狭き門より入れ(新約聖書–マタイ伝・七)。

PFPがマニアの間で注目され出したのは、4-Belt Eraになってからのことです。

考えてみれば、誰が一番強いのかがハッキリわかったオリジナル8の時代では、PFPランキングなど何の意味もありません。10傑には8人の世界王者がすっぽり入るだけで、残りの2人はどうしようか?って話でおしまいです。

あるいは、打倒マービン・ハグラーを巡って繰り広げられた80年代の中量級ウォーズでは、惑星同士が次々に激突、誰が一番強いのかがリングの上で明らかになりました。

そこには妄想が付け入る隙はありません。

ある意味で、全く面白くありません。

ところが今は、どのメディアもPFPランキングを発表しています。そして、1年どころか月に何度もシャッフルされるランキングなどファンはいちいち覚えていません。

誰が一番強いのか?が同一階級ですらわからないのが当たり前の4-Belt Eraでは、誰が一番強いのか?は妄想するしかありません。

畢竟、4-Belt Eraは妄想の付け入る隙が満載、の時代です。
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さて、boxing scene .comなどではPFP入りしていた長谷川穂積と西岡利晃。彼らは、4-Belt  Eraの魔宮に迷い込んだ仔羊でした。

まだ、BWAAがPFPランキングを発表していなかった時代。

彼らの前に重い扉で閉ざされていたのが、ESPNとリング誌のPFPでした。

リング誌は、2017年を最後に「年間PFP」ともいえるBEST FIGHTER POLLを廃止したため、現在は電子版による〝猫の目〟PFPしか存在していません。

ちなみに、1980年からスタートしたBEST FIGHTER POLL、その最後の年になった2017年に日本人として初めてランキングされたのがジュニアバンタム級バージョンの井上尚弥でした。しかも初登場で6位!

電子版ではそこから遡ること2年、2015年9月に山中慎介が9位、内山高志が10位と2人が一気にランクインしたのが〝日本初〟となります。

しかし、2016年にケル・ブルックがショーン・ポーターを下してランクイン、10位の内山が弾き出されてしまいます。

それでも2017年7月に井上尚弥が10位に登場、再び日本人2人体制に。ところが、この年8月に山中がルイス・ネリに倒されてPFP陥落。

残された井上もマイキー・ガルシアのランクインで10傑から追われ、ここでPFPから日本人の名前が消えてしまいます。

その後、井上がランキングに再突入。最高2位まで駆け上がりました。4-Belt Eraにおいて、最も評価の高い日本人が井上尚弥であることに誰も異論はありません。

しかし、4-Belt Era以前までさかのぼると、リング誌はディケイド(10年単位)PFPでファイティング原田を1960年代5位にランキングしています。

少なくともリング誌の「日本史上最高評価」は原田になります。

1960年代1位はエデル・ジョフレ。

当時、猫の目の電子版PFPが存在していたなら原田はジョフレ初戦に勝利した段階で1位評価を得ていたかもしれません。

少なくとも、連勝した時点で1位だった可能性大です。この推測だけでも原田は別格です。

そもそもが脳内妄想のPFPで推測やタラレバを語るなんて幻覚の二段重ねですが、このお遊びには正解も不正解もなく、幻覚をてんこ盛り出来るから楽しく遊べるのです。

さて、現在は井上が4位、井岡一翔が9位と日本人2人時代が復活しています。

井岡戦で「勝った方がPFP入り」と見られていた田中恒成、田中と同様に〝ウェイティングサークル〟でスタンバイしている京口紘人、番狂わせに足元をすくわれたものの高い評価を集めていた寺地拳四朗らが、対戦相手にもよるものの最短1試合でPFPファイターの仲間入りと見られています。

また、将来性を感じるスケールの大きなボクシングをする中谷潤人は、井上レベルのPFP常連になる可能性も秘めています。

私たちの前に、まだ見たことがないPFP3人時代の景色が、いつ広がっても何の不思議もない状況です。

それどころか、4人、5人…リング誌PFP10傑の過半を日本人が占める日だって、近い将来に待ち構えているかもしれません。
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PFPは妄想であり、幻覚です。

妄想は自由な発想ではありません。幻覚は先入観や既成概念の眼鏡を通して見える光景です。

その頑固な氷塊を溶かし、楔を打ち込んだのが長谷川と西岡でした。

そして、ついに氷を打ち砕いた山中と内山。

さらに、世界的には軽量級のローマン・ゴンザレスが2年間もPFPキングに君臨。

勇敢な先人たちがその道を整備、井上と井岡にとって心強い追い風になったことは間違いありません。