週刊のボクシング専門誌が存在する国って素晴らしい。

最もメジャーなのは英国のボクシングニューズ(BN)誌です。現在は毎週木曜発行。

米国リング誌に先駆けること13年。1909年、明治42年の創刊。

週刊ということは↓こういうことです。
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現地時間、土曜日に行われた試合結果が1週間も待たずに紙ベースでレポートされるわけです。

もちろん、デジタル版は試合終了すぐに速報、そのあと数時間後にフルレポートがアップされることを考えると「4日も遅い」のですが、プリントバージョンの発売に合わせてアップされる記事もあります。

そうはいっても速報性でデジタル版に勝るメディアはありません。プリント版に合わせてアップされる記事は、プリント版を差別化するための施策にすぎず、ネットに対する優位性ではありません。

ただ、やはり、今ここにある紙ベースの存在感は格別です。見開きを使った写真や記事のレイアウト構成など印象に残ると点では、画一的な手触りと視覚のネット情報とは全く違う世界を提供してくれるのです。

紙とタブレット端末で行った学習効果の実証実験が世界中で様々な形で行われていますが、どの結果からも紙の優位性がはっきり出ていています。

紙の大きさや手触り、記事のレイアウト、ときには紙の匂いなど印象、破れたページやこぼしたビールの痕…記憶を助成する要素が多い紙の方が、助成要素をほとんど持たないタブレットやPC画面よりも学習効果が高いのは当然です。

…なんて言っても週刊誌を定期購読してると読むのも大変(あ、言ってしまった)、紙媒体は何より管理するのも大変で、BN誌のプリント版を定期購読するのは2年前にやめました。

スポーツイラストレイテッド誌が週刊から隔週、月刊になってくれたときは、さすがに少し物足りない気がしました。日本ではナンバー誌が隔週刊ですかね。


話が紙と雑誌の脇道に迷い込みそうなので、書こうとしてたテーマに戻すと「番狂わせとは言い切れない番狂わせ」の話です。

番狂わせの定義は「有利とされていた競技者が敗れること」です。

有利不利の実像(虚像という方が正確か?)は、ファンやメディアの戦前予想やブックメーカーのオッズなどで形成されます。オッズでいうと、favoriteとunderdog。

最近では寺地拳四朗と矢吹正道の試合は、寺地圧勝の予想が圧倒的、間違いなく大番狂わせでした。

一方で、アンソニー・ジョシュアがオレクサンダー・ウシクの技巧になす術もななかったトッテナムの12ラウンド。あの試合のオッズはアバウト3-1、数字上ではマイルド・アップセットでした。

ほぼジョシュアに傾いた専門家予想の視点では、ビッグ・アップセット。

そして、タイソン・フューリーとの史上最大規模が見込まれたメガファイトへの前哨戦と考えていた英国のファンにとっては、マッシブ・アップセット、衝撃的な大番狂わせでした。

あの夜、寺地には十分な勝機がありました。しかし、ジョシュアはどうだったでしょうか?

アップセットの正体は、人間の脳内妄想です。

モハメド・アリとソニー・リストン、イベンダー・ホリフィールドとマイク・タイソン、マニー・パッキャオとマルコ・アントニオ・バレラ…初戦は一方的なオッズと予想、アリとホリフィールドは再戦でもアンダードッグ、パッキャオも再戦では返り討ちに遭うという予想が少なくありませんでした。


今となっては両者の歴史的評価は決定的で、リストンやタイソン(引退後の人生は明暗を分けましたがこの2人は本当に酷似しています)、バレラを上に評価する人は皆無です。

しかし、当時のリストンやタイソン、バレラがどれほど強いと考えられていたかを知れば知るほど、圧倒的有利の妄想が形成されたことを馬鹿にすることは出来ません。

寺地と矢吹の再戦があれば、やはり初戦と同じように寺地が明白に有利という予想とオッズが並ぶでしょう。

しかし、それは妄想ではないのか?

ジョシュアとウシクの再戦は、ウシク有利と見られるでしょう。

しかし、それもまた妄想ではないのか?

その番狂わせは、本当に番狂わせだったのか?を言い出すと、番狂わせの定義そのものが脳内妄想による優劣なのですから、本質的な意味での番狂わせなどこの世に存在しないことになります。

さらに、たとえラッキーパンチの一撃でも、不可解な裁定、採点であっても、あらゆる結果は必然です。

カネロ・アルバレスの〝ラスベガス採点〟を本気で驚く人はいないでしょう。

さて、本当の意味での〝番狂わせ〟など存在するのか?

番狂わせをを起こす男=パックマンを異名にするマニー・パッキャオですら、もしかしたら本当の意味での番狂わせは一度も起こしていないのかもしれません。

本当の意味での番狂わせが起きたことなど、あるのか?

パックマンなど、この世に存在するのか?

深い海の底への潜航が始まります。