ボクサーの健康・安全対策のために導入されたはずの前日計量ですが、不公平なリバウンドにより、ボクサーの健康・安全を脅かす新たな問題を浮き彫りにしています。
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日本では井上尚弥と井岡一翔のトップ2が〝リバウンドの達人〟として有名です。

世界でも、今日、ロンドンでIBFフライ級のピースを手放したモルティ・ムザラネのIBFルールにアジャストした体重管理は絶妙でした。

IBFルール範囲内の最高体重コントロールは「前日計量(公式)112ポンド=50.8㎏(リミットいっぱい)→当日朝計量(公式)121.9ポンド=55.3㎏(リバウンド制限10ポンドギリギリ)」です。

ムザラネはこの数字にぴったり合わせてきます。そして、当日試合前2−3時間前(参考計量)では129.5ポンド=58.74㎏とジュニアライト級の体重まで増やしてリングに上がるのです。

もちろん、ルールを目一杯活用しているのですからムザラネや井上、井岡は達人、名人です。リバウンドも含めた体重管理が重要な戦略になるのは当然です。

しかし、当日計量よりも当該選手の健康という意味では有効に思える前日計量ですが「ジェイミー・マクドネル」や「アートゥロ・ガッティ」のサンプルを出すまでもなく、より危険でより不公平な問題を孕んでいます。

前日計量から当日試合までの回復時間を考慮して、より過酷な減量が可能になり、ときとしてマクドネルのような重篤な状況に陥るケースも珍しくありません。

また、当日リバウンドは現実のリング内でとんでもない体重差を生み出し、ガッティやムザラネ、井上、井岡らの対戦相手はずっと上のクラスのボクサーと戦う羽目になっているのです。

リング誌などでもたびたび取り上げられ「リバウンドに上限を設けた当日計量をIBF以外の団体でも実施。当日朝ではなく試合前計量とする」という案から「前日計量と当日計量の係数で階級を再編する」というラジカルながらより公平な意見までさまざまなアイデアが寄せられています。

現在の前日計量が大きな問題を抱えていることは間違いありませんが、その改善のキモが「試合前計量」となると、プロモーターやテレビ局は「試合2時間前に体重超過でキャンセルなんてありえない」と強く反対しています。

興行側からしたら試合中止・マッチメイク変更の可能性が高まるようなシステムは極力避けたい、というのは当然です。



減量の目的はたった一つ。「より弱い相手と戦うため」です。それ以外にありません。もちろん表向きは「自分が最も強く輝ける場所で戦うため」ですが、そのために心身とも消耗して弱くなってるボクサーがほとんどです。

「自分も弱くなるけど、相手の方がより弱くなる階級で戦う」のが減量です。そのために頬がこけ、足が痙攣しても、弱い相手を追い求めるのが減量です。

もちろん、パックメイのように適正体重を明らかに上回るウェルター級で戦う変態もいますが、あいつらは例外中の例外中の極めて例外。二人の体重管理目的は「より弱い相手と戦うため」よりも「より注目されてカネが儲かる相手と戦うため」です。

ムザラネが巧妙な体重コントロールを駆使するのも、井上が過酷な減量に耐えるのも、ドネアがバンタム級に落ちてきたのも、全ては「より弱い相手と戦うため」です。

17階級の中であらゆる選手が「より弱い相手と戦うため」ではない体重管理をしているのが、ヘビー級です。
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https://www.youtube.com/watch?v=ebVe-tj7eSg&t=15s
 
明日、ヘビー級のメキシコ系米国人がWBA王座挑戦権をステイクして激突します。

40歳のクリス・アレオラは228.5ポンド=103.7㎏、31歳のアンディ・ルイスJr.はなんと256ポンド=116㎏で体重計を降りました。

かつて250ポンドオーバーが当たり前だったアレオラは18年45試合のキャリアで最軽量。この試合に賭ける意気込みが感じられます。腹回りが別人です。

アンソニー・ジョシュアとの再戦では283.5ポンド=128.6㎏で秤に乗ったメキシコのデストロイヤーも、そこから29.5ポンド=13.4㎏も減量したことになります。

29.5ポンド、バンタム級=118ポンドから見上げるとウェルター級=147ポンドまでの7階級がすっぽり収まる数字です。さすがヘビー級、スケールが違います。

女性レポーターの「キャリア最軽量!どうしたのですか?」という質問にアレオラは「体重は気にしていない。メイウェザーの助言でDedication and Hardwork(全身全霊でハードワークを追求)した結果だ」。

ルイスも「セクシー(な体型)」と褒められ「カネロ・アルバレスと共にDedication and Hardworkにつとめた結果」とビッグネームを絡めた同じ言葉を口にして周囲を笑わせました。

オッズはルイス勝利が1/20(1.05倍)、アレオラ13倍。

「オッズは圧倒的不利ですが?」という問いにも顔もスリムに引き締まったアレオラは「オッズも年齢も体重と同じだ。単なる数字に過ぎない」。

試合前のコメントではアレオラが中差判定勝ちですが…。好戦的な二人が殴り合う明日は、凄まじい試合になるはずです。