どんなボクサーにも欠点はあります。

complete fighterなど、歴史上ただの1人も存在しません。

モハメド,アリにもフロイド・メイウェザーにもマニー・パッキャオにも天敵と呼べるジョーカーのスタイルが存在しました。

アリの場合は自身を上回る身体能力も持つケン・ノートン、メイウェザーはチェスファイトに乗らないホセ・ルイス・カスティージョやマルコス・マイダナ、パッキャオは高い危機管理能力を持つ稀代のカウンターパンチャー、ファン・マヌエル・マルケス。

アリとパッキャオは勝ち越している、メイウェザーは辛勝しているとはいえ、彼らにも明らかにジョーカーは存在しました。
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今のカネロ・アルバレス がcomplete fighterに見える理由。それは、まだジョーカーを引いていないという一点に尽きます。

カネロの唯一の敗北はメイウェザー。肉体的なダメージはほとんどないあの試合は、タッチボクシングの授業料と考えると、安いものでした。
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カネロは、捉え所のないエリスランディ・ララにも空転しました(科学的なボクシングが大好きな〝ラスベガス判定〟が「単なる突進」を評価した画期的な試合)。

しかし、メイウェザー戦は8年前でキャッチウェイトを強いられていました。ララ戦からも7年が経っています。

この7〜8年でカネロは劇的な進化を遂げた。。。そう言っても否定できる人はどこにもいません。
 

ただし、カネロのキャリア全般を通して、今なお一貫して回避しているスタイルがあります。

ビッグパンチャーです。

ジュニアウェルター級時代はチャーロ兄弟を避け、ミドル級に上げてからもゲンナディ・ゴロフキンとの決戦を先延ばしました。

野球でもテニスでもボクシングでも、あらゆるスポーツにおいて最も厄介な相手はパワープレーヤーです。

パンチャーとの戦いにおいては「一発をもらわないこと」に意識が傾きます。伸び伸びと自分のボクシングをすることは出来ません。当たり前です。

ノニト・ドネアや井上尚弥相手に「リラックスする」とか「相打ち狙い」のボクシングなんてあり得ません。

カネロは、用意された相手を粉砕して地域タイトルを集め、衰えたビッグネームを食い、体重超過やキャッチウェイトを繰り返しながら自信と実力を蓄積してきました。

2015年のジェームス・カークランドはビッグバンチャーではないことは、誰も異論ありませんね。

セルゲイ・コバレフにしても、私生活の乱れと経年による劣化版で、リバウンド制限の保険までかけた試合でした。

ボクシングが巧い相手との豊富な対戦経験。それが、カネロの防御技術に飛躍的な向上をもたらしているのは間違いありません。

そして、温室の中に敷かれた線路を走る高級列車は、キャッチウェイトなどで弱らせた生贄を轢き続けてきました。
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しかし、カネロはcomplete fighterではありません。ジョーカーを引いてないだけで、陣営がそこに近寄らないように細心の注意を払って来ました。

どう考えても、心身ともに頑健なビッグバンチャーは、必ずカネロのジョーカーになるでしょう。