王者に勝った者だけが王者。

Lineal Championの定義は一見単純明快ですが、王者がタイトル返上や引退しない限りは王者のままです。

1892年9月7日、ニューオーリンズのオリンピッククラブ。ジョン・ローレンス・サリバンはジェームズ・J・コーベットの近代ボクシングに翻弄され世界王者の座を追われますが、サリバンは4年8ヶ月もリングを離れていました。

それでも、サリバンが世界王者だったのです。


1923年6月18日、ニューヨークはポログラウンズ。パンチョ・ビラは、ジミー・ワイルドを倒してアジア史上初の世界王者になりました。

このときワイルドは故郷ウェールズで隠居、2年半ものブランクを作っていながらも、世界王者でした。



「リングで負けない限り王者は死ぬまで王者」という原理主義の掟と、現代の商業主義の妥協点として、リング誌やTransnational Boxing Rankings Board(TBRB)などでは当該階級で18ヶ月試合を行わなかった場合は王座を剥奪という〝賞味期限〟を設定しています。

これによって、何年もリングを離れてしまうとLineal Championに居座ることはできませんが、それでも18ヶ月のあいだは、寝てても世界王者のままです。

Lineal Championが最も王座が動きにくく、ひとたび空位になると新王者誕生が超難産になりやすい性格は変わりません。

もちろん、王者が引退を表明したケースは決定戦が行われますが、これもランキング1位と2位が戦うことが条件と、現代のボクシング事情を考えると空位が増えるのは仕方がありません。

さらに、TBRBでジュニアフェザー級王者のギレルモ・リゴンドーが122ポンドで最後に戦ったのは2019年6月23日、つまり2年以上も経過しているにもかかわらず「18ヶ月ルール」が執行されていません。


チャンピオンシップ制の理想というか、そもそもの大前提が、Lineal Championです。

 In professional boxing, the Lineal Champion is informally called 〝the man who beat the man〟.

現役の世界王者が存在する限り、その王者を倒さない限り王者になれない。「王者を倒した者だけが王者」なのです。

これこそが、正義です。素晴らしいお題目です。

しかし、このチャンピオンシップ原理主義に拘泥してしまうと「リゴンドーがジュニアフェザー級王者」という、常識的には受け入れがたい王者を生んでしまうのです。
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マイク・タイソンがアルファベット団体を完全統一しているにもかかわらず、マイケル・スピンクスを正統王者と唱い、4団体中3団体のベルトを手中に収めたゲンナディ・ゴロフキンではなく、カネロ・アルバレスを正統王者とするLineal Champion制。

その、倒錯的なまでの原理主義を批判すると、彼らは必ずこう反論します。


▶︎なるほど、確かにスピンクスよりもタイソン、カネロよりもトリプルGが王者にふさわしいのは認めます。しかし、そんなケースが他にいくつありましたか?まず、滅多に起きないレアケースです。

それに比べて、アルファベット団体の非常識的で醜悪な世界王者や世界戦は、いつでもどこでも行われています。滅多に起きない小さな矛盾と、数え切れない不条理な世界王者や世界戦が常に行われている狂気の沙汰。

さて、どちらが異常なことでしょうか?

これは、どちらが正しいかがわからない難しい問題でしょうか?▶︎