カネロ・アルバレスはリミット一杯168ポンド、ケイレブ・プラントは1ポンドアンダーの167ポンドで一発クリア。

計量での波乱は考えられない、コンディショ二ングに定評のあるプロフェッショナル。 

二人ともすごい肉体を披露しました。特にプラントは「キャリア最高」。
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会場には「プラントに勝ち目はない」と断言予想したマイク・タイソンが「結果はわかりきっているが観戦に来ました」とカネロを表敬訪問。 

3団体時代の1984年に新設されたことからも、これまでスーパーミドル級に存在しなかったUndisputed Champion が初めて誕生します。

オッズと戦前予想こそ一方的ながら、米国ボクシングシーンで最大のスターに登りつめた31歳のカネロにとって、この試合は大きなマイルストーンになると見られています。

一方、リング外でも「カネロの選択」に大きな注目が集まっています。
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SUCH A MESS〜なんという数字だ!カネロとの史上最大契約で大々的な会見まで開催したDAZNでしたが、米国ボクシング市場への参戦は失敗でした。

2018年、大型契約を交わしていたHBOがボクシング事業から撤退、カネロはDAZNと5年11試合3億6500万ドル(約410億円)の当時あらゆるスポーツで最高金額の契約を結びます。

しかし、DAZNが目論んだゲンナディ・ゴロフキンとの第3戦は実現できないまま、パンデミックを理由に契約内容の下方修正を余儀なくされます。

以来、カネロのDAZNへの不信感は根深く、今回の試合もDAZN型のビジネスではカネロの報酬を支払う能力がなく、SHOWTIMEがPPVで提供することになりました。

看板スターの大試合を放送できないーーー少なくとも米国のボクシングビジネスにおいてDAZNはもはや死に体です。

そして、死臭を嗅ぎつけてやって来るのは、いつだって死神です。そう、アル・ヘイモンです。

やはり衰弱死の階段を一つずつ降りているトップランクからマニー・パッキャオを引き抜いたとき「ボクシング市場参戦以来の夢が叶いましたね?」と聞かれた死神は「もう一人大物がいる」とカネロへの興味を隠しませんでした。


カネロとの契約はまだ締結していないものの、最低保障4000万ドルを用意したのはヘイモン。「ゴロフキン2」から3年ぶりのPPVイベント登場となるカネロが、この試合で満足出来る報酬を手にしたら、カネの話が出るたびにあれこれ泣き言を並べて渋りまくったDAZNを切り捨てるのは確実です。

また、これは「ボクシングのメガファイトは巨額のカネが動く。ストリーミング配信は限界がある。PPVが今も最高のビジネスモデル」(ステファン・エスピノサ)というSHOWTIMEの主張が、DAZNにトドメを刺すことになるかもしれません。

SHOWTIMEの親会社ViacomCBSから出資を受けているBoxingScene.comによると、今回のPPVの損益分岐点は50万件。@79.99ドルですから、カネロの最低保障4000万ドルがすっぽり当てはまります。

ここにMGMグランドが支払った1000万ドルの招致フィー、世界各国への放映権料やスポンサー収入が加算され、プラントやアンダーカードのファイトマネー、必要経費をカバーすることになります。

確かに、50万件はギリギリのラインですが、それ以上に販売が伸びると見られています。 


プラントの前回のFOXでの試合は、平均視聴者数が188万7000人、ピーク時で201万9000人。悪い数字ではありません。

この数週間、CBSが生中継したNFLとカレッジフットボールで「カネロvsプラント」は大々的に宣伝されており、Showtimeも試合をあおるプロモーション「All Access」シリーズ3部構成を様々なソーシャルメディアやプラットフォームを通じて流してきました。

目抜き通りのストリップにある巨大ビデオビルボードでアルバレスvsプラントの大看板を設置、他にもあちこちで巨大な看板が立てられ、さながら〝ラスベガスジャック〟の様相。

MGM Resorts International社も、ラスベガス大通りにある9つの所有ホテルでこのイベントを宣伝、チケットを入手できなかったファンにクローズドサーキットで試合を提供する予定です。

「損益ラインの50万件を大きく超えるのは間違いない」(エスピノサ)という自信が、米国の反対側ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで開催されるUFC 268とのバッティングにも余裕を持っているのでしょう。
ヘイモンは、カネロ獲得に成功すると2022年に傘下のスター選手二人(ジャーマル・チャーロとデビッド・ベナビデス)とのメガファイトを早くも計画していると噂されています。

スーパーミドル級でリング誌を含めた4つのベルトコレクションをコンプリートしたカネロがヘイモンが差し出した契約書にサインするかどうかは、次に「どこ」を目指すかで左右されるでしょう。

米国でPBCの人気選手と戦い〝安全地帯〟で巨額の報酬を獲得するのか?

あるいは、カネロも関心を示しているライトヘビー級のWBA王者ドミトリー・ビボル、その先のWBC/IBF王者アルトゥール・ベテルビエフとの〝冒険の道〟を選択するのか?

前者ならもちろん、ヘイモン、後者ならエディ・ハーンがカネロとの交渉権を獲得することになります。

ビボルはマッチルーム×DAZNと提携、ベテルビエフが契約するトップランクは没落著しく、ハーンからすると難しい仕事ではありません。マッチルームがカネロを手に入れると、DAZNと寄りを戻すことになるでしょう。

カラム・スミス、 アブニ・イルディルム、ビリー・ジョー・サンダースと直近3試合をハーンと手を組んできました。今回もハーンはラスベガス入りしていますが、試合とそれに関わるあらゆるイベントへの顔出しは禁止されています。

当のカネロは、今回はヘイモンとがっちり握手。

「どっちが俺のことを高く買うんだ?」と、欧州と米国を代表する二人の怪人を睥睨しているようです。

それにしても。トップランクとゴールデンボーイプロモーションズが米国市場の覇権争いを繰り広げていた10年前は、もはやひと昔。かつての二大プロモーションに往年の勢いは見る影もありません。