Elwin Soto 」。

ドネアもジョナサンも日本のボクシングファンにはお馴染み。

ドネアは2018年にバンタム級に戻ってから、4勝4KO1敗。唯一の黒星も戦前の予想を大きく裏切る大健闘で井上尚弥を苦しめました。

COMEBACK OF THE YEARの候補になるのは遅すぎるタイミングでしたが、30代後半という年齢に、ジュニアフェザーとフェザーで迷い込んだ長い低迷の期間から、現在のドネアの実力を誰も正確に測ることができなかったのです。

しかし、もう疑いようがありません。

ドネアはCOMEBACK しました。誰がどう見ても井上にとってバンタム級最強の相手は、39歳のフィリピーノ・フラッシュです。