BoxRec によると、12月23日現在のプロボクサー人口は、全世界で2万5192人。

国別トップは、21世紀の大国メキシコの4255人。続いて没落基調の米国(3694人)、日本(1340人)、英国(1059人)が1000人の大台をクリアしています。

5位以降はアルゼンチン(770人)、中国(712人)、ドイツ(582人)、タイと豪州が533人、10位に南アフリカ(460人)が滑り込んでいます。

メキシコのライバルとしてシノギを削ってきたプエルトリコは239人とイタリア(376人)やウクライナ(355人)よりも少ない事実は、小さな国にもかかわらず他のスポーツでも優秀な選手を輩出している面目躍如です。

米国と日本の東西大国でボクシングがメジャースポーツの座から陥落した現在、メキシコの時代が謳歌されています。

政治、経済、イデオロギーの世界でも米国の覇権は失墜してします。

中国の台頭が目立つとはいえ、この巨大な共産主義国が世界中から尊敬される本物の覇権を築くことができるかどうかは極めて怪しいのが現状ですが、ボクシングの世界では「パクス・メキシカーナ」は厳然たる事実として聳えています。
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カネロ・アルバレスは「究極のボクサー」なのか?(英国ボクシングニューズ誌)。さすが週刊誌、ニュースが早いです、元気です。週刊誌なのに斜陽のリング誌と同じ80ページ…。がんばれ、リング誌!

このメキシコ時代の旗印がカネロ・アルバレスです。

メキシコでは「シュガー・レイ・ロビンソンを凌ぐ史上最高のボクサー」という評価も聞かれる、いまが発展途上の30歳。

その名前を初めて聞いたのはいつ頃でしょうか。

2000年代中盤、メキシコのプロボクサーを応援するテレビ企画で人気者になったカネロがデビュー、フリオ・セサール・チャベスJr.と並ぶメキシコのホープであったことは、世界中のボクシングファンにすでに知れ渡っていました。

15歳のプロデビュー当時からチヤホヤされ、温室の中に敷かれた線路に差し出された噛ませ犬を轢き進み、慎重なマッチメイクで世界戦線に躍り出ると、空位のWBCジュニアミドル級のストラップをマシュー・ハットンと争い勝利。

世界王者になってからも元ビッグネームや、危険なパンチを持たないコンテンダーを厳選しながら舗装された無敗街道を歩みます。

そして、フロイド・メイウェザーとのメガファイトで初黒星を喫しますが、キャッチウェイトとアンダードッグを甘受したこの敗北で実力評価が急落することはありませんでした。

その一方で、完敗に見えたメイウェザー戦で一人のジャッジがドロー採点、カネロが空転したエリスランディ・ララ戦をスプリットデジションで勝利するなど、カネロ寄りの採点が目立ち、ミドル級に上げてからはキャッチウェイトを乱用しながら、最強と目されていたゲンナディ・ゴロフキンとの対戦を回避したことからは強烈な反感を集めました。

「チャーロ兄弟やGGG、危険な強打者から逃げている」。

2017年9月、待望のGGG戦ではカザフスタン人の〝メキシカンスタイル〟に押された展開でしたが、結果はスプリットドロー、またしても〝カネロ判定〟が発動され、その風当たりはさらに強くなりました。

メキシコ以外では悪役。その潮目が変わったのは、1年後のGGGとの再戦。この試合では公約通りにメキシカンスタイルを貫き、GGGをキャリア最大の苦戦に追い込みマジョリティデジションで勝利をもぎ取りました。

判定はまたしても議論を呼びました。しかし「こいつは強くなっている」という事実はアンチも認めざるをえませんでした。

その後も、巧妙なマッチメイクとキャッチウエイトや当日リバウンド制限を絡めた特殊契約をからめて印象的な勝利を重ねているカネロは、欺瞞の温室の中でも現代最高のボクサーにまで登り詰めました。

カネロにはスーパースターには不可欠の「ダンスパートナー」が存在しないことや、メキシコに視線を移しても「カネロに続くスターは育っていない」という〝メキシコの死角〟を指摘する声も聞こえています。

しかし、ダンスパートナー不在でもカネロはすでに巨万のスーパースターの座を手に入れています。

モハメド・アリやシュガー・レイ・レナード、マニー・パッキャオのように魅力に満ちたダンスパートナーとの競演が、巨万の富を稼ぐスーパースターになる絶対条件でないことを証明した最初のボクサーがカネロ・アルバレスなのです。

もちろん「大金稼ぐのがスーパースターじゃない。多くの人を感動させるのがスーパースター」という考え方もあるでしょう。しかし、その声は負け惜しみの色がにじんでいるようにしか聞こえません。

また「カネロに続くスター」にしても、瞬間最大風速ではヘビー級のアンディ・ルイスJr.や、将来性ではライアン・ガルシアらがはっきりと存在感を示しています。

カネロが衰え引退する10年後は、メキシコ時代にも陰りが見られるか?おそらく、そうはならないでしょう。

もしかしたら、カネロが可愛く見えるようなもっと厄介な怪物が現れているかもしれません。

ヒスパニックの波に乗ってフリオ・セサール・チャベスが米国に築いた「第一帝国」の屋台骨は、シュガー・レイ・レナードやマイク・タイソンが得た〝巨万の報酬〟とは無縁の〝軽量級製〟でした。

マルコ・アントニオ・バレラとエリック・モラレス、ファン・マヌエル・マルケスの最強のトロイカは軽量級の可能性を飛躍的に拡大させた「第二帝国」でしたが、マニー・パッキャオの拳によって破壊されてしまいました。

そして、カネロが牽引する「第三帝国」はルイスがヘビー級、カネロもライトヘビー級にクサビを打ち込む重量級の骨格を持つ難攻不落の牙城になってしまいました。

パッキャオを継ぐ〝メキセキューショナー〟は現れるのか?それとも、メキシコの春は永遠に終わらないのか?

カラム・スミスを対等条件で圧倒した173㎝の小さなメキシカンは、村田諒太の標的としてはもはや巨大に成長した感もありますが、倒す相手が巨大であり過ぎることはありません。

果実が大きいに越したことはないのです。

 Who can beat Canelo Alvarez?

誰がカネロを倒せるのか? 

まだまだ続きます。