マニー・パッキャオは、縫合したばかりの裂傷を隠すサングラス姿で報道陣の前に座った。

今夜の試合では鋭い踏み込みも、対戦相手を幻惑する左右の動きも、神がかり的な当て勘も影を潜めていた。

「足が疲れきって思うように動けなかった。期待してくれたファンにお詫びしたい」。

不利が予想されたエロール・スペンスJr.から、ノックアウト勝利も期待されたヨルデニス・ウガスへの変更で、生きる伝説は気が緩んでしまったのか?

それとも、42歳の伝説にとって、この試合が潮時だったのか?
20210819

「心ではまたボクシングを続けたいと思っているが、それは体と相談しなければならない。42歳とはそういう年齢だ」。

フィリピン上院着委員は、これでリングと決別するのか、そして来年5月の大統領選に出馬するのか、二つの大きな決断に迫られている。

もし、これで引退となれば、彼のレガシーはここで固まることになる。

歴史上初めて90年代、00年代、2010年代、2020年代と4つのディケイドで世界王者に君臨、史上唯一無二の8階級制覇と、Lineal Champion 5階級制覇も成し遂げた。

そして、2015年のフロイド・メイウェザー戦は試合内容以はともかく、商業的には史上最大のメガファイトになった。

あの試合の勝敗を、二人のレガシーの優劣に反映すべきだろうか?

フライ級で世界王者になったファイターが、ジュニアミドル級までの10階級のウェイトレンジで世界のトップ戦線で戦い続けたこと、メイウェザーが引退した後も5年以上もレガシーを築いてきたこと。

「私も相手も健康なままリングを降りれますように」。試合前に見せる慈悲と、試合が始まると発散する凶暴と獰猛のギャップ。

自らが斬り刻んで打ち崩したデビッド・ディアスを助け起こし、間断ない波状攻撃で眼窩底骨折したアントニオ・マルガリートの状態を主審に訴えた優しさ。

Even Muhammad Ali and Mike Tyson had plenty of detractors during their heyday. But not Manny Pacquiao, a man with a golden smile one moment and a blistering punch the next.

モハメド・アリやマイク・タイソンは、全盛期ですら毛嫌いするファンも少なくなかった。しかし、やさしい笑顔と凶悪なパンチを代わるがわる見せたマニー・パッキャオは誰からも愛された。

Time To Say Goodbye

これが最後なら、悲しいけどサヨナラだ。

パックマンが最後の試合で番狂わせを起こされる、なんてのも、あらためて考えて見ると一興だ。

とにかく、パッキャオのおかげで米国ボクシングは救われた。