現代ボクシング、4−Belt Eraの特徴は「世界王者の権威が失墜した」という一言で表現できます。

「世界王者の権威が失墜した」という傾向は、WBAからWBCの分離独立が決定的になった1970年代、IBFが発足した80年代、WBOが産み落とされた90年代と、その色合いが濃くなっただけで 4−Belt Eraになって急に始まったわけじゃなく、この50年以上に渡って継続した病理じゃないか…?。

それは、総論ではその通りです。しかし、3−Belt Era までは王者の権威の「失墜」は「分離・分散」という説明ができました。

つまりは「団体の追加」と「階級の増殖」です。 

しかし、4−Belt Era になると団体内で世界王者が増殖、大量生産されることが常態化します。
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メキシコベルトに並ぶメガファイト専門のシンコ・デ・マヨ ベルト。


最多の加盟国を抱えるWBCを例にとると、上位タイトルから「フランチャイズ」「レギュラー」「暫定」「休養」「シルバー」「インターナショナル」「ユース」が active champion(防衛戦に敗れると失う)。

「インターナショナル」はランキング16〜30位の選手で争う〝明日の世界王者〟タイトルのはずでしたが、マニー・パッキャオがマルコ・アントニオ・バレラやエリック・モラレスとメガファイトを繰り広げたときにリング誌王座と並べて掛けられるなど、正体不明のタイトルとして迷走しています。

知らない人が見れば「最上位はインターナショナル」と思うでしょうし、あのときは実質そうでした。

また「ユース」はその名の通り「U21」のレギュレーションがありましたが、これもいつのまにか実質撤廃されています。

そして、active championに加えて、防衛義務のない「名誉」「ダイアモンド」 というspecial championも存在します。 

4−Belt Eraは、当たり前のことですが「4つのベルトをを集めるのが最も面倒な時代」です。しかし、その一方で「ベルトの価値が最も下落した時代」でもあります。

まだ価値の欠片が残っていたベルトを集めていた3−Belt Era の完全統一王者と、許容範囲を超えて価値が暴落した4−Belt Eraの完全統一王者。

どちらが価値があるでしょうか?

ベルトの価値が軽くなればなるほど、簡単に王座を返上、平凡な実力しか持っていないボクサーでも複数階級制覇に乗り出すだけでなく、契約体重を守らずに王座を剥奪されるダメージまで限りなく軽くなります。

体重超過でタイトルを失う、プロとしてあるまじき事件が頻繁に起きる最大の原因は、現代のボクサーが規律を失っているからではありません。

世界タイトルそのものが本当ならあるべき規律、すなわち権威を喪失してしまったからです。

世界王者の権威が失墜しているのですから、複数階級制覇の価値も暴落しています。

それでも〝偏差値が高い〟と見られる複数階級制覇があります。

現在の17階級で、最も壁が高く厚いクラスはウェルター級です。その反対、最もレベルが低いのがストロー級です。

しかし、全盛期のリカルド・ロペスからストロー級のベルトを奪うことは、テレンス・クロフォードに勝つよりもはるかに難易度が高いことは論を待ちません。

MLBで首位打者を獲るよりも、1994〜2000年の7年間のNPBパ・リーグでイチローよりも高い打率を残す方が至難なのと同じく、スポーツの世界では単純な物差しは通用しないのです。

リカロペやイチローのような、例外の変態は一旦忘れましょう。

「偏差値の高い複数階級制覇」は「階級間の体重差が大きい重量級」と「レベルが高いウェルター級」を絡めたものであるのは誰にでもわかります。

それに対して、ジュニアフェザー級以下の細分化されたゾーンでの階級制覇は「階級間の体重差が小さい」「階級の層が薄いからレベルが低い」ため、相対的に簡単安易であることが想像されます。
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井岡一翔も成し遂げた4階級制覇で、最も困難なロードマップは、欧米で人気のクラスで32ポンド(14.51㎏)以上にわたる「スーパーミドル→ミドル→ライトヘビー→クルーザー→ヘビー」です。

これはクルーザー(200ポンド)からスーパーミドル(168ポンド)を引いた数字です。

現実にはブリッジャー級(224ポンド)新設の根拠「ヘビー級は重すぎる」を考慮すると224−168=56ポンド(25.40㎏)とするのが適正です…いやそれでも控えめな数字です。

この最難関を突破したのはロイ・ジョーンズJr.、ただ一人。

ちなみに井岡の4階級の体重レンジは10ポンド、4.54㎏。ライトヘビーからクルーザーの25ポンド(11.34㎏)と比べても半分以下。

スーパーミドル〜ヘビーの56ポンドと並べると5分の1以下、同じ4階級制覇として見るには、許容範囲を超えた不公平です。
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その次が「ジュニアライト→ライト→ジュニアウェルター→ウェルター」。体重レンジは17ポンド(7.71㎏)。

この4階級制覇を達成したのは歴史上4人。とはいえ、ブローナーさんがいなければ「これはムズい」と評価してしまいますが、やはり4団体時代、他の3人を見ると勘違いしそうですが、たいしたことありません。

ロイもブローナーと同様に4階級目(ヘビー級)は、穴王者を狙い撃ちにした〝空き巣〟 。最も厳しい階級で輝きを放ったオスカー・デラホーヤやフロイド・メイウェザー、マニー・パッキャオとは同じステージで語るボクサーではありません。
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4−Belt Eraでも、軽量級のジュニアライトを起点に最もレベルが高いウェルターで大暴れしたデラホーヤとメイウェザーは歴史の残る傑出したボクサーですが、フライ級起点のパッキャオになると、もはや説明不可能の化け物です。

この「ジュニアライト→ライト→ジュニアウェルター→ウェルター」の地図を握りしめ、ジュニアウェルター級間で進出してきたのがガーボンタ・デービスです。

ずんぐりタンクは〝デラホーヤ〟〝メイウェザー〟なのか?

それとも冷やかし4階級制覇の〝ブローナー〟なのか?
 
これまで弱い相手ばかりと戦ってきたキャリアと、醜悪なまでの規律の無さからはブローナーと同じ臭いがプンプン漂っていますが…。

メイウェザーの秘蔵っ子は8月14日、マリオ・バリオス相手に一次試験に挑みます。