何もかもが軽くなってしまった現在のボクシングシーン。
「2階級制覇」も「歴史的な偉業」と考える人は、もはやどこにもいません。

しかし、偉業から日常に堕落した2階級制覇でも今なお、ヘビー級を着地点とするそれは、偉業に数えて差し支えないでしょう。

明後日、日本時間の10月31日早朝、ロンドンで 元 undisputed cruiserweight champion 完全統一クルーザー級王者オレクサンダー・ウシクが、デレク・チゾラを相手にヘビー級制覇の〝二次試験〟に挑みます。
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チゾラ、最高です。
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有楽町、麻辣川府で昼ごはん。やはり辛いやつにすべきでした。
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こういう↑練習風景を見るとロマだと思っちゃいますね。

この先、さらに団体と階級が増えても、最後まで「偉大」のまま残るであろう「ヘビー級を着地点としたスペシャルな2階級制覇」。

1945年以降の近代ボクシングでは1985年にマイケル・スピンクスがラリー・ホームズを攻略して史上初のライトヘビー級王者からヘビー級王者となりました。

その後、イベンダー・ホリフィールド、マイケル・モーラー、ロイ・ジョーンズJr.、デビッド・ヘイの4人が、ヘビー級に着地する2階級制覇を果たしました。

35年間でたったの4人、です。この2階級制覇が、いかに特別かを物語る数字です。そして2団体時代には一人もいなかったという事実も、このスポーツの現状を如実に伝えてくれています。

しかも、まともにヘビー級に君臨出来たのはホリフィールドだけという異常なまでに狭き門です。

週末のハロウィンではガーボンタ・デービスとレオ・サンタクルスが130ポンドと135ポンドの二つの階級を同時に懸ける倒錯の世界戦に、バンタム級では井上尚弥が保持するリング誌、IBF、WBAの3つの王座を懸ける防衛戦をジェイソン・マロニーを相手に行いますが、ウシクvsチゾラには世界王者のベルトは1本もステイクされていません。

それでも、この試合がハロウィンの日に世界的な注目を最も集めるとみられる理由は、ウシクがこの最難関の2階級制覇の道程にあることをボクシングファンが知っているからです。

もし、ヘビー級でも完全統一王者になるとホリフィールド以来、近代史上2人目の大快挙になります。

そして、ホリフィールドは3団体時代でしたから、4-Belt Era=4団体時代となると史上初、完全統一の2階級制覇も史上初です。

しかし、ヘビー級とはいえ、ウシクはウクライナ人。米国にファンペースがあるわけがない旧ソ連からの独立国です。

ウクライナのヘビー級と聞いて、真っ先に思い浮かぶのはクリチコ兄弟です。

あんなに強かったのに、米国では「試合が面白くない」と因縁を付けられ、スターダムの頂点に立つことは叶いませんでした。

「パッキャオよりずっと強いんだけどな」(ウラジミール)という呟きも米国ファンからは非難の矢を集めるだけでした。

頂点階級で絶対王政を敷くウラジミールには、パッキャオには出来た上の階級のスター選手相手に番狂わせを起こす曲芸は、良い意味で不可能にもかかわらず。

ヘビー級でよりテクニカルなスタイルに傾倒するであろうウシクが世界王者になると、やはり「試合が面白くない」と因縁を付けられるでしょう。

頂点に立てるかどうかはわかりませんが、そこではアンソニー・ジョシュアやタイソン・フューリー、デオンティ・ワイルダー らいわゆるForbes fighter(Forbes誌のアスリート長者番付にランクされる超人気ボクサー)が覇を競っています。

それが、ウラジミールとの決定的に大きな違いです。

そのステージまで、ウシクが上がることが出来るのか?

それはまだ、誰にもわかりません。明後日の試合も重要な一戦ですが、二次試験に過ぎないのですから。