最短で世界王者。

最短で複数階級制覇。

王者の無敗記録。

「プロキャリア最短記録」は主に日本で関心が払われるのは、ほとんどのボクサーが少ないキャリアで世界挑戦が実現しやすいジュニアフェザー級以下の超軽量級が主戦場だからです。

逆に、欧米で取り上げられることの多い「王者の無敗記録」はロッキー・マルシアノの打ち立てた「49戦全勝」がベンチマークとなっていますが、定年制や、何よりも選手寿命の短い超軽量級ボクサーがこなせる試合数が少ないことから日本人には縁がありません。

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最初の世界挑戦までに、ある程度の試合経験が求められる欧米では「複数階級制覇に要した試合数の最少記録」が取り上げられることはあります。

日本のファンが意識することの少ない記録ですが、五階級制覇に要した最少試合数の記録はシュガー・レイ・レナードのなんと11試合。「一階級制覇」に要した試合数はわずか2.2という驚異のスピードです。

「11試合で五階級制覇」。永遠に破られない記録に思えますが、昨年3月にマイキー・ガルシアがIBFウェルター級王者エロール・スペンスJr.に勝利していれば10試合で五階級制覇、記録更新でした。

この「最少試合数」を四階級制覇で〝公平に〟見るとマニー・パッキャオの5試合が〝世界記録〟。ファン・マヌエル・マルケス(ジュニアライト級)、デビッド・ディアス(ライト級)、リッキー・ハットン(ジュニアウェルター級)、ミゲール・コット(ウェルター級)の4試合四階級制覇のプロセスで新規王座に挑まなかったのはノンタイトル戦のvsオスカー・デラホーヤだけでした。 

一方で「11試合で五階級制覇」の最少試合数記録保持者のレナードは、最初のタイトル獲得が24戦目、「21試合で五階級制覇」のフロイド・メイウェザーは18戦目、計画的な複数階級制覇を遂行したデラホーヤでも12戦目でした。

大晦日に田中恒成が井岡一翔を下して16戦目での四階級制覇に成功すると、パックマンの5試合、マイキーの8試合、レナードの11試合(なぜか四階級と五階級制覇に要した試合数が同じというありえないトリックです)、メイウェザーの12試合、デラホーヤの13試合の後塵は拝しますが、トーマス・ハーンズの17試合を抜いて史上6位。しかもデビューからの試合数というオマケ付きです。

「デビューから」とか「王者として」「必要試合数 」とかなんだか欧米の記録って人為的な縛りが多いなあ、と感じたあなたはご明察です。

そして、レナードの「11試合で五階級制覇」やマイキーの「10試合で五階級制覇」にも、そんな作為的な縛りがあることもお気づきでしょう。

この「最短五階級制覇」記録の本当の持ち主はパッキャオの「7試合」です。

ESPNやリング誌が持ち出す「最短試合の五階級制覇」には「最初のタイトルを獲ってから」という縛りがかけられているのです。

この理不尽な縄縛に絡まれると、パッキャオの五階級制覇はフライ級からカウントされ、ライト級獲得まで27試合を要した計算になってしまうのです。

米国とメキシコが形成した排他的なギルドによる「パッキャオ外し」の一例です。